インバウンドで開ける展望、東京の玄関口を目指す東京タワーの今

インバウンドで開ける展望、東京の玄関口を目指す東京タワーの今

2016.05.09

東京スカイツリーが完成し、地上波テレビの本放送という大きな役目を後継者に譲った東京タワー(管理・運営は日本電波塔)。観光客もスカイツリーに流れているのかと思いきや、昨年度の来塔者数は227万人で前年度から約15%増えている。特に増加が顕著なのは外国人観光客だ。絶妙な立地と高さを兼ね備える東京タワーは、東京を訪れる訪日外国人が必ず立ち寄る場所、つまりは東京観光のスタート地点とでもいうべき施設に発展する可能性を秘める。

電波塔としての役割は依然として重要

東京タワーは1958年に開業し、電波塔と観光施設という2つの側面で存在感を示し続けてきた。電波塔としては1959年にテレビ放送の電波発射を開始。在京テレビ局がスカイツリーにデジタル放送設備を移した現在も、スカイツリーのバックアップとして、いつでも地上デジタル波を発射できる状態を維持している。

電波塔としての東京タワーは現在、地上デジタル放送のバックアップ機能、「TOKYO FM」と「InterFM」のFMラジオ局2局の発信、マルチメディア放送「i-dio」の発信、「放送大学」テレビ・ラジオ放送の発信、無線中継基地局などの役割を果たしている。当然ながら、アンテナを設置している企業からは施設使用料が入る仕組みだ

日本電波塔 総合メディア部の澤田健課長は、「(スカイツリーに)電波塔としての機能がすべて移ったと勘違いされがち」と苦笑しつつ、東京に2つの放送インフラが存在する防災上の意義を強調した。

電波塔としての新たな可能性は?

地上アナログテレビの放送終了で空いた周波数帯を利用し、新たな放送サービス「i-dio」が始まったように、電波を用いた新規事業は今後も登場する可能性がある。インターネットを通じた動画・音声の配信が一般化しているとはいえ、電波には放送をクリアに、そして確実に届けられるという利点がある。電波送信施設の設置場所を貸す立場の日本電波塔としては、「(新たな放送事業を)いつでも受け入れられるよう、(鉄塔整備などの)準備をしておく」(澤田氏)方針だという。

現在も電波塔として機能する東京タワーだが、テレビの本放送という役割がスカイツリーに移ったことで、テレビ局からの施設使用料が大きく減ったことは想像に難くない。そこで注目したいのが、観光施設としての東京タワーの伸びしろだ。

スカイツリー開業も集客力は健在

言わずと知れた観光名所の東京タワーだが、ここ数年の来塔者数はどのような状況になっているだろうか。まずは推移を確認しておきたい。

東京タワー来塔者数は2015年度に盛り返している

近年の来塔者数を見ると、東日本大震災が発生した2011年度は前年に比べ大きな減少となっているが、スカイツリーが開業した2012年度には前年度比で増加に転じるなど、集客力は依然として高いという印象だ。2013年度から2014年度にかけては、鉄塔の耐震工事や商業施設「フットタウン」のリニューアルで営業時間を短縮。結果的に来塔者数も減っていたが、2015年度にはインバウンド効果もあり客足が戻った。2015年度は営業終了時間を従来の22時から23時へと延長したほか、限定の土産物などを取り扱うオフィシャルショップ「ギャラクシー」の売場面積を2倍に拡張するなど、観光面で攻勢を掛けた1年だった。

東京を舞台とするアニメやドラマに登場する頻度が高いこともあり、東京タワーは海外でも名が知れている。澤田氏によると、来塔者のうち外国人観光客が占める割合は現状で3割程度だという。

訪日外国人自体が増加している現状を考えると、東京タワーを訪れる外国人旅行者が増えているのも不思議ではないが、インバウンド獲得に結びついた要因として、東京タワーの立地条件を見逃すことはできない。

浜松町を経由する外国人旅行者がターゲット

東京タワーに程近い浜松町駅は、羽田空港を出発するモノレールの終着点でもある。入国するにしろ出国するにしろ、羽田空港を利用する外国人旅行客の一部は浜松町駅を経由する。

