ソニーを使い倒せ! スタートアップ支援をサービス化したSAPの狙い

ソニーを使い倒せ! スタートアップ支援をサービス化したSAPの狙い

2018.01.19

ソニーは1月15日、クラウドファンディング・ECサイト「First Flight」における新規事業の加速支援サービスを提供すると発表した。

First Flightは2015年7月にスタートしたクラウドファンディングとECサイトの機能をあわせもったWebサイト。これまで、同社の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」で立ち上げた事業の製品を取り扱ってきた。

1月9日の記事「クラウドファンディングをソニーが始めた意味」でも触れているが、First Flightでは単なるクラウドファンディングではなく、テストマーケティングとしての場、ECサイト機能やコミュニティ機能といった継続的なユーザーとの接点を求めて作られた。

サイト立ち上げ前には、試験的に外部のクラウドファンディング「Makuake」で製品を公開。電子ペーパーの時計「FES Watch」は目標金額に対して達成率138%の299万6888円、スマートロックのQrioでは達成率の1696%の2748万9780円を記録するなど、ソニーとしての実力を見せつけている。

一方でFirst Flightでも独創的な製品開発と、サイトの求心力の高さを見せており、FeliCaチップを内蔵した「wena wrist」ではソニー調べで国内初となる資金調達1億円を達成、その他製品を含めても平均約4000万円(4製品)の調達額を達成しているという。

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2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

新規事業支援サービスの強みとは?

これまではSAP内で立ち上げた自社製品にとどまっていたFirst Flightだが、これをスタートアップなどの新規事業を立ち上げる企業に対して提供するのが新たな取り組み「新規事業支援サービス」だ。同社が強調するFirst Flightのメリットは以下の通り。

  1. 集客力
  2. 支援者とのダイレクトコミュニケーションによる商品改善
  3. ソニーSAPの「加速支援チーム」による量産化、事業化のサポート
  4. ECサイトとして販売をサポート

他のプラットフォームでも似たような特徴を訴えることは多い。ただ、筆者が特に注目したいのが「3.ソニーSAPの「加速支援チーム」による量産化、事業化のサポート」だ。

ソニーWebサイトより

加速支援チームは、主に事業開発支援と、技術、設計、量産支援、オペレーション体制構築の支援を行う予定。つまり、審査を経て事業価値のある製品・サービスであることが認められれば、ある一定の技術力・知識などは必要だろうが、ソニーがこれまでSAPで培ってきたノウハウをフルに活かすことが出来るわけだ。

例えば筆者が「僕が考えた最強のスマートウォッチ」というアイデアを持っているとしよう。

その理念は良いけれども、筆者だけでは1年後、3年後、5年後のスケール目標が明確には決められない。あるいは、手作りの製品ではコストが5万円かかるとして、それを量産化した時にターゲットが3万円なのか、1万円まで抑えられるのか、あるいは消費者が望むボリュームゾーンがどこにあるのかさえわからない。

もちろん、ここまで市場を理解していないアイデアに対してソニーがGoサインを出すことはないだろう。ただ、少なくともソニーは製品戦略と事業計画の作成手法、あるいは量産化から商流、物流、カスタマーサポートの手法まで、大部分の作り方やインフラを持っている。こうした"モノづくり"に特化したサポート体制を持っているプラットフォームは他になく、かなり魅力的なスキームと言えよう。

プラットフォームビジネスにソニーの強みを練り込んだ

ソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長 小田島 伸至氏

現場でSAPを統括するソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長の小田島 伸至氏は、1月11日の記事「ソニーだから回せるSAP、コア事業にも影響し始めたSAP」でこう答えていた。

「組織が大きくなると、それだけ収益化が難しくなる。また、モノを安く作るために大量生産すれば、今度はそれらをたくさん売るのが課題になる。すると、今度はマーケティング力やPRの力が必要となってくる。つまり、モノをたくさん作って売ろうと思えば、それらを支えるオペレーション部分が重要になる。多くの会社は資金調達して人材を増やしてしまい、それでなかなか黒字化できなくなりがちだ。その点、ソニーは長年の知見からオペレーション部分の効率化はかなり得意だ。そうしたオペレーションの得意なメンバーが、SAPに入ってくることで、さらに効率化できる」(小田島氏)

