日本に専売店60店舗? 「ジュリア」発表のアルファロメオが強気な理由

日本に専売店60店舗? 「ジュリア」発表のアルファロメオが強気な理由

2017.11.09

アルファロメオが強気だ。フィアットやアバルトなどを手掛けるFCAが持つブランドの1つだが、このほど日本で専売店60店舗を整備する方針を打ち出した。新車「ジュリア」の発表と同時に強気の姿勢を鮮明にしたアルファロメオだが、その勝算は。FCAジャパン取締役で営業本部長の牛久保均氏に聞いた。

FCAジャパン取締役で営業本部長の牛久保均氏

ジュリア導入でディーラー網を再構築、専売店設置へ

アルファロメオの新車「ジュリア」の発表会場は、記者席が一杯になるほど熱気を帯びていた。式次第は、FCAジャパン代表取締役兼CEOのポンタス・ヘグストロム氏による新車紹介に加え、アルファロメオで外観(エクステリア)デザインのチーフデザイナーを務めるアレッサンドロ・マッコリーニ氏がイタリアから来日し、107年に及ぶ同社の伝統と、受け継がれてきたデザインの系譜を熱く語った。

FCAジャパンが10月に発売したアルファロメオ「ジュリア」

ジュリア導入に寄せるFCAジャパンの期待が伝わる新車発表会であった上、さらに関心を呼んだのは、これを機にアルファロメオのディーラー網を再構築し、専売店を日本全国で展開するとの発表であった。

アルファロメオは「156」(1997~2005年)や「147」(2000~2010年)のあと、「ミト」や「ジュリエッタ」を日本に導入しているが、1980年代後半に登場した「164」以降の3桁数字の車名を使った時代に比べ、存在感が薄まっているのは事実だろう。そこに、専売店での販売網構築という話が出てきたのだ。FCAとして、フィアットやアバルトと併売するのではなく、単一ブランドでの販売店で商売を成り立たせていけるのか、という心配や驚きがあった。

「ジュリア」から変わるクルマづくり

これには、アルファロメオという伝統の銘柄をいかに復活させるかについて、イタリア本社が動きだしたことが関わっていそうだ。新型ジュリアは、フィアットの部品を共有した前輪駆動方式を止め、後輪駆動のプラットフォームを開発し、採用した車両だ。

「ジュリア」はアルファロメオの伝統を再び輝かせられるか

エンジンも独自に新開発し、これに8速オートマチックトランスミッション(自動変速機)が組み合わされる。その自動変速機は、前輪と後輪の重量配分を50:50に近づけるため、後輪を駆動するデファレンシャル近くに配置され、まるでスポーツカーのような搭載方法を用いている。例えば、最低でも1,000万円近い日産自動車「GT-R」が、この方式を採用している。

販売価格が446万円からという4ドアセダンのジュリアに、そうした特殊な変速機搭載方法を用いてまで、前後重量配分の最適化にこだわり、走行性能の高さを追求した新車開発を行ったことを考えると、新車発表会場での熱気も、さもありなんと思うのである。

前輪と後輪の重量配分を50:50に近づけるべく工夫された「ジュリア」

アルファロメオ専売店設置は必然、気になる採算性は?

より大衆的なフィアットとは、採用技術を別にしつらえたアルファロメオの誕生には、販売する店もまた、別仕立てが必要になった。こう聞けば、専売店化の話も筋道が通ってくる。だが、まだ発売された新車はジュリアのみである。経営は成り立つのだろうか。牛久保氏は次のような手立てを語った。

「来年の早い時期には、ジュリアに加え『ステルヴィオ』も発売となることは、ジュリア発表会の場でCEOのポンタス・ヘグストロムが申し上げています。とはいえ、現状で新車が1台しかないところで経営が成り立つのかという点について、正直、私も厳しいと考えています。そこで、当初の44店舗の専売店については、ほとんどが既存のディーラー様にお声を掛けさせていただいています。そして、これまで販売されたアルファロメオ車のサービス売り上げで補完していただくように考えています」

来年の早い時期には、アルファロメオ初のSUV「ステルヴィオ」も発売となる(画像提供:FCA)

点検や整備、あるいは修理といった納車後の維持のための売り上げは、無視しえない金額に達する。例えばフォルクスワーゲンは、初代「ビートル」を含め、長く乗ってもらうこともディーラーの売り上げに貢献していると話す。そのため、ことに欧州の自動車メーカーは、古いクルマの部品をなお供給し続けている。

サービス事業の売り上げを当てにすることにより、アルファロメオの専売店化を既存ディーラーから推進することは、無理のない筋書きなのだ。

赤と黒の外観、営業トレーニングはリッツ・カールトンで

アルファロメオ専売店は、どのような形で始まっているのか。店の外観は赤と黒で統一され、そこにアルファロメオの文字と、アルファロメオのロゴが配されている。店内は、サローネ・ロッソ(赤い客間)を基軸に、ホテルのラウンジのような空間を演出しているという。牛久保氏は狙いを次のように語った。

赤と黒で統一された専売店の外観。画像は2017年10月にオープンした国内8店舗目となる専売店「アルファロメオ小山」(栃木県)だ(画像提供:FCAジャパン)

