パナソニック流

パナソニック流"カイゼン"はIoTの最先端事例だ

2018.01.15

パナソニックがB2B事業への注力を加速させている。そうした中で、パナソニックの社内カンパニーであるAVCネットワークス社に加え、プロセスオートメーション事業部などが一体となった「コネクティッドソリューションズ社」が2017年4月に設立された。

同時に社長に就任したのが、ダイエー社長や日本マイクロソフト社長/会長を歴任した樋口 泰行氏だ。もともとパナソニック出身ということもあって古巣に凱旋した形だが、流通からIT企業まで、さまざまな企業を経験した樋口社長ならではの舵取りに注目が集まっている。

今回、B2B事業の強化を進めるパナソニックでも大きな役割を果たすと見込まれるコネクティッドソリューションズ社の現場で、何が変わり、何を目指すのか。同社 モノづくりイノベーション推進室 企画課 課長の一力 知一氏に、製造業としてのパナソニックが培ってきたノウハウを外販するというその取り組みの話を聞いた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ モノづくりイノベーション推進室 企画課 課長 一力 知一氏

【特集】変わる、パナソニック。

2017年4月、前日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏がパナソニックに舞い戻った。彼が担当するのはB2B領域のパナソニック コネクティッドソリューションズ。顧客の要望に合わせた製品づくりを得意としていた同社のB2B部隊だが、時代の変化から、もはや「ただの下請け」では生き残ることは出来ない。「どうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけない」と話す樋口氏の覚悟、そして変わりゆくB2B部隊の今を追った。

第4世代のモノづくり、パナソニック流は「人中心」

製造業の世界では、ドイツが国策として推進する「インダストリー4.0」に代表される「第4世代のモノづくり」が世界中で動いている。パナソニックでも「第4世代のモノづくり」を意識し、モノづくりイノベーション推進室を3年ほど前に立ち上げた。

当時は「IoT」がバズワードとなりつつある時期だったが、「IoTと呼ばなかっただけでそれ以前からモノづくりにおける作業を計測し、データ化は行っていた」(一力氏)。ただし、作業員ごとの作業時間の比較をストップウォッチで計測したり、工場内の動線把握を◯歩といった単位で計測したりが中心で、多様な作業を長い時間分析することは難しかった。

これをセンサーデバイスに置き換えてデータ収集の簡素化・多様化・効率化を目指すのがIoTの姿だが、一力氏によればパナソニックが目指す「第4世代のモノづくり」には、単なるIoTとは異なるまた別の特徴があるという。それは、同社の経営理念でもある「人を中心に考える」だ。

人の作業によって付加価値が生まれる業務と、設備による自働化で効率化する業務を見極め、人と設備が共存する工場作りのためのIoT、そして第4世代のモノづくり。それがパナソニックらしさの一端、経営理念に基づいた考え方といえる。「人がどのように家電を使っても必要な効果(コト)を発揮(提供)できるようトコトン考える会社で、そうした家電のDNAがある」(一力氏)。

同社にはプロダクト解析センターがあり、「人が家電をどのように使うか」を研究している。例えば、「体勢によってどの程度身体負荷がかかるか」というデータをセンシングによって取得しており、高齢者に優しいトイレ作り、システムキッチンで女性や子供が調理器具を取りやすい棚作りなどに活かしている。

これを工場の現場に応用したのが一力氏らのチームだ。人にかかる負荷をセンシングする技術はもともと社内にある。これを活用すれば、荷物を持ち上げる時の作業員の負荷軽減、経過時間の短縮、あるいは時間を短縮しつつも、過大な負荷がかからないように時間をセーブするといったバランスの見極めまでが可能になる。

家電開発で人間の動きを可視化、データ化して研究している

家電を使う"お客さま"に対してはセンシングしてその影響を一つひとつ切り出すのに、「現場の人に注目することがなかった」(一力氏)。これがIoTを以前から利用しつつも、炙り出せてこなかった工場の課題解決に繋がった。

荷物の持ち方でも身体負荷は変わる

とはいえ、これだけではただのセンシングに過ぎない。いかに次世代のモノづくり、「モノづくりイノベーション」に繋げていくのか。

工場の現場に限らず、カイゼンおよびインダストリアルエンジニアリングの観点で人の仕事を大別すると「付加価値作業」と「非付加価値作業」「何もしていない待ち時間」に分けられる。とある現場の事例では、付加価値作業が30%、非付加価値作業は40%、待ち時間は30%と、本来最大化すべき付加価値作業が30%程度にとどまっていた。

