シャープはなぜ国内で冷蔵庫を生産し続けるのか

シャープはなぜ国内で冷蔵庫を生産し続けるのか

2017.12.21

大阪府八尾市のシャープ八尾事業所では、今でも冷蔵庫の国内生産が続けられており、白物家電を国内生産する唯一の拠点といえる。この存在こそが、シャープの冷蔵庫事業の60年を支えてきたのだ。

マザー工場としての八尾事業所

1957年、旧本社エリアの田辺工場(前工程)と平野工場(後工程)で生産を開始した冷蔵庫は、1959年7月に現在の八尾市へと早くも移管された。当時、最新の自動化設備を導入した量産体制の確立によって、東洋一とも言われたメッキ工場やプラチック成形工場などを併設したことで大きな話題を集めた。現在でも、冷蔵庫生産のマザー工場として、ハイエンドモデルの国内生産を続けている。

1959年のシャープ八尾工場の様子
現在のシャープ八尾事業場の様子

その一方で、1974年よりインドネシア・カラワンで冷蔵庫の生産を開始。1988年にはタイ・チャチャンサオ、1997年に中国・上海と、海外の生産拠点を次々と開設した。タイをハブ工場として、直冷式の1ドア小型タイプから、インバーター式5ドア大型タイプまで、幅広いラインアップを生産し、ASEAN、中近東、オセアニア、欧州、中国、日本などに供給している。

インドネシア工場もまた役割が変わっており、同工場で生産した冷蔵庫の約9割を同国内向けに出荷。独自デザインを採用した製品を投入したほか、不安定な電力事情を考慮して畜冷材料を使用した製品も投入している。この製品は電力が停止しても10時間に渡り保冷ができる点が高評価につながっているという。

インドネシア向けの冷蔵庫。現地では花柄模様が受けるという
蓄冷材料を採用した冷蔵庫。停電が起こりやすい地域向けの付加価値モデルとして人気だ

こうした生産体制が確立する中で、あえて八尾事業所を残す理由はあるのか。シャープ 健康・環境システム メジャーアプライアンス事業部長の菅原 靖文氏は、「八尾事業所は、培った独自生産技術を、競争力の源泉として、海外生産拠点に供給する役割を担うマザー工場。その役割はこれからも変わらない」と、国内生産にこだわりをみせる。

冷蔵庫の歴史はシャープ革新の歴史?

1957年に発売した第1号冷蔵庫「HR-320」。一日の電気代は10円だった

シャープの白物家電事業は、1957年に発売した冷蔵庫、洗濯機、掃除機の3つの白物家電の投入で始まった。その中でも冷蔵庫は、発売以来の累計出荷が6000万台に達しており、事業規模で見ても同社を代表する白物家電製品だ。

さらに、6000万台出荷の実情は、近年の「シャープ冷蔵庫」の強さを表している。累計出荷が3000万台を超えたのは、事業スタートから50年となる2007年。そこからわずか10年で倍の累計6000万台を達成したことで、事業の成長曲線が文字通りの「右肩上がり」であることがわかる。

菅原氏は、「冷却方式や付加機能、使い勝手において、『業界初』を相次いで採用し、現在の冷蔵庫の礎となるものをいくつも投入してきた」と自信を見せるが、これは"機能ファースト"ではなく、「お客様の生活の変化にいち早く応える商品開発を続けてきた歴史である」と話す。

1957年に1号機を生産した際、冷蔵庫は「洗濯機」や「白黒テレビ」とともに「三種の神器」に例えられた。「主婦の家事労働からの解放」という役割を果たす最たる商品として開発・生産され、八尾工場での最新設備による量産化は、冷蔵庫の国内普及に大きく貢献したといえるだろう。

