ドコモがサイクルシェアリング事業に参入した理由

ドコモがサイクルシェアリング事業に参入した理由

2016.05.06

NTTドコモは現在、通信以外の業種において、他社との協業も視野に入れた新事業戦略「+d」を推進している。これまでは農業、医療、保険の各分野でドコモと協力企業の関わり合いや事業に取り組む意義についてみてきたが、今回紹介するサイクルシェアリング事業では、ドコモ自身が子会社を設立して展開するという、これまでとはやや異なる構成の事業となっている。ドコモがバイクシェアに取り組む理由とは何か、ドコモ・バイクシェアの坪谷寿一社長にお話を伺った。

ドコモはなぜサイクルシェアリング事業に取り組むのか

ドコモは社会インフラの会社

ドコモ・バイクシェアは2015年2月に創立し、今年2月に1周年を迎えたばかりの若い会社だ。それにしても、「ドコモ」と「自転車」というキーワードの組み合わせは、いかにも違和感がある。

ドコモ・バイクシェアの坪谷寿一社長

どうして自転車を選んだのかという問いに対し、「なぜ自転車なんでしょうね。私自身の会社人生の設計図に自転車というのはありませんでしたね」と笑う坪谷社長(以下、発言同氏)だが、元々はフロンティアサービス部において、ポストiモードの新事業、いわゆるスマートライフ事業を研究するさまざまな試みに関わってきた。iモードがパーソナルなサービスであったのに対し、新サービスでは社会インフラに携わるソーシャル系サービスへの回帰を模索している中で、ドコモはヘルスケア、教育、環境、金融といったさまざまなサービスを立ち上げていく。そんな中で、ヨーロッパでサイクルシェア(コミュニティサイクル)の動きが現れる。2012年に開催されたロンドン五輪での取り組みも参考になったという。

ロンドン五輪では、交通渋滞などへの懸念があったが、2010年にボリス・ジョンソン現市長が就任すると同時にコミュニティサイクル「Barkley Cycle Hire(当時の名称)」の導入を決定し、五輪までに第三の交通機関とすることを目指していた。これを参考に、自転車という移動体を携帯電話ネットワークで遠隔監視し、面的な広がりを持ったサービスを提供することで、ドコモが持つ経営資産の活用、低炭素消費社会の実現という面においても、社会性が高い事業になると判断したという。

当初はカーシェア事業に注目?!

当初、坪谷社長は、2000年代初頭に米国でスタートした「ZIPCAR」というカーシェア事業に興味を持ち、研究をしていた。新規事業の提案機会を得た際に、シェアリング事業としてヨーロッパでのサイクルシェアリングも俎上に上がり、当時の経営幹部と検討を進めるなかで、サイクルシェアリングがドコモの取り組む事業となった。当時から、カーシェアは三井物産やオリックスが自社の経営資源を活用し、EVカーシェアリングを始めていた頃で、レンタカー事業との競合点も多かったことも理由のひとつだったという。

自治体と連携する理由

現在運営中のサイクルシェアリング事業は、いずれもドコモ自身がスタートさせており、ドコモ・バイクシェアはそれを引き継いだ形になる。どうしてドコモ自身が取り組まずに新たに法人を作ったのだろうか。これについて坪谷社長は「いろいろな考え方はありますが、独立した法人でいるほうが、さまざまなアライアンスが素早く行えるという考えからの決定でした」と語る。自転車の選定・調達や付帯サービスの開発、事業者との提携交渉などは、小回りがきく小さな組織のほうがいいということなのだろう。

こうしてスタートしたサイクルシェアリング事業の最初の案件は、2011年4月に横浜市が社会実験としてスタートした「横浜コミュニティサイクル baybike」だった。以来、4年をかけて東京都中央区、千代田区、港区、江東区、仙台、神戸、広島など全国の都市でサイクルシェアリング事業を展開してきた(期間限定で実施する都市もある)。「サイクルシェアリング事業はすべて、自治体が事業の主体になっています。我々は入札を通し、運営や付帯事業を提案し、自治体から運営事業者として選定されて運営にあたっています」。

サイクルシェアリング事業の事業スキーム。NTT都市開発の自社不動産の活用などNTTグループの強みも生かしている(出展:ドコモウェブサイトより)

サイクルシェアリング事業だけでみれば、民間で実施している会社もあるが、なぜドコモは自治体と組むのだろうか。「自転車の利用に際しては、様々な規制緩和や公的資源の利用許可が必要です。特に安全にお客様にご利用いただくための走行空間の整備や、公有地のポート利用は基本的に自治体主体で行われるものです。また、お客様、歩行者も含めた安全を第一に考えていかなくてはいけません。自転車を貸すインフラを整えるだけではなく、マナーの普及・啓発にも取り組む必要があります。その意味でも、民間で自由にインフラを展開していくのではなく、行政としっかり連携していくことを当初から考えておりました」。

会社の成長だけを考えれば、スピード感を出してどんどん事業展開していきたいところだが、社会インフラであり、環境ビジネスである責任もあり、じっくりと腰を据えて実直に、地道に進めていくしかないというわけだ。

