アメリカ人に珠玉の酒を“おごる”!? クラウドファンディングで日本酒の魅力を世界に広げる

アメリカ人に珠玉の酒を“おごる”!? クラウドファンディングで日本酒の魅力を世界に広げる

2016.06.29

日本酒応援団・共同代表の古原さん(左)と竹下さん(右)

料理、文化、京都に富士山、治安の良さ、そしておもてなし……と、世界に誇れる日本の“自慢”は数々ある。寿司やアニメのようにいまや世界中でもてはやされているものもあれば、一方で、古くから日本人に親しまれ、いわば日本人のDNAに深く染み込んでいるものでありながら、まだまだ世界に真の価値を知られていない“自慢”もある。その代表といえるものが、日本酒だ。

ここに、熱き想いを抱いた若者たちがいる。「日本酒を応援したい!」、その気持ちを名前に目一杯込めて、2015年7月、日本酒の魅力を国内はもちろん世界中に広く伝えるための会社を設立した。「日本酒応援団株式会社」である。

「日本酒のあるライフスタイルを世界中に」。

このコンセプトを旗印に、「日本酒が好きな人を世界中で増やし、日本酒と地元地域のさらなる発展に貢献すること」を社のミッションとしている。

日本全国を見わたせば、大量生産でどこの量販店でもお目にかかれる大きな蔵元もあれば、昔ながらの手作りを貫き細々と酒造りを続ける小さな蔵元もある。実際のところ、日本の酒蔵はかつて1万以上あったが、年々減り続けており、現在残っているのはおよそ1,500。そのうち9割以上が、後継者問題や販路拡大に日々苦心する小規模の蔵元だという。

マニア層だけでなくメジャー層にも日本酒を

2015年秋にアメリカで開催された日本酒展示会に出展。現地の人から「SAKEはこんなにおいしいものだったのか」という感動の声が続出したという

同社はそうした、“いい酒を造るのに知られていない”小さな蔵にスポットを当て、レストランへの営業や展示会への出展、ラベルのデザインやマーケティングを含めた製造・販売全般のサポートを手掛ける。さらには自らの体を通じて“造る”ところから知りたいと願う日本酒ファンに向けて、田植え体験や酒造り体験も提供している。

2015年秋にはアメリカで、今年春には香港で、日本酒展示会にも出展した。海外市場に存続の道を探る小さな蔵の背中も積極的に押している。

その同社が現在展開しているのが、日本酒の本当のおいしさをアメリカの人たちに知ってもらうことを目指して企画した「日本酒をおごる」プロジェクトだ。

アメリカは、海外における日本酒の最大の市場である。しかしながら現状では、日本酒の海外への輸出はフランスワインの100分の1程度にすぎない。同社共同代表の古原忠直さんは言う。

「アメリカで流通している日本酒の8割は現地生産、すなわちアメリカで造られた日本酒です。残りの2割も大量生産が可能な大手酒造メーカーのものがほとんど。それに、そもそもまだマニアに呑まれているだけで、日常に入り込んでいるとは言えません。私たちは日本酒の真の魅力をアメリカに広めることで、“日本酒のあるライフスタイル”を提案し、小規模ながら昔ながらの手作りにこだわり、いい酒を造り続けている蔵の海外進出をサポートしたいと考えています」。

同プロジェクトは今年10月にニューヨークとサンフランシスコでの開催を予定している新酒発表会イベントを対象に、クラウドファンディングで運営される。現在同イベントを支援するパトロン(支援者)を募集中だ。

同社のWebサイトから支援コースを購入すれば、アメリカでのイベント参加者に日本酒を振る舞うことができる。パトロン1人の支援につき1杯、これに同社が1杯をプラスし、計2杯をおごれるという仕組みだ。これはアメリカでいま流行している「マッチングギフト」のスタイルを採用した。マッチングギフトは、企業や団体が主催者となって寄付を募り、寄せられた寄付金と同じ額を主催者側もプラスすることで、計2倍の寄付を行うものだ。

今回のプロジェクトでアメリカの人たちに振る舞われる純米・無濾過生原酒「KAKEYA 2016」

目標は200万円

最近では熊本地震などの災害に対してもマッチングギフトによる支援が行われている。 支援コースは最小1,000円から。「今回は金額を低めに設定していますので、学生の方でも気軽に参加していただけます」と古原さん。3,900円以上のコースなら、パトロンにも特典として「KAKEYA」や「NOTO」といった同社が手掛ける純米・無濾過生原酒が額に応じて贈られる。8月3日までの期間に、200万円を集めるのが目標という。

彼らが考える「おごる」という感覚は、たとえばアメリカ映画によく出てくるワンシーンを思い浮かべるとイメージしやすいだろう。バーのカウンターで、身なりのいい紳士がカクテルを楽しんでいる。ふと見ると、カウンターの端にひとりの美女。紳士はバーテンダーにひと言告げる。

「これと同じものを、あの美しい女性にも1杯」。そこから会話が始まり、ストーリーがつながっていく……。

「映画のようにナンパするわけではありませんが、“おごる”という行為はコミュニケーションのアイスブレーカー、つまりスタート地点になるものだと思います」と古原さんは言う。同プロジェクトは、そうして異国の地でコミュニケーションを生むことで、日本酒の良さを広めることを目指している。

アメリカの人たちにおごる日本酒は、手作りにこだわり大量生産はしない小さな蔵が造る「純米・無濾過生原酒」。同社共同代表の竹下正彦さんによれば、火入れ処理をしない無濾過生原酒は製造方法だけでなく管理方法も含めて、蔵の技術や実力、そして酒造りに臨む緊張感がもっとも明確に表れる指標なのだそうだ。