冷蔵庫の中央部に電子レンジを搭載したクッキング冷蔵庫「SJ-30R7」。同じ八尾工場内に冷蔵庫と電子レンジの事業部門があったことで実現した融合商品

その後、1960年~1970年代は、冷凍食品の普及やスーパーマーケットの拡大といった環境を背景に食生活の多様化が進んだ。そこで、現在の冷却方式の主流になっているファン式霜なし2ドア冷蔵庫を投入したほか、チルドルームの先駆けとなるフレッシュルームの採用、専用野菜室の先駆けとなる独立野菜室用、使い勝手を考えた業界初の上段冷蔵庫モデルなどを投入した。

1980年~90年代は、マンションの一般化やシステムキッチンの普及、環境問題がクローズアップされるなかで、省スペース化を実現する電子レンジと冷蔵庫を融合したクッキング冷蔵庫、オゾン式電子脱臭装置を搭載した冷蔵庫、ノンフロン真空断熱材を採用した冷蔵庫を発売した。

特に、キッチンのさまざまな間取りに対応した業界初の左右開き冷蔵庫の「どっちもドア冷蔵庫」は大きな話題を呼んだ。どっちもドアは今年で30歳だが、最新モデルでは電動アシスト機能を搭載した「電動どっちもドア」に進化している。

どっちもドアの初期モデル
どっちもドアのメカも世代別に展示した

2000年代から現在にかけては、さらに家庭環境が大きく変容した。中食や家飲みが浸透し、安全や安心に対する関心の高まり、共働き世帯の増加という社会背景も当たり前になった。

これに対してシャープは、「おうちでロック製氷」機能の搭載や、その後のプラズマクラスターイオン搭載へとつながる除菌イオンを搭載した冷蔵庫、地震の揺れを感知すると冷蔵室ドアをロックする「耐震ロック」機能の搭載、さらには蓄電池連携停電モード付冷蔵庫まで世に放った。

このように、これまでの60年間を振り返ってみると、シャープの冷蔵庫は、市場のニーズ変化にあわせて最先端機能を搭載し、日本の冷蔵庫市場をリードするポジションにいたことがわかる。それに加え、国内で培った技術力を背景に海外市場でも地域ニーズにあわせた製品を開発。これが、近年の出荷台数の急成長につながっているはずだ。

海外では、日本品質を訴求する展開も
タイ工場で生産された冷蔵庫。普及モデルを中心に展開している

半世紀以上に渡り、シャープの冷蔵庫事業の成長を支えた八尾事業所は、約13万2000平方メートルの敷地を持つ。冷蔵庫のみならず、白物家電製品を担当する健康・環境システム事業本部の中核拠点としての役割を果たしている。開発部門やデザイン部門なども同事業所の中にあるため、"ものづくり"を追求できる環境としての八尾営業所という側面が見て取れる。

冷蔵庫を生産する棟は5階建て構造で、延床面積は約4万平方メートルだ。1階は外箱成形などが行われ、2階で内箱組立、3階では庫内部品の組み込みや性能検査、4階は扉組立、5階は最終工程の梱包、出荷検査が行われる。つまり、1階から上に上がっていくごとに完成品に近づく仕組みだ。

現在は2つの組立ラインが稼働しており、梱包ラインでこの流れが一本化されるという仕組みだ。異なる機種が生産可能な混流ラインで、それぞれ日産850台、合計で1700台の生産が可能だ。自動化と熟練した作業者による手作業を組みわせているほか、徹底した検査工程など、国内生産にこだわる理由が随所に見られる。

生産・開発拠点としての八尾事業所があるからこそ、世界で支持されるシャープの冷蔵庫がある。そう言っても過言ではない現場力を八尾に垣間見た。

1階では、最初に、4メートルの長さの板金を成形ラインに投入
まずは穴あけや切り込み加工を行う
続いて高周波で50度にまで加熱して、加工しやすくする
前面および背面の縁部分を折り曲げるフランジ加工
冷媒銅パイプを取り付ける工程
生産ラインに投入される冷媒銅パイプ
自動装置でアルミテープで冷媒銅パイプを固定する
上方向から真空パネルを自動で貼りつける
真空パネルが貼りつけられた状態
作業品質を確認しながらテープで固定する