芝公園や増上寺を含む浜松町エリアは、外国人観光客に回遊の魅力を訴えるのにも適した場所。「このエリアが東京観光のスタート地点になれば」と澤田氏も語るように、東京タワーは立地をうまく活用し、外国人観光客の立ち寄りを増やしていく構えだ。浜松町駅に降り立つ外国人旅行客が東京タワーを経由し、徒歩圏内にある4つの地下鉄駅から東京観光に出発するというルートが定番となれば、東京タワーは東京観光の玄関口とでもいうべきポジションを確立できるわけだ。

大展望台(150m)から見た増上寺周辺。澤田氏は「もちろん特別展望台(250m)まで上がって欲しいが」と前置きしたうえで、「ぎりぎり人の表情が分かる高さ」に位置する大展望台からの眺望がオススメと教えてくれた

東京タワーが外国人観光客を惹きつける要因は、その眺望だけではない。人気アニメをフィーチャーしたテーマパークが、国内外の観光客に受けているのだ。外国人旅行者に対する東京タワーの集客力は、インバウンド対策に力を入れる企業・団体とのコラボレーションにも結びつきつつある。

ワンピースタワーが奏功

東京タワーの下にある商業施設「フットタウン」では、3階の一部と4階・5階の全面を活用し、人気アニメ『ワンピース』をフィーチャーした常設施設「東京ワンピースタワー」を2015年にオープンした。「蝋人形館」の閉館などにより空いたスペースを大胆に使用し、海外でも人気のアニメと組んで仕掛けた新たな施設が、外国人旅行者を呼び込む新たな観光スポットとなっている。

芸能事務所アミューズ子会社のアミューズクエストが主体となって企画・運営している「東京ワンピースタワー」。人気アニメ『ワンピース』をテーマとするアトラクションやショーが売り物だ。日本電波塔はスペースを貸し、このテーマパークに一部出資も行っている。施設のスタッフによると、来場者の割合で外国人客が日本人客を上回る日もあるそうだ

東京タワーを使ったインバウンド対策も

インバウンド対策に注力する企業・団体にしてみれば、東京タワーは情報発信を行うのにうってつけの場所になりつつある。例えばビックカメラは、展望台チケットに裏面広告を打つことで、東京タワーを訪れる外国人を店舗に呼び込もうとしている。展望台チケットは、ビックカメラでの買い物の際、ポイント付与率をアップさせるクーポン券として使用できる。インバウンド対策に注力したい両社の思惑が合致して実現したビジネスモデルといえるだろう。

外国人旅行者による日本での買い物を後押しする一般社団法人のジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)は、東京タワーで年に2度、首都圏の買い物情報を外国人旅行者向けに発信するイベントを実施している。夏と冬に情報カウンターを設置し、東京で買い物を楽しむのに役立つ情報を発信する取り組みだ。

ビックカメラとのコラボレーションを知らせるポスター(写真左)。ビックカメラへのアクセスについて問い合わせを受け、東京タワーの職員が最寄店舗への道順を教えることもあるという。JSTOが年に2回設置する情報カウンター(写真右)では、外国人旅行者向けに首都圏の店舗情報などを提供する

海外からの観光客を呼び込みたい地方自治体にとっても、東京タワーは魅力的な場所に映るはずだ。東京タワーでイベントを開催する地方自治体はもともと多いが、今後はインバウンド対策をテーマとした催しが増えるかもしれない。4月からはウィラー・トラベルが東京タワーを発着地とする長距離バスの運行を開始している。このバスの到着地と東京タワーが、インバウンド対策のイベントで手を組む可能性も考えられる。

観光案内所としての施設づくりも選択肢の1つに

外国人旅行客の増加により、東京タワーは観光施設として新たな成長の可能性を示し始めている。収入の割合は現時点で、展望台チケットや直営土産物店の売り上げなどの観光収入が6割、テナントからの家賃収入や電波塔としての施設使用料などの不動産収入が4割という内訳だが、不動産収入が急に増えることは考えにくいため、今後の変動幅が大きいのは観光関連の部分ということになる。

観光収入を伸ばすのであれば、やはりインバウンド対策の充実が不可欠となる。海外での知名度と好立地により、外国人来塔者を順調に伸ばす東京タワーだが、東京観光のスタート地点という立ち位置を確立するためには、外国人旅行者が立ち寄りたくなるような施設づくりを今後も進めていく必要があるだろう。その立地と展望台をいかした発展の方向性として、例えば東京の観光情報や買い物情報などを更に充実させ、外国人旅行者向け観光案内所のような将来像を追求するのも有効な選択肢かもしれない。

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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