つまり、ソニーのノウハウと新規事業立ち上げという特殊性を併せ持った部門として、その独特のポジションを活かしたソリューション化して外販しようというのが今回の新規事業支援サービスの狙いだ。また小田島氏は次のようにも語っている。

「SAPの基本はプラットフォーム型にある。コアをソニーが持ち、他のプレイヤーが得意なコンテンツを持ち寄ってくれる世界を目指している」(小田島氏)

これまでSAPを通して、社内起業家に対してソニーが持てるさまざまな部門の力を、小規模組織にカスタマイズしてきた。そのノウハウを外部にも提供するのが今回の新規サービスだ

これはSAPのプロダクト構造を語ったものだが、SAP全体、First Flightもまた、他プレイヤーとの協業、共創の場として世界を広げていくことになる。競合他社、例えばパナソニックもB2B分野でオープンイノベーションを強く打ち出しているが、同様のフォーマットながらWebの特性も活かした仕組み作りという点で、ソニーらしさが際立つようにも思える。

外部公開を発表した当日に公表されたアニメとのコラボレーションプロジェクト「ヌマヅノタカラプロジェクト」は、目標金額が2217万円と高額ながら、公開2日目の16日夜には目標額を達成した。ネットとの親和性の高いアニメコンテンツのプロダクトという側面もあるが、第1弾は上々の結果と言って良い。

当面の課題は、クラウドファンディングのプラットフォームとして他社とどう戦っていくのか、そして海外展開だろう。

国内ではMakuakeやCAMPFIRE、そしてKickstarterなどが注目を集めており、特にMakuakeは和歌山の企業が製作した折りたたみバイクが日本のクラウドファンディング史上最高額を叩き出すなど、活気づいている。

Makuakeで公開されたglafitバイクは大きな話題を集め、達成率は4266%、1億2800万円もの調達を実現した

当然、ソニーの看板のもとに、加えてバックエンドの仕組みを活用できる期待を持って、多くの企業がFirst Flightに応募する可能性が高い。ただ、その判断・評価基準を高く据え置いてしまってはクラウドファンディングの「広く募り、芽を育てる」という元々の理念が失われてしまうし、かと言って闇雲にプロダクトを取り扱うわけにも行かない。

さらに言えば、自社製品の取り扱いと外部企業の製品のセグメントの競合や、掲出枠の競合などの問題も出てくるだろう。そうした本来求められるクラウドファンディングの役割と自社製品・SAPの本来の目的を、どうバランスするかが小田島氏らにとって難しい舵取りとなる。

また、海外展開の面では、SAPヨーロッパがようやく走り出したところで、海外向け販売サイト「Hatsuhiko」もまだMESHの1製品しか取り扱っていない。新規事業だからこそ、広くあまねく多くのユーザーの目に触れてもらいたい。それが国内消費者にしか周知できない現状はソニーの名前の下では少しもどかしくも感じる。

ただ、今回のFirst Flightの開放は、世間への間口を広げる一つの契機になる。ソニーはスタートアップに限定せず「新規事業の加速支援サービスの利用を企業やスタートアップにも開放」と説明している。ソニー自身がMakuakeでFES WatchやQrioをリリースしたように、大企業であっても市場性が不透明な製品をテストマーケティングしたいといったニーズにも応えるという意味合いにも読める。

ソニー×◯◯の可能性がどこまで開けるのか。他社とのコラボレーションという"ファーストフライト"がうまく行くかは、操縦桿を握るソニー自身の腕にかかっている。

「若者のPC離れ」をチャンスにできるか、NECが学生向けノートPC

「若者のPC離れ」をチャンスにできるか、NECが学生向けノートPC

2018.01.19

1月17日、NECパーソナルコンピュータ(以下NEC)は学生に狙いを定めたモバイルノートPCの新モデル「LAVIE Note Mobile」を発表し、春商戦にぶつけてきた。

その背景には日本で進行する「若者のPC離れ」がある。国力の衰退につながりかねない社会問題の解決に、NECとしても貢献したいとの思いがあるという。果たしてそんな若者にPCを買ってもらえる勝算はあるのだろうか。

「若者のPC離れ」は本当に問題か

発表会でNECが改めて指摘したのが、「若者のPC離れ」だ。内閣府による2013年の調査によれば、日本では特に13〜15歳の若年層のPC所有率が低く、諸外国とは大きく異なる数値を示している。