 

 

キャビネット組立ライン。2階で内箱組み立てが行われた部品と組み合わせる
続けて内箱部分に様々な部品を取り付ける

 

 

外箱と内箱のコーナー嵌合部をシールするためにフォームメルトを注入する装置
背面ケースを取り付ける
背面ケースを固定する
コンプレッサーを搭載する作業も1階で行われる

 

 

 

3階の品質検査工程。人による検査と機械による検査を組み合わせている
エージングライン。全量を対象に60分間の電気検査を行う
配管口を取り付ける作業
筐体は移動しながら、真空にしたり、冷媒を充填したりといった作業が背面側から行われる

 

 

取り付けられる部品は箱のなかに入れられてラインに供給
庫内組立ラインの横で部品がセットされる
扉の取り付け工程の様子
5階の梱包ラインに入る冷蔵庫

 

ビニールが自動でかぶせられる
続いて梱包箱に入れられる完成品
バンドマシンで固定された完成品
1階の出荷口に搬送される

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大変革の新型「カローラ」に試乗! 激戦のハッチバックに挑むトヨタの事情

大変革の新型「カローラ」に試乗! 激戦のハッチバックに挑むトヨタの事情

2018.08.22

ハッチバックとなった背景に2つの理由

TNGA導入効果で走りは変わったか

コネクティッド機能は充実もスマホ連携に改善の余地

トヨタの「カローラ スポーツ」が発売となった。新型モデルにはさまざまな大変革が見られる。まず、先代モデルはセダンボディの「アクシオ」とワゴンボディの「フィールダー」という車種構成だったのに対し、今回の新型カローラシリーズで先陣を切ったのはハッチバックモデルであった。カローラの歴史を紐解くと、このボディタイプは2006年まで販売された「カローラランクス」以来、実に12年ぶりの復活となる。なぜ今、ハッチバックなのか。その理由は大きく2つ挙げられる。

ハッチバックを選んだ2つの理由

1つ目の理由は「若返り」だ。現在、カローラユーザーの平均年齢は70代で、ワゴンモデルのフィールダーでも60代だという。一昨年に50周年を迎えたカローラは、トヨタの基幹車種として愛され続けてきた反面、ロイヤルティの高いユーザーは高齢化していたのだ。そこで新型車には、次の50年に向けて若い人たちに乗ってもらえるクルマにしたい、という思いを込めた。

2つ目の理由としては「グローバル化」を挙げることができる。カローラは1966年の初代誕生以来、150以上の国と地域で累計4,600万台を販売してきた。世界16拠点の生産工場を持ち、10秒に1台を販売するグローバル商品だ。しかし、「カローラ」の名はつくものの、ボディタイプやプラットフォーム、搭載するエンジンなど、その中身は国や地域により作り分けていた。それを今回は、名実ともに、基本は世界ワンスペックのクルマとして作った。そして、グローバルで見ると、ハッチバックは人気が高い車種なのだ。

中国や米国などのビッグマーケットでも、ハッチバックの販売が伸びている。一足先に発売となったライバルのホンダ「シビック」も、セダンに加えハッチバックモデルをラインナップしているが、米国ではハッチバックが約3割を占めているそうだ。

このような理由から、まずはハッチバックの「カローラスポーツ」が登場することとなった。

新型車「カローラ スポーツ」のボディタイプはハッチバックだった(全ての画像提供:トヨタ自動車)

サーキットで感じた第一印象

カローラ スポーツと最初に出会ったのは、ショートサーキットだった。一言でいうと、存在感はあるけど強烈なクセはない、すんなり受け入れられるデザイン、というのが第一印象だ。切れ長でシャープな眼、ワイド&ローのプロポーションで、特にデザイナーがこだわったというリヤは“カタマリ感”、踏ん張り感で安定性をアピールしながらも、全体的にはスポーティーなシルエットとなっている。

