ソニーとパナソニック、CES 2018に見る「目指す未来」の違い

ソニーとパナソニック、CES 2018に見る「目指す未来」の違い

2018.01.18

米ネバダ州ラスベガスで開催されたCES 2018は、いよいよ「家電見本市」という表現が当てはまらなくなってきた。新聞各紙の報道も、引き続き「家電見本市」という媒体がある一方、「家電・IT見本市」、「テクノロジーイベント」などといった表現を用いる例があった。

実際、家電は主役の一角を担うものの、主要な自動車メーカーの出展により、自動運転時代を見据えた展示が目立ったほか、GoogleやAmazonの音声アシスタントをはじめとするAI機能活用や、ロボティクス、ドローンに関する展示が増加。ヘルスケアやIoT、ウェアラブル、スマートシティに関する展示など、内容は多岐に渡った。

CESの主催者であるCTA(Consumer Technology Association=全米民生技術協会)は、2016年から、かつてのCEA(Consumer Electronics Association=全米家電協会)から名称を変更。エレクトロニクスからテクノロジーへと主軸を移した同協会の立ち位置を明確に示したイベントになったともいえるだろう。

また、3900社以上の出展のうち、約1700社が中国企業というように、米国における展示会ではあるが、中国という新たな勢力が台頭していることを感じさせるものとなった。では、日本企業はどうなのか。

トヨタ自動車も出展
中国メーカーの進出も目立った

ソニーのDNAは「コンシューマ製品の強さ」

CESにおいて、日本企業の主役の座を長年担っているソニーとパナソニックの2社が展示した内容は、これまで以上に対照的だった。それは、両社社長の発言一つとってもそうだ。

ソニー 代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏は、「コンシューマエレクトロニクス領域において、さらなるイノベーションを追求すること、そして、新たな事業への挑戦という2点を展示の軸にした」と語っていた。一方でパナソニックの代表取締役社長である津賀 一宏氏は「他社のブースには、もっとBtoBが並んでいるのかと思ったがそうでもなかった。パナソニックだけが家電の展示がなかったことには驚いた」と話す。

ソニー 代表執行役 社長 兼 CEO 平井 一夫氏

平井氏は、CES 2018の会場における共同インタビューでも、「お客様に直接お届けするコンシューマ製品をいかに強くしていくかが、ソニーのDNAであり、一番得意としているところである。コンシューマビジネスを大事にしていくことが私の強い意志である」と語っていた。

その言葉を裏付けるように、ソニーブースでは、コンシューマ製品が目白押しだった。例年通りに、ブース入口で最新のテレビを展示したほか、デジタルカメラやヘッドフォン、日本のみ発売されているaiboを米国で初公開するなど、数多くの最新コンシューマ製品を展示した。

有機ELテレビでは、55型/65型の「BRAVIA A8Fシリーズ」を展示。高画質プロセッサ「X1 Extreme」によって、有機ELパネルの特長を大限に引き出した深い黒や明るさを表現するほか、画面自体を振動させて音を出力する「アコースティック サーフェス」を採用し、映像そのものから音が聴こえるような臨場感を実現している。

活況のソニーブース
米国市場で今年5月に投入予定のBRAVIA A8Fシリーズ

また、高画質化への取り組みでは、次世代の高画質プロセッサ「X1 Ultimate」を参考展示。前述のX1 Extremeと比較して、約2倍のリアルタイム画像処理能力を実現した上、液晶/有機ELのパネルの違いを乗り越えてそれぞれの特長を引き出し、高レベルの画質を実現できるという。

これに加えてブース内では、4K有機ELディスプレイと8K液晶ディスプレイによるデモストレーションを行った。8Kでも独自の画像処理技術とバックライト技術を組み合わせて、HDRフォーマットの最高値である10,000nitsの超高ピーク輝度を表現するなど、X1 Ultimateが実用段階にあることを示した。

さらに、ヘッドフォンではワイヤレス ノイズキャンセリング ステレオヘッドセット「WF-SP700N」を展示。左右独立型ヘッドフォンとして世界初となるIPX4の防滴対応を実現したスポーツシーン向けのもので、アークサポーターの採用により、重心位置を工夫した設計で高い装着安定性を実現している。国内でも発売する予定だ。