一力氏は「何もしていない待ち時間」よりも「非付加価値作業」の方をカイゼンの「宝の山」だと評価する。非付加価値作業は、一般事務で言えば資料作りのための自分が作った過去の資料探しのようなもので、これを最小化して付加価値作業に転換できれば、従業員の、そして会社の生産性を大幅に向上できる。

従来はこうした分析の鍵となるデータ取得が手間だったが、IoTの進展で収集が容易になり、機械学習などによるデータ分析も活用することで「データを価値のある情報に変換ができ、その情報から非付加価値作業の削減」を具体的に提案できるようになった。

ここで興味深いデータがある。というのも取り組みを始めた当初、あるパナソニック内の工場でデータ活用の状況を調べた結果、本来は取得できるデータの1/100しか得られていなかった。その上、実際に活用できたデータは1/30で、「(かけあわせると)1/3000のデータしか活用出来ていなかった」(一力氏)。これをいかに精度高く、そして効率よくデータを回せるかが鍵となる。

推進室ができた3年前、「実のところ、IoTによるデータ収集が目的となって、成果が出なかった」(一力氏)。冒頭で説明したパナソニックが目指す第4世代のモノづくりとは人を中心に考えること。データだけ収集していても、そのサイバー空間上の"空論"を人というフィジカルに還流できなければ意味がない。

つまり、「データを現場と人に還元し、その成果を再びデータにする」というPDCAサイクルを回すことが、「パナソニックが大切にする第4世代のモノづくりの考え」である。「『何が課題か、何を解決するためにデータを収集するのか』を考えるようになってから、効果が出るようになった」という一力氏の話は、目的と手段の見誤りに気付いた重い言葉と言える。

現場の課題想定し、各種デバイスで収集したデータによって課題の解決策を見つけていく。さらにそれを繰り返して定着化させるのがパナソニックのアプローチだ

家電のDNAを自社工場に活用できた。もとを辿れば、このセンシング技術は「人を知るためのもの」だ。そこで目をつけたのが、この"カイゼン"を目の当たりにした物流や小売、別業界の工場だ。

「製造業の課題は日本の現場の課題と同じ」(一力氏)であることから、IoTの技術導入というよりも、むしろ昨今の働き方改革の文脈で引き合いがあった。2017年4月から外販し始めた「現場の課題発見アプローチ」という仕組みは、第4世代のモノづくりの範疇を超え、他業界へと伝播する兆しを見せている。

2017年はさまざまな企業が働き方改革を打ち出した年だったが、とある顧客をコンサルティングした事例では「人を追加で雇う必要がないレベルで非付加価値作業の洗い出しと、作業効率の向上が可能になった」(一力氏)。人が足りていないのではなく、人が効率よく動けていないだけなのだ。

また、こうしたIoTによる課題の洗い出しは、会社が課題視している問題と異なる課題を発見する場合がかなり多いという。これこそセンシングとデータ分析を組み合わせた最先端のIoTのあり方であり、「第4世代のモノづくり」が機能している一端と言えるだろう。

第4世代のモノづくりにはさまざまな課題がある

これができるのは、パナソニックがサイバー(の技術)とフィジカル(現場)を社内に持っているからだ。AmazonやGoogleといったサイバー領域のプレイヤーはフィジカルをあまり持っていないし、製造業のみの会社ではサイバーがない。どちらか一方だけでは強みとまでは昇華できないため、サイバーの会社がフィジカルの会社の現場ノウハウに興味を持っているという現状がある。

現場というフィジカルの強みをサイバーで活用し、それをフィジカルに持ち込んで強化する

こうした環境を背景に、政府もサイバーとフィジカルの組み合わせで社会の"カイゼン"を目指す「ソサエティ5.0」を推進する。一力氏は、パナソニックのみならず、「サイバーに強みを持つ企業と日本の製造業のノウハウとがちゃんと繋がれば、日本は世界ともう一度戦える」と意気込んでいる。

欧米勢はフィジカルのデータをIoTやセンシングによってサイバーにアップすることを目的にしがちにも映る。しかし、データの集積から「表層上の分析だけでは意味がない」と一力氏は強調する。それは、フィジカルへのフィードバックこそが最も重要で企業の競争力になるからだ。

フィジカルの現場で人々がなぜ、どうカイゼンを行えているのか理解しているからこそ、「経営効果まで直結して経営層も理解できる」(一力氏)。AIやロボットによる省人化で人が必要ない時代が来ると喧伝されがちだが、一力氏らは現場を知っているからこそ、性急な省人化ではなく、地に足の着いた「人が活きるカイゼン」を行う。もちろん、人が活きるからこその自働化があり人と機械が共存する現場の実現を目指している。だから経営効果に直結するのだろう。