ディテールを見ると、サイドのプレスラインはかなりエッジが効いている。つまり、作る際には鋭角的に鉄板を折り曲げる必要があり、実はこれもかなりチャレンジングだ。先に述べたように、トヨタは今回、グローバルで作るため、各工場の作り手の技術を安定させるという「工場の開発」にまで挑んでいるのだ。

エッジの効いたサイドのプレスライン

走ってみると、クルマの基本性能である「走る・曲がる・止まる」の性能が飛躍的に向上していた。実に気持ち良く走る。しっかりしたシャシーとボディに包まれ、足元のサスペンションはしなやかに動く。ステアリングはしっかり感があって、切れば素直に曲がっていく。従来のクルマと比べ、ドライバーの操作の伝達スピードと確度が格段に上がった印象だ。

サーキットの路面はフラットなので、そもそも安定感が高い。なので、意地悪く縁石を踏んでみたりもしたが、乗り越えの際にも尖った突き上げ感はなく、常にタイヤの接地を失うことなくスマートにいなした。また、限界域まで追い込んでみても、旋回中にブレーキを踏んでも、リヤが破綻することなく安定性を保っていた。DSC(ダイナミックスタビリティコントロール、クルマが曲がりすぎたり、逆に曲がらなかったり、横滑りしたりするのを防ぐ機能)を解除して電子制御なしで走っても唐突な動きはなかったので、トヨタが基本的な素性から作り込んでいることが確認できた。

後日、一般道と高速道路でも試乗した。ハンドリングの良さは納得だが、やはり、荒れた路面やアンジュレーションのある”生きた道”を走ってみないと乗り心地や静粛性といった「快適性」の側面はわからないからだ。しかし、サーキットで受けた印象が覆されることはなく、快適に、気持ち良く走ることができた。エンジンは1.8Lハイブリッドと1.2Lターボのガソリンがある。燃費志向の方にはハイブリッド、気持ち良さや瞬発力を求める方にはガソリンエンジンをオススメしたい。

「HYBRID G」というグレードの内装(色はサドルタン)

「TNGA」導入の効果は明らか

「走り」の進化は、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームの導入によるところが大きい。TNGAは「もっといいクルマをつくろう」という豊田章男社長の号令の下、トヨタが推し進めた開発コンセプト。現行「プリウス」で初採用し、人気の高いコンパクトSUV「C-HR」で走りを磨いたが、第3弾となるカローラ スポーツでは、その能力をさらにブラッシュアップしている。

具体的には、C-HRよりさらにステアリングの剛性がアップしたことで、リニアな操縦性が実現している。摩擦が低く滑らかに動く新開発ダンパーの投入により、動き始めからしなやかさを発揮する。さらには電子制御が良くなっているし、静粛性も向上している。

先代カローラを国内専用モデルとして開発したトヨタだが、プラットフォームはBセグメントの「ヴィッツ」と共用していた。それに対して今回は、Cセグメントで使う新規プラットフォームを採用しているので、動的性能の向上幅が大きい。

スポーティでありながら、スポーツカーほど尖った性格ではないし、パワーに対して高いシャシー性能があるので、初心者でも安心して乗れる。この後、セダンやワゴンも登場するとのことだが、ワゴンよりカッコよく、リヤシートを倒して使えるなどセダンよりフレキシビリティのあるハッチバックは、若い人たちにも受け入れられるのではないだろうか。

6月26日の発売から1カ月で「カローラ スポーツ」の受注台数は約9,200台に達したとのこと。月販目標は2,300台だ

コネクティッド機能が充実、スマホ連携は少し残念

ところで今回、クルマ本来の楽しさに加えて、トヨタが開発に注力したのが「コネクティッド」機能だ。「クラウン」と「カローラ」という基幹車種の同時フルモデルチェンジにも関わらず、メディア向け発表会は開かず、ユーザーを対象とした「コネクティッドデイ」なるイベントを大々的に開催したことからも、その力の入れようは容易にうかがえる。

