ドコモ・バイクシェア 全国2万台の理想

ドコモ・バイクシェア 全国2万台の理想

2017.11.16

東京都心部を歩くと、赤い電動アシスト自転車を見かけることが増えた。実は今、都心部において自転車を気軽にレンタルできるシェアバイクの利用が急速に増えている。事業運営をするのは、ドコモ・バイクシェア。堀清敬社長に聞くと、街中を自転車で移動する"ちょい乗り自転車"がもっと身近になりそうだ。

この赤い自転車を見かけたことのある人は少なくないはず

日本最大の事業者

JRや地下鉄、交通網の発達した都心部においても、移動しづらい場所はある。地下鉄を使っても、歩いてもかかる時間は大して変わらないような場所だ。

そんなときにあったらいいな、と思えるのが自転車だ。普段、歩いていた道のりを自転車を借りて移動する。しかも、その自転車の返却は借り先ではなく、指定のバイクポートであればどこでもいい。そんなサービスを自治体の受託事業という形で提供しているのがドコモ・バイクシェアである。

年度別利用回数の推移(ドコモ・バイクシェアの資料をもとに編集部作成)

もともとは、NTTドコモが横浜市で2011年にサービスを開始したのが始まりだ。以降、2012年に江東区で、2013年に仙台市でサービスを開始し、2014年には千代田区、港区でも事業を受託。2015年にはドコモ・バイクシェアとして法人化した。その後も東京都心部を中心にエリアを広げ、今では全国23拠点(10月末時点)、自転車5671台、サイクルポート521カ所(2017年9月末時点)でサービスを展開する国内最大の事業者となっている。

そして、サービスの利用は今、急速に増えている。2011年度では年4万回の利用だったのに対し、2015年度では年100万回に到達。2016年度は220万回(都内のみで180万回)となり、今年度は年500万回の利用も見込んでいる。

利用が急増したのは、サービスエリアの拡大が大きな要因となりそうだが、真相はどうなのだろうか。

利用が急増したワケ

急増した要因について堀清敬社長によると、都内における自治体の広域連携が実現したことが大きいという。先に挙げたように、2016年度実績をみても利用の8割は都内だ。

利用が急増したのは自治体の広域連携が実現したからと話すドコモ・バイクシェアの堀清敬社長(撮影:磯崎威志)

都内では、2016年2月から江東区・千代田区・港区・中央区の4区において広域連携が始まった。これにより、4区内のバイクポートであれば、どこでも貸出、返却が可能となり、サービス利用の自由度が大幅に向上したのだ。現在では渋谷区、新宿区、文京区も加わり、都内7区でのさらなる広域連携が実現している。新たにサービスを始めた練馬区、品川区も広域連携に加われば、利便性はさらに高まりそうだ。

「広域連携により、使える駐輪ポートが増えた。我々は"ネットワーク効果"と呼んでいるが、駐輪ポートが増えればサービス利用も指数関数的に増えていく。そうなると露出が増えて認知度が高まり、さらに利用が増える」(堀社長)と話す。

認知度という面では、世界180都市でサービスを提供するモバイクが日本での事業参入を果たし、DMM.com、メルカリの事業参入検討を公表するなど、多くのメディアで取り上げられたことも一役買っているようだ。こうした外部要因も含めて、最近は、駐輪ポートを設置して欲しいという問合せも増えているという。

さらに最近大きな伸びを示し、力を入れているのが法人営業だ。都内で350社、2000弱ほどの契約数を抱えるまでになり、利用社数は増えている。

実は、この法人利用によって、思いがけないことも起きている。それは駐輪ポート数の増加だ。かつてはビルオーナーへ駐輪ポート設置の提案をしても断られることが多かった。ところが、法人利用が進むにつれ、テナント側から駐輪ポートを設置して欲しいという声があがり、ビルオーナーが駐輪ポートの設置を実施するといった事態も起きているようだ。利便性の向上を求める声が大きくなれば、駐輪ポートも増えていくだろう。

日本全国2万台に向けて

ドコモ・バイクシェアにとってはまさに追い風が吹いている状態。今後も事業は拡大できるというのが、目下の見方だ。堀社長は「(ロールモデルとなる)ニューヨークや欧州の事例を見ると1万数千台から2万台程度のスケールで展開している。我々もそのくらいのスケールにならないとダメだと思っている。会社の目標として設定した数値ではないが、規模感として(2020年までに)今の4倍、日本全国で2万台規模にしたいという思いはある」とする。

