アドビが気仙沼で中高生に「デザイン」を教えた深い理由

アドビが気仙沼で中高生に「デザイン」を教えた深い理由

2018.01.25

子供たちに、情報化やグローバル化など急激な社会的変化の中でも、未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に備えることのできる学校教育を実現する――。2017年3月に改定された学習指導要領の一文だが、この文章が意味するところは何か。

生徒自身が主体性を持ちつつ協調性を持って深い学習を行うアクティブ・ラーニング、あるいは2020年から必修化されるプログラミング教育を指すものと読めるが、アドビ システムズ デジタルメディア ビジネス本部 教育市場営業部 担当部長の楠籐 倫太郎氏は「未来の創り手とは、(付加)価値を産む人。今までになかった価値を生み出す人間が、AIの進化やグローバル化による仕事を奪われる時代において、次に何を成すか描いていける」と語る。

アドビ システムズ デジタルメディア ビジネス本部 教育市場営業部 担当部長 楠籐 倫太郎氏

日本人は創造性がない?

人のルーチンワークをAIに置き換えることは、「仕事が奪われる」と言うよりも「無駄な作業を効率化させる」という言葉が正しい。

かつて人が飛脚で運んでいた郵便が自動車に置き換えられ、現代ではEメールへと移り変わったように、人々はその過程を受け入れてきた。むしろ今、「飛脚」を求める人間がいないように、AIに置き換えられる作業はいずれ「誰もやりたがらない仕事」になるはずだ。そうした時代において、どういう人材を作り出すのか。それが、次期学習指導要領の本質であり、アクティブ・ラーニングやプログラミング教育はあくまで「手段」でしかないことがわかる。

その「未来の創り手」を多く輩出する上で、日本は課題を抱える。例えば、アドビが2016、2017年に調査した「Gen Z in the Classroom : Creating the Future」では、Z世代(中学、高校の6学年)が「創造性」に対してネガティブな印象を抱いている。他国では、自分自身を「創造的」と評価している割合が、アメリカでは47%、オーストラリアも46%、ドイツが44%、イギリスが37%であるのに対して、日本ではわずか8%にとどまっている。

また、社会人になった後の将来についても、他国では「ワクワクした気持ち」「自信のある気持ち」がおおよそ半数を占める中、日本は「不安な気持ち」が圧倒的に多い53%と、ある意味で日本人らしい悲観的な感情を強く抱いている。しかしこれらはあくまで自己評価であって、楠籐氏は他国と比較して能力そのものが劣っているというわけではないと話す。

ではどのように彼らを「未来の創り手」へと変貌させるのか。楠籐氏は、「自らの手で課題を解決する『体験』と、新たな進路を発見する『自信』」が鍵になると言う。

地方の課題解決をデザインの力で

アドビは地域課題の解決や地方創生を「デザインの力」で解決することを目的としたコミュニティ・イベント「Adobe Design Jimoto」を2年前にスタート。これまで福岡と渋谷、奈良、千葉と都市圏を中心に行ってきたが、今回は宮城県・気仙沼市でイベントを開催した。

宮城県気仙沼市の唐桑中学校で行われたAdobe Design Jimoto

今回は「気仙沼のオリジナルパッケージをつくろう」という題目で、宮城出身のクリエイターと気仙沼の唐桑中学校2年生の41名がチームを組み、ともにショッピングバッグや封筒といった地域の共通デザイン作りを行った。主催するNext Switchの代表 鈴木 歩さんは、「震災以降、地域の価値を改めて考える活動が増えている。その上で、どう地域を(外に)伝えていくかも大切な課題であり、解決していきたい」と語る。

アドビの最新アプリ「Capture」では、手書きの絵をデジタルデータとして取り込める。子供たちの発想力をデジタルに応用できるもので、唐桑中の生徒も楽しんで授業を行っていた

このイベントは、アドビのデザインに対する啓蒙活動、およびその活動を通して同社のデザインツールの認知拡大を図る意義がある一方、"地元"の価値を自分たちで認識し、その認識をどう対外発信していくかという「課題解決の体験」をさせるものだ。震災から7年が経とうとする今、気仙沼に限らず「被災地」という認識が薄れつつある。しかし、取材で同地を訪れた限りでは、仮設施設や更地も多く、「復興した」とは到底言えない状況が見て取れる。

だからこそ、同中学の校長 高野 勝則氏も「プロのデザイナーにデザインを学べる機会はなかなかない。教えてもらったことを将来に活かしてほしいし、もう一つ、この授業でみんなは『人は、人を幸せにする力がある』と学んだ。授業に参加した大人から貰ったそのパワーを気仙沼のため、被災地の様子を発信してほしい。学んだことは無駄にならないし、色んな所に発信して、唐桑を知ってもらおう」と話す。

アドビと言えばPhotoshopに代表されるプロデザインツールの老舗。創業から35年、日本でも30年近い歴史を持ち、デジタル時代のクリエイティビティの在り方をリードしてきた。一方で、プロフェッショナルツールと見られることで、これまで幅広いユーザー層を持つというよりも、美術を専攻する、あるいはWeb関連事業に携わる人間にしか利用されてこなかった。

