パナソニック流

パナソニック流"カイゼン"はIoTの最先端事例だ

2018.01.15

パナソニックがB2B事業への注力を加速させている。そうした中で、パナソニックの社内カンパニーであるAVCネットワークス社に加え、プロセスオートメーション事業部などが一体となった「コネクティッドソリューションズ社」が2017年4月に設立された。

同時に社長に就任したのが、ダイエー社長や日本マイクロソフト社長/会長を歴任した樋口 泰行氏だ。もともとパナソニック出身ということもあって古巣に凱旋した形だが、流通からIT企業まで、さまざまな企業を経験した樋口社長ならではの舵取りに注目が集まっている。

今回、B2B事業の強化を進めるパナソニックでも大きな役割を果たすと見込まれるコネクティッドソリューションズ社の現場で、何が変わり、何を目指すのか。同社 モノづくりイノベーション推進室 企画課 課長の一力 知一氏に、製造業としてのパナソニックが培ってきたノウハウを外販するというその取り組みの話を聞いた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ モノづくりイノベーション推進室 企画課 課長 一力 知一氏

【特集】変わる、パナソニック。

2017年4月、前日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏がパナソニックに舞い戻った。彼が担当するのはB2B領域のパナソニック コネクティッドソリューションズ。顧客の要望に合わせた製品づくりを得意としていた同社のB2B部隊だが、時代の変化から、もはや「ただの下請け」では生き残ることは出来ない。「どうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけない」と話す樋口氏の覚悟、そして変わりゆくB2B部隊の今を追った。

第4世代のモノづくり、パナソニック流は「人中心」

製造業の世界では、ドイツが国策として推進する「インダストリー4.0」に代表される「第4世代のモノづくり」が世界中で動いている。パナソニックでも「第4世代のモノづくり」を意識し、モノづくりイノベーション推進室を3年ほど前に立ち上げた。

当時は「IoT」がバズワードとなりつつある時期だったが、「IoTと呼ばなかっただけでそれ以前からモノづくりにおける作業を計測し、データ化は行っていた」(一力氏)。ただし、作業員ごとの作業時間の比較をストップウォッチで計測したり、工場内の動線把握を◯歩といった単位で計測したりが中心で、多様な作業を長い時間分析することは難しかった。

これをセンサーデバイスに置き換えてデータ収集の簡素化・多様化・効率化を目指すのがIoTの姿だが、一力氏によればパナソニックが目指す「第4世代のモノづくり」には、単なるIoTとは異なるまた別の特徴があるという。それは、同社の経営理念でもある「人を中心に考える」だ。

人の作業によって付加価値が生まれる業務と、設備による自働化で効率化する業務を見極め、人と設備が共存する工場作りのためのIoT、そして第4世代のモノづくり。それがパナソニックらしさの一端、経営理念に基づいた考え方といえる。「人がどのように家電を使っても必要な効果(コト)を発揮(提供)できるようトコトン考える会社で、そうした家電のDNAがある」(一力氏)。

同社にはプロダクト解析センターがあり、「人が家電をどのように使うか」を研究している。例えば、「体勢によってどの程度身体負荷がかかるか」というデータをセンシングによって取得しており、高齢者に優しいトイレ作り、システムキッチンで女性や子供が調理器具を取りやすい棚作りなどに活かしている。

これを工場の現場に応用したのが一力氏らのチームだ。人にかかる負荷をセンシングする技術はもともと社内にある。これを活用すれば、荷物を持ち上げる時の作業員の負荷軽減、経過時間の短縮、あるいは時間を短縮しつつも、過大な負荷がかからないように時間をセーブするといったバランスの見極めまでが可能になる。

家電開発で人間の動きを可視化、データ化して研究している

家電を使う"お客さま"に対してはセンシングしてその影響を一つひとつ切り出すのに、「現場の人に注目することがなかった」(一力氏)。これがIoTを以前から利用しつつも、炙り出せてこなかった工場の課題解決に繋がった。

荷物の持ち方でも身体負荷は変わる

とはいえ、これだけではただのセンシングに過ぎない。いかに次世代のモノづくり、「モノづくりイノベーション」に繋げていくのか。

工場の現場に限らず、カイゼンおよびインダストリアルエンジニアリングの観点で人の仕事を大別すると「付加価値作業」と「非付加価値作業」「何もしていない待ち時間」に分けられる。とある現場の事例では、付加価値作業が30%、非付加価値作業は40%、待ち時間は30%と、本来最大化すべき付加価値作業が30%程度にとどまっていた。

一力氏は「何もしていない待ち時間」よりも「非付加価値作業」の方をカイゼンの「宝の山」だと評価する。非付加価値作業は、一般事務で言えば資料作りのための自分が作った過去の資料探しのようなもので、これを最小化して付加価値作業に転換できれば、従業員の、そして会社の生産性を大幅に向上できる。

従来はこうした分析の鍵となるデータ取得が手間だったが、IoTの進展で収集が容易になり、機械学習などによるデータ分析も活用することで「データを価値のある情報に変換ができ、その情報から非付加価値作業の削減」を具体的に提案できるようになった。