「黒を敷いた店内の目立つ場所に最新のクルマを置き、これまでも店内にソファーは置いていましたが、そこをよりくつろげる空間としたり、コーヒーバーを設けたりして、VIP感覚を味わっていただけるようにしています。もちろん、携帯電話などの充電コンセントや無料Wi-Fiなど、日常的にお使いの機器を不便なくご利用いただけるようにもしています」

「スタッフはジャケットとスラックスの姿で、ネクタイには色を指定するなど、フィアットでは親近感を出すためポロシャツでもかまわなかったですが、そこを明確に分けています。そうした営業の方々のトレーニングを、リッツ・カールトンで開催するなどして、これまでとは違った顧客満足をいかに高めるかに取り組んでいます」

ネット普及で変わるクルマの買い方、販売店は“一期一会”

同時に、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)の一環として、ネットでの問い合わせに対する迅速な対応も心掛けているという。

「インターネットでお問い合わせをいただいたお客様に、いかに早く対応するか。例えば米国では、ネットでのカタログ請求に24時間以内で対応することを行っています。一方、国内では、まだそこまで意識が高まっていない面がありました」

「また米国では、10年前には5.4回の来店で(クルマの)購入を決める傾向でしたが、今日では1.7回に来店回数が減っています。それは、事前にネットで情報を得た上で、実際にクルマを見てみなければわからない、質感、肌触り、走りの楽しさなどを(実際に来店して)確認するだけとなっているからです」

顧客がクルマの購入を決めるまでに来店する回数は減っている(画像はアルファロメオ専売店の内観、提供:FCAジャパン)

「国内市場も、そうしたお客様の動向に適した店側の対応ができるようにしていかなければなりません」。このように牛久保氏は付け加える。

先進装備を充実し、レースの栄光を盛り込む

接客と同時に、新しいアルファロメオをどのように売っていこうとしているのか。今年から、ブランドコミュニケーションテーマとして「IQ/EQ」を打ち出している。IQは知性、EQは感性を意味する。

「IQの面では、技術を駆使し、これまで不十分であった安全装備の充実を推し進めていきます。EQはアルファロメオらしい感触や臭い、あるいは走行感覚といったことになります。例えば、ドイツのニュルブルクリンクの周回タイムにおいて、市販のセダンとしてジュリアもステルヴィオも最速を記録しています。かつてのレースにおける栄光の歴史を、ブランドとして押し出していきたいと考えています」

「競合となるメルセデス・ベンツ、BMW、アウディなどに対しても、乗って楽しいということを訴えていきたいと思います」

乗って楽しいクルマだという「ジュリア」(画像はジュリア ヴェローチェ)。都内を試乗していると、すれ違う歩行者からの熱い視線を感じることが何度かあった

ジュリアの開発では、最上級の高性能車種である510馬力エンジンを搭載した「ジュリア クアドリフォリオ」をまず作り上げ、その技術をベース車種のジュリアに展開させる手法を採っている。ここは、ベース車種にサブブランドとして「AMG」(メルセデス・ベンツ)や「M」(BMW)といった高性能車種を追加でそろえるドイツメーカーとは、やり方が異なるという。

ドイツ車と比較する顧客も

さて、まだ今年8月から始まったばかりの専売店展開だが、手応えはどうだろうか。

「ジュリア発売の10月のフェアなど、2週間で3,000人の来場をいただき、300台の受注残を得ました。来場されたお客様は、メルセデス・ベンツ、BMW、レクサスなどにお乗りの方が見られ、比較していただいているのがわかりました。そこに、手応えを感じています」

「販売店からは、従来はフィアットやアバルトとの併売であったため、どちらに関心のあるお客様か分かりかねるところがあったのが、専売店化により分かりやすく、楽になったという声が出ています。こうしたことから、アルファロメオの専売店化は、やるべきであったし、的を射た戦略だったと自信を深めています。あとは販売台数という結果だけなので、ドキドキもしています」(牛久保氏)

牛久保氏はアルファロメオ専売店化に手応えを得ている様子。気になるのは「ジュリア」(画像)の売れ行きだ

ドイツ勢が形成するトップ集団に肉薄できるか

専売店化は、来年2018年中に60店舗へと拡大する計画がある。

「FCAジャパンは直営店を持っていませんので、現在、都心や横浜の中心部がディーラー網の空白地帯となっていて、そこに課題を残しています。出店のお話はいただいていますが、ジュリアや、この後に導入となるステルヴィオの販売動向を見てというのが、出店の判断のしどころとなっているようです。今後、テレビコマーシャルを増やし、自動車雑誌などでも記事が掲載されるでしょうから、そうした効果も待ち遠しいところです」と、牛久保氏は期待する。

では、ドイツの競合が鎬を削るDセグメントで、アルファロメオはどこまで食い込めるのか。牛久保氏は「販売店数でドイツ勢の4分の1ほどですから、Bクラスのトップを狙いたい。それが現実的な目標になるでしょう」と話す。ジャーマンスリーが形成するトップ集団の後に付けたいというのがアルファロメオの目標だ。

ドライバー中心という考えから、人とクルマが一体になれるクルマ作りをはじめたアルファロメオ。第1弾のジュリアは、そんな期待に応えるであろう、壮快な運転を楽しませるクルマである。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。