しかし、楠藤氏は「未来の創り手」となるために、クリエイティビティへの意識を高めることが必要と説く。ポジショントークにも見えるが、例えばゴールドマン・サックスは600人ものトレーダー専門職をレイオフし、AIアルゴリズムと運用者2名による運用に切り替えた。ホワイトカラーの高度人材でさえAIに取って代わられる時代なのだ。

「メガバンクの人員削減報道もそうだし、実際アドビでもバックオフィス業務はアウトソーシングしており、社員はいない。経理部門でさえ日本法人にはおらず、インドで一括管理している。簿記を覚えても将来は仕事が出来ない。知識を積み重ねるだけの領域はAIにどんどん取って代わられる時代、クリエイティビティを持って価値を生み出す人間が必要とされる」(楠籐氏)

そうした価値を生み出す人間は、何も大人だけでなく、子供たちでも世の中に発信できるようになった。日本の中学3年生のYouTuber「Ntrobotics」は、自らの手で猫の餌やりを遠隔で行う「Pet Feeder」を製作。IoTデバイスを作るだけでなく、3Dデータの公開やそれを英語で発信するところまでトータルで行っている。

「人の能力は掛け算。彼はプログラミングと英語コミュニケーション、ものづくり、クリエイティブを併せ持ったことで、それぞれの領域で100人中1番であったとしても、それは1億人に1人の人材になれたということ。そして、そういう道があるんだということを知らなければ、ほかの子供たちも1億人に1人の人材になれる"経験"ができない」(楠籐氏)

デザインの力で大学合格、道を切り開いた高校生

前述のとおり、日本の子供たちは自分たちを「創造的」と捉えていないものの、それは彼らが創造性を発揮するための道筋を知らないから。その道筋を知ることが出来れば十分に世界と戦えると楠籐氏は話す。実際、過去にDesign Jimotoで地域課題の解決に取り組んだ奈良県の事例では、高校生が道を切り開いた。

奈良県の日本庭園「依水園」では、景観保護のために立て看板を設置できず、四季折々の情景の変化を楽しめる魅力も、コンテンツ制作に多額のコストがかかるため伝えきれなかった。それを高校生がARアプリの制作で解消したというものだ。もちろん、一流クリエイターに任せればこうした課題解決は簡単に解決できるだろう。

しかし、これを高校生が自分たちでデザイン案、コンテンツ編集までほとんどをこなし、デジタルツールの使い方まで完璧に覚えた。さらに「自分の感覚で作ったらオシャレだけど、使い勝手が悪かった。見やすさ、使いやすさを色んな人に試してもらい、作り変えた」というUI/UXの完成度を高めるところまで、真剣に取り組んだのだ。

この話には後日談がある。プログラムに取り組んだ高校生の一人はもともと、就職か専門学校への進学を考えていた。しかし、デザインの楽しさに触れたこと、そしてこの取り組みで得た「体験」と「自信」によって関西の偏差値上位の大学をAOで受験、見事に合格したのだ。

「日本の子供たちは自己肯定感が低いだけで、課題を解決するための体験、そして新たな進路の発見ができれば、この例のように道を拓ける成果に繋がると思っている。現状は明らかに最初の『体験』が少ない。だけど、デジタル社会全盛の中で、体験の閾値は低くなっている。まずは体験してもらって、未来へ繋がる、未来を創ってみるということを考えてほしい」(楠籐氏)

日本をゲーム・チェンジさせたい

企業として、子供たちへの啓蒙活動は直接マネタイズに繋げるのは難しい。楠籐氏も「会社には未来のユーザーを創るための施策」と話す。ただそれは、デジタル時代は企業の栄枯盛衰が顕著になる中で「アドビとしてはまだ余裕があるからこそ、ここに投資しなければという思いがある」(楠籐氏)。

それは、翻って自身が日本人として日本に対する危機感もあってのことだという。

「私たちアドビの日本法人は、ほかの多くのIT企業と異なりAPAC(アジア太平洋地域)傘下の組織ではなく、独立した日本法人です。以前は(リージョン別で)圧倒的なNo.2の売上でしたが、今はUKと争っている状況。日本市場を伸ばすために、という思いもありますし、日本のクリエイティブを活性化させるために、5年後、10年後を考えて人材を作り出す、いわば『ゲーム・チェンジ』のための投資なんです」(楠籐氏)

また、楠籐氏はアジア各国の急激な成長によって、日本がもはや圧倒的な先進国ではなく、埋没しかねないという危機感も持っていると語る。

「タイ・バンコクに限って言えば平均所得は日本円で400万円と日本と変わらない状況。そういったものの平準化は、下に引っ張られてしまい、上へ伸ばすことが難しくなる。地方の課題解決が必要となるのはそういうことで、いかに水準を引き上げるか。もちろん、一つひとつの活動を数万人規模まで広げるのは難しいですが、Next Switchさんなど、地域課題の解決を目指すパートナーとともに、エコシステム化して活動を広げられれば」(楠籐氏)

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。