同じKDDI傘下の「UQ mobile」と「BIGLOBEモバイル」、なぜ戦略が違うのか

同じKDDI傘下の「UQ mobile」と「BIGLOBEモバイル」、なぜ戦略が違うのか

2017.11.01

「UQ mobile」を展開するUQコミュニケーションズと、「BIGLOBEモバイル」を展開するビッグローブは、共にKDDI傘下のMVNOである。しかしながらUQ mobileはSIMと端末をセットで販売するなど大手キャリアに近いビジネス、BIGLOBEモバイルはSIMのみを提供するビジネスに力を入れており、戦略には大きな違いが見られる。その理由はどこにあるのだろうか。

2つの傘下企業がMVNOとして存在感を高めるKDDI

格安な料金で人気を高めているMVNOの台頭に危機感を抱き、大手キャリアは昨年頃から、従来重視してきた高価格帯のサービスだけでなく、サブブランドなどを活用した低価格帯のサービスにも力を入れるようになってきた。

中でもここ最近、低価格サービスに急速に力を注いでいるのがKDDIだ。KDDIはかつて、低価格帯のサービス提供に最も消極的で、他の2キャリアと比べても、台頭するMVNOに向けた対策で後手に回っていた。そこでKDDIは昨年から今年にかけて、急速に低価格サービスを強化し、MVNOへの流出阻止に力を注いでいる。

その中には、「auピタットプラン」「auフラットプラン」のように、メインブランドであるauの通信料金を下げることでMVNOへの流出阻止を図る施策もある。だが低価格戦略の中心となるのは、やはり同社傘下のMVNOであろう。実際KDDIは、「UQ mobile」ブランドのUQコミュニケーションズ、「BIGLOBEモバイル」ブランドのビッグローブ、そして「J:COM MOBILE」のジュピターテレコムと、コンシューマー向けにサービスを展開する3つのMVNOを傘下に持っており、それらを活用して低価格サービスの拡大を図る戦略を取っているのだ。

中でも最近目立っているのが、共に芸能人を起用した積極的なテレビCMを展開している、UQコミュニケーションズとビッグローブである。MM総研が6月に公表した「国内MVNO市場規模の推移(2017年3月末)」によると、MVNOの事業者シェアはビッグローブが6位、UQコミュニケーションズが7位。両社を合わせたシェアはより高いものになることから、KDDIがMVNO市場で急速に存在感を高めている様子がうかがえる。

しかしながら両社のサービスや販売スタイルを見ると、かなり違いがあることが分かる。UQ mobileはSIMとスマートフォンのセット販売を主軸に据えており、量販店や自社店舗「UQスポット」を全国に拡大するなど実店舗での販売を強化している。

UQコミュニケーションズの「UQ mobile」では、端末とのセット販売や、リアル店舗での販売を重視するなど、大手キャリアに近い戦略を取っている

一方ビッグローブは、テレビCMでも「SIM替え」を大きくアピールするなど、セット販売よりもSIM単体での販売を重視。しかも実店舗は構えておらず、オンラインでの販売を主体とした戦略を打ち出している。

ビッグローブの「BIGLOBEモバイル」は、「SIM替え」をアピールし、セット販売ではなくSIM単体での販売を重視する戦略を取る

同じKDDI傘下だけに"すみ分け"が必要に

テレビCMで積極的にサービスをアピールしているものの、注力するポイントは大きく異なる2つのMVNO。その理由はやはり、同じKDDI傘下という点にあるといえそうだ。

そもそも同じ企業の傘下にあるMVNO同士が、同じ戦略で同じような販売施策を進めれば、互いがライバルとなってしまい、高額な販促費をグループ企業同士の奪い合いに費やす、不毛な戦いを繰り広げることとなる。それではKDDIにとってデメリットとなってしまうことから、傘下MVNOそれぞれのの強みを生かして弱みを補うことで、トータルでの契約数を拡大するべく、戦略上重視するポイントを変えているといえそうだ。

実際UQ mobileとBIGLOBEモバイルだけでなく、J:COM MOBILEもそれら2つのサービスとの明確なすみ分けを図っている。J:COM MOBILはジュピターテレコムがケーブルテレビの最大手であることを生かし、ケーブルテレビのサービスとの連携を積極的に進める一方、あえて全国展開はせず販売地域をケーブルテレビの提供エリアに絞り、販売にも顧客への訪問を主体とした、ケーブルテレビの販売網を積極活用している。

ジュピターテレコムは2015年より「J:COM MOBILE」を展開。販売地域をケーブルテレビのサービスエリア内に限定し、ケーブルテレビとの連携を強化しているのが特徴だ

UQ mobileもBIGLOBEモバイルも、過去の歴史を振り返るとそれぞれの企業が持つ特長を生かした戦略を主軸に据えていることが分かる。UQ mobileは元々KDDI傘下の別の子会社がサービスを提供していたが、2015年にUQコミュニケーションズと合併し、UQコミュニケーションズ主導のサービスになったという経緯がある。

そしてUQコミュニケーションズは元々、家電量販店などで自社の通信サービス「UQ WiMAX」に対応したWi-Fiルーターを販売していたため、既に全国での販売網を確立していた。そこでこの販売網を生かし、通常のMVNOにはリーチが難しい層にも販売を拡大するべく、セット販売を主体とした戦略を取るに至ったといえる。

KDDIに貢献できる体制が整ったBIGLOBEモバイル

一方のビッグローブは、元々NEC傘下の固定回線向けインターネットサービスプロバイダーであったが、2014年にファンドへの売却によって独立した後、今年1月にKDDIに買収され、傘下に入ったという経緯がある。それゆえビッグローブはインターネットサービスに強みを持っており、MVNOによるモバイル通信サービスも当初は、音声通話がないデータ通信のみのものを主軸に据えていたし、実店舗での購入は難しく、インターネットを介したSIM単体の販売が主体であった。

またUQコミュニケーションズのように、WiMAX 2+のネットワークを自ら敷設しているキャリアとしての顔は持っていないことから、特定のネットサービスを利用した時だけ通信量をカウントしない、いわゆる「カウントフリー」の取り組みにも比較的寛容だった。そうしたことから動画や音楽系のサービスが通信料無制限で使える「エンタメフリー・オプション」を提供するなど、柔軟性のあるサービスを実現できていたのだ。

ビッグローブはカウントフリーにも柔軟な姿勢を示しており、現在はエンタメフリー・オプションとSIMをセットで提供する「エンタメSIM」の販売に力を入れる

こうしたビッグローブの強みや特徴を生かし、なおかつUQ mobileとの相乗効果を生み出すためにも、BIGLOBEモバイルではSIM単体での販売を重視する戦略を取ったと考えられる。10月には従来提供していたNTTドコモの回線を用いたSIMだけでなく、auの回線を用いたSIMも提供するようになったことから、ようやくKDDI傘下の企業として、本格的に貢献できる体制が整ったといえよう。

とはいえ先にも触れた通り、KDDIは低価格通信サービスの市場で大きく出遅れている状況に変わりはない。MVNOの中での存在感こそ高まってきたとはいえ、低価格市場で圧倒的シェアを持つソフトバンクのワイモバイルブランドには、高い注目度を誇るUQ mobileをもってしても大きく水をあけられているのが現状だ。

それだけに今後は、販売を積極化し始めたBIGLOBEモバイルがどこまで人気を獲得し、他の2つのサービスを含めた、KDDIの傘下MVNO全体での契約数を大きく伸ばせるかが注目されることとなりそうだ。両社が好調に伸びてワイモバイルに対抗し得る勢力を作り上げられるか、あるいは伸び悩んで戦略の練り直しを迫られるのか。KDDIの低価格市場向け戦略からは、引き続き目が離せない。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

2018.11.12

オリパラの裏側には、さまざまな最新技術が隠れている

パラアスリートを支える、ブリヂストンの「タイヤ技術」って?

義足用ソールの開発に挑む研究者らに話を聞いた

東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで2年を切った。自国開催ということもあり、現地で観戦しようと考えている人も多いだろう。そこで1つ提案したいのが、オリンピック・パラリンピックを「技術」の視点で見ることだ。

2018年の平昌オリンピック・パラリンピックでは世界初の5Gの実証実験サービスが行われ、開会式ではインテルがドローンによる光のパフォーマンスが行われた。このような派手なものに限らず、大会の裏にはいくつもの技術が隠れている。パラアスリートが用いる器具などがその典型的な例と言える。

そこで本稿では、「ワールドワイドパラリンピックパートナー」であるブリヂストンによる、自社技術の活用によってパラアスリートを支援する取り組み「パラアスリート技術支援プロジェクト」に注目。東京2020を支える技術の裏側に迫る。

タイヤ技術でパラアスリートを支えよ! 

パラアスリート技術支援プロジェクトは、同社のオリンピック・パラリンピックのパートナー契約締結を機に『タイヤやゴムの技術をアスリートのために活かせないか』という想いから発足したという。ではその技術で何を作っているのかというと、1つの例が義足用の「ソール」(地面に接する部分、靴底)だ。

今回話を聞いた、ブリヂストン 先端企画本部 先端技術推進部 先端技術企画推進第1ユニット 主任部員の小平美帆さん(左)とオリンピック・パラリンピックマーケティング推進部 アクティベーション推進ユニット 課長 鳥山聡子さん(右)

「当社では、パラトライアスロン選手の秦由加子さんの義足用ソールを開発しました。現在も定期的に本人と話し合いの場を設けながら、当社の技術でサポートできる部分はないか、ということを模索しています」(鳥山さん※以下、鳥山)

秦由加子 選手。1981年生まれ。千葉県出身。3歳から10歳まで水泳を習う。13歳で骨肉腫を発症し、右足の大腿部切断を余儀なくされたが、2007年に障がい者水泳チームで水泳を再開。2013年にパラトライアスロンに転向した。大腿部切断でパラトライアスロンを行っている唯一の日本人選手だ

なぜ同社がソール部分に注目するようになったかというと、「タイヤ技術との親和性の高さ」が理由だと小平さんは語る。

「もともと当社では、タイヤはもちろん、ゴルフシューズや農業機械用のゴムクローラなど、『地面と接する部分』の製品開発に強みを持っております。ソールも同じく、地面と接するモノ。そこで当社の持つ技術との親和性が高いと感じ、注目するようになりました」(小平さん※以下、小平)

さらに、ソールの素材はゴムと高分子の複合体であり、これは同社の製品でもよく使われる素材であった。タイヤ製品で培った技術を活用することで、選手をサポートできるのではないか? と考え、新ソールの開発を始めたというわけだ。

義足イメージ。ランニングシューズの底のように、特有なパターン(模様)の入っている部分が、ブリヂストンの開発したソール

「ランニングシューズを切って、義足に貼る」が当たり前?

そもそも、義足用のソール開発に力を入れている企業というのはグローバルで見ても少ない。義足を必要とする人は多くいる一方で、切断箇所や筋肉量の違いなど、個人個人によってのニーズが異なるために、高ロットでの生産ができず、なかなかビジネスとして成り立たないことが原因だという。では、秦選手の使用していたソールには具体的にどのような課題があったのか。

「これは秦さんに限らず、ほとんどのパラアスリートに当てはまることなのですが、それぞれが個人に最適化されたツールを使えていないという課題がありました。もともと、多くの種類が市場に出回っているわけではないので、パラアスリート向けの『高品質な製品』自体が少なく、モノによっては、開発されて数十年経っている”最新モデル”もあります」(鳥山)

驚くべきことに、世界大会で活躍する秦選手のような人であっても、ランニングシューズを買って、ソール部分を切り取り、義足に貼り付けて使っていたのだとか。そのように「売られているものを転用して使う」というパラアスリートは少なくないそうだ。

