冬の定番をめぐる外食界の攻防、吉野家が「牛すき鍋膳」で今年も参戦

冬の定番をめぐる外食界の攻防、吉野家が「牛すき鍋膳」で今年も参戦

2017.11.15

11月1日より全国発売が始まった吉野家の「牛すき鍋膳」。発売から5年を経て、冬の定番商品として認知されつつある「鍋」を通じて、吉野家の販売戦略を見通してみたい。

今年も発売となった吉野家の「牛すき鍋膳」

吉野家が強調した「テイクアウト」の重要性

まず、10月30日に行われた商品発表会において、今年の「牛すき鍋膳」について説明を受けた。変更点は出汁の味と野菜の増量だ。特に野菜については、半日分の野菜が取れる量を盛り込んだという。商品としては、他に「地域限定鍋」も発売となる。

販売戦略として特に強調されていたのが「テイクアウト」だ。昨年からの取り組みだが、意外に流行っていない。アツアツの鍋をつつくからこその「牛すき鍋膳」なのだが、自宅でも楽しみたいという顧客の声に応えた取り組みだという。今年はテイクアウト限定で、肉だけ並盛りサイズ4食分の「牛鍋ファミリーパック」も販売する。

発表会にはコマーシャルを監督した福田雄一さん(右)と出演者の佐藤二朗さん(中央)も駆けつけた。左は吉野家の河村泰貴社長

登場初年は大混乱

発売初年となる2013年には店舗が混乱し、大勢の顧客の要望に応えきれなかった程の話題を呼んだ「牛すき鍋膳」。5回目の登場となる今年は、店舗サイドでも万全の準備をして臨んでいる様子だ。

「牛すき鍋膳」の基本は、顧客の前で完成する「鍋」であるということだ。半調理された具材を鍋に入れ、固形燃料の火力で顧客の目の前で完成させる。アツアツの鍋をほおばる姿は、全面ガラスにより店舗の外からも見ることのできる「冬の風物詩」ともなってきている。

うまい、やすい、ごゆっくり?

2013年に米国産牛肉の輸入規制が緩和されたことにより、吉野家としては、同社が目指す味わいを持つ月齢の素材が手に入れやすくなった。牛丼の価格を値下げした年と記憶される年であるが、「うまい、やすい、ごゆっくり」をコンセプトとした「牛すき鍋膳」はこの年に産声を上げた。「うまい、やすい、はやい」が企業文化であったところに、あえて「ごゆっくり」を掲げて新商品を誕生させたわけだ。

2013年には並行して新たな実験も行われていた。素材をすべて生から調理する鍋を提供する、1人鍋に特化した吉野家の新業態「いちなべ家」である。IHコンロで1人鍋を十分に堪能する機会を提供する仕組みでスタートしたが、やはり、生からの調理には時間がかかることなどを理由に、現在は実験が終了している。本格的な「鍋料理」の味を追求したものの、提供方法や調理時間、店舗の形態など、やはり限界があったと想像できる。ただ、実験の結果として、吉野家の「鍋」は、半調理の具材を詰め合わせて調理時間の短縮と味の再現性を高める現在の形にたどりついたとも言えるだろう。

「牛すき鍋膳」は「ごゆっくり」というコンセプトで登場した

吉野家が目指す「テイクアウトの充実」

吉野家が最も重要視する指標の1つは集客だろう。景気回復と言われながらも、コンビニなどで弁当や食材を購入し自宅で食べる「中食」はブームを超えて定着している。その実情は、コンビニの弁当売り場の品ぞろえが物語っている。外食が対抗策として戦略を練ったのは、まず、店内消費であるイートインの強化と持ち帰りのテイクアウトだ。

「中食」に対抗するテイクアウトだが、スーパーやコンビニの商品と差別化できなければ選ばれる存在とはなりえない。今年の戦略の目玉に「テイクアウト」を掲げる吉野家では、社長自らが力を込め、店頭ポスターだけでなくCMの最後にも、「テイクアウト可能」ということを意識させるシーンを入れたほどだという。

ポスターにもテイクアウト可能である旨が目立つよう明示されている

では、「牛すき鍋膳」の持ち帰りはどのような感じなのだろうか。早速、テイクアウトを試そうと店舗に足を運んだ。準備を待つ「鍋」が山のように重なり、中にはセットされた野菜が詰められている。牛肉は調理を済ませ別のトレイに並べられて出番を待っている。店内消費と異なり、テイクアウトの場合は煮込んで「完成品」としてから顧客に手渡される。そのため、注文時に「お時間をいただきます」と説明を受けた。

半調理の商品に店舗で熱を入れて仕上げた「アツアツ鍋」。注文から待ち時間は少々あるものの、手に取った時の温かさは心地よい。レンジではなく、実際に火床で完成された「鍋」は期待値を盛り上げる。テイクアウトにこだわった専用容器の効果もあるのだろうが、自宅までの10分強は比較的、温かさを保持した状態で持ち帰ることができた。

