100年企業の変革、パナソニックが生まれ変わるための「β」

100年企業の変革、パナソニックが生まれ変わるための「β」

2017.11.30

パナソニックは11月29日、機関投資家や証券アナリストを対象に同社の技術に関して説明を行う「技術IR」を開催した。

同社が、技術部門に関してIR説明会を行うのは10数年ぶり。そして今回発表した内容は、単なる技術説明ではなく、むしろイノベーション戦略の説明会と位置づけられるものだった。実際、パナソニック 専務執行役員 CTOの宮部 義幸氏は、「10数年前は6000億円の研究開発費用を、どう効率的にマネジメントするのかという話だったが、今はイノベーション戦略が重要になる」と話す。

パナソニックは、今年4月に「研究開発部門」を再編したうえで「イノベーション推進部門」へ改称を行った。「狭義の技術開発を行うのではなく、ビジネスプロセス全体をみることができる組織へと転換した」(宮部氏)こともあわせ、イノベーション戦略が同社のコアになりつつあることを裏付けるものだといえる。

パナソニック 専務執行役員 CTO 宮部 義幸氏
本社部門を再編、イノベーションを主軸に据えた

7月スタートの「β」、すでに1200のアイデア出し

イノベーション戦略の最たるものが、新たに発表した全社横断プロジェクト「Panasonic β」の設置だろう。

パナソニックでは、これまでの事業部体制によるモノづくりを「タテパナ」と表現し、横串を通した新たな体制を「ヨコパナ」と表現している。Panasonic βは「ミニヨコパナ」の実現を目指し、「イノベーション量産化のマザー工場」と位置づける。ソフトウェアやデザイン、AI、データサイエンスといった職能の"ヨコパナ化"と、各事業部の横断的組織による"事業部のヨコパナ化"によって、クロスバリュー型の成長を目指す。

「パナソニックのような(伝統的な大)企業は、イノベーションを起こそうとすると歴史的に阻害要因がある。これを取り除かないと、実効性につながらなくなる。これを解く仕組みが『Panasonic β』だ。独立した新たな会社のような形で、デジタルネイティブビジネスを構築するものであり、パナソニックのビジネスプロセスやビジネスモデルをデジタル変革していくことになる」(パナソニック ビジネスイノベーション本部 副本部長 馬場 渉氏)

Panasonic βの「β」は「パーフェクション文化」、つまり何事にもミスを許さない完璧主義と相対する姿勢を示すもので、「不完全なもので多くのトライアルを指向する部門であることを示した」という。7月にスタートしたこの取り組みは、1293個のアイデアから81個のアイデアをプロトタイプ化。そのうち31個をハードウェアとして実装し、3つの「住空間プロトタイプ」として体験できるレベルにまで至っている。

「私が知る限り、こんなにスピードが速い会社はなく、シリコンバレーのスタートアップ企業よりも速い。最初は5人、3職能が参加していたに過ぎなかったが、現時点では4カンパニー、29人、9職能が参加している。建築やエネルギー、IT、家電といったさまざまな分野のスキルを持つ人材が、全社を巻き込む形に発展している」(馬場氏)

7月からという短期間でプロトタイプ化、ハードウェア製造による具現化までのスピード感はすでに証明されたと言っても過言ではないが、馬場氏はまだ商品化まで至っていない点を課題視していた。

Panasonic βの取り組みではもう一つ、「HomeX」がある。ビジネスイノベーション本部が、パナソニックの白物家電や黒物家電、住設、住宅を組み合わせ、"ソフトウェア主導型"で未来の住空間環境に向けたサービスを提供する。

「家電や住宅、住設といった市場で、一定の市場規模を持っている企業は世界中を見渡してもパナソニックだけ。HomeXは、その強みをあわせて新たなものを作り出し、やり方を変え、デジタルトランスフォーメーションすることになる」(馬場氏)

こうした動きは従来のビジネスを破壊してしまうという懸念が指摘されるものの、その点について馬場氏は、「アップルはiPhone、iPadを発売したことでPC市場が縮小すると言われたが、Macはその後30~40%も成長してみせた。デジタルトランスフォーメーションによって、パナソニックでも、これと同じことが起こることになる」と雄弁に語る。