カローラの全グレードに標準装備となるコネクティッド機能を使えば、例えばオペレーターを介してナビの目的地設定を行ったり、インジケーター点灯時に対処法のアドバイスを受けることができたりするし、エアバッグ作動時には自動でオペレーターに接続し、ドクターヘリの出動判断を行う「D-Call Net」にも対応していたりする。さらに、LINEにマイカーを「友だち」として追加すると、乗車前に目的地登録やガソリン残量の確認などを行うことができる。

安心・安全が格段に上昇するが、一方で、ちょっと残念なのは、スマホアプリを車載ディスプレイで操作する機能が搭載されていない点だ。というのも、トヨタはAppleやGoogleと手を組まず、独自のプラットフォーム「SDL」(スマートデバイスリンク)を介してスマートフォンとナビゲーションシステムを連携させ、スマホアプリを車載ディスプレイで操作する機能を開発しているからだ。

なので現状、Wi-fiがつながる環境は整っているのだが、「Apple CarPlay」や「Android Auto」は使えない。もっとも、これにも理由がある。彼らと提携すればことは簡単なのだが、そのシステムはブラックボックス化されていて、トヨタには管理できない。より安全なものを提供したい、というこだわりがあるゆえの選択なのだ。

とはいえ、若者にとって(いや、若者に限らずかも)スマホはマストアイテムであり、運転中も”つながっていたい”というニーズは高そう。また、スマホと車載ディスプレイの連動は「ながら運転」を抑止するための重要な機能でもある。なので、早急な対応を望みたいところだ。

コネクティッドは面白い機能だが、やはりスマホ連携も充実させて欲しいところだ

カローラ スポーツが位置するCセグメントのハッチバックモデルは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」、メルセデス・ベンツ「Aクラス」をはじめ、競合車がひしめく大激戦区だ。しかしながら、グローバルを見据えてトヨタが大きた革新を施した新型カローラ スポーツは、その土俵でも十分に戦える戦闘力があると思わせるクルマに仕上がっていた。
 

なぜMVNO通信サービスは昼休みの通信速度が遅いままなのか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第22回

なぜMVNO通信サービスは昼休みの通信速度が遅いままなのか

2018.08.22

MVNOの通信速度が遅いのはどうしてか

データの通り道が細いMVNO特有の問題

フルMVNOとなって帯域幅を広げる企業

大手キャリアから料金が安いMVNOのサービスに乗り換えた人が不満を抱くのが、昼休みなど多くの人がスマートフォンを利用する時間帯を中心に、劇的に通信速度が遅くなることではないだろうか。同じ大手キャリアのネットワークを使っているのに、なぜMVNOの通信速度だけが遅くなりやすいのだろうか。

MVNOのネットワークは“道”が狭い

大手キャリアでスマートフォンを利用していると、月々の通信料が6~7千円から1万円はかかるのが一般的だ。それゆえ毎月のスマートフォンの通信料金を節約するために、“格安”をうたうMVNOに乗り換えたという人も、多くいることだろう。

確かにMVNOのサービスは、同じ通信容量であれば毎月の通信料金が大手キャリアの半分から3分の1と、大幅に抑えられるので、料金面でのメリットが非常に大きいのは事実だろう。だが一方で、MVNOのサービスを利用している人から多くの不満の声が聞かれるのが通信速度だ。

というのも、特に昼休みや朝夕の通勤時間帯など、多くの人がスマートフォンを利用する時間帯になると、MVNOのサービスは軒並み通信速度が劇的に遅くなってしまうのだ。MVNOの状況にもよるが、その通信速度は動画視聴はおろか、Webサイトの閲覧やSNSの利用などであっても、まともに利用できないほど遅くなるケースもあり、深刻な状況が続いている。

こうした事象は大手キャリアのサービスではほとんど起きることはなく、MVNO特有の問題となっている。ではなぜ、MVNOの通信速度が遅くなりやすいのかといえば、それはネットワークの帯域幅、要するにデータの“通り道”が狭いからである。

