電気自動車のワイヤレス充電は夜明け前? 普及の鍵を握るのは誰か

電気自動車のワイヤレス充電は夜明け前? 普及の鍵を握るのは誰か

2018.01.22

電気自動車(EV)が普及の兆しを見せる中、新しい充電方法の提案を行っているのがクアルコムだ。同社はワイヤレス充電システム「Qualcomm halo」の製品化に向け、EVの充電器を製造するニチコンとライセンス契約を締結し、現在は技術移転を進めている。EVを停めるだけで充電が始まる社会が到来すれば便利そうだが、このシステムは実際に普及するのか。「オートモーティブ ワールド 2018」に出展していたクアルコム ジャパンに聞いてみた。

日産「リーフ」を使ったワイヤレス充電のデモ

将来は走りながら充電も可能に?

クアルコムが普及を目指すワイヤレス充電システム「Qualcomm halo」は、クルマ側と地上に充電用のパッドを設置することにより、その場所に駐停車するだけでEVを充電できるというもの。同社は将来的に、充電パッドを道路に敷設することで、走りながらEVを充電できるようなシステムを構築することも視野に開発を進めている。

同システムの製品化に向けてクアルコムは、EVの充電器(有線)などを製造するニチコンと2017年7月にライセンス契約を締結。クアルコム ジャパンの小沢幸雄氏によると、同社とニチコンは現在、試作品の製作に向けた技術移転を進めているところだという。ニチコンによれば、製品化の目標は2021年頃とのことだった。

クアルコム ジャパン ビジネスディベロップメントの小沢幸雄シニアディレクター

日産のEV「リーフ」に試乗した際、有線での充電を試してみた経験からいうと、ケーブルを充電器に差し込んで充電するのは大した手間ではないし、セルフのガソリンスタンドを利用するのと比べれば、ほとんど利便性に差はないという感じがした。しかし、クルマを停めるだけで充電できるのであれば、そちらの方が便利であることは間違いない。ワイヤレス充電システムの普及はEVそのものの普及にもつながりそうだが、社会に実装する上で何が課題となっているのだろうか。

普及に向けた2つの課題

課題の1つは安全性だ。小沢氏によると、ワイヤレス充電の仕組みは「簡単にいうと、電子レンジがそのまま露出しているようなもの」だそうで、充電中のパッドの上に金属の異物が乗っかれば、それは熱を持ち発火してしまう危険性がある。

ただし、ワイヤレス充電システムの「異物」による危険性は当初から指摘されていたことでもあり、クアルコムもFOD(Foreign Object Detection=異物検知)システムの開発には余念がない。小沢氏によれば、「Qualcomm halo」は異物を検知した状態で充電を始めないし、充電中に異物を検知した場合は充電を直ちに中断するという。

もう1つの課題はコストだ。具体的に1セットでいくらくらいになるのかは聞けなかったが、個人で後付けのワイヤレス充電システムを用意するにしろ、自動車メーカーが新車にオプションとして設定するにしろ、コストはネックになりそうだ。

地上に設置する「Qualcomm halo」の充電パッド。地中に埋設することも可能だ

誰がワイヤレス充電を普及させるのか

このように課題も抱えるワイヤレス充電だが、普及の突破口となりそうなビジネスモデルも小沢氏から聞くことができた。それは、駐車場とワイヤレス充電の組み合わせだ。充電パッドが設置された駐車場があって、そこにEVを停めると充電が自動的に始まり、駐車場から出る際には、クレジット決済で駐車と充電を合わせた料金の精算が済ませられる。買い物や食事などの時間をワイヤレス充電に充当するという、このような新しい駐車場の在り方を小沢氏は提示した。

もちろん、駐車場を運営する事業者が、その意義を感じてワイヤレス充電システムに先行投資できるかどうかという部分は問題として残る。まだまだEVが普及したとは言いがたい状況にあって、新技術への先行投資を行い、その投資額を駐車料金に上乗せして回収できるかというと、おそらく駐車場を運営する側は尻込みするだろう。

地上側充電パッドの中身

結局、EVの普及が先か、EV普及に向けた環境整備が先か、という問題に帰着してしまうわけだが、小沢氏は「夜明け前が一番暗い」として、ワイヤレス充電に率先して取り組む意義を強調した。どのくらいのスピードで、どのくらいの台数のEVが世の中に広まっていくかは未知数だが、「少ないとはいえEVは普及しつつあるのだから」(小沢氏)、ワイヤレス充電を特色とする駐車場の運営に乗り出す勢力があっても良さそうな気はする。

