モバイクはシェアサイクルで日本をどう変えるか

モバイクはシェアサイクルで日本をどう変えるか

2017.11.08

ここ最近シェアサイクル事業への注目が急速高まっている。とりわけ世界的にシェアサイクルを広めた実績のあるモバイクに参入し事業を始めたことで、一気に注目度を高めた。モバイクは日本人の生活をどう変えうるのか。モバイク・ジャパン Acting GMの木嵜基博氏に話を伺った。

モバイク・ジャパン Acting GMの木嵜基博氏

モバイクが描く新たな日常生活

モバイクは中国の北京に本社を置く自転車シェアサイクル事業を営む企業だ。2016年4月に中国上海でサービスを開始、わずか1年で世界180都市、700万台以上の自転車で事業を展開。一日に2500万回以上利用されているという。数多くの人がモバイクの自転車を使い、新たな移動手段として活用している。かつ、事業の将来性の高さから、中国のIT大手のテンセントや米ベンチャーキャピタルから多額の出資も受けている。

北海道札幌市で今年8月に事業開始した(画像:Mobike提供)

そんなモバイクは2017年6月に福岡県に日本法人となるモバイク・ジャパンを設立、8月に北海道の札幌市で事業を開始しており、日本の日常における移動手段を大きく変えうるプレイヤーとして注目されているのだ。

では、どういった世界が待っているのだろうか。少し具体的にしよう。たとえば徒歩15分程度の場所まで移動したいとする。歩くのは面倒だが、自転車が使えるならば別だ。この"使えるならば"を実現するのがモバイクというわけだ。

街中のいたるところにモバイクの駐輪ポートがあり、わずかな利用料金を支払うだけで、ちょっと遠くまで行けるようになる。電車通勤をする人ならば、オフィスに行ってからの移動手段は、電車もしくはタクシーとなるが、そこに自転車も加わるようになる。

木嵜氏は提供するサービスについて、「移動手段の新しいオプション」と表現、これによって、人の行動範囲を広げ、コミュニケーションや新たな経済活動を生みだしていくと見ている。

モバイク3つのキーワード

では、シェアサイクルをどのような考えで展開していこうというのか。同社には「スマート」「デュラブル」「レスポンシブル」というブランディングワードがあるという。これを知ることで、モバイクの特徴が大体わかるだろう。

スマート

スマートとは、最先端の技術を組み合わせ、最適なサービスを提供していくことだ。モバイクでは、駐輪ポート位置の確認、自転車の解錠、料金支払いをスマートフォンのアプリを介して行う仕組みを採用している。優れているのは、アプリを使って違法駐輪対策ができることだ。違法駐輪を発見した人はアプリからモバイクの車体IDを報告する。違法駐輪が報告されたユーザーは、予め付与された信用(点数)が減点される。信用がなくなればモバイクが使えなくなる仕組みだ。

アプリを介して現在地から駐輪ポートを検索可能
目的地までの距離とおよその利用料金の目安なども表示してくれる(最低利用料は30分50円から)

デュラブル

デュラブルは耐久性の高い自転車を意味する。モバイクでは、自社設計の自転車を採用。利用体験を損なわないように、また重大事故を未然に防ぐために、4年間のメンテナンスフリーの自転車を使っている。パンクすることなく、安心・安全に乗ってもらえる自転車作りに取り組んでいこうという考えだ。

メンテナンスフリーに近づけるべく、タイヤはパンクレスタイヤ。チェーンもなく内部はシャフトで後輪に動力を伝える機構となっている

デュラブルからは少し逸れるが、モバイクが自社規格での自転車を生産していることも興味深い。ハードウェアとしての自転車を常にアップデートし、世界の各地の都市の要望に応えられる自転車をスピーディーに製造できる。9月末公表の第4世代自転車は、大幅な軽量化が行われるとともに自動変速機能も備えたものとなった。起伏の多い都市にも適した自転車を提供できるようになるわけだ。

レスポンシブル

レスポンシブルはサービスを行う上での責任のことだ。乗車時のトラブル、放置自転車など様々な問題が起こりうる。このため、責任ある運営が必要であるという認識を強く持ち、事業運営に当たっているという。

