店舗数2.5倍が目標! フレッシュネスは急拡大と独自性を両立できるか

店舗数2.5倍が目標! フレッシュネスは急拡大と独自性を両立できるか

2017.11.06

ハンバーガーチェーンのフレッシュネスが規模拡大に意欲を示している。店舗数を現状の倍以上となる400店に増やす構えで、これは日本のハンバーガー業界でマクドナルド、モスバーガーに次ぐ3位の座をロッテリアと争うくらいの模観だ。商品、店の雰囲気、価格帯など、業界では独特な立ち位置を占めるフレッシュネスだが、これを守りつつ店舗を急拡大できるのか、それとも別の考え方があるのか。同社を率いる船曵睦雄社長に話を聞いた。

フレッシュネス代表取締役社長の船曵睦雄氏

現状164店舗を倍以上に

1992年に渋谷区富ヶ谷で個人商店として創業したフレッシュネスバーガーは、今年で25周年を迎える。アーリーアメリカン調の内外装や、創業当初から「ネギミソバーガー」を用意したメニュー展開の独自性など、富ヶ谷1号店の特徴は、チェーン展開に舵を切ったフレッシュネスにとっても基本となるコンセプトだった。

創業当時の富ヶ谷1号店

ピーク時に国内外で約200店舗程度まで拡大したというフレッシュネスバーガーだが、店舗数は現状で164店まで減っている。そんなフレッシュネスは2016年12月、コロワイドグループに買収され、同グループで「牛角」「しゃぶしゃぶ温野菜」「かまどか」などを運営するレインズインターナショナルの傘下に入った。

創業時の定番メニューだった「ネギミソバーガー」。フレッシュネスでは現在、期間限定の復刻キャンペーンを実施している

一度は縮小したフレッシュネス、再び拡大路線へ

船曵氏がフレッシュネスに関わり始めたのは3年前で、社長就任はコロワイドグループ入りの後だ。チェーンとして拡大路線を歩んだフレッシュネスが、現状の規模に落ち着いた要因として同氏は、「出店を加速すれば当初のコンセプトを薄めざるを得ない。全国に拡大する中で当初のコンセプトとずれた出店もして、どこかで限界がきたのでは」(以下、かっこ内は船曵氏)と分析する。収益が悪化する中では再投資もままならず、例えば店舗の改修が遅れるなど、ハード・ソフト面で劣化している部分もあったという。

そんな状況下でフレッシュネスに関わるようになった船曵氏だが、フレッシュネスについては「そうはいっても、商品力は非常に強いブランド。まだまだ良くもできるし、広げることもできるとは当初から思っていた」とし、400店舗という目標についても「164店しかない割には知名度も高いし、いいイメージを持っている方も多く、商品力もある。店舗拡大の可能性はあると思っている」と話す。

何を変えるのか

コンセプトを守りつつ店舗拡大を進める難しさを知るフレッシュネスで、改めて拡大路線を推し進めることとなった船曵社長。店を増やす上でのブランド戦略としては、「180度変えるわけではないが、“とんがり部分”を少し削る」つもりだという。

どのチェーン店もそうだろうが、フレッシュネスも始まりは個人商店だった。「とんがったコンセプト」を特徴とする、創業当初のような濃密な店作りを維持した上で店舗を広げるなら、「理想は20店舗くらい」というのが船曵社長の考えだ。「店舗数を100くらいに減らして、中身の濃い業態として渋く残っていくやり方」もあったというが、すでに多くのFC(フランチャイズ)オーナーを抱えるフレッシュネスとしては、数を減らす方向に進むのは難しい。それならば、変えるべきは変えて拡大路線を再び歩もうというわけだ。

2018年度からFC展開を加速し、2020年度には400店体制を構築する計画だ

では、例えば何を変えるのか。店舗改修を引き合いに出しつつ船曵社長は、新しくなった店の中には、あえてアーリーアメリカン調の内装を採用しなかった例もあるとした。

また、ファミリー層の多いフードコートでの出店では“おもちゃ付き”のキッズセットをメニューに採用。基本的にセット売りをしなかった方針を改めてランチセットを始めるなど、フレッシュネスは確かにイメージを変えてきている。

譲らない部分は

一方で、変えない部分として真っ先に挙がったのは「商品」に関する部分だ。「守るべきはハンバーガーのおいしさが一番。ただおいしいだけではなく、商品、内装、スタッフのユニフォームなどを含めた“オシャレ感”も残したい。商品展開については、例えばマンゴーバーガーやスパムバーガーのような(変り種を提案する)視点も持っておきたい」という。