自動車メーカーの中には、今後はクルマを作るだけでなく、モビリティサービス・プロバイダーを目指すと宣言している企業もある。そういった企業が、自動運転のEVを使って人やモノを運ぶようなサービスに乗り出す際に、ワイヤレス充電設備の重要性を再認識する可能性もある。なぜなら、自動運転の導入でドライバーのコストを抑えたのにも関わらず、有線の充電器を使用するために人の手を必要とするようでは、画竜点睛を欠くと言わざるを得ないからだ。

クルマが自動で動いて仕事をこなし、バッテリーの残量が少なくなれば所定の場所で勝手に充電を行う。こんなビジネスモデルを構想する企業にとってみれば、ワイヤレス充電システムは不可欠なインフラとなるのではないだろうか。

購入検討リストに伏兵あらわる? 安東弘樹、トヨタ「カローラ スポーツ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第3回

購入検討リストに伏兵あらわる? 安東弘樹、トヨタ「カローラ スポーツ」に乗る!

2018.08.21

クルマ選びを進める安東さんに思わぬ候補車が!

「カローラ スポーツ」の何が気に入ったのか

“若者のクルマ離れ”にも一言

「意のままに動くからかな? すごく気持ちいい。好感が持てる」

トヨタ自動車の新型車「カローラ スポーツ」に試乗している時、安東弘樹さんが口にした言葉だ。「運転は快楽」と語る安東さんだが、このクルマに今後、マニュアルトランスミッション(MT)車が登場すると聞いて俄然、食指が動いたようだ。

※文と写真はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

カローラが「全く別のクルマ」に

トヨタが開催した新型「クラウン」と新型車「カローラ スポーツ」の試乗会。長い歴史を持つトヨタの看板商品に立て続けに乗った安東さんは、「カローラの方が好きです、断然」(以下、発言は安東さん)と言い切った。

トヨタの新型車「カローラ スポーツ」

最初に乗ったカローラ スポーツは、最上級の「HYBRID G“Z”」というグレード。ハイブリッド(HV)システムを積む排気量1.8Lのクルマで、最高出力は98PS、最大トルクは142Nmだ。

乗り込むなり「標準でタコメーターがあるのはありがたい」と話した安東さんだが、それは「エンジンがどのくらい回っているか、常に把握していたいから」との理由から。ステアリングを握ると、「パドル(指でシフトチェンジできるパドルシフトという装置のこと)は付いてて欲しいなー!」とのこだわりも見せていた。

「標準でタコメーター」に安東さんは好感を持った(画像提供:トヨタ自動車)

走り出すと、「走り味には好感が持てる。MTが出るという話なので(8月2日に発売、試乗したのは7月初旬)、そこは期待したい」と楽しげな様子に。「ステアリングの応答性を含め、今までのカローラのイメージを完全に覆した。全く別のクルマ」というのが運転してみての印象だ。

このグレードで標準装備となる「スポーツシート」は、トヨタが出来栄えに自信を示すフロントシートだ。クルマの乗り心地については、途中休憩があったとしても、続けて「1,000キロ運転できるかどうか」だという独特の評価基準を持つ安東さんだが、このシートについては「座面が少し短いかな」としつつも、おおむね高評価だった。「フットレストも、いい位置にある」ので、「これなら疲れないかも」との感触を得たそうだ。トヨタはカローラ スポーツの開発にあたり、走りの面では「ずっと走っていたくなるような気持ちよさ」を目指したというが、その部分を安東さんも感じ取ったようだ。

「始めてカローラを格好いいと思った」

次に乗った1.2Lのダウンサイジングターボについては、パドルシフトでギアを変えても「あまりメリハリがない」と話していたが、走行モードを「SPORTモード」に変更して以降は「パドルに対するリニアな反応が出てきた」と印象が変わった様子。「HVより運転は楽しいが、願わくばCVTは『デュアルクラッチ』(ポルシェなどのスポーツカーブランドが採用するトランスミッション)にしてくれないかな」と独特の願いも口にしていた。

試乗の最中、同じく試乗中のカローラ スポーツとすれ違った際には、「純粋に格好いい。ヘッドランプの形とか」「生まれて初めてカローラを格好いいと思った」との言葉も。エクステリアカラーとしては「紺色」(ブラッキッシュアゲハガラスフレークという名称)が気に入ったという。