参考展示した8Kディスプレイ。HDRフォーマットの上限である1万nitsのピーク輝度を達成している
WF-SP700Nは昨今人気を集める左右独立型ヘッドフォンだ

海外でも人気の「aibo」

一方、苦戦が伝えられているスマートフォンの「Xperia」だが、ミッドレンジモデルとなる「Xperia XA2 Ultra」を公開した。6.0型フルHDディスプレイや約2300万画素のメインカメラを採用したほか、フロント部に手ブレや暗所に強い1600万画素の高精細カメラと、大人数を写せる約120度の超広角の800万画素セルフィーカメラの二眼を搭載した。

また、新機軸コンセプトの製品を投入するLife Space UXからは、4K超短焦点プロジェクター「LSPX-A1」を展示し、注目を集めていた。人工大理石の天面に加えて、木目調の棚を採用することで、家具のように居住空間になじむ佇まいを実現。壁面に置くだけで最大120型の4K HDR 大画面を壁に投射できる。

Xperia XA2 Ultra
4K超短焦点プロジェクター「LSPX-A1」

だが、目玉として海外メディアから特に高い関心を集めていたのが「aibo」だ。

海外における展示は今回が初めてで、平井氏は「海外でも、一度は本物を見てもらい、様々なコメントを得たいと感じた」とその狙いを語る。というのも、ソニー本社で開発し、ソニー本社の日本人エンジニアが開発した製品がaiboだ。「日本人の目で見ているから可愛いものなのか、それとも米国人や中国人にとっても可愛いと思ってもらえるのかといったリアクションを知りたいという目的もあった」というのだ。

まずは日本の需要を優先し、台数が確保できるようになった段階で海外展開を目指すと平井氏。aiboは部品点数が多く、製造に時間がかかる商品のため時間がかかるとして「ちょっと時間はかかるが、確実に供給できることを前提に発売することが、お客様にとって一番不利益にならない形での市場投入になると考えている」(平井氏)。

海外初お披露目となったaibo

過去最高益を目指す今のソニーの勢いを表すように数多くの製品を展示したソニーだが、平井氏はこの攻勢ぶりを「これらは、KANDO(感動) at Last One Inchを実現する製品を展示した」と表現する。

そうした中で唯一、B2B領域で展示したものが「車載向けイメージセンサー」だ。平井氏は、プレスカンファレンスで、トヨタと日産、デンソー、ボッシュ、ヒュンダイ、KIA、NVIDIA、モービルアイとパートナーシップを組んだことを公表した。展示コーナーでは、高解像度、高感度、ハイダイナミックレンジの技術デモを行っており、自動運転社会の到来に向けた技術力の高さをアピールした。

平井氏は、車載向けイメージセンサーへの取り組みを、「人間の目を超えるセンシング能力を持つソニーの高性能なイメージセンサーを、クルマの目として高度な完全自動運転社会の実現に貢献したいと考えている」と話す。ただし、ソニー自身がクルマづくりに直接参入するのではなく、あくまで「イメージセンサーの技術で、自動運転の領域で貢献していくことになる」(平井氏)という。

とはいえ、単なる部品屋という立ち位置に収まる気もないようで、「単純にイメージセンサーだけを供給するのではなく、その技術にプラスαとなるソニーならではの付加価値を提供するビジネスモデルを確立したい」(平井氏)とも語っていた。カメラ事業などで培った各種認識技術などの応用を目指していくものとみられる。

唯一の共通事項は「自動車産業」

一方のパナソニックは、3月に創業100周年を迎えることもあり、記念展示として第1号家電製品とともに最新家電製品を展示。また、未来の住空間環境プロジェクト「HOME X」のコンセプト展示も行っていたのだが、一般的な家電メーカーが行う商品紹介を主軸とする家電の展示はメインブースで一切行わず、ホテルに確保した別会場に招待者だけを招いて公開した。

こうしたパナソニックの姿勢の変化は、2013年1月に行われたCESの基調講演で津賀氏自身がB2Bシフトを鮮明にしてから一貫している。

「パナソニックは、テレビだけの会社ではなく、B2Bへ全面的にシフトし、さまざまなパートナーとともに、顧客の生活するスペースでお役立ちする道を広げていくことを話した。その中核になる技術やモノづくり力は家電で培ってきたものだが、パナソニックブースからは、できるだけ家電製品を減らしていくことに取り組んできた」(津賀氏)

コンシューマにこだわり続けるソニーと、B2Bにシフトしたパナソニック。日本を代表する2社だが、その方向性の違いは明らか。

ソニーの平井氏は、「電機メーカー各社は、以前は同じ方向を向いてCESに出展していたが、ソニーにはソニー独自のやり方があり、他社には他社のやり方があるということが明確になった。自分たちが持っている資産をどう有効活用するかを徹底的に考えると、すべての企業が同じ方向にいくわけがない。進むべき道が変わってくるのはいいことである」とする。