日本の若年層に顕著な「若者のPC離れ」

この調査から4〜5年が経過したいま、大学生になった彼らはどうなったのか。NECの商品開発に協力した青山学院大学の現役学生は、「レポートを書くとき以外にはPCを使わない学生も多い」と語る。NECの調査では大学4年生の7割がPCスキルに自信がないと回答しており、若者のPC離れの傾向はたしかにあるようだ。

学生のPC利用の実態を語る青山学院大学 教育人間科学部4年の山田晃子さん

ところで、若者がPCを使わないことは本当に問題なのだろうか。「PCが使えない新入社員」は年々増えているとはいえ、ビジネスマナーのようにすぐに習得できるとの声も多い。今後、単純なPC作業は自動化される方向にあり、職場におけるPCの地位は変化していく可能性もある。

だが、ITのリテラシーを効率良く身に付けるには、PCに触れることが最も近道であることも事実だ。現実には多くの会社が仕事の中心にPCを据えていることを考えても、PCを使えるに越したことはなく、学生にとって将来の選択肢は広がるはずだ。

日本の学生ニーズに沿ったノートPCを投入

それでは、学生をターゲットにNECが投入する新モデル「LAVIE Note Mobile」とはどのようなPCなのか。NECパーソナルコンピューター執行役員の河島良輔氏は、グローバルと日本では「PCのトレンドが異なる」と指摘する。

学生ニーズを満たした新製品「LAVIE Note Mobile」

河島氏によれば、世界的にPCの薄型軽量化は進んでいるが、大きさは気にしない傾向にある。これに対して日本のユーザーは満員電車で持ち運ぶことを想定し、コンパクトで非常に軽いPCを好むという。

学生が求めるPCの要件としてNECが導き出したのは「A4サイズ以下のコンパクトさ」「1kg以下の軽さ」「15万円以下の価格」の3点で、これらの条件を満たすモデルは2017年に発売された約300機種中、12機種しか存在していないという。

学生が求める要件を満たした製品は少ない

学生に人気の高い製品としてアップルの「MacBook Air」もあるが、コンパクトな11型モデルはすでにラインアップなら外れており、12型のMacBookはやや高価だ。米国でK-12と呼ばれる高校生以下の層では「Chromebook」が過半数のシェアを持っているが、日本ではあまり普及していない。

また、グローバルに展開するPCメーカーの場合、各国のユーザーの声を採り入れて開発した製品の中から、日本市場に合うモデルを投入するのが普通だ。これに対してNECは、最初から日本市場を想定して開発できることが強みになっている。

こうした日本特別仕様の製品は高価になりがちだが、LAVIE Note Mobileは10〜15万円の比較的手頃な価格を実現した。CPUには安価なCeleronを使ったモデルも用意し、金属部材を減らすなどコストダウンに努めている。SSDの採用でサクサクと動き、満員電車で押されても耐える強度にもこだわった。

本体カラーは学生生活のファッションを想定した3色を取り揃え、在学期間に応じて契約できる3年、4年、5年の延長保証を提供するなど、きめ細かいニーズに対応する。最近話題の2〜3万円の格安ノートPCに比べればたしかに高価だが、数年間の実用性を考慮した、ツボを押さえた作りになっている印象だ。

このようにNECは日本市場に特化できるという強みを活かし、日本の学生ニーズを見極めた製品を投入してきた。若者のPC離れという危機をチャンスに変えるアプローチといえるだろう。

ドコモの「d払い」でキャッシュレス化は進むか

ドコモの「d払い」でキャッシュレス化は進むか

2018.01.18

NTTドコモは17日、2018年4月より新たな決済サービス「d払い」を提供すると発表した。これまでネットショップなどオンラインでの利用に制限されていた電話料金合算払い(ドコモのケータイ払い)がリアル店舗でも使用可能になる。とりわけドコモ契約者の利便性を高めたサービスとなるが、キャッシュレス化は進むだろうか。

写真左:ローソン執行役員 マーケティング本部長の野辺一也氏、写真右:NTTドコモの執行役員 プラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏

d払いとは

「d払い」はスマーフォンアプリを利用して、d払い加盟店においてキャッシュレスでの買い物ができるサービスだ。使い方は次のような流れとなる。

店員が商品のバーコードを読み取る。次に利用者が「d払い」アプリの画面を提示する。画面にはバーコードとQRコードが表示されており、店員がそれを決済端末で読み込む。これで決済が完了する。支払いは電話料金合算払い(ドコモのケータイ払い)ほか、クレジットカードにも対応する。

