稀だからこそ価値がある…ロールス・ロイス「ファントム」の美学

稀だからこそ価値がある…ロールス・ロイス「ファントム」の美学

2018.01.24

ロールス・ロイス・モーター・カーズが最上級モデル「ファントム」をフルモデルチェンジする。1925年のデビューから数えて8代目となる今回のファントムは、単なるクルマではなく、ラグジュアリーの世界に新たなベンチマークを設定する存在とロールス・ロイスは位置づける。同社が「世界最高のクルマ」と呼んではばからない新型ファントムは、どんなクルマなのか。そして、日本ではどのくらい売れるものなのだろうか。

ロールス・ロイスがデザイン、開発、テストに8年をかけた新型「ファントム」。日本でのお披露目は1月22日、雪の東京国立博物館・法隆寺宝物殿で行われた

多くの著名人が乗った「ファントム」が8代目に

「ファントム」は欧州で耐久レースを総なめにした「シルヴァーゴースト」の後継として1925年に誕生したロールス・ロイスの最上級モデル。歴代モデルの所有者には、フレッド・アステアやジョン・レノンなどの著名人が名を連ねる。

ジョン・レノンが所有したというサイケデリックな5代目「ファントム」

今回、14年ぶりのフルモデルチェンジを受けた8代目ファントムは、今後のロールス・ロイスの全モデルで基礎となる新しいアーキテクチャーを採用している。ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋でプロダクト・マネージャーを務めるスヴェン・グルンワルド氏によると、新型ファントムの剛性は先代モデルから全体で30%、部分的には100%も向上。新しいエアサスペンションや大型化したエアスプリングの効果もあり、その「マジック・カーペット・ライド」(魔法のじゅうたんのような乗り心地)は完成度を増したという。

グルンワルド氏が「疑いなく世界で最も静かなクルマ」と断言する新型「ファントム」。ガラス張りのインパネ(写真右)はアート作品などを用いたカスタマイズが可能だ。ロールス・ロイスはこのクルマを「動く美術館」とも表現する

130キロ以上の遮音材を採用

ロールス・ロイスの代名詞でもある静粛性については、時速100キロの騒音レベルで先代から10%の向上を達成した。採用する遮音材の総重量は130キロを超える。6.75リッターV型12気筒ツインターボエンジンも静けさにこだわって開発。装着するタイヤについても、サプライヤーに180ものプロトタイプを作らせてノイズの少ないものを選んだそうだ。

ロールス・ロイスの車名である「ファントム」(Phantom、意味は『幻影』など)、「ゴースト」(Ghostは『幽霊』などの意味、画像左)、「レイス」(Wraith、これも『幽霊』など)、「ドーン」(Dawnは『夜明け』という意味、画像右)に通低する概念は“静けさ”だ

新型ファントムの価格は5,460万円から。ロールス・ロイスにとって日本市場は世界で5番目に大きく、アジアに限って言えば中国に次ぐ2位の規模を持つ重要市場だが、新型ファントムはどのくらい売れるものなのだろうか。

日本では5年で倍増のロールス・ロイス

ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋のジェネラル・マネージャーであるパトリック・ヴィーク氏によると、日本ではロールス・ロイスの納車台数がここ5年で倍増しているとのこと。日本自動車輸入組合(JAIA)の統計「車名別輸入車新規登録台数の推移(暦年)」を確認すると、2012年に90台だったロールス・ロイスの新規登録台数は2017年に225台まで増えている。

パトリック・ヴィーク氏(左)とスヴェン・グルンワルド氏

新型ファントムについても多くの注文を獲得できているとヴィーク氏は話していたが、詳細な予約数を聞くと「quite good order」(かなりいい感じ)として明言を避けた。ただ、2015年から2017年までの間に、ロールス・ロイスが日本国内で3カ所(名古屋、福岡、広島)の販売店を増やし、ディーラーネットワークを東京、大阪、横浜の3カ所体制から倍増させたところから考えても、ヴィーク氏が「quite confident」(自信あり)と語る背景には確かな手応えがあるようだ。

