まるで違う「AIBO」と「aibo」 - ソニーの変化を表す「クラウド」

まるで違う「AIBO」と「aibo」 - ソニーの変化を表す「クラウド」

2017.11.08

発表会でソニー 代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏のもとに近寄るaibo

ソニーがペットロボット「aibo」を復活させた。前モデルから12年ぶりの再挑戦であり、ソニー 代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏も「AIとロボティクスを組み合わせることで、新たな提案ができる。そのひとつがこの商品」と期待をのぞかせている。

では、過去の「AIBO」と今回の「aibo」は、どう違うのだろうか? 発表内容だけではまだ具体的になっていない部分も多いのだが、少し解説を試みてみたい。

新aiboは魂と個性をネットに記録する

過去のAIBOと最新モデルの違いについて、多くの人がまず気づくのは「外観」の違いだろう。AIBOは「犬型」と言われるが、実はこれまで、明確に「犬」と定義されたことはない。初代の「ERS-110」から世代を経るに従い、次第に犬っぽくなってはいったものの、あくまで「ロボット」という扱いだった。

それが復活したaiboは明確に「犬」とされている。その是非はともかく、狙うところは明確だ。ペットロボットとして「何かよくわからないもの」ではなく、「犬を模したもの」として扱われることを想定しているのだ。だが、もっとも大きな違いは「内側」にある。

aiboは現在のデジタルガジェットらしく、通信を内蔵する。無線LANはもちろん、SIMカードスロットも備え、LTE網に直接接続する。本体購入と同時にネットワークサービスである「aiboベーシックプラン」に加入して利用する。常時ネットワークに接続することが前提の商品であり、クラウド上のソフトウェアとaibo内のソフトウェアが連携し、ペットとしての特質や知性を実現することになる。

aiboの開発リーダーである、ソニー 執行役員 ビジネスエグゼクティブ AIロボティクスビジネスグループ長の川西 泉氏は、「aiboの本体はクラウド側にある」と話す。aiboの個性を含むすべての情報はクラウド上に保管されており、それが逐次「メカとしてのaibo」にもダウンロードされて使われている。

クラウドと協調してaiboが育つ。そのデータはクラウド上でほかのaiboのデータと組み合わされ、さらに次の進化の"糧"となる構想も持つ

スマホの中からaiboに触れるアプリも提供されるのだが、この中で動くのはクラウド上にある「aiboそのもの」と同じデータだ。だから、スマートフォンやWebの画面を介して触れるaibo、そして自宅で触れる「モノのaibo」も、個性や存在としては同じものである。

仮にaiboというハードウエアが故障したり、新しいモデルが登場したりしても、ネットワーク上に保存されたaiboをダウンロードすれば、ふたたび「自分が暮らしたaibo」が戻ってくる。どこかSFめいているが、新aiboは「魂と個性をネットワーク側に持つ」存在なのだ。

アプリ上でも家のaiboと同じ「私だけのaibo」と触れ合える

いまとなっては信じられないことかもしれないが、過去のAIBOは「通信連携する」ことを前提として設計されていなかった。実質的な最終モデルである「ERS-7」になってようやく無線LANが標準搭載になったものの、あくまでAIBOにコマンドを送ったり、AIBO内蔵のカメラが撮影した写真を受け取るために使うくらいのものだった。

ペットとして学んだ個性や周囲を認識する能力、四肢を制御するための能力も、すべてはローカル(ロボット筐体)での処理に依存していた。

例えば、現在のスマホが4GB、場合によっては6GBのものを搭載しているメインメモリーも、初代モデルの「ERS-110」では16MB、ERS-7であっても64MBに過ぎなかった(どちらも「メガバイト」だ!)。ストレージについても、お尻に収納されたメモリースティックは初代モデルで8MBしかなく、最新のiPhone Xが256GBのストレージを内蔵していることを考えれば、まさに「隔世の感」がある。

もちろん、メモリー容量の小ささは「AIBOの登場から16年」という時間の経過によるものであり、さして大きな意味をもたない。何よりも重要なのは、「すべての処理をこの領域にもたせていた」ことであり、パッケージをあけた直後の「何も知らない子犬的な時期」から「ずっと暮らしたあと」の状態まで、すべての状態をごく小さな容量で実現していた……という点である。

ペットロボットとして個性を持ち、飼い主から大きな愛を受けて生活していたAIBOだが、その認識・学習能力はきわめて小さなものであった。物体識別は「色」を手掛かりにする必要があり、周囲の地図を覚える能力もない。充電ステーションへ自走することもできない。