パナソニック 代表取締役社長 津賀 一宏氏

パナソニックの津賀社長も、「CESには、自動車メーカーをはじめとして様々な業種の企業が出展し、スタートアップ企業の出展も増加している。CESの主催者であるCTAのゲーリー・シャピロCEOと話をしたが、業界の変化が起きており、CESもそれに伴って変化していることを強調していた」とする。

しいて言えば、津賀氏が「メインブースではB2Bやオートモーティブの展示」とあえて「オートモーティブ」と切り出したように、自動車産業への姿勢は共通している。エレクトロニクスの既存カテゴリがレッドオーシャン化する中で、新規領域をどう開拓していくのかという点で魅力的な領域がここ、ということなのだろう。

家電見本市から脱却する方向がより鮮明になったのが、今年のCES 2018。それは日本の電機メーカーの出展内容だけを見ても明確だ。各社が各社の得意分野を「テクノロジー」の観点から打ち出す展示会へと変化している。日本を代表する大手電機2社の展示は、まさにCESの多様性と広がりを象徴するものだといっていいだろう。

2018年のアップルはどうなるか? 好調を保つためのiPhone戦略

2018年のアップルはどうなるか? 好調を保つためのiPhone戦略

2018.01.18

アップルは2017年、iPhone 10周年を迎える記念すべき1年を終えた。アップルは新しい本社機能をもつApple Parkをオープンさせ、Apple Storeの新しいコンセプトの店舗も次々にオープンさせている。

主力製品であるiPhoneは、これまでの系譜を踏襲したiPhone 8、iPhone 8 Plusに加え、次世代iPhoneの姿を現すiPhone Xも投入した。

iPhone 8

また、2017年3月に投入したiPad(第5世代)は、iPadでニーズが集まっていた企業や教育向けの大量導入モデルの需要を叶え、四半期の販売台数を1000万台に復帰させることに成功した。

プロユーザー軽視との批判を集めていたMacラインアップに対しても、MacBook Proの2年連続の更新、iMacラインアップの性能の引き上げ、さらに高い性能を発揮するiMac Proの投入で、その責任を果たした。

その他の製品は、Apple Watch、AirPodsが好調さを増しており、それぞれのカテゴリで業界のトップを進んでいる。またApp Storeなどのサービス部門についても、2020年までの4年間で売上高を倍増させる計画にむけて、順調に歩んでいる。

そんな2018年を迎えたアップルは、今年、どのような1年を過ごすことになるのだろうか。

前提となる世界経済は?

アップルに限らず、多くの企業は、自国だけでなく、世界経済の影響を色濃く受ける。

2008年のリーマンショックに端を発した世界的な景気の減速からの回復と、モバイル時代の到来の波を上手くつかんだアップルは、世界最高の時価総額を記録し、なおも株価の上昇は続いている。アップルの好業績は、世界経済の順調な回復と拡大の地合が背景にあることは間違いない。

世界的な景気拡大と技術革新速度に直接的な相関はないため、景気拡大がiPhoneの進化に直接的に働きかけることはないが、特に新興国市場の景気拡大は、高付加価値のスマートフォンを扱うアップルにとって、特にアジア太平洋地域における売上高の向上を助ける要素となる。

ただし、米国は金融緩和政策からの出口戦略として、2018年も引き続き利上げを実施していくことが考えられる。加えてトランプ政権の税制改革によって、海外に滞留している企業の資金を米国に環流させる際の税優遇も始まる。そのため、新興国向けの投資に異変が起きる可能性が指摘されており、その影響が新興国の景気に冷や水を浴びせないかが心配される。

iPhone戦略での注目は?

主力製品であるiPhoneが属するスマートフォン市場は、世界的な成長限界に近づいており、買い替え需要や乗り換え需要をいかにつかむか、それが販売台数を伸ばす鍵となっている。

また、別の尺度として、平均販売価格を高めることによる売上高の上昇も採りうるべき戦略だ。こちらについては、iPhone Xの投入がもっともわかりやすい施策だった。

アップルは2018年モデルで、iPhone Xのようにホームボタンなし、Face IDによる顔認証機能を備えた全画面モデルへと移行させていくことになるとみられる。iPhone Xよりさらに大きな有機EL液晶を備えるモデルが登場することは想像に容易だ。

5.8インチモデルの値下げとともに、大画面モデルの投入を行い、平均販売価格を高止まりする戦略に打って出てくるのではないか、と予測している。

廉価版モデルを魅力的にする?