予約数の詳細は聞けなかったのだが、規模感だけでも知りたいと思ったので、ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋 北部地域で広報マネージャーを務めるローズマリー・ミッチェル氏にも、「数十台なのか、数百台なのか」と聞いてみた。ミッチェル氏も数字の詳細を明かすことは避けたが、「数百台」という数字に「突拍子もない」といった様子で少し苦笑したところから考えると、推測だが新型ファントムの予約台数は十数台から数十台といった規模なのだろう。

新型「ファントム」の予約数は数十台規模?

台数の少なさがプラスに働く珍しいクルマ

ミッチェル氏によれば、日本におけるロールス・ロイスの販売台数のうち、最も高価なファントムが占める割合は基本的に1割程度で、多くて2割に届くか届かないかくらいのボリュームだという。印象的だったのは、ファントムの台数についてミッチェル氏が口にした「そうあるべき」という言葉。時々は見かけるレベルではなく、滅多に見かけないクルマであることもファントムの価値というわけだ。新型の反響については、「ずっと(ファントムを)乗り継いでいる人もいるし、14年ぶりのモデルチェンジで待っているお客様も多い」とのことで、好感触を得ている様子だった。

大物芸人で映画監督の某氏もそうだと本で読んだことがあるが、ロールス・ロイスを乗り継いでいる人は日本にも一定数いるらしい

ロールス・ロイスは2018年の夏頃、同社が「Project Cullinan」(カリナン)と呼んで開発を進める新型SUVを世界に向けて発表する予定。このクルマの登場で、ファントムを頂点とするロールス・ロイスの商品ラインアップは一応の完成を見る。昨今のSUVブームが追い風になったとしても、カリナンが爆発的な売れ行きをみせるとは思えないが、街でSUVを見かける機会がますます増えていく中、カリナンもロールス・ロイスらしい希少価値で独特の存在感を放つクルマとなりそうだ。

樋口泰行が考える「パナソニック、次の100年」

樋口泰行が考える「パナソニック、次の100年」

2018.01.23

パナソニック コネクテッドソリューションズ社の社長である樋口泰行氏へのインタビュー、後編のテーマは「100年後のパナソニック」だ。

パナソニックは2018年3月に創業100周年を迎える。日本ヒューレット・パッカードとダイエー、そして日本マイクロソフトと、トップを歴任した樋口氏がパナソニックに「戻ってきた」のも、創業100周年を迎えたパナソニックの今後と無関係ではない。樋口氏の考える「これからのパナソニック像」とは、どんなものなのだろうか。

パナソニック 代表取締役 専務執行役員 兼 パナソニック コネクティッドソリューションズ社 社長 樋口 泰行氏

【特集】変わる、パナソニック。

2017年4月、前日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏がパナソニックに舞い戻った。彼が担当するのはB2B領域のパナソニック コネクティッドソリューションズ。顧客の要望に合わせた製品づくりを得意としていた同社のB2B部隊だが、時代の変化から、もはや「ただの下請け」では生き残ることは出来ない。「どうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけない」と話す樋口氏の覚悟、そして変わりゆくB2B部隊の今を追った。

次の100年のために改革を断行

「2018年、パナソニックは創業100周年です。しかしこのままでは、次の100年は厳しい」

樋口氏の言葉は厳しい。

前編で触れたように、パナソニックは「真のB2Bシフト」を目指した構造改革中だ。その構造改革を断行しないと、パナソニックは次の100年を越える企業になれないと樋口氏は考える。

パナソニックがこれからビジネスの主軸に据えようとしているのはB2Bビジネス、それも、顧客に対して課題解決の手段を提供する「ソリューションビジネス」である。これまでのパナソニックは、企業や個人に対して「より良い製品・技術を提供する」ことで差別化してきた。