安東さんも気に入ったという「カローラ スポーツ」の外観

“若者のクルマ離れ”について安東さんの見解は

安東さんには好印象だった様子のカローラ スポーツ。このクルマでトヨタが狙うのは、カローラユーザーの若返りだ。

カローラはユーザーの平均年齢が60歳を超えるクルマになっていて、トヨタは今回の刷新で若い世代の取り込みを狙っている。セダンとワゴンに先行させる形で、新しく採用したボディタイプであるハッチバックのカローラ スポーツを発売したのも、トヨタがターゲットユーザーと位置づける「新世代ベーシック層」、つまりは20~30代の顧客にアピールしたいとの考えからだ。この目論見を安東さんはどう見たのか。

「(クルマに何を求めるかといえば)僕は『魔法の絨毯』、つまりは好きな時間に、好きな場所に連れて行ってくれるところ、それに尽きると思っていて、若い人もそういうツールがあったら嬉しいというのは変わらないと思います。だけど、若い人は『買えねーじゃん』と」。これが安東さんが想像する若者の本音だ。「スマホとか、他にお金の掛かるものがある」から、クルマのローンにお金を回す余裕がないのでは、と見る。

若者がクルマを欲しくても買えないのだとすれば、自動車メーカーはどんなクルマを作るかと同時に、どうしたら買ってもらえるような状況を作り出せるかにも知恵を絞らなくてはならないだろう

「僕らが20代前半の頃って、クルマくらいしかお金を掛けるところがなかった。今はスマホでデバイス代を払って、ゲームもやったりすると月々3万円とか。クルマのローン分がスマホ代に消える。そしたらクルマは買えない」。つまり、若者がクルマを買わない理由は、「単純に買えない」からだと安東さんは考える。「魔法の絨毯というクルマの良さはいまだに響くはず」だし、「タダならポルシェだって乗りたいだろう」とは思うが、「現実問題として、税金や駐車場代を含め買えない。維持できない」のが問題だというのだ。

「クルマを安くするしかないけど、それができないとしたら、税金を下げるとか超低金利ローンを設定する、自動車税は35歳未満は免除にする、それくらいしなければ若い人はクルマ、ましてや新車なんて買えませんよ」

“こみこみ300万円”で購入検討リストに

確かに、最初に試乗した「HYBRID G“Z”」というグレードは、車体価格こそ268万9,200円(税込み)だったものの、シートヒーター、ドライブモードをセレクトできる機能、販売店オプションのナビ(9インチ)などを含めると、総額は357万7,133円に達していた。後に乗ったガソリンエンジン車もオプション込みで280万円前後はする。全体としてクルマが高くなっている感じがしていたが、“大衆車”カローラの価格を見て、改めて実感は深まった。

クルマのオプションは、モノにもよるが結構な価格になる

とはいえ、ポルシェ「911 カレラ 4S」、ジャガー「F-PACE」に続く3台目のクルマを真剣に選んでいる最中の安東さんは、カローラ スポーツのMT車に「ちょっと、購入リストに上がるレベル」の期待を抱いたとのことだ。3台目候補はMINI(ミニ)「クラブマン」とマツダ「アテンザ」の2台に絞られたかに見えたが、ここへきて伏兵が登場した。

オプションを含めた価格で、クラブマンが600万円程度、アテンザが500万円程度というリストに、カローラ スポーツのMT車が全部込みで(おそらく)300万円くらいで加わるとなれば、悩む気持ちも分かるというものだ。「あの色(紺色)でターボエンジンなら考える。後は実用燃費がどのくらいか。かなり気持ちいいクルマだ」というのが試乗会の後に聞いた安東さんの感想。そんなクルマであっただけに、試乗後のエンジニアとの話もかなり盛り上がった。その模様は本連載の第4回でお伝えしたい。

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サマータイムに賛否両論、何が良くて何が駄目なのか

サマータイムに賛否両論、何が良くて何が駄目なのか

2018.08.20

東京オリパラの暑さ対策にサマータイム

賛否はあるが、ITの側面から巨大リスク

場当たり的な対策でなく、慎重な判断を

2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会の暑さ対策として、夏期に限って時間を早めるサマータイム(夏時間)の導入を検討するとの報道が、各所を賑わせている。背景には今夏の異常とも言える酷暑を踏まえた、野外競技選手の体調を配慮する狙いがあるものの、その意見は政府内でも統一されていない。菅義偉官房長官は2018年8月6日の記者会見で「国民の日常生活に影響が生じる」と発言したとの報道もあり、その先行きは不明確だ。

ところで、過去に日本はサマータイムを導入した経緯がある。それはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本の占領施策を実施した期間の一部にあたる、1948年(昭和23年)から1952年(昭和27年)の5年間だ。当時を振り返った多数の報道記事によれば、労働時間の長期化や、睡眠不足に代表される体調への悪影響を訴える国民の意見を鑑みて、結局は廃止に至ったという。