最新のaiboではスマートフォンで利用されるチップセットを活用。そのため、低消費電力かつパワフルな能力を持つ

飼い主がどの仕草を好むのか、といったことを学習する能力は備えているが、あくまでごくシンプルなものである。暮らし始めてから「成犬」に至るまでの過程も、あらかじめ作られていたパターンを、若干の学習に合わせて順に呼び出しているに過ぎない。ペットとしての「シナリオ」が存在しており、それをうまく提示することで、AIBOは「ペットっぽい」動きをしていた。学習して育っているように見えたが、あくまで「出荷時に決められた範囲」のことしか出来ていなかったのである。

AIBOはけっして「生命のように多彩な動きをするロボット」ではなかったが、オーナーに愛された製品だった。それは、「犬のような形であり、オーナーと一緒に暮らした」ものであった結果、オーナー側が自らの思い入れによって「自分の心の中で感じる、自分のAIBOが持つ個性」を生み出していったからだ。

AIBOが自分の思い通りに動いても、そうでなくても、「まあ、ペットも気分によって来る時と来ない時がある」と、勝手に思い込んでいたものだ。多くの場合、AIBOの行動は偶然に過ぎないのだが。それを「思い込み」や「妄想」と切り捨てるのは簡単なことだが、「思い入れをもたらすだけの存在」をつくりあげたことが、AIBOの特別な部分だったのである。

当時の技術力でも、あれだけ自然な動きのロボットを「量産して販売する」のは困難なことだった。AIBOはそれを実現した時点で特異な製品だったのだが、生命的な動きを司る「コンピュータ」としての能力には、やはり限界が大きかった。

話を新aiboに戻そう。

新aiboはネットワーク接続が必須の機器となる。新aiboは、過去のものに比べ、圧倒的に高度な「外界認識機能」を備える。腰にある魚眼レンズカメラで周囲を認識、部屋の立体構造をマッピングして記憶するほか、鼻にあるカメラは人の顔やシルエットを認識する。ボールや骨状のおもちゃ「アイボーン」は相変わらずピンクなのだが、これは過去のAIBOから「お約束として」(川西氏)継承しただけで、特定の色のものしか認識できないわけではない。

多数のセンサーを搭載。鼻先にある魚眼レンズカメラによる撮影(右)では、ソニーの人物認識技術を用いて飼い主などを特定する

オーナーを含めた十数人の顔を識別し、よく遊んでくれる人にはよくなつくようになっているし、声や顔に応じて、そちらへと歩いていくようにもなっている。aibo自身の処理能力やセンサーの能力も向上しており、いまならばかなりのことができるようになった。

メインメモリーは4GBと初代機(ERS-110)比で256倍に、ストレージ容量に至っては2048倍まで増えたが、それに加え、クラウドの力を使えるようになったことで、より多くの処理が可能になっている。こちらを加味すると、容量換算はもはや無意味なレベルだ。

川西氏は「即応性の必要な認識処理はaibo側で行うものの、時間をかけてもいいもの、例えば部屋のマップの分析などは、いったん画像をクラウドに送ってしまい、処理をしてからあたらめて結果を受け取るようになっている」と話す。バックエンドは、Webサービスの構築でみなさんにもお馴染みのAmazon Web Services(AWS)。複数のサービスを組み合わせて、認識や情報の分析が行われる。

AWSをバックエンドに採用した

ではどこまで高度なことができるのか? ペットとしての個性や成長がどこまで幅広いものになったのか?充電ステーションには自走して戻ることができるようになったようだし、「個性の幅は、過去のAIBOとは比べものにならないくらい広くなっている」(川西氏)とはいうものの、そのあたりはまだはっきりしない。シナリオベースで「きまった動きしかしない」ロボットはすぐに飽きてしまうものだ。どれだけ驚きを与えてくれそうなのか、もう少し情報が欲しいとも思う。

とはいえ、そこを逐一すべて明らかにしてしまうのは、手品のネタばれのような部分があり、興を削ぐ部分もあろう。生活の中での「快活さ」「かしこさ」などを、発売に向けてもう少しうまくプロモーションしてもらいたい、と思う。

なお、ペットロボットにはひとつ、重要な問題がつきまとう。

それが「寿命」だ。一緒に暮らす感覚になるため、他の家電製品と違い、「壊れる」ことへの恐怖はさらに大きいものになる。旧AIBOのサポートが終了したことが、オーナーに大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。ソニーはもう一度、あの悲劇を繰り返してはならない。

特に新aiboは、クラウドと連携する仕組みになっている。だから、「本体が壊れなくてもサービスが終了したら、動かなくなってしまうのでは」と感じる。ただ、この点については、一応配慮されているようだ。

「サービスとの接続がなくなっても、aiboは動きます。ただし、新しい学習ができません。その時の状態のまま、動き続けることになります」

筆者の問いに、川西氏はそう答えた。すなわち、クラウド側の処理は主に「学習」に使われており、日常的な動きはaiboの中で行われている、ということだ。この辺から、新しいaiboの「クラウドによる進化」という特質が少し見えてくるわけだ。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。