栄光と挫折……“プロ経営者”原田氏がベネッセ会長兼社長を退任

栄光と挫折……“プロ経営者”原田氏がベネッセ会長兼社長を退任

2016.05.13

ベネッセホールディングスは、代表取締役の異動および新役員人事について発表を行った。それによると、6月25日付で福原賢一 代表取締役副社長 兼CAO(最高管理責任者)が代表取締役社長に就任。現・代表取締役会長兼社長 兼 ベネッセコーポレーション 代表取締役社長 原田泳幸氏は退任する。

6月に退任が決まった原田泳幸 会長兼社長

原田氏といえば、米アップルコンピュータの副社長および日本法人の代表取締役社長を務めたのち、日本マクドナルドの代表取締役副会長兼社長兼CEOに転身(2005年に代表取締役会長兼社長兼CEOに就任)。アップルのパーソナルコンピュータ「マッキントッシュ」(Mac)からマクドナルドへ移ったことから「マックからマックへ」という表現で騒がれ、日本の“プロ経営者”としてもっとも有名な人物の一人となった。配偶者が著名なシンガー・ソング・ライターであることでも知られている。

就任後の事件で初手からピンチに

その原田氏がベネッセホールディングスの会長兼社長に迎え入れられたのは2014年6月のこと。つまり、わずか2年での退任劇となる。その最大の理由が業績の悪化だ。平成28年3月期の売上高は約4,440億円、連結最終損益は約82億円の赤字と苦戦。前期も売上高約4,630億円、損益は約107億円の赤字だった。

正直、原田氏は不運だったといわざるをえない。ベネッセの会長兼社長に就任して1カ月も経たずに約2,070万件もの個人情報流出が発覚。この事件を嫌忌して同社の通信教育講座「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」を解約する動きが加速したことに加え、自粛のため大々的なプロモーションが行えず新規会員の獲得がはかどらなかった。同社にとって国内教育事業は売上高の半分を占める大黒柱。その主事業の会員減少が、同社の経営を直撃し業績悪化につながった格好だ。

もちろん、これだけが業績悪化の要因ではない。少子化が進み、国内教育事業の対象となる層が減少していること。加えてスマホやタブレットを使ったオンライン学習プログラムを前面に打ち出した企業が教育事業に参入し、競争が激化したこともベネッセに追い打ちをかけた。

同社が主軸とする進研ゼミは、生徒が記入したテキスト用紙を先生が添削する“赤ペン先生”と呼ばれる仕組みがメイン。2015年2月に「BenePa」(ベネパ)を発表しオンライン教材の取り組みを始めたが、ライバル企業に比べ遅きに失した感は否めない。また、専用タブレットを活用する「チャレンジタッチ」という学習方法もあるが、これだけスマホやタブレットが普及した時代に専用端末のみのサービスというのは、正直違和感を覚える。

だが、2016年4月からスタートした「進研ゼミプラス」では、そうした弱点を補っている。

進研ゼミプラスの最大の特徴は、BYODを使ったオンライン学習が行えること。個人所有のiPadを使って学習できるようになり、加えてこれまで取り組んできたテキスト用紙と先生による添削も併用できる。オンライン学習とテキスト用紙による学習を組み合わせることで、ライバル企業との差別化が図れるのだ。なお、同サービスのスタートにより、BenePaは終了させる方針だ。

さらに、2021年から導入される大学入試改革への対応も迫られる。これまでの“知識の暗記・再生”という学習ではなく、“思考力・判断力・表現力”が試される試験になるという。そうした学力を伸ばせるプログラムをいかに訴求するかも課題となる。

前述したとおり、国内教育事業はベネッセにとって最大の柱。個人情報流出事件以降、離れていった消費者をいかに取り返せるかが最大のテーマといえる。現在の生活様式にあった学習方法に進化した進研ゼミプラスに、これまで40年以上積み重ねてきた進研ゼミのノウハウをいかに生かせるか……福原新社長の手腕に期待がかかる。

進研ゼミプラスのキャッチは「Good-bye,進研ゼミ Hello,学び革命。」と刺激的なもの。特に「さようなら進研ゼミ」という意味を込めたところにベネッセの意気込みがうかがえる(ベネッセホームページより)

ベネッセの今後を支える注目事業

“脱進研ゼミ”を進めなくてはならないのも新社長の役目だろう。“進研ゼミ立て直し”と“脱進研ゼミ”とは矛盾しているのではないかと思われるかもしれないが、国内教育事業にこれまで頼り切ってきた体制を変えていかなくてはならない。その期待を背負うのが海外事業開発と介護・保育事業部門だ。

海外事業開発の売上高は約271億円と、グループ全体の売上高からみると、まだまだ小さい。だが、前期比29.1%という高い伸び率で増収。これは、中国での通信教育講座の在籍者数が増えたことなどが大きな要因だ。中国といえば人口抑制策「一人っ子政策」が緩和される方針で、今後、教育を必要とする層が増えるとみられている。そうした需要をうまく取り込めれば、将来、国内教育事業と並ぶ柱になれるだろう。

一方、介護・保育事業への期待も大きい。ご存じのとおり、日本は“超高齢化社会”に向かっており、介護に対する需要が増大するのは明らかだ。保育についても、女性活躍推進法が施行され、出産後に職場に戻る女性が増えると容易に予想でき、その必要性が高まっている。こちらの介護・保育セグメントは約950億円の売上高となっており、すでにベネッセの主力事業といってもよいだろう。

原田氏に話を戻そう。進研ゼミの改革は氏の悲願だったと聞く。生え抜きの経営者の場合、それまで長いこと企業を支えてきた中核事業に大なたを振るうのは二の足を踏んでしまいそうだ。だが、進研ゼミを大きくリニューアルしたこと、2年で経営から退くことを決めたこと、これらは“プロ経営者”である原田氏ならではの判断の早さといえるのではないだろうか。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。