「鍋」はコンビニ対策にも効果的

「牛すき鍋膳」の発表会に登壇した吉野家の河村社長によると、吉野家で全メニューに占めるテイクアウトの割合は25~30%だが、「牛すき鍋膳」に絞ると、その割合は1割ほどになるという。半調理とはいえ、店舗内で提供までに使う時間はそれなりに必要だ。他の商品と比較しても、回転率は下がることになる。しかし、テイクアウトは店舗の座席を占有しないので、回転率という視点から見ると、「鍋」においてはテイクアウトの方がありがたいという結果となる。

テイクアウト比率が極端に低い「牛すき鍋膳」

回転率だけではなく、コンビニ対策においても持ち帰り「牛すき鍋膳」の存在は大きい。コンビニで出来たてアツアツの商品は、フライヤー関連の商品である揚げ物が中心だ。おかずなどの総菜類はチルドでショウケースに並ぶ。その点、「牛すき鍋膳」はコンビニが持ちえない商品価値を有していることになる。

個食のニーズは確かに、コンビニで満たすことが可能だが、コンビニだけで個食の需要を全て充足することは困難だ。その供給を補完する1つのアイテムが「アツアツの鍋」なのではないだろうか。

単価アップより困難な客数アップに再挑戦

来店客が少なければ売り上げは伸びない。そのためにも、来店数をいかに上げるかは重要な課題だ。そこで、吉野家は来店動機を創出する取り組みを2017年9月に開始した。「おろし牛カルビ定食」などの「夕食限定商品」だ。コンビニなどの「中食」対策も肝要だが、やはり来店客の増加は必要だ。そのための取り組みが、「吉野家で夕食を」という戦略だ。

吉野家が夕食需要を取り込もうとしている

2015年から夜間帯の集客増を目論み「よし呑み」をスタートさせた吉野家。帰宅前に一杯となると、やはり男性客の数は増えたが、一方で女性客は減少し、他社に流出するという結果を招いた。消費者から見た吉野家のイメージは、“カウンター席と中年男性”なのではないだろうか。残念ながら、女性客とファミリー層の集客に後れを取っている感は否めない。

そこで、新しい戦略として「吉野家で晩御飯」が考え出されたわけだ。“呑み”を前面に出さず、温かい夕食を提供する場所として来店機会の創出を狙った戦略だ。「牛すき鍋膳」への注力具合もこの文脈で説明できる。

ただし、想定通りの顧客が来店しなければ、売り上げは向上しない。要するに来店客の増加は、顧客に来店してもらえる「価値を創出できているか」にかかってくる。

コンビニも、店内消費を狙ってイートインスペースを確保するチェーンが増えている。消費者の選択肢が多様になる中で「牛すき鍋膳」も進化しているが、当然、他社も商品開発に力を込め、自慢の鍋で仕掛けてくることだろう。

定番商品の条件とは

冬の定番商品といえばクリスマスケーキ。テーマソングやメーカー名、商品名が頭に浮かぶが、「ペコちゃん」が店舗の前に立つケーキ店を思い浮かべる人は少なくないだろう。ファストフードでいえば「グラコロ」(マクドナルド)が冬の定番として不動の存在感を示す。企業にとって定番商品は、その店を一定以上の消費者が認知していることを物語る指標となるし、発売すれば一定以上の販売効果をもたらす商品があることも意味する。

それは、分かりやすくブランディングができているということともイコールだ。自然に名前が想像できる商品は、実はそう多くない。

定番商品と名乗るためには、やはり毎年顔を見せることが重要な要素となる。同じ顔をしていれば、少しの成長や進化は許容される。逆に毎年、違う顔で登場すると、消費者は同じ商品として認識できないため、定番商品には育たない。

商品の認知度が高ければ、余計な説明も不要となり、あとはファンが自然とフォローしてくれる。ブランディングは単に知名度を上げるだけではなく、顧客満足度や顧客ロイヤルティーを高める武器ともなる。顧客ロイヤルティーが高い商品・企業として有名なのが、外食産業ではモスバーガーと言われている。他社でどんな新商品が出ようが、コアなモスファンは見向きもしないと伝えられているほどだ。

「鍋といえば吉野家」は確立するか

「牛すき鍋膳」を確固たる冬の定番として定着させたい吉野家。「鍋といえば吉野家」という認識が確立すれば、同社のコミュニケーション戦略は奏功していると見てよいだろう。

吉野家は「牛すき鍋膳」を冬の大定番に育て上げられるか

定番商品は、努力して作れるものではない。逆に、努力しなくても「定番」となってしまう商品も存在する。要は消費者に価値が伝わり、消費者から変わらぬ支持を得られる存在になれるかどうかが重要なのだ。

冬のボーナスシーズンを前に、懐ではなく胃袋を温めてくれる「鍋」のシーズンが到来した。吉野家は「鍋」のパイオニアとして、他社商品にはない価値を創造し、定番商品としての立ち位置を確かなものにしようと今年も仕掛けている。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。