B2Bシフトから4年、樋口泰行が目指す「真のB2B」

B2Bシフトから4年、樋口泰行が目指す「真のB2B」

2018.01.22

日本マイクロソフトで会長を務めた樋口 泰行氏が、パナソニックの社内カンパニーであるコネクティッドソリューションズ社・社長(兼 パナソニック 代表取締役 専務執行役員)に就任してから、8カ月が経過した。樋口氏がパナソニック改革のために何を行っているのか、単独インタビューを行った。

前編では、樋口氏がかかわる「B2B(法人)事業」の方向性と、その行方について聞いた。パナソニックはこの数年「B2B事業シフト」を敷いているが、一方で樋口氏が参画した2017年度は、過去のやり方とは異なる事業展開を模索しているようにも映る。新しいパナソニックの「B2B戦略」の本質とは何か、樋口氏に尋ねた。

パナソニック 代表取締役 専務執行役員 兼 パナソニック コネクティッドソリューションズ社 社長 樋口 泰行氏

【特集】変わる、パナソニック。

2017年4月、前日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏がパナソニックに舞い戻った。彼が担当するのはB2B領域のパナソニック コネクティッドソリューションズ。顧客の要望に合わせた製品づくりを得意としていた同社のB2B部隊だが、時代の変化から、もはや「ただの下請け」では生き残ることは出来ない。「どうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけない」と話す樋口氏の覚悟、そして変わりゆくB2B部隊の今を追った。

スペックアップから「顧客視点」へ脱皮せよ

「単なるB2Bなら簡単なんです」

樋口氏は冒頭、そう切り出した。もちろんこれは、「法人市場は与し易い」と言っているわけではない。パナソニックが向かうべき市場は取り組み方が違う……というのが真意とみるべきだろう。

B2Bというが、その中身を精査すると業態は大きく3つに分けられる。一つは企業から企業へと売る「B2B」。次に、最終的には消費者に売るものを、特定の企業へと売る形態である「B2B2C(最後のCはコンシューマのC)」。さらに、最終的な売り先が別の企業になる「B2B2B」が考えられる。

「B2B2BとB2B2Cは、単品やパーツの状態で納めて、納めた先の企業がインテグレーションし、その先のエンドユーザーにソリューションとして納めます。そこに類するB2Bでは、ハードウエアやパーツの供給にとどまります。しかしB2Bは、『B』でとどまる。すなわち、この『B』がエンドユーザーとしてのお客様になるわけです。この場合には、我々がソリューションを作り、お客様とすり合わせをして販売します。難しいのはこちらです」(樋口氏)

樋口氏が話す「難しい」とは、単品やパーツを納入するだけではなく、それ以上のビジネスにレイヤーアップしていくことの難しさを指している。パナソニックは長年、モノづくり企業として「良い製品」「良いパーツ」を作ることに力を注いできた。それは今も変わらず重要なことであり、パナソニックの差別化ポイントも依然として「良いものを作る能力がある」ことにある。しかし、それだけではもうやっていけない。

「従前からのB2Bのサプライチェーンは、良いものを作ってそれを大量に納入するという点においてB2Cと変わりがなく、これまでは『事業部制』による自己完結でやっていてもよかった。しかし、これからは作ったものを組み合わせて売らなければいけない。時には他社から調達することも必要になります。そういう感覚を持てるかどうか。ずっと製品単品の『スペックアップ』だけをやってきた人間には、それ自体が難しいんです。お客様の声に耳を傾けて、そこから課題を見つけ出し、ソリューションとして提供することで価値を最大化することが、感覚的にも難しい。事業部をまたいでの調整も必要になります。他社の製品の組み合わせも考えなければならない。これはパナソニックが今までやってきたこととは大きく違います」(樋口氏)

樋口氏は大学卒業後、松下電器産業(当時)に入社し、その後外資へと転身した。外資で営業の一線に立ち、「かなり営業の脚力がついた」(樋口氏)という。マイクロソフト時代は顧客と直接対応し、課題解決のためのソリューションを売る、というトップセールスを多数展開してきた。その目から見ると、パナソニックのB2B戦略はまだまだ改善の余地があった。

「スペックアップを目的に製品を作っている時には、製品だけに視点を向けた状態で開発しても良かったんです。しかし、ソリューションを提供するためには、単なるスペックアップの視点ではなく、『お客様にとって何が嬉しいのか』といった、もっと高い視点、「顧客視点」で見る必要があります。その実現には、組織間でのコーディネーション、すなわちプロジェクトマネジメント能力が求められます。さらにデジタリゼーションの中では、コントロールのレイヤーはソフトウエアです。したがってソフトの知見もなくてはいけません。IoTも同様です。このように難しさのレイヤーがどんどん上がっていきます。それがゆえに、ソリューションビジネスをやったことのある経験者がますます重要になります」(樋口氏)

そうした部分がパナソニックにはまだまだ不足しており、そこを満たしうる組織への変革こそが、今、樋口氏が手掛けようとしていることだ。

樋口氏の指摘は、聞きようによっては、非常に辛辣な批判にも聞こえる。だがその背景にあるのは、「パナソニックならできる」「パナソニックの持つ技術はソリューションに生きてくる」という判断と、強い信念があってのものでもある。

「パナソニックには『AVソリューションが強い』『モノづくりに長けている』『ファクトリーオートメーションが強い』といった評価があります。少なくとも、そうした部分で元請けとしてトータルで仕事を任せられる、とお客様に期待していただけると思っています。パナソニックは製造業として、工場での生産性向上や省力化の知見を貯めています。そういった知見は工場の中にとどまらず、流通や倉庫、小売りの現場において生産性をどう向上させるかというポイントにも応用できるでしょう。もちろん、生産性向上の分野では『デジタルのインテグレータ』が多数います。しかし、特に『モノが動く』ことを前提とする事業領域において、当社へのインテグレータとしての期待値は非常に高く、これこそがコネクティッドソリューションズ社に求められる領域なのだな……と感じます。その強みを一言でいえば『現場』。例えば、当社は店頭で活躍している決済端末や物流分野のドライバー向け端末など、現場で使用されるエッジデバイスで高いシェアを持っています。そこにRFIDなど組み合わせて流通のトレーサビリティを実現する……といったことをトータルでお客様にご提供できる企業は多くありません」(樋口氏)

すなわち、製造業として培ったノウハウを「お客様の課題解決」に置きかえ、「モノが動く」現場のインテグレータになることが、パナソニックの強みを生かしたソリューションビジネスになる、ということなのだ。

さらにこのポジションにいることの強みは、もう一つある。

「一般論になりますが、これまでは意外と、子供でもできるようなことがあまり自動化できなかったんですね。置いてあるペンを持ちあげるようなことでも、どこに重心をとればいいのか。そんなことが問題になって自動化できなかったんです。だから依然として人による作業が多く残っている。子供ができるようになるのは、目で見て失敗から学習するからです。現在、ディープラーニングとセンサーの技術の進化がちょうど融合して、そういう部分の自動化ができるようになってきた。これは、変化ポイントとして大きい。しかしAIも画像認識も、今後はコモデティ化します。だからこそAIに「どうやって学ばせるか」の知見を持っている企業は強い。たとえば熟練工にしかできないような作業は、知見をもっていないとAIに学ばせることはできません。そこで当社の従来からの強みである画像処理技術などが力を発揮してくると思います。もちろん、足りない部分はたくさんありますよ。今後は、足りない部分をさらに補っていくのが正しいやり方であると考えています」(樋口氏)

パナソニックがさまざまな「現場」で蓄えてきた知見を「ソリューション」という高い視点で整えて、これまでとは別の形で、より広いビジネスパートナーに提供していくことが、パナソニックの目指す「真のB2B」の正体なのだろう。

では、そのためにはどのような組織改革が必要なのか? その点は、後編をご覧いただきたい。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

2018.11.12

オリパラの裏側には、さまざまな最新技術が隠れている

パラアスリートを支える、ブリヂストンの「タイヤ技術」って?