だが、ソリューションビジネスになると、提供すべきは単なる技術や部品ではなく、それらを使ってどう課題を解決するのか、という部分になる。思考方法もビジネス手法も、当然変わらざるを得ない。

「ソリューションビジネスでは、難しさがグンと上がります。やはり、ソリューションビジネスをやった経験がないと難しい部分があります。既存の『製品主体の事業部』が強い体制では新しいトライアルがやりづらく、難しい。ソリューションビジネスへの転換は、過去にIBMも直面しました。彼らですら、ハードからソフトへの転換は難しいことでした。IBMは『同じ人員では改革できない』として人を多く入れ替え、企業体質を変えました。しかし、日本は同じ手法が取れない環境にある。そこでどうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけません」(樋口氏)

そのような環境で断行できる改革とは何か。樋口氏は、担当するコネクティッドソリューションズ社を本社のある大阪・門真市から東京へと移転し、個人の席を自由に決められる「フリーアドレス/フレックスシーティング」を導入した。

「まずは顧客接点を増やさなくてはならない。そのためには、顧客から遠い門真に居ても何もできません。顧客の近くにいて、温度を感じないとできないことが多いのです。ですから、なるべく顧客の近くに行こう……というのが、拠点を東京へと移した理由です。これが第一歩ですね。これは一般論ですが、東京から離れるとさまざまなベンチマーキングが難しくなります。コンプライアンスにしてもダイバーシティにしても。企業を近代化していく点で遅れる。そういうところがあります」(樋口氏)

樋口氏は大学卒業と同時に松下電器産業(当時)へ入社し、1992年に同社を離れた。25年ぶりのパナソニックとなるが、いわゆる"浦島太郎感"は「まったくなかった」という。初日から「馴染んでしまった」と樋口氏は話すが、その真意は「良いことばかりではない」という裏返しだ。

「持続可能な企業になっていくためには、体質の改善が必要です。社員一人ひとりが自ら動けるようにならないとダメです。パナソニックには27万人も社員がいるのに、新しい戦略を考える時には外部のコンサルタントに依頼する。そしてその戦略をなかなか実行できないケースが多い。まずは外の世界の景色を見て、何をアップデートしないといけないのか、自らが感度よく動かないといけません。純粋培養で、上司の言うことに従って仕事をする、という形だけでは、自律的な思考がなくなっていきます。もっと多様性を理解し、"やわらか頭"で考える必要がある。時間で働くのではなく、上司の考えで働くのでもない。そのためにまずは『働き方改革』をドライブしていかないといけないんです。それを前提として初めて『では、どんな立ち位置が望ましいのか』といった戦略を考えて、手を打てるようになるはずです」(樋口氏)

樋口氏の下では、ソリューションビジネスの経験がある「パナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)」のメンバーを中心に、B2Bビジネス体制、そして意識の改革も進められている。「この8カ月で何年か分の変化は訪れたのではないか」(樋口氏)とはいうものの、業績的にソリューションビジネスが占めるパイはまだ大きくはない。

これをいかに育て、大きくしていくかが、これからの100年に繋がる大きなテーマだ。ソリューションビジネスの比率が高まってこそ、樋口氏が請われた最大の理由「真のB2B改革」の成果といえる。では、その実現にどれほどの時間がかかるのか?

樋口氏も、決して楽観はしていない。

「10年~15年はかかると思います。ヨーロッパ系・アメリカ系の企業を見ても、体制のトランスフォーメーションにはそのくらいかかっています。ここで大事なことは『私自身がこの先の10年間、そこに関わり続けることはできないだろう』ということです。やる人が変わっても、次の人が『この改革は正しい』と、信念をもって続けることが大切なんです。場合によってはトランスフォーメーションは財務的な数字だけを見ていても効果がわからない場合があります。しかし、ビジネスの勘が働く人であれば『実行して良かった』と理解してくれるはずです。短期的な利益だけを追求してしまうと、次の世代に会社を良い体質の状態で渡すことができなくなります。今は高度成長期とは違います。右肩上がりではないし、メガトン級プレイヤーもいない。そんな中でどう立ち位置を確保するのか、かなり戦略的に考えないといけません」

IT企業が世の中の主導権を握りつつある中、いくらパナソニックとて舵取りが難しい時代と言える。

「昔は比較的シンプルな戦略でよかったわけですが、今はそうではありません。私はパナソニックの外で25年の経験を積み、曲がりなりにも『戦略的に考えること』を学んできました。当社に『戦略的に考える』礎を作れたらな、と思います。これはパナソニックだけの話ではなく、日本全体で見てもそうです。政府主導でさまざまな業界の再編が行われ、いよいよダメになってから清算する、ということの連続でしたから。電機業界においても、他の家電メーカーでも、パナソニックでも同じことが起きました。パナソニックが生き残れたのは比較的に財務的に強かったというだけ。これに甘んじていてはいけませんし、さらに体質を改善していく必要があるということを、自分たちで考えていかなくてはなりません」(樋口氏)

ドミノ・ピザ、20分配達「ミッション 20 ミニッツ」を実現できたワケ

ドミノ・ピザ、20分配達「ミッション 20 ミニッツ」を実現できたワケ

2018.01.22

ドミノ・ピザ・ジャパンは新たな配送サービス「ミッション 20 ミニッツ」の提供を全店舗で開始した。注文からデリバリーを20分で実現するこのサービスは、宅配ピザ業界に一石を投じることになるかもしれない。

20分デリバリーは差別化につながるか

様々な取組みで実現したサービス

「ミッション20 ミニッツ」は、追加料金200円で20分配達を実現するオプションサービス(追加料金300円で15分配達を実現するサービスも)。ネット経由での注文に限られ、20分配達を実現できなかった場合には、Mサイズピザ1枚無料クーポンをメールで進呈するというものだ。

20分プレミアムサービスを提供。カウント開始は予約注文確定時、配達終了は配達車両が配達先から半径100メートル圏内に到達、エンジンが切れたと確認できた時刻から30秒後の時点になる

サービスの実現に向けて、同社は様々な取り組みを行なってきた。ひとつは3分オーブンの開発だ。約2年の試行錯誤を経て、加熱力をアップさせたり。熱風の当て方に工夫を凝らすなどして従来の5分オーブンから2分短縮させた。

サービス実現に向けた取り組み

ピザ作りの時間を短縮するために人材育成も進めた。さらに、Eバイクの活用やオリジナルのGPS配送システム「GPS DRIVER TRACKER」の活用を進め、効率的なデリバリーオペレーションやスケジュールの組成も可能になった。

こうした一連の取組みにより、20分配達サービスを実現したのだ。そこまでには多大な苦労があったと思われるが、ビジネス的な見方からも理に適った取り組みといえる。

人材育成により業務効率が大きく向上し、オプション料金も得られる。配達時間を短縮することで、ピザの味も落とさずに食べてもらえるようになる。売上、味、2つの側面からどちらもプラスになるのだ。

また、横並びにも見える他のピザチェーンとの差別化という点でも大きなアドバンテージとなりそうだ。他社の追随に関しても、配達システムに独自のアルゴリズムを採用するなど、「簡単にはマネできない」(ドミノ・ピザ・ジャパン広報担当)と見ている。

課題は消費者にどう受け取られるかだろう。そもそも追加料金を払ってまで10分短縮したいと思う利用者がどれだけいるのか。また、交通状況や配達状況などの諸条件が整った場合に利用可能となっており、どのタイミングで利用できるのかが明確にはなっていない。ピーク時を外してしまえば、支持され続けるサービスになるのかどうかはわからない。これから次第と言えそうだ。