ブランド力の向上も課題に、日産が無資格検査で大量リコールの背景

ブランド力の向上も課題に、日産が無資格検査で大量リコールの背景

2017.10.04

工場の最終完成検査で無資格者が携わっていたことが明らかになった日産自動車。世界覇権を狙う国際アライアンスの中核企業として、ブランド価値を守るという大きな課題にも直面する事態となった。

完成検査の実態は

日産は9月29日金曜日の夜7時から国交省で記者会見を行い、さらに週が明けた10月2日の月曜日には西川廣人社長による緊急記者会見を開いた。西川社長は「ものづくりの世界にあってはならないこと。心からお詫びしたい」と陳謝するとともに、2014年10月からの生産分にさかのぼる国内向け車両約121万台のリコール(回収・無償修理)を届け出ると説明した。

10月2日に記者会見を開いた日産の西川社長

ことの発端は、9月29日に日産から以下の資料発表があったことからである。

それは「出荷前の完成検査を未承認者が行っていた」というもので、対象は国内における日産の追浜・栃木・九州各工場と子会社である日産車体の湘南・京都・九州の6工場。

自動車工場の出荷前の検査は、自動車会社が自主的に決めた検査経験や知識を持つ検査員が行わなければ、完成検査を完了したことにはならない。国土交通省はこれを通達で定めているが、保安基準に適合しない車両が検査不備で出回らなければ、法令違反とはならない。

「あってはならないこと」

つまり、日産のケースは法令違反ではないが、通達違反ということである。しかし、一般に自動車工場の最終完成検査は、工場の検査員が規定の検査をして完成検査修了証を発行することで初めて販売会社に卸すことができる。一般に、ここで違反することはありえない。ユーザーに新車を納車するのは、その後に運輸支局や検査登録事務所で新規登録し、ナンバーをつけた後である。

工場での最終完成検査を補助員や見習い従業員に任せていたということは、自動車会社の生産ラインで「あってはならないこと」(西川社長)で、日産に何があったのか、ユーザーの信頼感喪失に加え、ユーザーとの接点に立つ販売会社の困惑は大きい。

特に、日産はここへきて日本国内販売に商品力強化でテコ入れを進めてきた最中でもある。皮肉にも、新型電気自動車(EV)「リーフ」の発売日に重なった10月2日の「陳謝会見」は、同社が期待を込める新車の登場に冷や水を浴びせるものになった。

ユーザーに不安感

実は、9月29日に今回の問題が明るみに出て、国交省での日産会見があった後、友人から筆者にこんな電話があった。「9月に日産『セレナ・ハイウェイスター』の購入契約をして、10月上旬に納車の予定なんだけど。セレナはカーオブザイヤーを受賞したし、プロパイロットの自動運転機能に関心があってあえて高いグレードにしたんだけど、今回の話はどうなんだろう?キャンセルしたほうがいいのかな?」

自動車業界を長くウォッチしてきた筆者にこんな相談があったのだが、「まあ、車両の安全・品質に問題があるとは思えないので、販売会社の担当者にじっくり聞いて、しっかり対応させることだな」と答えておいたのが週末のやりとりだった。このように、消費者・ユーザーサイドからは、早くも日産への信頼感が薄らぎ、不安感が出ているのだ。

国内販売は巻き返しの途上

日産といえば昨年春、三菱自動車の燃費不正問題を契機に同社に資本参加し、傘下に収めた。「ルノー・日産・三菱自」連合の総帥としてグローバル覇権を狙うカルロス・ゴーン氏にとって、日産はアライアンス戦略の総仕上げにおいて中核となる自動車メーカーである。

言うまでもなく、ゴーン政権でV字回復を果たした後も日産ではゴーン長期政権が続き、今年4月に西川体制に切り替わったばかりである。ゴーン日産におけるグローバル戦略は成長したが、一方で日本国内販売においては低迷を続けていた。

かつて、国内市場ではトヨタ自動車と同社を追う日産が「T・N」両大手と言われたが、最近の日産の国内販売は、トヨタ、ホンダ、ダイハツ工業、スズキに次ぐ5位の座に甘んじてきた。

昨年秋に投入された新型「セレナ」は、日産として2年半ぶりとなる日本国内市場の新型車であった。その後は「ノートe-POWER」に続き、新型EV「リーフ」と久しぶりに国内における商品力強化を展開し、日本市場での巻き返しが進んでいた。

国内販売は巻き返しの途上で、新型「リーフ」(画像)も発売となった日産

国内工場は日産本体と子会社である日産九州および日産車体の6工場体制だが、ゴーン氏が「国内生産100万台の維持」の号令をかけても、国内販売の低迷で工場によっては稼働率が大きく低下していたこともある。ここへきて、新型車が好評で一気にフル生産に入っている工場もあるが、今回の問題は、工場での士気やコンプライアンスへの意識の緩みが根底にあったのではないか。

ブランド力の維持・向上が課題に

17年にわたったゴーン長期政権から今年4月に西川体制に移行した日産だが、10月16日には「次期中期経営計画」を発表することにしている。さきにゴーン氏がルノー・日産・三菱自連合の中期計画を発表しているが、このアライアンスの中核をなすのは日産なのである。

昨年10月に資本参加して傘下に収めた三菱自動車が、このアライアンスに加わるきっかけとなったのが排ガス不正問題であった。度重なるリコール不正に続く排ガス不正で三菱自動車への信頼・信用には傷がつき、ブランドを失墜させた。今では「日産流改革」を導入している三菱自動車からは、教訓を得られた側面もあったはずだ。

西川社長は、無資格の従業員による完成検査が見過ごされていた原因について「工程そのものの意味が十分に認識されていなかったところが大きい」とした。「今後、1カ月かけて原因やその背景にある要因、従業員の意識を含めて徹底的に検証した上で対策を立てたい」との対応策を説明したが、販売店を含めた消費者が納得できる方策を早期に打ち出すことも重要である。

やはり、販売会社の困惑や日産ユーザーの不安感の払拭を最優先にしなければ、日産ブランドの失墜にもつながりかねない。今回の問題は、海外では安全性を審査する制度が異なるため輸出向けの車両は除外され、あくまでも国内向け車両ということである。

旧日産からの大転換で「外資になった」とも言われる日産。西川体制では、ルノー・日産・三菱自の大連合の中核として、「襟を正しつつ」ブランド力を向上させることも課題となった。

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

関連記事
大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

関連記事