義足用ソールの開発に挑む研究者らに話を聞いた

東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで2年を切った。自国開催ということもあり、現地で観戦しようと考えている人も多いだろう。そこで1つ提案したいのが、オリンピック・パラリンピックを「技術」の視点で見ることだ。

2018年の平昌オリンピック・パラリンピックでは世界初の5Gの実証実験サービスが行われ、開会式ではインテルがドローンによる光のパフォーマンスが行われた。このような派手なものに限らず、大会の裏にはいくつもの技術が隠れている。パラアスリートが用いる器具などがその典型的な例と言える。

そこで本稿では、「ワールドワイドパラリンピックパートナー」であるブリヂストンによる、自社技術の活用によってパラアスリートを支援する取り組み「パラアスリート技術支援プロジェクト」に注目。東京2020を支える技術の裏側に迫る。

タイヤ技術でパラアスリートを支えよ! 

パラアスリート技術支援プロジェクトは、同社のオリンピック・パラリンピックのパートナー契約締結を機に『タイヤやゴムの技術をアスリートのために活かせないか』という想いから発足したという。ではその技術で何を作っているのかというと、1つの例が義足用の「ソール」(地面に接する部分、靴底)だ。

今回話を聞いた、ブリヂストン 先端企画本部 先端技術推進部 先端技術企画推進第1ユニット 主任部員の小平美帆さん(左)とオリンピック・パラリンピックマーケティング推進部 アクティベーション推進ユニット 課長 鳥山聡子さん(右)

「当社では、パラトライアスロン選手の秦由加子さんの義足用ソールを開発しました。現在も定期的に本人と話し合いの場を設けながら、当社の技術でサポートできる部分はないか、ということを模索しています」(鳥山さん※以下、鳥山)

秦由加子 選手。1981年生まれ。千葉県出身。3歳から10歳まで水泳を習う。13歳で骨肉腫を発症し、右足の大腿部切断を余儀なくされたが、2007年に障がい者水泳チームで水泳を再開。2013年にパラトライアスロンに転向した。大腿部切断でパラトライアスロンを行っている唯一の日本人選手だ

なぜ同社がソール部分に注目するようになったかというと、「タイヤ技術との親和性の高さ」が理由だと小平さんは語る。

「もともと当社では、タイヤはもちろん、ゴルフシューズや農業機械用のゴムクローラなど、『地面と接する部分』の製品開発に強みを持っております。ソールも同じく、地面と接するモノ。そこで当社の持つ技術との親和性が高いと感じ、注目するようになりました」(小平さん※以下、小平)

さらに、ソールの素材はゴムと高分子の複合体であり、これは同社の製品でもよく使われる素材であった。タイヤ製品で培った技術を活用することで、選手をサポートできるのではないか? と考え、新ソールの開発を始めたというわけだ。

義足イメージ。ランニングシューズの底のように、特有なパターン(模様)の入っている部分が、ブリヂストンの開発したソール

「ランニングシューズを切って、義足に貼る」が当たり前?

そもそも、義足用のソール開発に力を入れている企業というのはグローバルで見ても少ない。義足を必要とする人は多くいる一方で、切断箇所や筋肉量の違いなど、個人個人によってのニーズが異なるために、高ロットでの生産ができず、なかなかビジネスとして成り立たないことが原因だという。では、秦選手の使用していたソールには具体的にどのような課題があったのか。

「これは秦さんに限らず、ほとんどのパラアスリートに当てはまることなのですが、それぞれが個人に最適化されたツールを使えていないという課題がありました。もともと、多くの種類が市場に出回っているわけではないので、パラアスリート向けの『高品質な製品』自体が少なく、モノによっては、開発されて数十年経っている”最新モデル”もあります」(鳥山)

驚くべきことに、世界大会で活躍する秦選手のような人であっても、ランニングシューズを買って、ソール部分を切り取り、義足に貼り付けて使っていたのだとか。そのように「売られているものを転用して使う」というパラアスリートは少なくないそうだ。