パナソニックは、代表取締役社長の津賀一宏氏がかねてからB2B事業の強化を図ってきた。本業の"モノづくり力"にソリューションビジネスのノウハウ強化も進めてきたが、「押しの一手」として投入されたのが冒頭で触れた樋口氏だ。

樋口氏は松下電器産業(当時)出身であり、日本マイクロソフト会長になった経歴の持ち主。だからこそ、サイバーと(フィジカルを)繋げて考えることに長けている。現場の一力氏から見ても、「自分たちの取り組みを強力に後押ししてくれて」おり、ソリューションを担当するコネクティッドソリューションズが「さらに加速している」ように感じるという。

単にデータを収集することが目的ではなく、現場でも気付かないような課題を見つけ出し、それを解決して定着させる。道具や理論ではなく、実感を伴ったパナソニックの課題発見のアプローチが、人手不足や業務の効率化に悩む企業の福音となり、競争力強化に繋がる可能性はあるだろう。

音声で操作できる「スマートディスプレイ」は次のトレンドになるか

音声で操作できる「スマートディスプレイ」は次のトレンドになるか

2018.01.13

米ラスベガスで開催中の「CES 2018」の会場では、音声アシスタント「Googleアシスタント」の勢力拡大を狙うグーグルが大きな存在感を示している。

レノボが発表したスマートディスプレイ。価格は10インチが約250ドル、8インチが約200ドルだ

アマゾンとの間で熾烈なパートナー獲得競争を繰り広げるグーグルが、次なる戦いを挑もうとしているカテゴリーが「スマートディスプレイ」だ。

複数のメーカーから「スマートディスプレイ」が登場

これまでグーグルは、CESのような大型展示会ではなく独自のタイミングで製品を発表する傾向にあった。だがグーグルは音声アシスタントの分野でアマゾンの勢いに押されている。そこでCESに出展し、多くの家電製品が対応していることをアピールしたいという姿勢が感じられた。

CES 2018会場に設置されたグーグルのブース

CES会場に設置されたブースには、スマートスピーカーはもちろん、電球からコーヒーメーカー、テレビに至るまで、Googleアシスタントに対応したありとあらゆる製品が集結した。裏を返せば、グーグルが音声アシスタントの市場で生き残ることを非常に重視していることがうかがえる。

その中でも注目のカテゴリーは、グーグルが新たに提唱した「スマートディスプレイ」だ。スマートスピーカーに画面を付け加えたような製品で、アマゾンが米国で売っている「Echo Show」に対抗する位置付けだ。

米国で人気の画面付き音声デバイス「Echo Show」

タブレットとはどう違うのだろうか。画面はタッチに対応しており、ソフトウェアもAndroidベースと共通点は多い。だがスマートディスプレイは、機能を絞り込むことでデジタル機器に不慣れなユーザーでも簡単に使えるのが特徴だ。

難しいことは抜きにしてグーグルのサービスを利用できる

PCよりも手軽で簡単に扱えるはずだったタブレットは高機能化が進み、PCを置き換えるほどの勢いだ。その反面、複雑になり使いこなしは難しい。間違った使い方をして個人情報を盗まれるとか、他人に迷惑をかけるのではないかという不安がつきまとう。

その点、スマートディスプレイはシンプルだ。機能として、カレンダーの予定や天気予報の確認、目的地までの道順、レシピの検索、YouTube動画、Play Musicの音楽など、グーグルのサービスを音声による操作で利用できる。

自宅でのインターネット利用は、動画再生とネット通販が使えれば十分という人も多い。2〜3万円で購入できるスマートディスプレイは、やがて家庭用PCやタブレットを置き換える可能性を秘めているというわけだ。

スマートスピーカーに続く日本上陸はあるか

CESのグーグルブースには複数のメーカーによるスマートディスプレイが展示された。いずれも本体デザインや画面サイズ、スピーカー性能が異なるものの、できることは基本的に同じ。プラットフォーム自体はオープンなので、今後も多数のメーカーによる参入が予想される。

グーグルブースに展示された複数メーカーのスマートディスプレイ

日本上陸への期待も高まる。アマゾンのEcho Showは日本で未発売だが、音声アシスタントの「Amazon Alexa」は日本語に対応し、すでにEchoシリーズのスマートスピーカーは発売されていることから、Echo Showがそれに続く可能性は十分にありそうだ。

一方でグーグルも、Googleアシスタントに多大な開発費を投じて日本語に対応させている。スマートスピーカーに続き、Googleアシスタントの利用シーンを広げるという意味でも、日本市場への投入を狙ってくるはずだ。

気になるのはアマゾンとグーグルの衝突だ。2017年末には、アマゾンのEcho ShowによるYouTube動画の視聴をグーグルがブロックした問題が注目を浴びた。だがアマゾンも、グーグルなどによる競合製品を販売しない姿勢が批判されている。

スマートスピーカーやスマートディスプレイを軸に、2018年は音声アシスタントの覇権争いがさらに激化することは間違いなく、日本でも目が離せない状況になりそうだ。

定番家電・オーブンレンジを

モノのデザイン 第31回

定番家電・オーブンレンジを"再パッケージ" - 「BALMUDA The Range」

2018.01.12

バルミューダから2017年12月に発売された「BALMUDA The Range」。2015年に発売し大ヒットした「BALMUDA The Toaster」を皮切りに、電気ケトルや炊飯器など次々にデザイン性の高さと独自性をウリに新しいキッチン家電を送り出すバルミューダが手掛けた最新の商品だ。

そんな中で今回登場したのは、オーブンレンジ。"バルミューダらしさ"を追求して生まれた同製品にかけるデザイン面から見た思いや秘話を、デザインを担当した同社クリエイティブ部でデザイナーを務める比嘉一真氏に伺った。

2017年12月発売の「BALMUDA The Range」。庫内容量18Lのオーブンレンジで、ステンレス、ホワイト、ブラックの3色をラインナップする

前述のとおり、商品の企画の開発にあたっては、やはり"バルミューダらしさ"に最もこだわったとのこと。しかし比嘉氏によると、初期の段階ではその方向性は少し違ったものだったという。

バルミューダ クリエイティブ部 デザイナー 比嘉一真氏

「調理家電のカテゴリーの中で、そもそもレンジの企画がありました。他の製品同様にバルミューダらしいものをということで、当初は超小型のオーブンレンジの案がありしました。最近は小さなチップ状のマグネトロンなど新しい部品があるので、それを使えば可能だよねとなったのですが、紆余曲折を経て保留になりました。しかし、家電量販店で並んでいるオーブンレンジを見た時に、パッと目に飛び込んでくるのがワインレッドや白のカラーが多く、カラバリが少ない印象を受けたのと、ボタンや文字が多すぎてわかりにくい製品ばかりだということに気付きました。レンジはそもそもが火を使わずに食品を温められる素晴らしい発明なのに、その良さがわかりづらくなっていると感じたので、わかりやすさを重視した製品を作ろうということになりました」

モード選択のつまみ。文字を最小限にし、アイコニックな表示で直感的なわかりやすさにした。カメラの設定ダイヤルのようでもある

次に検討されたのが、必要な機能の取捨選択だ。「社内でアンケートを実施したところ、自動調理メニュー派の人はそれしか使わない。手動設定派の人もそれしか使わないとはっきり分かれました。そこで自動調理メニューは必要なものだけに最小限に絞り込み、もっとユーザーが使いやすいオーブンレンジを目指しました」と比嘉氏。

その結果、絞られたメニューは5つ。お弁当などを温める「自動あたためモード」と、ワット数・時間を選ぶ「マニュアルモード」、「飲み物モード」、「冷凍ごはんモード」、「解凍モード」だ。飲み物モードは、コーヒー、ミルク、熱燗から選択できる。4つのレンジ機能に加えて、100~250℃まで選べるオーブンモードも搭載した。

タイマーと温度の設定用ダイヤル。金庫のダイヤルやオーディオ製品のボリュームコントロールのような"回す"楽しみの遊び心が盛り込まれている

オーブンレンジを「親しみやすく、使いやすいものにしたい」という思いは操作インタフェースにも表される。本体は左側にモードを選択するつまみと右側に温度や時間を設定するダイヤルを備える。国内の主要メーカーの高価格帯モデルがタッチパネル式を採用しているのが主流であるのに対し、同製品は時代に逆行するかのように、あえてアナログな仕様を採用しているのがかえって目を惹く。比嘉氏は操作部についてのこだわりを次のように話す。

「クラシック感というのをすごく大事にしました。真ん中に液晶の表示部があるんですが、この部分のフォントにもこだわりました。ユーザーがわかりやすいという意味で日本語はマスト。レトロ感を出すためにカタカナを採用し、懐かしさのあるフォントを独自に作成しました。"反転液晶"と呼ばれる昔のデジタル腕時計のような黒バックに白文字の液晶をあえて採用しています。現代の主流なタイプの液晶ではないため、部品代も高くなってしまいますし、液晶が庫内の温度に耐えられる仕様でなければならないなど課題が多くありましたが、妥協せずによいデザインを追求しました」