「デジタルネイティブ企業では、毎日サービスにアクセスする人をデイリーアクティブユーザー(DAU)と呼ぶが、照明や炊飯器などのパナソニックの商品に毎日触れる人は、国内だけで約5000万人がいる。今のパナソニックは、これだけのDAUがいるものの、これを顧客価値につなげられていない。顧客が増えれば、増えるだけ顧客価値が高まるというデジタル企業の仕組みを導入したい」(馬場氏)

パナソニック ビジネスイノベーション本部 副本部長 馬場 渉氏

また、ネット企業はメガプレイヤー同士が相互に作用することで飛躍的な成長を遂げてきた。これを取り入れる必要があると話す馬場氏は「アマゾンが成長すれば、パナソニックが成長するといったモデルを構築したい」としたうえで、パナソニック自身が変わる必要性を指摘。「パナソニックのメインストリームの主軸部分をどうやって変えるのか」と、デジタル中心企業へ変革する意思を表明した。

もちろん、パナソニックの本質は製造業であり「ものづくり」だ。同社は「ラピッドプロトタイピング」を掲げ、1台のプロトタイプを作るのではなく、数100台程度を短期間で作り、実際に使ってもらって、これを繰り返すというビジネスモデルを高速検証するための仕組みを構築した。

パナソニック 生産技術本部 本部長の小川 立夫氏は、これによって「速くデザイナーのコンセプトを高速に具現化し、顧客の手触り感のあるものにつなげることができる」する。

「3D金属プリンタ技術を活用することで、データ制作を含め、1週間で金型を作れる。従来のような金型作りでは1カ月以上、精巧なものでは2~3カ月かかる。量産化するための精度はないものの、限られた数量のプロトタイプ製作には適しており、顧客のもとでコンセプト実証を高速で回せるようになる」(小川氏)

技術力を磨くためのAI技術

パナソニックは「技術10年ビジョン」を打ち出す。人工知能やセンシング、UI/UXによる「IoT/ロボティクス領域」と、蓄電、水素による「エネルギー領域」の2つから、「より良いくらしと社会を実現するもの」と位置づけているのだ。

例えばエネルギー領域では、車載用二次電池で現行のリウチムイオン電池に続き、全固体電池やリチウム空気電池などの新原理電池に取り組んでいる。

「電池性能は材料が重要となるが、新材料の創出には経験が大切。そこでパナソニックは、新材料を開発するためのAI『Materials Informatics』を活用し、研究開発時間を半減させた。また、原子レベルで材料を解析する電子顕微鏡と、独自のリアルタイム動的解析技術を活用することで、世界で初めて、全固体電池におけるリチウムの挙動を把握することにも成功した。こうした取り組みを通じて、今後も電池の最先端技術をパナソニックがリードしていきたい」(パナソニック 先端研究本部 本部長 相澤 将徒氏)

技術10年ビジョンの注力領域では、AIロボティクス家電や自動運転/コミュータ、店舗・接客ソリューション、次世代物流・搬送、住宅エネルギーソリューション、ビル・地域エネルギーソリューション、車載用エネルギーソリューションなど、広範な事業テーマが並ぶ。だがこれらは、いずれも「Panasonic β」の取り組みが重要な意味を持つ分野だ。

Panasonic βは、すでにアイデア具現化のスピードを実証している。一方で事業化、商品化につながったものが現時点で存在せず、アイデアのスピードと、事業化、商品化のスピード差をどう埋めるかがこれからの鍵になる。

事業化、商品化が決まったあとの量産化や市場投入のスピードはお家芸として実証済み。日本企業がかねてからボトルネックと指摘されてきた「事業化、商品化」の頭の体操こそがやはり重要になってくる。これをいかに解消できるかが、パナソニックにとって真の課題テーマになるはずだ。

Panasonic βについてはもう一つ、プロジェクトメンバーの約半分が3カ月間だけのスポット参加という特徴がある。これは、プロジェクト終了後にPanasonic βの経験をそれぞれの現場へ持ち帰り、デザインシキングを生かした新たな仕事のやり方を全社に広げる役割を担うことになる。

研究開発部門であるイノベーション推進部門を起点にして、パナソニックは確かに変わろうとしている。

高すぎるiPhoneは売れる? 奔走するキャリアと余裕のApple

高すぎるiPhoneは売れる? 奔走するキャリアと余裕のApple

2018.09.21

iPhone Xs、Xs Maxが発売。価格は最大17万円越えと高価

キャリア各社による、これまでとこれからのiPhoneの売り方は?