実際に同社では、竹下さんの実家である島根県雲南市掛合町の竹下本店で製造する「KAKEYA」、石川県鳳珠郡能登町の数馬酒造で造る「NOTO」という2つのブランドの無濾過生原酒を、すでに世に送り出している。

10月にアメリカのイベントで振る舞われるのも「KAKEYA」の無濾過生原酒だ。火入れをしない生原酒は、実は海外への輸送が難しい。当然、コストもかかる。日本で味わえる最良のおいしさをそのままアメリカに運ぶため、同社では冷蔵をはじめ最大限の配慮を行うが、こうした部分のコストにも支援が活かされる。

募集期間が残り1カ月強となった現時点で、約60人のパトロンが支援の声を上げている。インターネットで募集するクラウドファンディングの性格上、若い世代がメインターゲットになっており、現時点でも20代、30代からの支援が多くを占めているが、もちろん40代以上からの支援も待っている。

本物の日本酒のおいしさを海外に伝えたい! という想いは、同社のスタッフだけでなく、多くの日本酒ファンが秘めている気持ちでもある。とはいえ、一般個人が海外でそうした周知活動を行うのは限界がある。「海外に日本酒を広める手伝いなんて、自分にはできないよ」、最初からそう決めつけてしまう人は多いだろう。「その代わりになれたら」(古原さん)というのが今回のプロジェクトの大きな趣旨だ。プロジェクトに参加することで、あなたも“日本酒大使”になれるのである。

「1杯の支援に協力してくだされば、私たちが責任を持って、アメリカの方たちにあなたからの1杯と私たちからの1杯を無料で提供します。そして、実際のイベントの様子は映像に収録して、メディアでの露出も含め支援者の方にお届けしますので、日本にいながらにしてアメリカの方においしい日本酒をごちそうし、喜んでいる様を確認できますし、そこで生まれたコミュニケーションから日本酒の良さが海外で広がっていくのです」と古原さん。他人事ではなく、まさに自分事として、日本酒大使の役割と成果を実感できるようになっている。

日本酒はいうまでもなく日本の歴史と文化、民俗、そして土地、水、空気……すなわち日本各地のテロワールに根ざした酒であり、そのおいしさ、良さを海外に伝えるといっても、まずは日本人がそれを知らなければならない。まだまだ日本人自身が日本酒の本当のおいしさを知らない、というのは、日本酒に携わるさまざまな方面の人々から日常的に聞かれる言葉である。

酒造りのストーリーに就いても知ってもらいたい

それゆえ今回のプロジェクトのように、日本人を動かすというベースの上で海外へ向けたアプローチを築き上げることの大切さを、竹下さんは強調する。竹下さんの実家の蔵も、近年は規模が縮小し、使用していないタンクや麹室がある。そうした余剰施設を活用し、かつ仕事がなくなった杜氏や蔵人がふたたび活躍できる場を模索するのは、いわば差し迫った課題でもある。いい酒を造りつつも、同様の課題を抱える小さな蔵は全国に山ほどある。日本酒のおいしさはもちろんのこと、そうした現状……すなわち酒造りにまつわるストーリーについても、日本人に知ってほしいと竹下さんは語る。

人々に広めるためには、自らの体験が重要だろう。だから同社では、「スタッフ全員が酒造り・米作りの現場を経験」することにもこだわっている。1日2日ではなく、現地に長期泊まり込んで作業に取り組む。酒造りの時期は4カ月。冬期間の早朝からの水作業は味を守るため素手で行うため、とにかく寒くて冷たい。また、日本酒は汚れが大敵であり、掃除にも気を遣う。瓶詰めもラベル貼りもすべて手作業だ。実家が蔵元である竹下さんとは異なり、古原さんはここで初めて酒造りの現場を知った。

日本酒応援団の社員は全員、蔵での酒造りを体験する。酷寒の蔵での作業は、苦労と発見の連続だ
純米酒のおおもとは、もちろんコメ。酒造りとともに米作りも同社社員の必須体験となる

「もともと日本酒が好きだったので、酒造りの工程については知っているつもりでしたが、実際に携わるようになると、想像以上に手が込んでいることに驚きました。とくに私たちが行くのは手作りの小さな蔵ですから、本当に地味な作業の連続。こうして携わったからこそ、日本酒がさらに大好きになりましたね」。

当初は竹下さんの実家1蔵でスタートしたが、創業後の昨冬は2蔵となり、さらに今年の冬は大分県と埼玉県の2蔵も加わって4蔵体制になる。倍、倍と順調に増えている。蔵側からの問い合わせも多い。

「現状、社員は6人なので、この4蔵でも一杯一杯なのですが、目指すところは5年で30蔵。ワインのテロワールという考え方を日本酒にも取り込み、“テロワール×無濾過生原酒”にこだわり続けることで、全国のいろいろな蔵に展開したいと考えています」(竹下さん)。

「私たちは、造る立場に立って事業に取り組んでいます。一方では実際に日本酒が大好きで、世界中の日本酒ファンと触れ合う立場にもあるわけですから、いわば酒造りの両末端をつなぐ位置にいるのだと自負しています」(古原さん)。

自分たちが提案する無濾過生原酒を呑んでさえもらえば、その価値はわかってもらえるはず。実際に展示会などで、彼らはその確かな実感を得ている。本物の味はきっと、日本人だけでなく、アメリカの人たちにもわかる。その信念を原動力に、同社は今後も国内・海外を問わず、日本酒のおいしさを伝える活動を展開していく。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。