ここで興味深いデータがある。というのも取り組みを始めた当初、あるパナソニック内の工場でデータ活用の状況を調べた結果、本来は取得できるデータの1/100しか得られていなかった。その上、実際に活用できたデータは1/30で、「(かけあわせると)1/3000のデータしか活用出来ていなかった」(一力氏)。これをいかに精度高く、そして効率よくデータを回せるかが鍵となる。

推進室ができた3年前、「実のところ、IoTによるデータ収集が目的となって、成果が出なかった」(一力氏)。冒頭で説明したパナソニックが目指す第4世代のモノづくりとは人を中心に考えること。データだけ収集していても、そのサイバー空間上の"空論"を人というフィジカルに還流できなければ意味がない。

つまり、「データを現場と人に還元し、その成果を再びデータにする」というPDCAサイクルを回すことが、「パナソニックが大切にする第4世代のモノづくりの考え」である。「『何が課題か、何を解決するためにデータを収集するのか』を考えるようになってから、効果が出るようになった」という一力氏の話は、目的と手段の見誤りに気付いた重い言葉と言える。

現場の課題想定し、各種デバイスで収集したデータによって課題の解決策を見つけていく。さらにそれを繰り返して定着化させるのがパナソニックのアプローチだ

家電のDNAを自社工場に活用できた。もとを辿れば、このセンシング技術は「人を知るためのもの」だ。そこで目をつけたのが、この"カイゼン"を目の当たりにした物流や小売、別業界の工場だ。

「製造業の課題は日本の現場の課題と同じ」(一力氏)であることから、IoTの技術導入というよりも、むしろ昨今の働き方改革の文脈で引き合いがあった。2017年4月から外販し始めた「現場の課題発見アプローチ」という仕組みは、第4世代のモノづくりの範疇を超え、他業界へと伝播する兆しを見せている。

2017年はさまざまな企業が働き方改革を打ち出した年だったが、とある顧客をコンサルティングした事例では「人を追加で雇う必要がないレベルで非付加価値作業の洗い出しと、作業効率の向上が可能になった」(一力氏)。人が足りていないのではなく、人が効率よく動けていないだけなのだ。

また、こうしたIoTによる課題の洗い出しは、会社が課題視している問題と異なる課題を発見する場合がかなり多いという。これこそセンシングとデータ分析を組み合わせた最先端のIoTのあり方であり、「第4世代のモノづくり」が機能している一端と言えるだろう。

第4世代のモノづくりにはさまざまな課題がある

これができるのは、パナソニックがサイバー(の技術)とフィジカル(現場)を社内に持っているからだ。AmazonやGoogleといったサイバー領域のプレイヤーはフィジカルをあまり持っていないし、製造業のみの会社ではサイバーがない。どちらか一方だけでは強みとまでは昇華できないため、サイバーの会社がフィジカルの会社の現場ノウハウに興味を持っているという現状がある。

現場というフィジカルの強みをサイバーで活用し、それをフィジカルに持ち込んで強化する

こうした環境を背景に、政府もサイバーとフィジカルの組み合わせで社会の"カイゼン"を目指す「ソサエティ5.0」を推進する。一力氏は、パナソニックのみならず、「サイバーに強みを持つ企業と日本の製造業のノウハウとがちゃんと繋がれば、日本は世界ともう一度戦える」と意気込んでいる。

欧米勢はフィジカルのデータをIoTやセンシングによってサイバーにアップすることを目的にしがちにも映る。しかし、データの集積から「表層上の分析だけでは意味がない」と一力氏は強調する。それは、フィジカルへのフィードバックこそが最も重要で企業の競争力になるからだ。

フィジカルの現場で人々がなぜ、どうカイゼンを行えているのか理解しているからこそ、「経営効果まで直結して経営層も理解できる」(一力氏)。AIやロボットによる省人化で人が必要ない時代が来ると喧伝されがちだが、一力氏らは現場を知っているからこそ、性急な省人化ではなく、地に足の着いた「人が活きるカイゼン」を行う。もちろん、人が活きるからこその自働化があり人と機械が共存する現場の実現を目指している。だから経営効果に直結するのだろう。

パナソニックは、代表取締役社長の津賀一宏氏がかねてからB2B事業の強化を図ってきた。本業の"モノづくり力"にソリューションビジネスのノウハウ強化も進めてきたが、「押しの一手」として投入されたのが冒頭で触れた樋口氏だ。

樋口氏は松下電器産業(当時)出身であり、日本マイクロソフト会長になった経歴の持ち主。だからこそ、サイバーと(フィジカルを)繋げて考えることに長けている。現場の一力氏から見ても、「自分たちの取り組みを強力に後押ししてくれて」おり、ソリューションを担当するコネクティッドソリューションズが「さらに加速している」ように感じるという。

単にデータを収集することが目的ではなく、現場でも気付かないような課題を見つけ出し、それを解決して定着させる。道具や理論ではなく、実感を伴ったパナソニックの課題発見のアプローチが、人手不足や業務の効率化に悩む企業の福音となり、競争力強化に繋がる可能性はあるだろう。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。