クルマの将来像は? 清水和夫が見た「フランクフルトモーターショー」

クルマの将来像は? 清水和夫が見た「フランクフルトモーターショー」

2017.10.06

“電気一色”という感じだった今年の「フランクフルト国際自動車ショー」(IAA:Internationale Automobil-Ausstellung)だが、モビリティ社会の未来を描いたダイムラーの発表など、他にも見所は多かったようだ。モータージャーナリストの清水和夫氏からリポートが届いたので、お伝えしたい。

カンファレンスは電気一色、ブースの中身は…

まず全体の印象だが、今年のカンファレンスは電気一色だったものの、ブース内を見るとディーゼルを含む内燃機関を持つ車両や関連する要素技術が充実していた。政策や世論をにらみつつ、足元のビジネスを堅実に進めていく各社の方針が見て取れる。

ショーそのものはダウンサイジングしている印象。ダイムラーとBMWはおおむね最盛期と変わらないが、フォルクスワーゲン(VW)には目新しさがなく、日産自動車、三菱自動車、GM、フィアットなどの不在は寂しい限りだった。プレスデーは欧米人が少なく、その反動で日本人が目立つ格好となっていた。

モビリティ社会の行方を示したダイムラー

圧倒的な世界観を示していたのはダイムラーだ。元来、ダイムラーはコンセプチュアルなプレゼンテーションを得意とするが、今回はSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)とのコラボイベントを控えている影響か、全体にカジュアルで若々しい雰囲気だった。

ステージに上がったディーター・ツェッチェ会長はストライプのシャツにノーネクタイ。インディゴブルーのジャケットはボタンも留めていない。最近はさまざまな公の場で、このスタイルを通している。

おなじみのスタイルで登場したツェッチェ会長(撮影:Satoru Nakaya)

舞台演出もミュージシャンのライブ演奏や若手演者のミュージカル調寸劇など、躍動感にあふれていた。なかでも興味深かったのは、「smart」を中心に据えたモビリティ社会の未来図である。

スクリーンの映像と若手演者によるミュージカルを融合させたライブ感あふれるパフォーマンス(画像提供:Daimler AG)

完全自動運転×カーシェアリングの世界が到来?

描かれたのはそう遠くない近未来。完全自動運転のsmartがシェアカーとして活躍している。ベースになっているのはカーシェアサービス「Car2Go」。Car2Goは2008年からテスト運用を開始し、すでに10年近い実績を持つサービスだ。2017年6月現在、ドイツや中国などの26都市で展開しており、ユーザー数4万2,000人超は世界最大とされる。

近未来のCar2Goで使用する車両は『smart vision EQ fortwo』。昨年のパリショーで発表したEVブランドの「EQ」シリーズに属するEV(電気自動車)コンセプトである。

ユーザーはスマートフォンのアプリを使ってシェアカーを呼び出す。無人走行中のsmartはフロントグリルに位置するパネルに「ON MY WAY」と表示されているが、目的地周辺に近づくと「Hey Kate」に切り替わる。人間のドライバーがお迎えに来たように、クルマが「やあ、ケイト」と呼びかけるのだ。

親しみやすいインターフェースの後ろ側では、しっかりとシステムが動いている。車両の位置情報やユーザーの履歴などから需要を予測し、スムースに配車できるように体制を整えておく。まさに、「CASE」コンセプトそのものの世界だ。ちなみにCASEとは、Connected(コネクテッドカー)、Autonomous(クルマの自動化)、Shared & Services(カーシェアリングなどのサービス)、Electric(クルマの電動化)の頭文字をとったダイムラーの中・長期戦略だ。

ダイムラーはSクラス「S560e」のプラグインモデル(写真左)や燃料電池のPHV「GLC F-CELL」も発表(画像提供:Daimler AG)

ライドシェアの在り方も提示

デモではライドシェアも提案した。青年デビッドがスマートフォンを操作すると、対象車両として、先ほどのケイトの情報が表示される。デビッドとケイトの双方がOKすれば、車両はデビッドのもとに行き、彼をピックアップする。今回は設定が若い男女だけにややロマンチックな展開に思えなくもないが、見方を変えれば、相手の情報が事前に分かるのだから、望まない相手とは相乗りにならないようにガードすることも可能ということだ。

また、車体側面はほぼ全面がモニタなので、利用可能なら緑色、NGなら赤色など、ステータスを示すことができる。あるいは街頭ビジョンのようにサッカーの試合結果や天気予報などを表示させても良い。多くの人々が行きかう都市空間において、車両の存在意義は移動手段だけではないことを示した。

ドイツ三大メーカーは“電動化”に積極姿勢

ショーではドイツ三大メーカーがいずれもEV導入や電動化の目標を発表した。

・メルセデス:2019年から「EQ」市販化、2022年までに全モデルを電動化 (smart:2020年までに北米と欧州で発売する車両を全てEV化)

・VW:2025年までに新規EVモデル投入、2030年までに全300モデルを電動化

・BMW:2025年までに25のモデルを電動化、そのうち12モデルがEV

この背景には、メルケル首相の“脱エンジン宣言”などの政治的駆け引きや、ディーゼル問題に対する世論などがあるわけだが、各社に共通しているのは電動化(電動パワートレーンの採用)がメインであるということ。EV導入についても語ってはいるが、それは一部に過ぎない。言い換えれば、少なくとも2030年までは内燃機関を搭載した車両を発売する予定があるということだ。どんどんEVを普及させようということではない。

アウディは自動運転レベル3の「A8」(市販中)、レベル4「ELAINE」(写真左)、レベル5「AICON」(写真右)の3つの自動運転車を披露。「ELAINE」は展示ブース内を実際に走行するデモンストレーションを行った。カンファレンスの冒頭はロボットによる自動演奏のライブを披露しており、終始一貫してAutomatedなプレゼンテーションであった(画像提供:AUDI AG)

パワートレインにとどまらない電化の流れ

しかし、電化(電装化、電動化、電脳化)は確実に進む。少し前までは「こんな電装品があったら便利」「これが電動化できれば効率的」といった具合に単品ばら売りだったが、個々の技術の発展と電脳化の進展により、新たな価値の創造が可能になった。それは運転支援や自動走行のシステムとして結実しつつある。この先、電化の流れが止まる理由はもはや見当たらない。

数年前までコンセプトモデルの価値は「1キロ走行あたりCO2排出量〇グラム」という数字で語られてきた。現在も、電化を語る際にCO2排出量削減や環境対応といった文言は出てくるし、EU域内で販売する乗用車の平均CO2排出量は2021年までに1キロあたり95グラム以下にしなければならないという規制もある。しかし、会場ではCO2削減を自慢する表示が格段に減った。むしろ、車体に「CO2〇g/km」のステッカーを張っていたVWが旧型モデルに見えたくらいだ。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある
根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

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2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。