社員・アルバイトからの高い人気とは裏腹に、売れ行きが芳しくないことから販売中止の可能性が浮上していた「スパムバーガー」だが、先頃の「生き残りキャンペーン」では見事に全商品中4位の販売数を記録し、メニューとしての存続が決まった

高くもなければ安くもないという感じの独特な価格設定については、今後も大枠で変えるつもりはないそうだ。「アッパーミドル」がターゲットと語る船曵社長は、アパレル業界で言えばファストカジュアルでもハイブランドでもない「セレクトショップ」のような立ち位置を目指すとした。

コンセプトの維持と店舗拡大は両立が難しそうなテーマだ。「社内でも賛否両論があっていい。しかし、いろんな意見を集約してしまうと、面白い店もできない。ある程度は意見を聞きつつ、ブランドのコンセプトを作る人は筋を通して、商品やデザイン、業態を作っていかないと。八方美人なブランドは受けないので」という船曵社長の言葉からは、ブランドの“とんがり部分”を削る作業の難しさも少し垣間見えた。

400店まで増えた時、フレッシュネスがどんな存在になっているのかは今後を見るしかないが、実際に、そこまで店を増やせるのかどうかも気になるところだ。その点について、船曵社長はどのような道筋を思い描いているのだろうか。

出店パターンが充実、FC展開で出店を加速

フレッシュネスでは現在、フードコート、大型商業施設、ベーカリー併設店舗、アルコールも提供する業態など、さまざまな出店パターンで実績作りとトライアルを進めている。業態によって投資がどのくらい必要で、どのくらいの収益率が見込めるかなど、資料作りを含めてビジネスモデルの構築を急ぐ。

2017年7月にオープンした「フレッシュネスバーガー聖路加タワー店」では、併設新業態として「フレッシュネスベーカリー」(画像)がスタートした

この作業には1年程度を要するというのが社長の見通しだが、ビジネスモデルが用意できればFCオーナーを募って店舗拡大を加速させる。FC展開としては、コロワイドグループの既存オーナーにフレッシュネスの出店を打診することも考えているそうだ。

店舗が増えると面白くなりそうなことがある。それは店舗限定メニューの発展だ。現状、フレッシュネスでは「大分とりてんバーガー」や「宇都宮野菜餃子バーガー」など、約10種類の店舗限定メニューを展開している。これらは現場からのアイデアを本部が商品化したメニューだが、店が増えればアイデアの出所も増えることになる。

大分とりてんバーガー(左)と宇都宮野菜餃子バーガー

食材の流通と衛生の問題もあるので、クオリティ・コントロールの観点からしても、限定バーガーのレシピを最終的に本部が作るのは当然だろう。しかし、全ての店舗で提供するメニューも1つの店舗で提供するメニューも、商品開発にかかる本部の労力は同じなので、店舗限定メニューを増やすことはチェーン店の効率的な運営と矛盾する部分がある。しかし船曵社長は、「100%ガチガチのチェーンではないというのもフレッシュネスのよさ」とし、限定メニューもフレッシュネスが守っていくべき1つのポイントだと明言した。

メニュー開発も内装も、ある程度はFC店に委ねる自由度がフレッシュネスにはある。例えば、FC店の内装は本部で決めるというのが基本ルールだが、店にとってプラスとなる現場での改善は容認する。実際に、熊本県にはオーナーの好みを色濃く反映した店舗も存在するそうだ。「ある程度の自由度」は、FCオーナーになることを検討する人にも響くポイントかもしれない。

丸くならず、やんちゃなバーガーチェーンに

「モスバーガーがクラスの優等生だとすれば、フレッシュネスは少しやんちゃな生徒」だと船曵社長は語っていた。400店舗体制へと拡大する中で、ブランドの“とんがり部分”を削りすぎて丸くなってしまえば元も子もないので、この二律背反に何らかの回答を示せるかどうかが、今後のフレッシュネスにとって大きな課題となるだろう。店を増やす過程で、フレッシュネスの自由度に惹かれて意欲的なFCオーナーが集まるような事態になれば、フレッシュネスは全国一律で同じ顔を見せる既存のチェーン店とは違った、新しいチェーンの在り方を示す存在になれるかもしれない。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。