青春18きっぷで海外旅行? 乗り鉄が生んだ隠れた人気商品

青春18きっぷで海外旅行? 乗り鉄が生んだ隠れた人気商品

2017.12.15

青春18きっぷがあれば、格安で海外に行くことができる−−。そんなユニークなキャンペーンを行っているのが、山口県の下関港と韓国の釜山港を結ぶ関釜フェリーだ。下関港を毎日19時45分に出港し、翌朝8時に到着する定期船で、2013年から毎年春夏冬の3回、「青春18きっぷ旅大応援キャンペーン」を開催している。

これは、電話予約のうえ青春18きっぷを下関港の窓口で提示すると、2等運賃が半額の4500円(通常9000円)になるというものだ。往復で購入すればわずか9000円+港湾使用料で海外旅行ができる。正規運賃での差額を支払えば、一等や特等も利用可能だ。提示する青春18きっぷは、そのシーズンに有効なきっぷであれば良く、すでに5回分使い切っていても構わない。

青春18きっぷと海外旅行。一見、無関係に思える組み合わせだが、発売の意図はどこにあるのだろうか。関釜フェリー旅客営業課の中野洋平氏は、「私自身が、学生時代からずっと使い続けてきた青春18きっぷのヘビーユーザーだからです」と語る。意外にも、レールファン寄りの発想から生まれた商品だという。

左:下関~釜山間を毎日1便運航している関釜フェリー「はまゆう」。韓国籍の「星希」と交互に運航されている。右:下関駅には、115系などの国鉄型電車が健在。懐かしい汽車旅を楽しんで、そのまま格安で海外に足を伸ばせる

「大阪を朝8時頃に出発すると、山陽本線の普通列車を1日乗り継いで、関釜フェリーに乗り継げるんです。そこで、18きっぷを1日分使い切って、当社のフェリーに乗っていただこうという発想が出ました」。

欧亜連絡ルートの名残

下関港国際フェリーターミナルはJR下関駅から徒歩7分。満席の恐れがあるため事前の電話予約が必須だが、窓口で18きっぷを見せれば即半額になる

もちろん、それだけではない。下関~釜山航路は、戦前には日本とヨーロッパを結ぶ欧亜連絡ルートの一部だった。第二次世界大戦勃発までは、東京駅などの主要駅で、日本から釜山、ハルビン、モスクワを経由してパリまでの「欧亜連絡乗車券」を購入することができたという歴史がある。東京~パリ間は最短16日かかったが、45日かかる船よりも圧倒的に速かった。

「飛行機ではなく、昔ながらの列車と船で海外に出かけるという”旅”を、商品化したいという思いがありました」。列車と船を乗り継いで韓国へ出かける商品といえば、JR発足直後に発売された「日韓共同きっぷ」があった。しかし、格安航空券の普及によって相対的に割高となり、商品力を喪失。販売区間が縮小され、2015年に廃止されている。一方で、列車と船を乗り継ぐ旅には独得の旅情があり、一定のニーズがある。JRとの共同商品の開発には大規模な手続きが必要だが、自社のみの割引キャンペーンなら、比較的容易に実施できる。

2隻あるフェリーは460~562人と十分な収容力があり、思い切った割引が可能だった。こうして2013年春期から「青春18きっぷ旅大応援キャンペーン」がスタートした。

学生時代から20冊以上、延べ100回以上、青春18きっぷを使ってきたという関釜フェリーの中野洋平氏

キャンペーンは、ほぼ自社サイトでのみ宣伝されており、時刻表にも一切掲載されていない。それでも、毎シーズン数百人規模の利用があり、年々増加しているという。

「最初は関西圏からのご利用をイメージしていましたが、実際には首都圏の方のご利用が多いです。東京〜大垣間の夜行快速”ムーンライトながら”でもギリギリ間に合いますが、実際には岡山や尾道で一泊される方が多いようですね」(中野氏)。

利用者の年代は20代、40代、60代が多く、30代、50代はやや少ない。大学生など、比較的休みが自由に取れる20代、仕事や立場が落ち着き休みも取れる40代、退職して時間ができた60代に好まれるということ のようだ。

多彩な使われ方がされる18きっぷ

男女比は、若干男性が多め。カップルや夫婦での利用も多い。韓国好きの女性が、鉄道好きの恋人や夫を誘って利用するというケースもあるそうだ。「アンケートによって、お客様のご利用の仕方を調査しているのですが、最近はリピーターの方が増えて、青春18きっぷの利用の仕方も多彩になっています。例えば、サンライズ出雲で出雲市まで来て、しばらく観光したあと、青春18きっぷを使って山陰本線を下関まで来るとか」。

ほかにも、広島まで夜行バスで来て、広島・山口のJR線に乗ってから来るケース、大分や熊本に飛行機で入り、青春18きっぷで九州を旅してから下関に来るケースなど、様々な使われ方をしている。中には、北海道から青春18きっぷ5回分を使い切って下関まで来た人もいたという。18時頃までに下関駅に着けば、あとは寝る場所も食事も心配ない。往復、つまり2泊で9000円なので、宿代わりに使う人もいるだろう。

左:「はまゆう」の桟敷席。日本式のコンセントが取り合いになること以外は快適だ。大浴場も無料で利用できる。右:差額を支払えば、一等船室も利用できる。二人で利用すれば、1人当たり片道8000円(通常1万2500円)

青春18きっぷ愛好家が生んだ、「青春18きっぷ旅大応援キャンペーン」。視点を変えると、日韓航路が抱える問題が生んだ商品とも言える。ここ数年、日韓航路は韓国人利用者が全体の8割を占める状況が続く。国土交通省九州運輸局の2016年度上半期統計によれば、関釜航路は韓国人乗客6万5075人に対し、日本人乗客は1万2057人。日本人の利用が多い博~釜山間の高速船「ビートル」も、6割以上を韓国人が占めている。

焼肉やチゲを食べるのを目的にしても良い

釜山港から釜山駅までは徒歩10分。電車でわずか40分ほどで、こんなのどかな景色が待っている(京釜線院洞駅)

訪韓日本人旅行者は回復基調にあるが、まだまだ絶対数は少ない。訪韓日本人旅行者の比率をいかに上げるかが日韓航路共通の課題だが、ただ「安くて近い韓国」をアピールしても、最近はなかなか難しい。そこで、年間約70万枚を売り上げ、抜群の知名度を誇る青春18きっぷを“勝手に応援”するキャンペーンの登場となる。国内の旅に、ちょっとプラスするだけで海外に足を伸ばせ、昔の青函連絡船のように宿代わりとしても使える。極端な話、焼肉やチゲだけ食べて帰ってきても良い。なかなか、目の付けどころがうまいと商品と言えそうだ。

「青春18きっぷは、とても自由なきっぷです。必ずしも、大阪や東京から普通列車を乗り継いで来る必要はありません。日本の鉄道ファンの方にも、ちょっと足を伸ばしていただいて、韓国の電車や高速鉄道に乗ってみていただきたいですね。なかなか韓国の鉄道も良いものですよ」。この冬は、乗り鉄の旅に海外旅行をプラスしてみてはいかが。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。