Appleの強気の価格設定の裏に「型落ち機」の存在感

9月21日、いよいよ新型iPhoneが発売となった。iPhone XSは昨年発売されたiPhone Xの後継モデルで、iPhone XS Maxは6.5インチの大画面が特徴だ。

性能とは別に、話題となっているのが本体価格だろう。今回、いずれも64GB、256GB、512GBの3つの容量が用意されているが、64GBモデルでも12万円を超え、512GBモデルとなれば17万円を超える値付けとなっている。もはや、スマホとは思えない価格設定だ。

ついに発売された「iPhone Xs」と「iPhone Xs Max」

他国に比べ圧倒的にiPhoneのシェアが高い日本だが、そんな状況が生まれた理由の1つとして、これまでは「安価に買えた」というポイントは無視できない。

「安いiPhone」が日本普及の鍵だった

かつてソフトバンクはiPhoneを販売するにあたり、「Everybodyキャンペーン」と銘打ち、端末代が実質ゼロ円となる施策を実施。ガラケーに使い慣れていたユーザーに、iPhoneをお試し的に使えるキャンペーンがハマった。また、KDDIとNTTドコモが相次いでiPhoneの取り扱いを始めたことで、同じ機種を3キャリアが同時に扱うという競争環境が生まれ、各社でキャッシュバックや実質ゼロ円での販売が横行。結果として「Andoridスマホを買うより安い」という状況が生まれた。

さらにiPhone人気に拍車をかけたのが「下取り」だ。iPhoneを販売する際、各キャリアが持ち込まれた”使用済み”iPhoneを高値で買い取ったため、「iPhoneはリセールバリューが高い」という認識が広まったのだ。

分離プラン、4年縛り……奔走するキャリア各社

しかし、ここ数年は総務省がキャッシュバックや実質ゼロ円販売に歯止めをかけた。これにより、過剰な端末割引は表向きは鳴りを潜めた。

総務省としては、端末の割引をやめることで、余った原資を通信料金の値下げに回すべきという考えを持っている。その意向に賛同したのが、KDDIが昨年始めた「ピタットプラン」だ。ピタットプランは、端末の割引をやめ、ユーザーが使った分だけ料金を請求するという、いわゆる分離プランになっている。

データ利用量に応じて支払い金額が変動する「ピタットプラン」

しかし、端末の割引がなくなってしまうと、10万円以上するiPhoneを購入するのはかなり心理的な負担が大きい。ユーザーの負担を抑えつつ高価なiPhoneを売るため、KDDIが始めたのが4年割賦、いわゆる4年縛りだ。iPhoneの本体価格を4年、48回払いにすることで、月々の負担額を下げた。

ただ、これでは機種変更が4年に1回になってしまいかねないだけに、メーカーが痛手を被る可能性がある。そこで、同じ機種を2年間使い続けたら、残債の負担なしに機種変更できるという決まりを作った。ただし、機種変更する際には、今使っている端末を回収するという条件となっている。

そういったユーザーとメーカーに配慮した売り方に対して、待ったをかけたのが公正取引委員会だ。

4年割賦で購入した場合、2年後に機種変更すると、さらに同じプログラムに加入しなくてはならず、さらに4年の割賦が発生する。そうなると結局、半永久的に縛られることになるため「それはよろしくない」ということで、KDDIとソフトバンクに改善を求めたのだ。そこで両社は、機種変更時に、同じプログラムの加入を強制しないと改めた。

ただ、これで4年割賦がなくなるかと思いきや、今年のKDDIとソフトバンクのiPhone商戦は、やはり4年割賦がメインの売り方となっている。

本体価格を見ると、「実質価格」として、2年間で支払う金額が強調してある。まるで、半額でiPhoneが買えてしまうような見せ方だ。機種変更時に端末の回収が必須だということは、本当に小さくしか書かれていない。

SoftBank 「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」料金ページ

KDDI「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」料金ページ

とはいえ、総務省に端末割引に対して厳しいメスが入れられたことで、4年縛り以外売る方法がないというのが実情だ。高価なスマホを購入するために、4年も拘束されることが本当にユーザーのためになっているのかは、改めて検証する必要があるだろう。

