鉄道会社において「磁気式プリペイドカード」が果たした大きな役割

鉄道会社において「磁気式プリペイドカード」が果たした大きな役割

2018.01.26

ここのところ、関西では「○○カードの利用終了」、関東では「パスネット払い戻し終了」というお知らせが、私鉄・公営交通の各駅で目立つ。

以前、鉄道を利用する際にはお馴染みだった、磁気式プリペイドカードを直接、自動改札機に投入して乗車できるシステムが、いよいよ終わりを迎える告知である。

関西の「スルッとKANSAI」のルーツは、阪急電鉄の「ラガールスルー」サービス。自社のプリペイドカード「ラガールカード」を、きっぷに引き換えることなく、自動改札機で直接使えるサービスが1992年4月1日に導入された時に始まる。同種のサービスはすぐに私鉄、公営交通、バス各社へと広まり、カードの共通使用も可能となった。「スルッとKANSAI」という共通名称による運用は、1996年3月20日からである。

スルッとKANSAI対応カードの利用終了と払い戻しのお知らせ

すでにスルッとKANSAI対応カードの発売は2017年3月31日限りで終了。そして、自動改札機やバスの運賃箱への直接投入による利用も、2018年1月31日限りで終了する。使用されなかった残額については、今後、カードの発売会社にて、期間を区切って無手数料での払い戻しが行われる。

一方、関東では1991年にJR東日本が「イオカード」を導入した。これは日本で初めて、磁気式プリペイドカードを直接、自動改札機へ投入し、乗車できるサービスであった。パスネットのシステムは、このイオカードを基本に開発されている。

寿命が短かったパスネット

パスネットは、2000年10月14日に加盟各社で一斉に導入された。ただしJR東日本は加盟しなかった。 そして、その寿命は短く、2008年3月14日には、ほとんどすべての会社で自動改札機への直接投入による使用を終了。その後、自動券売機での利用やICカード「PASMO」への残額引き継ぎはできたが、これも2015年3月31日まで。そして、2018年1月31日限りで発行会社での無手数料払い戻しも終了し、完全に使命を終える。

左:磁気式プリペイドカードを使う「パスネット」は、2018年1月末限りで、完全にその歴史を閉じる。右:パスネット加盟各社で発売された、共通デザインのカード

鉄道が磁気式プリペイドカードを導入したことにより、もっとも大きく変わった点は、駅における利用客の流れであろう。

関東や関西では自動券売機の台数が必要最小限にまで減らされた駅が目立つ

それまでは、運賃表で目的地までの運賃を確認し、自動券売機できっぷを現金で購入してから、鉄道を利用するのが当たり前であった。しかし、磁気式プリペイドカードをあらかじめ購入しておけば、乗車前の手間はほぼ皆無になり、利用客はダイレクトに改札口へ向かえるようになったのだ。この人の流れは、ICカード時代となった現在へと引き継がれている。

当然ながら自動券売機の利用頻度が減り、台数を減らすことが可能になった。これは大きな設備投資、およびメンテナンスコストの削減となる。乗車券類の用紙代一つとっても、相当な節約となったであろう。

ターミナル駅で貴重なスペースを産む

捻出されたきっぷ売り場のスペースは、その多くが商業施設へと転用された

さらに自動券売機用、つまりは「きっぷ売り場」のスペースが、より小さくても済むようになった。そこで売り場を整理統合。捻出した空間を商業施設へ転用する鉄道会社が、いくつも現れた。収益のアップとコスト削減が同時に図れる、一石二鳥の経営施策として、磁気式プリペイドカード導入の効果は大きかったのだ。 特に都心のターミナル駅では、もともと自動券売機の台数が多く、もちろん利用客数も多いため、効果はよりてきめんであった。ずらりと並んだ券売機に代わり、改札外のコンコースにも大小さまざまな商店が並ぶようになった時期は、「スルッとKANSAI」や「パスネット」の普及と軌を一にしている。

ただ、スルッとKANSAIもパスネットも、その利用期間は短かった。すぐICカード時代が到来したためである。

JR東日本が「Suica」の本格的な導入を始めたのは、実はパスネットが導入された直後の2001年のこと。ICカードの開発を進めていたため、同社は二重投資を避けてパスネットには加盟しなかったのだ。関西では、JR西日本の「ICOCA」が2003年にスタートしている。

磁気式プリペイドカードにも対応する機種(左側の2台)と、ICカード専用機(右側の1台)では、形や大きさは似ていても、中の機構はまったく違う

ICカードの利点は、磁気式プリペイドカードよりはるかに多かった。まず自動改札機を簡略化できることが、大きなメリットである。従来の改札機は、きっぷであれ磁気式プリペイドカードであれ、投入口から排出口までスムーズに送り、その間に磁気を瞬時に読み取る機械的な構造が不可欠だった。当然、磨り減る部分が多くあってメンテナンスの手間がかかり、そもそも高価であった。

カード自体も再利用ができない使い切りであった。使用後に回収し、好事家への販売も行われたが、廃棄物となった割合も大きかったであろう。

だが、ICカードは微弱電波を使ってデータをやり取りするシステムであるため、扉の開閉部分以外の、機械的な構造が自動改札機から一掃された。当然、安価になり、メンテナンスコストも劇的に低減されている。

また、読み取り装置が簡便で安価になったため、駅のみならず、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなど、町中の商店への設置も可能になった。「電子マネー」としての利用は、磁気式プリペイドカードには真似ができない特長である。富山地方鉄道の「ecomyca」や高松琴平電気鉄道の「IruCa」など、磁気式プリペイドカードが導入されなかった中小私鉄へも、ICカードは普及している。

合理化・バリアフリー化の先駆としての磁気式プリペイドカード

ただ、小銭不要、運賃の確認不要、きっぷの購入も不要という利点が、心理面および手間の面での「バリアフリー化」に、多大な貢献をしたのも事実である。磁気式プリペイドカードの登場で、自動券売機に対応しづらい高齢者や子供が、公共交通機関を利用しやすくなったとも言われる。この利点は、もちろんICカードにも引き継がれた。

スルッとKANSAI対応カード発売終了後も、発売と利用が継続される「阪急 阪神 能勢 北急レールウェイカード」

磁気式プリペイドカードは完全に役割を終えたわけでもない。「元祖」の阪急電鉄と、阪神電気鉄道、能勢電鉄、北大阪急行は、スルッとKANSAI対応カードの発売が終了した後も、新しいプリペイドカード「阪急 阪神 能勢 北急レールウェイカード」の発売を継続。4社の路線に限られるが、4月1日以降も、自動改札機への直接投入による利用が可能である。長い歴史を持つがゆえ、沿線利用客の慣れもうかがえる施策である。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。