そのため、ドコモ・バイクシェアではサイクルシェアリング事業とは別に子供向けの交通安全教室や、ヘルメットの無料配布を行うなど啓発活動を通じて、自転車利用の安全喚起と、サイクルシェアリングへの理解度を深めようとしている。

2020年をどう見ているか

安全性も重視しながらの運営だが、2020年の東京五輪というのはひとつの区切りとして重要な時期になる。その時点での目標はどのように置いているのだろうか。「面的広がりを成長と見るか、あるエリアを密にやるべきか。我々としてはまずは、現在実施している東京都心部のサービス品質をより高めていくことを重視しています。台数が増えれば当然、管理も品質維持も大変になりますが、我々の事業としてエリア密度は非常に重視していて、密度が高まることでどこでも見られる、乗れる、といういいフィードバックループが生まれてくると考えています」。

2016年4月からは東京4区内の相互利用の実証実験を開始。写真は千代田区のステーション。サドルの色が違うなど車両のわずかな違いから他区の自転車が乗り入れていることがわかる

事業の採算は取れているのか?

サイクルシェアリングの料金は、利用者が多い一回会員の場合、最初の30分が150円、その後の30分利用するごとに100円の追加料金がかかる。いくら自治体の事業とはいえ、よほど回転率がよくなければ採算が取れないのではないだろうか。これについて、正確な数字は出せないとしつつ、全サービスで利用されている自転車の台数は2500台以上。2014年度は55万回の利用があったという。この数字について坪谷社長は「想定を上回る状況が続いている」と評価する。

「我々のビジネスは基本料金が無料(一回会員の場合。プランにより基本料金がかかるものもある)なので、会員数よりも、携帯電話の電波と同じで、利用回数がどれだけ高くなるかがポイントです。そういう観点からは、思ったよりも皆さんに使っていただいていると言えます。ただし、もっと自転車に乗ろう、サイクルシェアリングを使おう、という利用シーンやそのためのサービスメニューを企画していく必要を感じています」。繰り返しになってしまうが、今はまだ採算をとることよりも、周知されることが重要だということだろう。

走行データの商用利用は?

自転車の走行を監視・管理できるという点では、走行データをビッグデータとして商用活用するという発想もある。都市部への自転車の流入データは、自動車と比べるとはるかに量が少なく、貴重なデータとして将来性が見込まれるのだという。こうしたデータやシステムの活用の大切さについても触れつつ、それ以上に重要だと強調するのが安全性だ。

自転車の場合、安全性をシステム任せにすることはできず、交通五則など、人間が気にしなければならない点が多い。パンフレットを作ってもシステム周りの説明よりもこうした安全情報に多くを割かれることになり、「ドコモという名前ながら、アナログなこと、地味なことばかりやっています」と苦笑する。ITの世界にいるとどうしても数年で利益を上げて……という発想になってしまうが、ドコモ・バイクシェアではもっと長いスパンでの事業展開を、腰を据えて考えているようだ。

やがてはカーシェアや自動運転車へも参入?

サイクルシェアリング事業は、環境対策や都市部の交通事情を考えると、今後まだまだ伸びる可能性を秘めている。初期コストや運用コストを考えると、その公共性の高さから、自治体が運営するというのも納得できる話だ。あとはどれだけ多くの自治体がサイクルシェアリングへの理解を示すか、予算を立てられるか、という話になるが、2020年の東京五輪を中心に、海外からの観光客増が望める観光地や東京都内を中心に採用例が増えそうだ。

現在、都内では江東区、中央区、千代田区、港区がドコモのサイクルシェアリング事業を利用しているが、これらの自治体はまさに五輪会場だったり、それらに隣接する観光・経済圏でもある。外国人観光客を中心にサイクルシェアリングが認知され、見直されることになれば、五輪の年には今よりはるかに多くの自転車が東京湾岸を走っているところを見られるかもしれない。

とはいえ、ドコモやドコモ・バイクシェア自身の本命になるのは、坪谷社長がかつて狙っていたカーシェア事業になるのではないだろうか。都市部の駐車場事情や税金対策を考えると、今後は個人が自動車を所有するよりもカーシェアが増える公算が高い。サイクルシェアリング事業で蓄積した遠隔管理のノウハウもさらに活かせるはずだ。

また、2020年をめどに市場導入が本格化すると見られている自動運転車が登場すれば、タクシーのようにどこからでも今いる場所に最寄りの共有自動車を呼び出し、目的地まで自動運転で送ってもらえるようなソリューションも考えうる。無人タクシーなどで同様の計画を持っている企業もあるが、通信インフラや決済手段も抱えているドコモが参入すれば、大きな影響力を持つのは間違いない。

カーシェア事業への参入については具体的な話を伺えたわけではないが、サイクルシェアリングで地道に実績を積み上げつつ、その次のフェイズを虎視眈々と狙っている、そんな感触を持った。一見まったく関係のなさそうなドコモと自転車という組み合わせは、実は最大級の公共インフラ市場へと導くルートなのかもしれない。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。