注目したいのは、電話料金合算払いの部分だ。これまで、電話料金合算払いはオンラインでの利用に制限されていたが、d払いではリアル店舗での利用が可能となる。電話料金合算払いでは、銀行引き落としによる支払方法を選択する人もおり、クレジットカードの利用に強い抵抗感を抱く人向けのスマートな決済方法になると言えそうだ。

電話料金合算払いはドコモ契約者の向けのサービスとなるが、クレジットカードでの支払いも用意されており、他のキャリアを利用していても本サービスを利用することができる。ある意味、クレジット決済を前提に考えれば、「iD」の利用といった従来法とさして変わらない面が大きい。

そういう側面がありつつも、NTTドコモの執行役員 プラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏は「クレジットカードでは敬遠されがち。今まで敬遠されてきた方々にも受け入れてもらえるのでは」と今回の狙いについて語る。

しかし、ドコモの決済サービスに詳しい人だと、さらなるツッコミが出る。ドコモにはすでに電話料金合算払いが可能かつ「iD」マークのあるリアル店舗で使える「dカード mini」があるからだ。

ドコモの狙いはどこに?

そこを考慮すると「d払い」は今までにないユーザーメリットを提供するものではない。ユーザーへの新たな選択肢を用意し、キャッシュレス化の普及とユーザーの利便性を高めるというところに主眼が置かれたサービスとなる。一部サービス内容が重複使用しようとも、ドコモ側に大きなメリットがあったとも見ることができそうだ。

ドコモにとっての旨みは、決済に伴う手数料収入だ。この手数料収入は利用回数が増えるほど増えていく。利用の増加には導入店舗を増やす必要があり、店舗側に決済端末を用意しなければならない。

この点において、今回のサービスでは、コストのかかる決済端末の導入がなくとも幅広く対応できるようになったというのもクローズアップすべきポイントだ。導入コストの低下により、サービスの普及が見込みやすいのだ。「d払い」ではバーコード、QRコードが読み取れれば、決済処理が行なえる。店舗側の設備負担が少ないというわけである。

店舗側にもメリットはある。たとえばコンビニ。発表会に登壇したローソン執行役員 マーケティング本部長の野辺一也氏によると、早朝や昼時など込み合う時間帯では、レジ前に人が並んでしまうという。キャッシュレス化を進めることで、作業はスムーズになり、込み合うことによる売上逸失を回避することもできるとする。

ローソンではこれまでもキャッシュレス化に取り組んできたものの現金払いは全体の8割とまだまだ多く、d払いのようなキャッシュレス化に対する期待は大きいようだ。

「モバイル決済 for AirREGI」を活用することで小規模店舗でも手軽に導入が可能なようだ

購買履歴の活用という旨み

ドコモにとっての狙いはもうひとつある。それは購買履歴の有効活用だ。これからはデータの利活用がビジネスを大きく左右する要素となりそうだが、ドコモは利用者の承諾を取ったうえで、すでにこうしたデータの活用を進めている。

具体的には、個々に応じた商品リコメンドや、ある一定の条件、たとえば「30代男性で商品Aを購入した人」などといった条件をもとに、対象者をピックアップしマーケティング施策を打つなどといったものだ。

ドコモでは決済情報に限らず、様々な生活サービスを提供しており、そうしたデータも活用することで、精緻なマーケティングに生かしていくことも可能だという。今回の取り組みは、扱えるデータの量を増やし、こうしたビジネス上のメリットも大きく見えてくる。

ビジネスメリットを最大化するには、まずは加盟店を増やすことが先決。現在ローソン、マツモトキヨシなど10社19000店での取り扱いを予定しており、想起に10万店以上の展開を目指していくという。キャッシュレス化を進めるにはまずはインフラの整備から。その障壁を減らしたのが今回のサービスとなるが、利用加盟店を増やすには他のサービスとの手数料率の差にも目を向けていく必要があるだろう。

後は利用者が増えるか、である。利用者の立場に立てば、「iD」との違いがわかりにくいといった側面も気になるが、ユーザーに対してどれだけポイント付与率など魅力に見せられるかにもかかっていく(ポイントは加盟店手数料にオンされ最終的にはこの部分の舵取りが重要なようだ)。果たして、目算どおりに普及していくだろうか。