その後も地球温暖化対策を背景に、1995年頃から国会議員による法案提出が何度か検討されたが、政局などの事情が折り重なり、導入検討は見送られてきた。つまり、オリンピック開催のタイミングでサマータイム導入の話が出てくるのは突発的なものではなく、導入賛成派の意見が再び表に出てきたものだと筆者は愚見する。

ITの側面でみるサマータイム

多くの日本人はサマータイムに馴染みがないので、導入している米国を例に説明すると、3月第2日曜日午前2時から11月第1日曜日午前2時までがサマータイム期間。この時期は午前2時に1時間の時刻繰り下げが発生し、午前1時59分の次は午前3時となる。期間終了後は午前1時59分の次が午前1時となる仕組みだ。

ヨーロッパも導入国が多く、高緯度の国で貴重な日照時間を有効活用したり、省エネへの貢献などのメリットがあるとされていた。もっとも、欧州連合(EU)ではつい最近、健康への悪影響があるという研究結果や、思ったほど省エネではなかったという指摘が相次いだことから、見直しの検討に入ったそうだ。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案しているとされるのは、2019年および2020年6~8月の2年間限定で2時間の時刻繰り下げを行うというもの。恒久化したいという意見もあるそうだ。どのような導入形式になるのか不明なものの、暑さ対策という意味合いを考えれば早朝に時刻を繰り下げる可能性が高い。つまり今まで午前7時に起床していた人は午前5時に起床することになる。

なお、NHKが2018年8月に実施した「2018年8月政治意識月例調査(pdf)」では、「東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策として(中略)サマータイムを導入することに賛成ですか(以下略)」との設問に、51.1%が賛成と回答している。

もちろんGHQ時代のサマータイムを実体験したわけではないので、軽々なことを述べられないが、少なくともITの側面から考えれば、あまりにも負担が大きく、賛成しがたい部分がある。例えば環境省が1999年5月に取りまとめた「地球環境と夏時間を考える国民会議報告書」によれば、コンピューターの改修や信号機などの対応コストは約1,000億円におよぶと試算を出している。

個人に身近なパソコンであっても、例えばWindows 10はサマータイムに対応しているが、Excelは未対応。中堅中小企業などにワークシートで時間ごとの売り上げをまとめている場合、サマータイム導入時はdate関数に計算式を加えるなどの対策が必要だ。

また、日本はこれまでサマータイムを考慮する必要がないため、開発者はUTC(世界協定時刻)とローカル時刻の相互間変換を行わず、そのままローカル時刻を用いるケースが多いだろう。この改修に要する時間は短時間ながらも、過去に納品したソフトウェアのコードすべてを確認のため洗い直す手間は、想像したくもない。

そして、単なるソフトウェアなら再納品が可能ながらも、IoTデバイスなどハードウェアレベルでサマータイム未対応というケースがあれば、そのコストはさらに跳ね上がる。新しいものを生み出す可能性の低い、ただ受発注だけが増える事業に、これほど大きな社会的コストをかけてよいものかと不安になってしまう。

加えて2019年4月30に天皇陛下は退位礼正殿の儀に臨まれ、翌5月1日には元号が変わる予定だ。他にも消費税10%アップや軽減税率の対応など、ITの現場は既に負担増で余裕など存在しない。ただでさえIT界隈では開発者不足が叫ばれる昨今、新たにサマータイム導入を強いる場合、プロジェクトの遅延や停滞など、あの「Y2K(2000年)問題」を上回る混乱を起こしかねない。

場当たり的な暑さ対策に留まっていないか

確かに今年の酷暑は異常であり、あの最中に競技を実施するのは現実的ではない。だが、筆者の目に東京オリンピック・パラリンピックは、場当たり的な対応を重ねてきたように映る。新国立競技場の設計はもちろん、招致時に掲げた内容も曖昧だ。

当時、東京都知事・招致委員会会長だった猪瀬直樹氏は、「東京が擁するインフラを提供する。輸送面も交通網がすでに整備されており、確実な能力を有している」と述べていたが、築地市場移転が遅延したことで、環状2号線の全通は2022年度に見送られた。

このように機転を利かせたように見えて、先々を見通せない結果を目の当たりにすると、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案するサマータイム導入も、同じ結果になるのではと思えてしまう。

これまでサマータイムを導入していたロシアは2011年、中国は1992年、台湾は1979年に廃止している。我が日本は東京オリンピック・パラリンピック実施のために、来年2019年からのサマータイム導入を検討しているが、この短期間で環境を整備するのは事実上不可能だ。慎重な判断を強く望みたい。