「売れ行き不調」でも強いApple、型落ちiPhoneが暗躍

ここまで高価な値付けをしてくるAppleの自信は一体どこから来るのか。

Appleとしては、iPhone XS、iPhone XS Maxをフラグシップモデルと位置づけているが、必ずしも「主力商品」とは考えていないのかも知れない。最新バージョンとなるiOS12は6年前の機種となるiPhone 5sから利用可能だ。Appleは、iPhone XS、iPhone XS Maxを売るにあたって、iPhone 7やiPhone 8を1万円ほど値下げしている。

日本では、サブブランドのワイモバイルや、KDDI子会社のUQモバイルがiPhone 6sを販売。また、NTTドコモも毎月1500円、通信料金が割引される「docomo with」でiPhone 6sの取り扱いを開始した。

docomo withの対象機器に追加された「iPhon 6s」。最新iOSへのアップデートが可能であるため、そこまで高い性能を求めなければ、十分に使える

関連記事:分離プラン普及の試金石"docomo with"に「iPhone 6s」追加のワケhttps://biz.news.mynavi.jp/articles/-/1950

Appleはこうした型落ち端末で、ガラケーユーザーからiPhoneへの乗り換えを促し、新規ユーザーを獲得しつつ、iPhoneから離れられなくなったユーザーに高価な最新機種を売っていくという戦略なのだろう。

実際、海外市場では型落ちiPhoneや中古iPhoneがよく売れている。iPhone 6sなどの型落ち機種でも、iOS12をインストールするとサクサクと動くという声も多く、意外と評判がいい。

今後、iPhone XS、iPhone XS Maxが「高くて売れていないようだ」といった報道が出てくるかもしれない。しかし、それだけでAppleの勢いが落ちていると見るのは早計だ。じわじわと売れ続ける型落ちiPhoneこそが、Appleの本当の実力を表しているといえるだろう。

新Apple Watchは「医療」で成功する、Appleは本気だ

新Apple Watchは「医療」で成功する、Appleは本気だ

2018.09.21

9月21日、「Apple Watch Series4」が発売

最新機はフィットネスの成功を土台に、より健康志向に

心電図機能の追加で、医療業界に影響をもたらす存在となる

9月12日に行われたAppleの発表会で、新iPhone「XS/XRシリーズ」と、新Apple Watch「Series 4」が登場した。iPhoneの市場の大きさから、発表会後の話題はiPhone一色になっているところがある。

新しいApple Watchである「Series4」。日本では9月21日より発売

しかし、発表会に参加し、現場を取材した筆者の感触でいえば、Apple Watchの発表は、iPhoneと同等、いやそれ以上に戦略的な意味合いをもっていたように思える。ではそれはなんなのか? 解説してみよう。

Apple WatchはAppleの「ヒット製品」に返り咲く

Appleのティム・クックCEOは、「Apple Watchは、世界で一番人気のある時計になった」と発表会で語った。人気とは売り上げ金額なのか数なのか、集計期間はいつからいつまでなのかなど、まあ、いろいろ突っ込みたい部分はある。

Appleのティム・クックCEO

だが、Apple Watchが当初の「過大な期待と持ち上げの時期」を過ぎ、Appleの中でも「重要な、売れるプロダクト」になったのは間違いない。ヒット製品の少ないウェアラブル機器の中で、Apple Watchは累計では数千万本が売れ、iPhone・Mac・iPad「以外」のApple製品の中では、圧倒的な稼ぎ頭に成長している。

Apple Watchが登場した時、市場は「ポストスマホ」的な期待を抱いた部分がある。だが、実際のスマートウォッチはそうしたものではなく、スマホの周辺機器の域を出ていない。そのことを「期待外れ」と考える人はまだ多いようだ。

だが、結果的に言えば、Appleはじっくり取り組むことで、この市場でも成功を収めつつある。ポイントは「フィットネス」だ。iPhoneからの通知を表示する、というもっとも基本的だが誰もが使う機能に加え、フィットネスの状況を可視化し、より楽しく効率的に体を動かすことに役立つ機器としてApple Watchに磨きをかけることで、非常に底堅いニーズを生み出し、顧客を掴んだ。

「スマホがあるし、普通の腕時計でいいからApple Watchはいらない」という方もいるだろう。それも真実だ。だからこそ「スマホだけでも、普通の腕時計だけでもダメな部分」を見極めることで、Apple Watchは成功に近づきつつある。

フィットネスの成功を土台に「より健康志向」へ

では、今年のApple Watchはどこを狙うのか?