「当たり前ですが、ランニングシューズのソールは、義足を必要とする人向けに開発されたものではありません。地面と接触した際にかかる力は違うし、耐摩耗性が求められる箇所も異なります。秦さんは以前、雨の中でのレースで、『滑るのが怖くて、思い切って走ることができなかった』という経験をしたそうです。そうした意見を聞き、どんな状況であっても安心して走れるようなソールを開発したい、と考えるようになりました」(小平)

タイヤ開発のノウハウを詰め込んだソール開発

しかし、いくら「地面と接するモノ」だからといって、タイヤとソールで求められる技術が一緒だとは思えない。どのようにブリヂストンの持つノウハウをソール開発に適応させたのか。

「はじめはゼロからの挑戦でした。そもそも、『義足のソールに求められることって何? 』という疑問からのスタートなんです。勉強の日々でしたね。どうにか当社の技術を活用できないか、と考え、まずは走る際にかかる力を測るために、タイヤ開発に使用する測定器を使って圧力測定を行いました」(小平)

圧力測定時の様子。ランニング時、ソールへの力のかかり方がどう変化するかを調査した

ほかにも、使用した後の摩耗部分の分析などを行い、グリップ力を上げつつ摩耗を抑えられるソールはどのようなゴム材料・溝形状にすればよいかをひたすら考えたそう。

さまざまなデータから見えた課題に対して「どうブリヂストンの技術を適応させれば良いか」と考え、試行錯誤を重ねた後に、ようやくソールを開発。2017年4月、初めて秦選手に新ソールをつけた義足で走ってもらうことになった。

「私たちのソールで走ってみた秦さんには『全然違う! 』と、すぐに気に入っていただきました。その1カ月後には早速、新ソールで大会にも出場していただきました。その大会もあいにくの雨だったのですが、確実に滑りにくくなっているとのフィードバックをいただき、手応えを感じました」(小平)

小平さんや鳥山さんは、秦選手と密にコミュニケーションを取りながら、フィードバックを元にソールの改良を続けた

さまざまな領域での技術活用も視野

そのレース以来、秦選手は変わらずブリヂストンが開発したソールを使い続けている。現在のソールは2代目で、2017年に開発したモデルから、パターンと材質を変更しているそう。

しかし、いくら製品の改良を実現したと言っても、事業化につなげられなければ、同社の「パラアスリート支援」は一過性のものになってしまう。同社は今後、この取り組みをどのように続けていく予定なのか。

「秦さんとの協力によって生まれた技術が将来、当社製品のブレイクスルーにつながる可能性はあると考えています。将来的には、さまざまな領域での技術の活用も視野に入れております。ですが、何よりこの取り組みは、当社がグローバルメッセージとして掲げる『CHASE YOUR DREAM』を体現するもの。

CHASE YOUR DREAMとは、ブリヂストンが、さまざまな困難を乗り越えながら「夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えていく」という想いを表現したメッセージ

そのため、必ずしも『将来的なリターン』を求めてこの活動をやっている訳ではありません。私たちの取り組みが社内外に広がり、当社の『夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えたい』という想いに触れていただき、一緒にオリンピック・パラリンピックを応援してくれる仲間を広げていくことを目指しています」(鳥山)

「2020東京」まで1歩ずつ、2人3脚で

現在、すでに秦選手用の最新ソールは完成しているそうだが、まだまだブリヂストンの挑戦は続く。

「最新モデルは、秦さんの要望を満たし、かつさまざまなデータから考えられる問題点を解決した自信作。しかし、パラリンピックまではまだ時間があります。今後も本人のフィードバックをもとに、より改良を続けていきたいです」(小平)

パラアスリートと一緒に夢を追い続けるブリヂストン。今回紹介したのは、同社の秦選手との取り組みだけだが、それに限らず、ほかにも多くのアスリートを支援しているそうだ。

オリンピック・パラリンピックでもっとも日の目を浴びるのは選手。しかし、その周りには、選手たちを支えている多くの人たちがいる。来る2020年、パラリンピックでは、選手の義足や車椅子などにも注目し、そこに隠れた技術の背景を想像してみるのも楽しみ方の1つだ。

ブリヂストンと秦選手の挑戦をこれからも応援したい