理想の実現に向けてまい進し、ビジネスを拡大したいところだが、そう単純にはいかないのがこの事業だ。ドコモ・バイクシェアでは、自転車の提供とサーバの貸し出しを行う月額制の「システム提供」といったビジネスも行なっているが、自転車の台数やポート設置数といった数から見れば、受託がドコモ・バイクシェアのメイン事業となる。そして、この受託は収益ばかりを追求した運営が本質とはならない。

受託とは

受託は自治体の入札を通じて、自治体が複数の候補から最も最適な事業者を選定する仕組みだ。料金面、サービス面、アフターフォロー、会員管理、安全への配慮、運営に利用する自転車の仕様など様々な条件を候補者が提示し、自治体がふさわしい事業者を選ぶ。

受託によって、自転車費用を補助(自治体により補助額は異なる)してもらえたり、自治体所有地を駐輪ポートとして活用できたりするなどの大きなメリットがあるが、自治体の意向に沿う必要が出てくる。たとえば、「区民の生活における利便性向上のため」といった目標に向けて運営するといったことだ。

それを踏まえながら、駐輪ポートの確保や設置、自転車の増車やメンテナンスなどを行い、サービス提供をしていくのがドコモ・バイクシェアの役割となる。

シェアサイクルについて海外では街中に大量の自転車が溢れてしまったと報道されることがあるが、そうした状態は、日本では望まれない。かつて、数多くの自治体で何年にも渡り、駅前の放置自転車問題に取り組んできた経緯があるからだ。増車するにしても、街の景観を損ねずにバランスよく、いかに利便性を向上させていくかが、ドコモ・バイクシェアに問われていくだろう。

シェアサイクルの課題

目下の課題は、エリア拡大、台数や駐輪ポート数の増加となるが、今後は駐輪ポートの場所も問われていきそうだ。かつての放置自転車問題の影響もあってか、都内の駐輪ポートは目立たない場所に置かれることが多い。

これはドコモ・バイクシェア並びに事業者全体にとっての課題だ。本来、駐輪ポートは、利便性の観点から、公道上が目立ち最適だが、そこにはないのが現実だ。駐輪ポートの場所が変わることで利用者数も1日1台当たりの利用数も大きく伸びそうに思える。この点に関して堀社長はどう考えているのか。

「日本には多くの規制がある。規制自体が悪いわけではない。駅は放置自転車の山になっていたという過去もあった。歩道に雑然と放置された自転車の姿は市民感情からしてもほおっておけない。モラルの上に規制があり、それは仕方ないこと」と話す。とはいえ、ドコモ・バイクシェアでは都内10カ所に限って公道上に駐輪ポートが設置済みという事実もある。「ドコモ・バイクシェアなら大丈夫だと信頼してもらい、理解してもらえるように運営していけば、少しずつ増やしていけると思う」とする。

公道上にバイクポートをさらに設置することで利用回数の増加が見込めそうだ

おそらくこの課題に実効性の高い対策は存在しない。国内最大手が辿りついた答えが「適切な運営を継続し、信頼を得ること」であり、それが最良の解決法なのだろう。

こうしてドコモ・バイクシェアの事業を見ていくと、自治体とともに、市民生活の向上のために街づくり事業の一端に関わっているように見えてくる。その立ち位置から推察すると、おそらく、数年後、十年後と時を経るに従い、嫌味のない形で、街中の移動手段として、シェアサイクルの存在が大きくなっていくとしか思えない。ドコモ・バイクシェアが目指す日本全国2万台という理想の実現に向けて、街の景観を短期間で一変させてしまうことはなさそうだ。

ドコモ・バイクシェアが描く未来

堀社長は目指す高みについてシェアサイクルとITとの融合だいう(撮影:磯崎威志)

最後にドコモ・バイクシェアが描く未来についても触れておきたい。単にシェアサイクルの普及を図ることを目的にはしていない。そこには先がある。

「自転車に乗りながら店舗に近づいたら、スマートフォンに割引きクーポンの付いたプッシュ通知が飛ぶといったような、そうした取組みが今後生まれると思う。シェアサイクルだけではなく、ITを組み合わせた取組みも行っていきたい。今までに見向きもされなかった場所に価値が生まれる、といった新たな価値創造にチャレンジしていければ……」

目指すべき高みはシェアサイクルとITの融合だ。そのためには自転車の利用データがベースになりそうだ。いつ何時、どの道をどのくらいの人が通っているのか、そうしたデータが増えることで、新たなビジネスの種が生まれていく。

シェアサイクル事業が街づくりの一環だと捉えれば、ドコモ・バイクシェアの事業は街づくりにITを持ち込む新たな境地を拓く存在ともなりそうだ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。