昨年まで、Apple Watchの発表は「フィットネスの発表会」のようだった。だが、今回の製品ではその要素は見えない。フィットネスへの対応はすでに「基本機能」だし、Apple WatchのOSである「WatchOS」のアップデートにより、機能の洗練は進んでいる。

次にAppleが狙ったのは、より広い層だ。「腕時計の代わりに、なぜApple Watchを身につけるのか」という問いに対する答えを、Appleはついに示しつつある。

それは「万一のためのアシスタント」という考え方だ。普段はiPhoneからの通知を受けたり、音楽を聴いたり、フィットネスの情報を知ったりするのに使いつつ、「いざという時の助け」のために、自分の生体データを記録しておいてくれるデバイスとしても働いている……。これが、Appleが見つけた答えなのではないか。

Apple Watchのように腕につける機器は、体が発する情報をより多く取得することができる。これまでは歩行や心拍数などのデータが中心だったが、Apple Watch Series 4はモーションセンサが強化された結果、「転倒」も把握できるようになった。心拍の異常低下を検知し、心房細動の徴候を掴むことも可能になっている。

なによりインパクトが大きかったのは、「心電図」を計れるようになったことだろう。竜頭型のデジタルクラウンに指をあてると、内蔵の電極を使って心電図をチェックできる。

「デジタルクラウン」にセンサを埋め込むことで「心電図」の記録に対応。ただし日本では当面利用できない

心拍にしろ転倒にしろ心電図にしろ、専門の機器に比べると精度は劣るかもしれない。出番はそれこそ「一生に一度」かもしれない。

だがそれでもいいのだ。なにもなければ通報が遅れたり、医師が適切な判断を下すのが難しくなったりする。精度が劣ったとしても「いままでは見過ごされてきた徴候や状況に対応できる」ことで、誰かの命が救われるかもしれない。そうした部分を持つことが、「より良いスマートフォン・コンパニオン」である、とAppleは判断したのではないだろうか。

こうした要素は、ハードウェアの進化なしには実現できない。AppleはiPhone同様、Apple Watch用の半導体(SoC)も自社で設計し、いっきに量産する戦略を採っている。SoCの内容だけでいえば、Qualcommも同じようなことを考えているようだ。だが、「同じスペックのものをいっきに量産し市場にばらまく」という観点でいえば、Appleのように人気のあるメーカーが独自に展開する方が有利である。

医療機関との関係を強化、「医師に必要とされる」製品へ

一方、医療の世界に足を踏み込むなら、厳密かつ責任あるハードウェア作りが必要になる。関係法令を守り、審査と査読を経て、医療業界から認められる必要があるのだ。

今回Apple Watch Series 4は、アメリカの担当省庁であるFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を得た、と説明された。そこには相応の時間とコストがかかったことだろう。

だが、日本を含む他国での認可はこれから行われる。いつ認可され、心電図の機能が使えるようになるのか? 法令対応が終わったアメリカですら「年末以降」とのみアナウンスされている状況で、日本は目処すら立っていない。日本でApple Watch Series 4が医療機器として認定されるのは非常に困難である、との専門家の指摘もある。

ただどちらにしろ、こうしたことは必要だ。フィットネスとは話が違う。心電図機能にしても、消費者がそれを見て「自分で健康になる」ことを目的としているわけではない。あくまで医療機器として「医師が判断する情報」として、「医師のすすめとともに」使うものだ。そうした部分を勘違いしてはいけない。

特にアメリカの場合、日本と違い、「国民皆保険」制度にはなっていない。健康を保つために自ら機器を使って管理することは、コストを削減する面でも、健康そのものの面でも「望ましい」とされている。Apple Watchはフィットネスを切り口に、そうした流れの先頭にいた。今後はさらに「医師との窓口」としての役割を果たし、医療費削減の切り札として使われていくだろう。

日本においては、医療機器は専業メーカーの領分であり、機器メーカーが医療機関や関係省庁と話す量が少ないように思う。Apple Watchは、そうした変化の先駆けになる製品だ。

日本で心電図を含めたすべての機能が使えるようになるには、年単位での時間が必要である可能性が高い。だが数年以内に、「保険を割り引く条件として、Apple Watchをつけることと、そのデータを保険会社が管理すること」といった条件の健康保険が増えて来る可能性は高い。

垂直統合によってそうした未来を自らの力で引き寄せる……。これこそが、Appleが描いている「スマートウォッチ戦略」なのだ。