東急電鉄が大井町線の輸送力増強に努める理由とその背景

東急電鉄が大井町線の輸送力増強に努める理由とその背景

2017.11.30

7両化された編成には「7CARS」の表示を運転台前面に貼って区別

東急電鉄は、11月4日より大井町線の急行の一部を6両編成から7両へと増結した。今後、全部で6本ある急行用電車(6000系)をすべて7両編成に組み替え、2018年3月にはこれを完了させる予定である。

また、2018年春までには新型車両6020系も7両編成2本新製。これも急行用で、合わせて8本をそろえ、3月には大井町線のダイヤを改正し、急行、各停とも増発される。大井町線では大規模な工事は現在、行われておらず、現在の線路設備のまま、列車本数を増やすことになる。

正直なところ、少子高齢化、すなわち就業人口の減少をにらむと、積極的な設備投資を躊躇する鉄道会社もあってよかろうと思う。東急大井町線の事情はどうなのであろうか。

田園都市線と大井町線は不可分な関係

東急大井町線は、JR京浜東北線と接続する大井町を起点に、自社の池上線、目黒線、東横線とも接続。二子玉川で田園都市線と合流し、二子玉川・溝の口間は複々線の内側を走る。全線12.4kmで、さほど長い路線ではない。大井町・溝の口間の所要時間は平日日中の急行で約19分、各停で約27分から約31分である。

1979年まで、大井町・二子玉川間は田園都市線の一部であった。しかし、同年に運転系統が大井町・つきみ野(当時の終点)間直通から、地下鉄半蔵門線・渋谷・つきみ野間と、大井町・二子玉川(当時は二子玉川園)間折返しに変更となり、後者が大井町線と改名したという経緯が、両線の間にはある。

左:11月4日より7両編成化が始まった、大井町線の急行。右:戸越公園付近を走る6000系。大井町側から3両目に新車が挿入された

この線が、次の大きな変革を迎えたのが2008年のこと。急行の運転が始まり、所要時間を短縮した。さらに翌年には二子玉川・溝の口間の複々線化が完成。運転区間が延びている。

その結果、利用客数が毎年、右肩上がりで増加したのである。東急の資料では、2008年度の1日平均輸送人員が40万1458人であったのが、2016年度には49万5113人に達した。約23%も増加しており、その傾向はまだ続いている。

田園都市線のバイパスとして注目

現在は6両編成と7両編成が混在しているため、乗車位置表示も3種類表示。いずれ7両と5両に統一される

大井町線へ利用客が集まるようになった、最大の原因は田園都市線の激しい混雑。2016年度の混雑率がピーク時には184%(国土交通省の統計より)というラッシュを避け、溝の口始発の大井町線へと「逃げる」利用客が増えたということだ。

もちろん東急も、田園都市線のバイパスとするべく、大井町線の強化を図っている。そのための急行運転であり、溝の口乗り入れである。特に溝の口への延長でJR南武線からの客が直接、大井町線へ乗り継げるようになったことが、混雑緩和には効果が大きかったという。

大井町線急行の増結、および来春のダイヤ改正は、東急にとっては、すでに中長期的な構想には織り込み済みのことでだったであろう。ただ実施には、少々、苦しい部分もあった。

ホーム延伸工事と、ホームドアの増設が行われた大井町駅

例えば、ホームの長さが足りない駅もあった。ターミナルの大井町と、東横線との乗り換え客が多い自由が丘である。いずれも7両分への延伸は可能だったが、キーポイントであったことには違いない。先見の明を示したとは言えないだろう。旗の台と大岡山は駅の改良時にホームを延伸済みだった。二子玉川と溝の口は10両編成対応の田園都市線乗り場の向かいが大井町線乗り場であるから、もともと問題はない。

車両の寿命をにらんで少子高齢化に対応?

6000系6両編成を7両に増やすための車両は、新たに製造された。6020系も老朽化した車両の取り換えではなく、純粋な増備と見られる。急行増発が予定され、かつ大井町線の7両編成は、同線の急行専用(7両対応ホームがある駅は、急行停車駅に限られるため)だから、取り換え対象の車両が見当たらないのである。

こうした例は、最近では比較的珍しい。利用客増に応じて単純に車両を増やすと、近い将来、起こる可能性がある利用客減少の際には、余剰車両の発生が懸念される。つまり、無駄な設備投資となりかねないからだ。

鉄道車両の寿命は30・50年とも言われる。実際は、車体の素材(鋼鉄かステンレスかアルミニウムか)や、会社ごとの方針も違いがあって、一概には言えないのだが、一応の目安である。新車1両の値段は2億円程度とも言われ、大きな設備投資だ。一度、造ってしまうと、要らないからすぐ廃車するとはいかない。

大井町線では最古参の電車となった8500系。5両編成のため各停専用である

ただ、東急田園都市線、大井町線には1975・1991年に製造された、古い8500系がある。同社の電車の特徴でもある、オールステンレス製の車体であるがゆえ、劣化にも非常に強い。税法上の減価償却期間(電車の場合は13年)もとっくに過ぎている。

この電車も、一時は新型車で完全に置き換える計画が持ち上がった。しかし途中で方針が変わり、長野電鉄や秩父鉄道、あるいはインドネシアへの譲渡車が出たものの、まだ多数、東急に残存しているのだ。全面引退を示唆するような情報は、今はない。

東急としては、もし利用客が減少傾向に入れば、この8500系をクッションとして廃車しつつ、車両数を調整しようという心づもりがあるように思われる。こうした対応策を考えていたため、利用客の増加が見られるうちは、車両増備ができたと思われる。

6020系と前後して、来春には田園都市線に新型車2020系が投入されるが、30両だけ。8500系を完全に置き換えるにはほど遠い。

また、急行の追い越し駅新設のような大規模な設備改良は、車両の増備以上に大きな投資である。設備を増強せずに大井町線の増発がダイヤ上、可能となる目処がついたことが、今回の東急の計画の前提の一つになっている。

各停は5両編成のまま

大井町線は池上線や多摩川線と近接し、開発余地がほとんどない、古くから成熟した住宅地を走っている。駅はこまめに設けられており、生活道路からすぐホームに上がれるような構造の駅も多い。各停だけが停まる中間駅の1日平均の乗降客数は、ここ10年あまりの間、どこも微増と微減を繰り返すだけで、大きな動きはない。こうした点は、池上線が置かれた状況とよく似ている。

大井町線自体の利用客数増加は、ほとんどが田園都市線からの流入と考えてよい。そのため、所要時間が短い急行が増結、増発されるのだ。それゆえ、各停については、これまで通り5両編成で推移する。

むしろ、通勤通学客の利用傾向は、各停にまず現れると考えられる。バイパス線としての賑わいは続くとしても、華やかな急行よりも、沿線住民の動向を表す各停の方に、今後は注視していく必要があるかもしれない。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。