モーターショーに次期モデル、「いつかはクラウン」のこれからを探る

モーターショーに次期モデル、「いつかはクラウン」のこれからを探る

2017.11.02

最新技術を盛り込んだコンセプトカーが先進性を競う東京モーターショーだが、一方で、現実的に近く市販が予定されるクルマにも注目が集まる。トヨタの次期「クラウン」もそのひとつだ。いつかは乗ってみたい憧れのクルマだったクラウンは、これからの世界でどのような存在を目指すのだろうか。

東京モーターショーで公開されたトヨタの「クラウン・コンセプト」

2018年夏の新型「クラウン」はコネクティッドカーの新基準?

「世界を、ここから動かそう。」をテーマに「第45回 東京モーターショー2017」が東京ビッグサイトで開催されている。自動運転や電動化、つながるクルマなど、自動車大転換への先進技術を日本から発信していこうと、AIやIoT、電化を駆使した最新技術のコンセプト車が居並び先進性を競っている。

その中にあって、トヨタ自動車のブースも「Concept-愛i」など近未来のコンセプトカー展示に高い関心が持たれているが、一方で、近々に市販予定のクルマにも注目が集まる。クルマユーザーにとっては、自動車各社が次のクルマをどう出してくるのかが、購入あるいは買い替えへの大きな動機となるのだ。

「Concept-愛i」も東京モーターショーで見られる

トヨタブースにおけるそれが次期「クラウン」だ。トヨタのメインターンテーブルには2018年夏に市場投入されるクラウンが展示され、プレスブリーフィングでは「2018年には新型クラウンが日本のコネクティッドカーの新しい基準となる」(ディディエ・ルロア副社長)と説明した。

いつかはクラウン、これからどうなる?

クラウンと言えば、初代クラウンが1955年に製造・発売されて以来、トヨタ量販車の中で最上位モデルの地位を確立してきた。1983年に投入された7代目クラウンでは「いつかはクラウン」のキャッチコピーを打ち出し、オーナードライバーにとっては「日本の高級車像」の代名詞ともなってきた。

そのクラウンも現行が14代目。来年にはフルモデルチェンジで15代目となる。初代投入から60年余が経過する中で、次期クラウンの開発にあたっての命題が「ラスト・クラウンにするな!」(秋山晃ミッドサイズ・ビークル・カンパニーMS製品企画ZSチーフエンジニア)だった。

ピンク色も話題を呼んだ現行クラウン

つまり、「いつかはクラウン」の1980年代から30年以上が経過する中で、日本の高級車がどうあるべきか、あるいは従来の「クラウン継承」だけでは終焉を迎えるとの危機感を持って、トヨタは次期クラウンの開発を進めてきたのである。

ドイツの高級車ブランドに対抗、レクサスもライバル?

東京モーターショーで世界初披露されている次期「クラウン」は、世界的に需要がSUVなどに取って代わられようとしている「セダン復権」へ向け、トヨタの高級車としてのあるべき方向を目指したものだ。

「トヨタの高級車として、ドイツのベンツ、BMW、アウディに負けない走りとスタイリングはニュルブルクリンクサーキットで徹底的な走行テストを行い、デザインもスポーティ化を意識して若者層の吸収へ」と秋山チーフエンジニアも強調する。ライバルは、メルセデス・ベンツ「Eクラス」、BMW「5シリーズ」、アウディ「A6」といったドイツ御三家であり、かつ陣営内の「レクサス」でもあるとする。

「クラウン・コンセプト」は次期クラウンに向け、トヨタが打ち出す明確なコンセプトだ。コンセプト1は「世界の走りをぬりかえる」、コンセプト2は「相棒のように話せる」、コンセプト3は「街とつながり事故を減らす」、コンセプト4は「進化するクルマ」である