表示部には"反転液晶"を採用。オリジナルのフォントを作成し、レトロ感が演出されている

この製品が目指したもう1つのコンセプトが、"楽しくなるレンジ"だ。操作部のこうしたこだわりは見た目だけでなく、それを実現するための要素でもあるという。

「ダイヤル部分を回すと『金庫みたい』という声も上がります。オーディオ製品のボリュームコントロールなど、昔は何かを"回す"という、最近の家電製品にはないある意味での楽しさがありましたよね。それをユーザーに体験してもらうというのも狙いの1つなんです」

そうした体験を提供するもう1つの方法が、製品の最も大きな特徴とも言える"音"へのこだわりだ。本製品では本体下部にオーディオ用のスピーカーを搭載し、音というより"音楽"を奏でるオーブンレンジとして、その前代未聞さに消費者に大きなインパクトを与えた。

プロのミュージシャンがスタジオ録りをしたという音楽を再生するために、スピーカーはオーディオ用を採用。スピーカーボックスの位置は容量の関係から必然的に本体下部に決まったとのこと。穴は排気の役割も果たすという。

モード選択のスイッチを切り替えることに、「ジャジャジャーン」とアコースティックギターの旋律が流れ、マニュアル設定用のダイヤルを回すとカチカチとドラム音が鳴り、初めて聞いた人は想像を超える出来事にだいたい笑ってしまう。しかも、レンジのためにプロのミュージシャンに依頼してスタジオ録音されたというほどのこだわりだ。「レンジからこんな音が鳴るというだけでもう楽しいですよね。音楽については、他にもさまざまな候補がありましたよ」と明かす比嘉氏。

同製品で掲げられたデザインコンセプトは"レストラン"。開発中はそれがそのままプロジェクト名にもなっていたという。ワクワクとしたレストランの楽しい雰囲気の記憶をオーブンレンジでどのように表現・演出できるかをフックにデザインの詳細が徐々に詰められていったとのことだ。

「レストランの入口によくあるカウベルの音とか、カチャカチャとお皿が鳴る音などレストランの雰囲気を彷彿とさせる音楽も検討段階ではありました」

イメージは"レストラン"。厨房機器のような道具感あるデザインを意識しながら、音と光、操作方法などの要素でレストランならではのワクワクとした雰囲気が表現された
デザインと技術との両立で最も難しかったのがハンドル部分。外装が樹脂よりも熱伝導性が高いステンレスを採用しているため、ハンドル部分がそのままでは火傷をしてしまうほど熱くなってしまう問題を解決するため裏に断熱材を用いるなど、従来のオーブンレンジにはない試行錯誤が繰り返されたという

扉の外側に装備された3灯のLEDライトもレストランを表現する演出のひとつだ。この部分はレストランの雰囲気を出すために、扉の素材もいくつも試作してグラデーションのパターンを調整・検討が図られたという。

このようにレストランのイメージをオーブンレンジの中でさまざまに表現していく中で、最も大切かつ難しいと思われるのがその"さじ加減"だ。比嘉氏はシンプルさとポップさを調和させる秘訣を、バルミューダ製品全体に共通する意匠デザインの考え方とともに次のように語ってくれた。

「今回の製品はただ引き算をしてシンプルにしていくだけでなく、"再パッケージ"だと捉えています。そこにポップさや斬新さを加えることでバルミューダらしいテイストの製品に仕上げました。ただし、新しさと言っても未来的な形は追求しません。あくまでも美しさです。新しさはいずれ飽きてしまいますが、美しさというのは永遠に変わりません。バルミューダのデザインはそういうものを目指しています」

庫内底面は、秘かにレコードのターンテーブルを模したデザインになっている
単にシンプルであるだけでなく"美しさ"にこだわってデザインされているというバルミューダのキッチン家電。そのため、道具感を意識しながらも佇まいを大切にしているとのこと

斬新でユニークなオーブンレンジとして華々しくデビューを飾った同製品。一見すると、その独自性ゆえに、奇をてらったデザインで話題を集めた製品という印象を受けてしまうが、その開発の背景やデザインに隠された意図を知ると、実は奥の深い製品だと感じる。各社が高機能や高性能を競い合う市場において、冷や水を打つかのようないろいろな意味で挑戦的な製品だ。