「当たり前ですが、ランニングシューズのソールは、義足を必要とする人向けに開発されたものではありません。地面と接触した際にかかる力は違うし、耐摩耗性が求められる箇所も異なります。秦さんは以前、雨の中でのレースで、『滑るのが怖くて、思い切って走ることができなかった』という経験をしたそうです。そうした意見を聞き、どんな状況であっても安心して走れるようなソールを開発したい、と考えるようになりました」(小平)

タイヤ開発のノウハウを詰め込んだソール開発

しかし、いくら「地面と接するモノ」だからといって、タイヤとソールで求められる技術が一緒だとは思えない。どのようにブリヂストンの持つノウハウをソール開発に適応させたのか。

「はじめはゼロからの挑戦でした。そもそも、『義足のソールに求められることって何? 』という疑問からのスタートなんです。勉強の日々でしたね。どうにか当社の技術を活用できないか、と考え、まずは走る際にかかる力を測るために、タイヤ開発に使用する測定器を使って圧力測定を行いました」(小平)

圧力測定時の様子。ランニング時、ソールへの力のかかり方がどう変化するかを調査した

ほかにも、使用した後の摩耗部分の分析などを行い、グリップ力を上げつつ摩耗を抑えられるソールはどのようなゴム材料・溝形状にすればよいかをひたすら考えたそう。

さまざまなデータから見えた課題に対して「どうブリヂストンの技術を適応させれば良いか」と考え、試行錯誤を重ねた後に、ようやくソールを開発。2017年4月、初めて秦選手に新ソールをつけた義足で走ってもらうことになった。

「私たちのソールで走ってみた秦さんには『全然違う! 』と、すぐに気に入っていただきました。その1カ月後には早速、新ソールで大会にも出場していただきました。その大会もあいにくの雨だったのですが、確実に滑りにくくなっているとのフィードバックをいただき、手応えを感じました」(小平)

小平さんや鳥山さんは、秦選手と密にコミュニケーションを取りながら、フィードバックを元にソールの改良を続けた

さまざまな領域での技術活用も視野

そのレース以来、秦選手は変わらずブリヂストンが開発したソールを使い続けている。現在のソールは2代目で、2017年に開発したモデルから、パターンと材質を変更しているそう。

しかし、いくら製品の改良を実現したと言っても、事業化につなげられなければ、同社の「パラアスリート支援」は一過性のものになってしまう。同社は今後、この取り組みをどのように続けていく予定なのか。

「秦さんとの協力によって生まれた技術が将来、当社製品のブレイクスルーにつながる可能性はあると考えています。将来的には、さまざまな領域での技術の活用も視野に入れております。ですが、何よりこの取り組みは、当社がグローバルメッセージとして掲げる『CHASE YOUR DREAM』を体現するもの。

CHASE YOUR DREAMとは、ブリヂストンが、さまざまな困難を乗り越えながら「夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えていく」という想いを表現したメッセージ

そのため、必ずしも『将来的なリターン』を求めてこの活動をやっている訳ではありません。私たちの取り組みが社内外に広がり、当社の『夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えたい』という想いに触れていただき、一緒にオリンピック・パラリンピックを応援してくれる仲間を広げていくことを目指しています」(鳥山)

「2020東京」まで1歩ずつ、2人3脚で

現在、すでに秦選手用の最新ソールは完成しているそうだが、まだまだブリヂストンの挑戦は続く。

「最新モデルは、秦さんの要望を満たし、かつさまざまなデータから考えられる問題点を解決した自信作。しかし、パラリンピックまではまだ時間があります。今後も本人のフィードバックをもとに、より改良を続けていきたいです」(小平)

パラアスリートと一緒に夢を追い続けるブリヂストン。今回紹介したのは、同社の秦選手との取り組みだけだが、それに限らず、ほかにも多くのアスリートを支援しているそうだ。

オリンピック・パラリンピックでもっとも日の目を浴びるのは選手。しかし、その周りには、選手たちを支えている多くの人たちがいる。来る2020年、パラリンピックでは、選手の義足や車椅子などにも注目し、そこに隠れた技術の背景を想像してみるのも楽しみ方の1つだ。

ブリヂストンと秦選手の挑戦をこれからも応援したい