MVNOは、お金を払って大手キャリアから借りたネットワーク帯域を使い、通信サービスを提供している。このことは、鉄塔を建てるなど莫大なインフラ投資をする必要がなくなるため設備投資が少なくて済み、MVNOが安価にサービスを提供できる一因となっている。

だが一方で、帯域幅を増やすにはより多くのお金をキャリアに支払う必要があり、無尽蔵に増やせる訳ではない。それゆえMVNOの帯域幅は大手キャリアよりも狭い、つまり道幅が狭いのである。狭い道路にたくさんの車が通れば渋滞が起こるのと同じように、帯域幅が狭いネットワークに、多くのデータが流れ込めば混雑が起きやすくなる訳だ。

2018年7月1日に実施されたLINEモバイルの発表会より。ネガティブイメージとしてネットワークと通信速度に対する不安が挙げられるなど、MVNOは通信速度の問題に大きな影響を受けている様子が見える

解決に特効薬がない頭の痛い問題

もう1つ、キャリアがMVNOに対して、時間帯に関係なく一定の帯域幅で貸し出していることも、MVNOが簡単に帯域幅を増やせない要因となっている。というのも、ユーザーのデータ通信利用は24時間常に一定という訳ではなく、確かに昼休みや朝夕などはスマートフォンの利用者が増えて混雑が起きやすいのだが、深夜・早朝などはスマートフォン利用者が大幅に減り、帯域が空いている状態になる。

帯域が空いているということは、お金を払ってネットワークを借りているMVNOにとって“無駄”が生じていることでもある。混雑している時間帯に合わせた幅の帯域幅を借りると、空いている時間帯に多くの無駄が発生してしまうことから、MVNOはコストの無駄を抑えるため、混雑時にユーザーが不満を抱かない範囲の帯域幅を借りてサービスを提供しているのだが、ユーザーとともに増えるデータ通信量に耐え切れず、混雑時に通信速度が大幅に落ちてしまうのである。

この問題を解消するにはいくつかの方法がある。1つはキャリアにより多くのお金を支払って、混雑する時間帯に合わせた帯域幅を借りること。KDDI傘下のUQコミュニケーションズが提供している「UQ mobile」は、帯域幅を自らWiMAX 2+のネットワークを提供することで得ていることに加え、他のMVNOより高めの料金設定にすることによって、KDDIからより広い帯域幅を借り、高速な通信速度を維持している。

UQ mobileは他のMVNOより通信料を高く設定することで、売上を増やしより多くの帯域幅を借りることで、通信速度の低下を抑えている

2つ目は、自らキャリアになってしまう方法だ。そうすれば他社にお金を支払う必要はなく、自身のネットワークの帯域幅が使い放題になるため、問題は一気に解消する。この手法を取ろうとしているのが楽天で、同社は2019年に携帯電話事業に参入することを発表している。

そして3つ目は、空いている時間帯の帯域幅を有効活用することで、帯域の無駄を減らし底上げを図る方法だ。実際、MVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)は、自らSIMを発行できる「フルMVNO」となり、法人向けのデータ通信サービスに力を入れることで、深夜などの時間帯にもネットワークを活用してもらう取り組みを進めている。

IIJは個人のスマートフォン向けサービスだけでなく、IoTを中心とした法人向けのサービスにも力を入れることで、深夜のネットワーク稼働率を高め無駄を減らそうとしている

より直接的な施策を打ち出しているのが、ソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」が提供する「時間プラン」の「深夜割」だ。これは深夜1時から早朝6時の5時間だけ、高速通信を使い放題にするいうもの(それ以外の通信速度は200kbps)。空きのある深夜の帯域を有効活用してもらうことで、利用効率を高めようとしている訳だ。

だが、1つ目、2つ目の方法を取ることができるMVNOは相当限定されるし、3つ目の方法は劇的な効果には結び付きにくい弱点がある。それだけにMVNOにとって、通信速度の問題は頭の痛い問題として残り続けることとなりそうだ。