クラウンとして初めてTNGAを採用、走行安定性に磨き

クラウン初の「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー、詳しくはこちら)採用でプラットフォームは一新。エンジンは「GRシリーズ」に新開発V型6気筒3.0リッター、「ロイヤル/アスリート」には4気筒2.5リッターハイブリッドおよび2リッターターボを設定する。「ニュルでの走行テストでは、意のままに操れるハンドリング性能に加え、低速域から高速域までドライバー目線がぶれない走行安定性を実現した」(秋山氏)という。

スタイリングも歴代クラウン初の6ライト制を採用し、迫力を増したフロントマスクやリアの4本マフラーなど、ファストバック色を強めてチャレンジしているのが特徴だ。

スタイリングでもチャレンジする次期クラウン

一方、次期クラウンはトヨタのコネクティッドカー戦略の先陣とも位置づけられる。「次期クラウンではDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)をトヨタ車初の標準装備とし、ネットワークとコネクトしてユーザーに安心・安全を提供する」(相原誠コネクティッドカンパニー・テレマティクス事業室長)ことになる。

現行の14代目クラウンは「ピンクのクラウン」で話題を集めたが、次期クラウンはトヨタが新たな時代に向け、「トヨタの高級車」を追求したクルマだといえよう。

日本産高級車に興亡盛衰の歴史あり

トヨタのクラウンは、「いつかはクラウン」のキャッチだったように日本のモータリゼーション進展期における上級者志向の象徴だった。しかし、1955年の初代モデルから来年夏に投入される新型クラウンが15代目となるように、フルモデルチェンジを重ねる流れのなかで、その位置づけも変わってきている。

フルモデルチェンジを重ね、クラウンの位置づけも変わってきた

クラウンのライバルは、かつて日産自動車の「セドリック」だった。日本自動車産業をリードし、ライバル関係にあったトヨタと日産の高級車を代表するのが、クラウンでありセドリックだったのだ。これに三菱自動車の「デボネア」やホンダの「レジェンド」といった日本の高級車が並ぶ時代もあった。日産セドリックは後継の「フーガ」に代わったし、「丸の内カー」と呼ばれ、三菱グループ役員車として丸の内周辺で多く走っていたこともあったデボネアも、今や消滅した。

トヨタは「レクサス」、日産は「インフィニティ」、ホンダは「アキュラ」の高級車ブランドを立ち上げ、北米での展開から一時は日本でも販売網展開を構想したが、具現化させたのはトヨタだけで、日産、ホンダは断念している。日本車各社としては、欧州・米国の自動車産業に追いつき、追い越すべく、この高級車分野にも挑戦してきた。そんな中、米国メーカーの減退で北米での高級車ブランドは一定の成果を収めたのである。一方で、トヨタはレクサスとともに、トヨタブランドのセダン訴求として先に新型「カムリ」を投入している。

トヨタがセダン復権の思いを託した新型「カムリ」

しかし、欧州市場や世界の高級車市場では、なかなか欧州勢、特にドイツの高級車ブランドに太刀打ちできないという流れがあった。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのいわゆる御三家である。それでもレクサスは、「おもてなし」などのブランド力形成でドイツ勢への対抗力を強めている。

世界最大の自動車市場に次期クラウンも挑戦

クラウンはこれまで、日本のドメスティック高級車としての位置づけであったが、すでに12代目クラウンの2003年から、中国のトヨタ合弁「第一汽車」で現地生産・供給を開始しており、その後も継続している。

次期クラウンは中国で存在感を発揮できるか

来年夏に国内投入される次期クラウンも、中国での現地生産が予定される。もちろん、日本市場における高級車クラウンがトヨタの挑戦ではあるが、日本の高級車としてあるべき姿を追求し、輸入車対抗や若者層の獲得も狙おうとするなら、グローバルでもプレゼンスの向上を図っていくべきであろう。

すでにクラウンも、国内では8割がハイブリッド車である。次期クラウンは、コネクティッドに加えPHV(プラグインハイブリッド車)投入も含め、世界最大の中国市場にチャレンジする可能性があるのだ。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。