こうしたキーワードを持ちながら、さらにベース部分を成す考えもある。それが「永続的な利便性の提供」だ。シェアサイクルを通じて都市を永続的に繁栄させることを目指しているのだ。

木嵜氏は「世界には自治体と結びつかずサービスインした他社もあるが、将来、自治体と目指す方向に食い違いが生じたとき、放置自転車問題につながってしまったり、街の景観を損ねてしまったりしかねない」とし、そのために都市交通において大きな責任を果たす自治体とのコミュニケーションが不可欠になるとしている。シェアサイクル事業は、パートナーの存在が重要となるが、モバイクは自治体と連携をしながら事業展開を図っていく考えだ。

モバイクが札幌の次に目指すエリア

モバイクの基本的な考え方は理解できたが、気になるのは、札幌市の次にどこでサービス展開を図っていくかだ。この点に関してはノーコメントとするものの、都心部に対して優先的に取り組んでいくとする。

都心部を選ぶのはビジネス的な側⾯を考えてのことだ。一般的な見解として、シェアバイク事業は、1台あたりの利用料が安く、より多くの自転車が1日に何度も利用されることで成り立つビジネスだ。都市部であるほど成立しやすい。逆に農村地域では成立しづらい。

都市部で成立しやすいとはいえ、多くの都市でコミュニティサイクルと称される事業は行われている。少し検索してみれば、意外なまでに様々な場所でサービス提供されていることがわかるはずだ。モバイクがエリア展開を図っていくなかで、ライバルがいないわけではない。既存の事業者がいる場所に割って入るような展開も考えられるのだ。

その点について木嵜氏は「サービスが1社しかないのは、競争がなく利便性が上がらない」と参入の余地があると見る。しかし「1都市に多数の事業者がいるような状況は線引きが必要になる。適切に管理運用できる事業者が複数社いるのは健全な状態だと思う」とする。

モバイクとしては、世界各国で事業を運営してきた経験、ハードとしての自転車、ソフトとしてのアプリ、行動指針としてのブランディングワードは大きな強みであり、多くの日本の都市に参入していける自信を持っているようだ。

とりわけ、ハード面では従来型シェアサイクル、いわゆるコミュニティサイクルの普及を妨げてきた課題を解消できる機構を持つことに強みがある。木嵜氏は、駐輪ポートへの投資が嵩んだことを従来型の問題だったと指摘する。自転車の貸し出し、ロック機構を駐輪ポートに備えなければならず、駐輪ポートに予算がかかり、自転車の台数、駐輪ポートが思うように増やせずにいたとする。

これを解消したのがモバイクだ。自転車側に貸し出しとロック機構を備えており、駐輪ポートの場所さえ確保できれば、従来比で低予算で利便性を向上させることが可能となっている。スマートフォンがあれば借りられるというメリットが利用者側にもあるわけだ。

実際問題としては、パートナーあって成り立つ事業であり、そう簡単に事は運ばない。自治体がどういった街づくりを望むのかが重要だ。その際に、モバイクが最適なのか否かといったことが判断が行われることになる。

新しい日常の形

さて、ここまでシェアサイクルの話を中心にしてきたが、興味深いのは、モバイクは単なるシェアサイクルの企業ではなく、テクノロジー企業であることだ。

テクノロジーによって、社会的課題の解決が行えるという考えを持つ会社だ。そしてシェアサイクルが日常に溶け込むことで、経済活動も変わりうる。モバイクが将来的に狙うのもその部分だ。具体的な仕組みまでは言及しないものの、木嵜氏は「(移動データに基づく)広告配信の最適化や民間企業や自治体向けに有用なデータを提供できる可能性がある」とする。

さらに誰もが利用する世の中になれば不動産の見方も変わる。駅徒歩15分の物件は、シェアサイクルで5分という表記になるかもしれない。それによって、不動産の価値も変わる。移動手段が変われば、人の行動が変わり、人通りが変われば、その道に並ぶ店舗も変わっていく。新たな生活インフラが新たな経済をつくり出していくことになるだろう。

こうした新しい世界が実現するには、大量のデータが必要となり、数多くのシェアサイクルが使われていることが前提となる。モバイクはまだ札幌市でのサービス展開しかしていないが、思い描く世界の実現に向け、どの都市でどのくらいの規模でサービスが始まるのか、次の一手が注目されるところだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu