今度はドライヤー! ダイソンが日本に期待する理由

今度はドライヤー! ダイソンが日本に期待する理由

2016.05.02

「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」のダイソンが、美容家電へ進出した。掃除機ではなく、「羽根のない扇風機」の技術を生かして誕生したヘアードライヤー、その名も「Dyson Supersonic」(ダイソン スーパーソニック)だ。

ダイソン初の美容家電「Dyson Supersonic」とジェームズ・ダイソン氏。アイアン/フューシャとホワイト/シルバーの2色展開となる

見た目からして、一般的なヘアードライヤーとは一線を画している。風が吹き出る原理は、羽根のない扇風機と同様、「Air Multiplier」(エアマルチプライアー)テクノロジーという技術を採用。毎分11万回転する「ダイソン デジタルモーター V9」は高効率かつ小型で、パワフルながらも軽量コンパクトなヘアードライヤーを実現した。小型なモーターはハンドル部分に配置。こうすることによって、重量バランスが良好になり、安定して使えるというわけだ。

ジェームズ・ダイソン氏が手に持っているのがデジタルモーター V9

参考小売価格は45,000円(税別)とかなり強気。ヘアードライヤーで日本のシェアトップを誇るパナソニックのフラッグシップモデルでも、発売当初でおよそ2万円前後だ。Dyson Supersonicは、その倍以上のお値段となる。

世界中で同時に発表され、日本では発表会も開催。ダイソンの創業者兼チーフエンジニアであるジェームズ・ダイソン氏が登場し、自ら新製品について紹介した。

どうしてジェームズが日本に?

さて、ここで1つの疑問が浮かぶ。どうして世界同時発表なのにジェームズ・ダイソン氏が日本にいるのか、だ。ダイソン初の美容家電を披露する大きな発表会でありながら、本国イギリスではなく日本で開催した。

とはいっても、実はこれが初めてのことではない。ダイソン初のロボット掃除機「Dyson 360 Eye」を2014年に発表した際もジェームズ・ダイソン氏が自ら日本にやって来てプレゼンしている。"日本びいき"を感じさせるのは発表会だけではない。ダイソン初の、そして現在のところ唯一の旗艦店「Dyson 表参道」も2015年4月に日本でオープンしている(2016年夏にはロンドンにも同様の店舗をオープン予定)。

今回の新製品についても、世界に先がけてまずは4月28日からDyson 表参道にて販売開始した。ダイソンはなぜ日本市場をここまで重要視しているのだろうか。

テクノロジーを評価する日本の消費者

率直に、「なぜ日本で発表会を行ったのか」という疑問をダイソン担当者にぶつけてみると、返ってきた答えは「ダイソンがテクノロジーを大事にしている企業であり、日本の消費者もまたテクノロジーを重視しているから」というものだった。

確かに、ダイソンは研究開発に惜しみなく投資する企業だ。実際、Dyson Supersonicの開発にも、毛髪を研究するための専用実験施設を新設。4年間にわたって、さまざまなタイプの毛髪でテストし、全長1,625km(距離にして東京から沖縄くらい)を超える本物の人毛を実験で使用したという。開発にあたって、総額5,000万ポンド(約95億円)を費やした。

発表会には自動テスト装置やプロトタイプも展示。開発に手間とお金がかかっていることがうかがえる

そこまで投資してヘアードライヤーを作ろうとした理由は何だろうか。先述のAir Multiplierテクノロジーをどう生かすかと考えた結果、ヘアードライヤーというひとつの答えに至ったそうだ。Dyson Supersonicはおいそれとは買えない値段だが、「これまで積み重ねてきた研究に値する価格。日本の消費者はテクノロジーを正当に評価してくれる」(ダイソン担当者)と自信をみせる。

アジアで急成長中のダイソン

ダイソンの2015年度業績

もちろん、日本で発表会を行ったのはテクノロジー云々の話だけではなく、日本含めアジア市場が好調だから、というのも大きな要因。ダイソンにとって、日本はアメリカに次いで2番目に大きな市場で、広報担当者いわく「人口のわりにはマーケットが大きい」。4月27日に開催された発表会には海外のメディアも多数参加しており、あくまで筆者の見た範囲では、欧米よりも中国や東南アジアの記者が多いように感じた。もちろん地理的な事情もあるだろうが、ダイソンのアジア市場への期待の大きさがうかがえる。

ここで、ダイソンの2015年度業績をひもといてみよう。かなり好調なようで、売上高が前年比26%増の17億ポンド(約3,060億円)、利益が前年比19%増の4億4,800万ポンド(約806.4億円)を達成した。アジア太平洋地域に絞ると70%成長。ダイソン自身も、売上を牽引する重要な地域と位置づけている。特に中国の成長が「3倍以上」と著しく、収益は222%アップ。それに比べると地味に思えるが、韓国は185%、日本は48%、台湾は33%成長した。

掃除機、空調家電に次いで美容家電を投入するのも興味深い。日本に限った話だが、富士経済が2015年2月に発表した美容家電市場の調査結果によれば、理美容家電は特に高価格帯商品が好調。白物家電の需要減が叫ばれるなか、ビックカメラ有楽町店の「ビックビューティー」に代表されるように、家電量販店でも女性向け美容家電の売り場を拡充する動きがある。

また、ダイソンの調査によれば、日本はヘアードライヤーの所有率が高い。アメリカが91%だったのに対し、日本は96%。男性だけでも91%がヘアードライヤーを所有または使用している。こういった美容市場の大きさ、ヘアーケアへの意識の高さも、日本が発表会会場として選ばれた理由だ。

4.5万円のドライヤーは受け入れられるのか

ダイソンのいう通り、確かにヘアードライヤーの形状は1960年代からそう大きくは変わっていない。モーターを小型化してハンドル部分に収めるという発想は革新的だし、実際に手にとってみても思わず「軽っ」と声に出てしまうほど持ちやすかった(実際には618gあり、一般的なドライヤーと比べて、同じか少し重いくらいなのだが)。

カットモデルも展示。とてもドライヤーにはみえないメカメカしさがある
実はDyson Supersonicと同時発売の「Dyson Pure Cool Link」。空気清浄機能付きの扇風機だ(写真は製品発表会にて撮影)

ヘアードライヤーという製品カテゴリには、パナソニックはじめ、シャープやテスコム、小泉成器など競合がひしめく。ヘアードライヤーはそうそう買い替えるものでもないうえ、すでに9割以上の人が所有している。あまり勝機はなさそうにも思えるが、期間限定で「満足できなかったら全額返金キャンペーン」を実施したり、有名ヘアーサロン「Apish」全店舗で導入したり、と製品自体への自信のほどがうかがえる。

これまで、テクノロジーを前面に押し出してサイクロン掃除機や扇風機など数々の製品を日本でヒットさせてきたダイソン。Dyson Supersonicもその仲間入りができるだろうか、今後に期待したい。

Dyson Supersonicはヘアードライヤー業界に新風を巻き起こすのか
新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。