先進国市場で5割前後のシェアを誇るアップルが、さらに他社からシェアを奪って行くには、アップルがこれまで苦手としている廉価版のiPhoneのラインアップ強化に努めることが必要となる。

現在、最新モデルとしてiPhone 8・iPhone 8 Plus、iPhone Xの3機種が用意されており、iPhone 6sシリーズ、iPhone 7シリーズ、そしてiPhone SEの、合計8機種が販売されている。価格はiPhone SEの349ドルから100ドル刻みで展開している。

iPhone SE以外のモデルは1-2年前の最新モデルが充てられており、最新のiOS 11では、A9を搭載する2年前のiPhone 6sやiPhone SEでも、最新の拡張現実アプリを動作させることができるように整備している。

筆者が注目しているのは、iPhone SEの刷新だ。

iPhone SEは2016年3月に、当時の最新モデルであるiPhone 6sと同じA9プロセッサや1200万画素カメラを備えながら、iPhone 5sと同じ4インチサイズのボディを採用した廉価版スマートフォンとして登場した。すでに2年が経過し、現在はiOS 11で全ての体験を楽しむことができる下限の性能に位置している。

iPhone SEの刷新を期待

同じA9プロセッサを登場するiPhone 6sは、2018年モデルのiPhoneが登場する際にラインアップから姿を消すことが考えられるが、iPhone SEが引き続きラインアップに残されるのであれば、次期iOSに向けた性能向上が必要となる。

例えば、iPhone 7と同じA10 Fusionや、iPhone 8と同じA11 Bionicプロセッサを搭載したモデルへと刷新されることを期待している。

A11 Bionicプロセッサの搭載を期待

iPhone SEは、日本でも端末価格の安さから格安SIMとの組み合わせで人気を集めているものの、iPhone 7以降対応している日本での店頭や改札でのApple Payにはまだ対応していない。

今年刷新することで、アップルがこれまで苦手だった低価格帯のスマートフォンを求めるユーザーに訴求することができるようになり、販売台数の向上を目指す上で重要な施策となるだろう。

iPad、Macは引き続き現在の路線を堅持

前述の通り、iPadとMacについては、2017年の再生策が奏功しており、これを継続していくことになる。

新型iPad Pro

Macについては、引き続き、素早い最新スペックの製品投入を行っていくことになるほか、年始に報じられたiOSアプリとmacOSアプリの統合によって、iPhoneやiPadのユーザーがよりMacを利用しやすくする環境整備に取り組んでいくことになるのではないだろうか。

またiPadについては、2017年は廉価版の需要に十分応えられたことで販売台数を回復したが、平均販売価格の定価を招いていた。すでに年末年始から日本でも「What’s a computer」というコマーシャルを放映しており、iPad Proがコンピュータの代替として認知されるようプロモーションを開始している。

iPadの成否は、iPad Proがその販売における存在感を示し、結果として平均販売価格が上昇していくかどうかにかかっている。ただ、Chromebookや2-in-1 PCなどは価格競争力の上で勝っており、引き続き厳しい戦いが予想される。

サービス部門で狙う次のターゲットは?

アップルはサービス部門の売上高を順調に成長させている。2017決算年度の売上高299億8000万ドルで、Fortune 100企業の規模を達成している。

このカテゴリは主にApp Storeでの売上が多くを占めており、iPhoneユーザーの拡大と、継続利用するユーザーが増えれば増えるほど、App Storeでのアプリ購買や定期購読料が伸び、売上高が拡大していく構造だ。

ここで、前述の通り、スマートフォンの販売が飽和を向かえてくると、新規ユーザー増加による売上拡大が見込みにくくなっていく。

そのため、アップルは、アプリ開発者に対して定期購読型の課金プラットホームを開放し、しかも1年以上継続しているユーザーからの収益は、手数料をこれまでの30%から15%に割り引く施策を採った。

開発者は、売り切り型のアプリ販売ビジネスから購読型ビジネスに移行することで、より多くの収益を安定的に得られるようになる。アップルからすれば、既存のユーザーが長くアプリを使えば、継続して手数料収入が得られるようになる。開発者へのインセンティブを与えつつ、App Storeのビジネスモデルを緩やかに変更しようとしているのだ。

この購読モデルが狙っている大きな市場は、米国におけるテレビ市場だ。現在、「コードカッティング」と言われるケーブルテレビや衛星放送の解約の流れが続いており、その受け皿はこれまで、多様なコンテンツを配信するNetflixやHulu、Amazon Primeが担ってきた。

しかしHBO Nowなど、ケーブルチャンネルがアプリをリリースして独自に集客をスタートさせているほか、Disneyもアプリによるストリーミングへの参入を表明している。今後コードカッティングから、複数のストリーミングサービスの加入という新しい視聴スタイルへと移行する際、アップルはそのプラットホームとして存在感を示していこうとしているのだ。

アップルはすでに米国市場から、「TV」アプリを導入し、複数あるストリーミングサービスを束ねた「番組表」のようなアプリを、Apple TVやiPhone、iPadに導入した。放送、エンタテインメント市場でのプラットホーム化は、アップルのサービス部門における次の成長の源泉として、注目している。

トランプ政権と上手くやっていけるか

アップルに限らずシリコンバレー企業は、そのビジネスや思想的に、トランプ政権の政策と対立しがちだ。環境政策、移民政策、税制問題など、主要な政策での対立は、シリコンバレーでの成長と無縁だった米国の人々がトランプ大統領を支持しているという構造的な問題にもつながる。

そうした中で、アップルは、税制改革による資金の米国環流のメリットを得つつ、トランプ大統領が目指す製造業の米国回帰に、同社に意味がある形で応えていこうとしている。 2017年、アップルは先端製造業ファンドを立ち上げ、すでに米国企業への投資を実施している。米国内での投資と雇用創出をアピールすることが狙いではあるが、iPhoneなどで利用されているガラスを製造するコーニングや、光学技術企業への投資は、同社の未来の製品に直結している。

今後、プロセッサやディスプレイなどの製品の主要パーツが米国内での生産に移されたり、Mac Pro以外のなんらかの製品を米国内で組み立てる施策を打ち出すこともあり得るだろう。そうした政治との関わりについても、興味深いテーマであり続ける。

肉を回して焼く

モノのデザイン 第32回

肉を回して焼く"特別感"あふれる家電 - パナソニック 「ロティサリーグリル&スモーク」

2018.01.17

パナソニックが2017年11月に発売した「ロティサリーグリル&スモーク」。内部に肉を回転させる機構を持ち、家庭で手軽にロティサリー料理や燻製料理などを楽しむことができるこれまでなかった調理家電で、今流行りの"インスタ映え"する家電としても話題をさらった新製品だ。

今回は、同製品の企画やデザインに携わったパナソニック2人の担当者に、開発秘話やデザイン上のこだわりについて話を伺った。

2017年11月発売のパナソニック「ロティサリーグリル&スモーク」NB-RDX100。内部で肉を回転させながらあぶり焼きができる"ロティ"をメインとしたグリル機能をはじめ、燻製、トーストの1台4役の新ジャンルの調理家電

冒頭でも述べたとおり、これまでにない調理家電として世に送り出された同製品だが、企画段階として挙がったテーマは"新しい食の提案"だという。パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏は、その背景について次のように語った。

パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏

「女性の就業率の上昇に伴い、近年夫婦共働き世帯の家庭が増え、ライフスタイルにも変化が見られます。夫婦共働きのため平日の食事は手早く済ませる一方で、週末は時間をかけてでも調理を楽しんだり、多少お金をかけてでも美味しいものを食べたいといった家族が増えるようになりました。そういうニーズに応えられる調理家電、かつ加熱調理が強みである弊社の技術を活かした製品で何か新しい価値を提供できないだろうかと、社内で検討が始まりました」

社内におけるカジュアルな議論を経て辿り着いたのが、肉を回転させて焼き上げることができる調理家電。当初賛否両論はあったものの、「こんな商品はなかった! 」という前代未聞のインパクトが評価され、2015年末ごろから「ロティサリーグリル&スモーク」という商品の方向性でプロジェクトがキックオフしたという。

その際に掲げられた商品のデザインコンセプトは"おうちバーベキュー"。キャンプなどのアウトドアで楽しむバーベキューのイメージをそのまま製品デザインとして表現するために採り入れられたのは"五感に訴えるデザイン"だ。

パナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏

デザインを担当したパナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏は次のように説明した。

「キャンプ場のバーベキューを楽しむ時のワクワクするシーンをご家庭で再現してもらえるようにデザインを考えていきました。肉を包み込むように覆い、回転させることで美味しくなることを造形で表現したかったんです。」

そしてデザイン上のもう1つの大きだなこだわりとして挙げられたのが、表面処理だ。「特別な調理器具をイメージしていただくために色は黒を基調に、手触りでも美味しさを感じていただけるよう質感にもこだわりました」と小林氏。

しかし、このこだわりが製品開発の上では大きなハードルにもなったともそれぞれ次のように打ち明ける。「中でもハンドルの部分に苦労しました。正面が湾曲しているゆえに、そのままハンドルを取り付けると、開閉の際に手が本体に当たってしまったりと安全面のハードルもありました。そのため、デザイナーも操作性や構造まで入り込んで検討しました。 」(小林氏)

お肉が回転するというイメージをデザインで具現化するために採用された円筒形。独自の形状ゆえに、操作性や安全性と両立させたハンドルの取り付けに想像以上に苦労したという

「円筒形は、板金で形作るなど成形に関しても通常よりも高い技術が必要です。表面の塗装に関してもそれくらいの質感が出せるかを何度もチェックしました」(石毛氏)

側面から見た本体。手前部分が円筒形になっており、一般的な立方体の製品ではない、高い成形技術が要求された

同製品は、ロティサリーをメインとしたグリルの他に燻製とオーブン、トーストの4つの機能を持つのも特徴だ。石毛氏によると、技術面で最も難しかったのはそれらを1台の調理器具として集約しなければならなかったことだという。

「この製品は、弊社のオーブントースターなどの加熱調理製品のフラッグシップ機という位置付けで、4つの調理機能を持たせています。しかし、それぞれの機能を一定の性能を維持しながら両立させるのは本当に苦労しました。というのも、何かの機能を作ったり、改良すると別の機能に影響があり、性能が変わってしまうということが起こります。本来相反する要求事項をひとつひとつ丁寧に折り合いをつけて、落としどころを決めていく作業は非常に難航しましたし、それを何度となく繰り返しながら設計を固めていきました」

ロティ調理の際には、肉を専用のカゴにセットし、オーブン/グリルでも使う受け皿と組み合わせて使用する。左右に渡された軸を本体内部の歯車にはめ込むことでカゴを回転させられる
専用の容器に食材を入れ、アルミホイルでフタをして庫内にセットすることで燻製調理にも対応する

中でも難しかったのがトーストの機能。ムラなく焼くことが実はとても難しく、4つの調理機能のそれぞれパラメーターを取った上で、徐々に優先事項の最適化が図られていった。

もう1つデザイン上のこだわりは"特別感"だ。前述のとおり、週末の"ご馳走"を楽しむための機械として開発された同製品は、使用する際の動作の上でもそれを体験できるよう、扉側には覗き窓のようなサイズ感の窓がデザインされていたり、トースト用の網がわずかに前に飛び出すような仕組みがあえて採用されている。

トーストを焼く時は焼き網をセット。網は着脱式だが、一般的なトースターのように扉を開くと網がわずかに前に飛び出す仕組みがわざわざ考えられた

同製品の操作部分は、右側にワンタッチのボタンをまとめ、左側にはダイヤル式の操作インタフェースを配備しているのも特徴的だ。この仕様も実は"ユーザー体験"を意識したものだと明かす。

「右側は全部オートメニュー用のボタンですが、左側のダイヤルは手動用です。オートで調理したい時にはワンタッチで簡単にできますが、手動で手作りする場合には、自分で操作するという"体験"を楽しんでもらえるようにあえて2通りの方法を採用しました。しかし、階層を深くすると操作方法がわかりにくくなってしまうので、プラグをコンセントにつないだ時に、それぞれの操作方法がLEDで交互に点灯して全機能がわかるように秘かな仕掛けをしています」(石毛氏)

調理時間の表示画面を境目に、左側のダイヤルが手動メニュー、右側のボタンがオートメニュー用に分かれている。わかりやすさと、手作りの楽しみを操作性でも体験できるようにした
ロティ用のかごを受け皿にセットするためのカゴ受けはあえて台形になっている。これはカゴとカゴ受けをセットする左右の方向をユーザーが直感的に理解できるようにするためにあえて採用されたという

調理する楽しみをユーザーに提供するだけでなく、その体験がわかりやすく使いやすいものでもなければならないと、熟考が重ねられた末に誕生した同製品。他にも受け皿にセットするロティ用のカゴのセットの方法を直感的に理解できるような形状を採用するなど調理家電としての使い勝手にも手を抜かず、パナソニックとして初めて作った製品とは思えぬ仕上がりだ。調理を面倒な"ルーティンワーク"というイメージから"エンターテイメント"な体験へと価値観を転換する製品としても、一目置かれるべき存在だ。