産業ロボットのファナックがIoTプラットフォームを作った理由

産業ロボットのファナックがIoTプラットフォームを作った理由

2017.10.06

ファナック 代表取締役会長 兼 CEO 稲葉 善治氏

10月3日より幕張メッセで開催している「CEATEC JAPAN 2017」で、ファナック 代表取締役会長 兼 CEOの稲葉 善治氏が講演。製造工場のIoT、AI導入の重要性とともに、発表したばかりの造業向けIoTオープンプラットフォーム「FIELD system」について解説した。

ファナックは工作機械用CNC装置や多関節ロボットのメーカーで、世界でもトップクラスのロボットメーカーのひとつ。現在2つの工場で月産6000~7000台の工作機械やロボットを生産しているが、「それでも世界における需要が伸びていて(工場が)足りない」(稲葉氏)。そのため、来年度末までに第3工場を設立して月産1万1000台を目指しているという。

ファナックの自社工場内でも、同社が製造した工作機械やロボットが約3600台稼働。稲葉氏は「ファナックのスローガンは『壊れない』『壊れる前に知らせる』『壊れてもすぐ直せる』。これが、工場にとって一番重要な『止めない』ことにつながっている」と話す。

工作機器やロボットがファナックの主力製品
製造業として自社でも工場を運営しており、3つのスローガンを重要視している

マシンの最適化はネットワークから

技術革新によってこの数十年、工場はコストダウンなどの最適化を進めてきたものの、稲葉氏によれば「限界に来ている」という。例えば省人化を目指したスタンドアローンで動く機器の性能向上などについても限界に近いそうだ。そこでファナックがフォーカスしたポイントは「工作機械やロボットをネットワークでつなげることでデータを収集し、システムや工場全体での最適化」だという。そこには当然ながら、IoTやAIの急激な進化が関係している。

稲葉氏はAIについて「"熟練の技"をデジタル化できる技術」として注目。少子化によって労働者の確保が難しくなり、熟練工の技術伝承が社会問題化しているが、これをAIで解決できるというのがファナックの目算だ。例えば、最新の工作機械にはカメラセンサー以外に「振動」や「臭い」の検知が可能なセンサーも搭載。これらのデータを元にAIが最適な加工条件を見つけ出し、熟練工と同じレベルの作業を自動で行なえるようになるという。

またAIは、人間が技術を覚えるよりも早く学習が可能で、乱雑に積まれた物体から特定の物体を取り出す作業では、熟練者が2日程度かかる学習時間が、8時間ほどで熟練者並にチューニングでき、さらに複数台のロボットを並列に学習させることで、学習スピードをアップさせられる。理論的には4台のロボットが同時に学習を始めれば、8時間の学習時間を2時間まで短縮できることになると稲葉氏は話す。

工場の機械やロボットから収集されるデータは膨大な量となる
クラウド側にすべてを任せると、レイテンシーやセキュリティーの問題が発生する

ここでポイントとなるのが、こういった学習や判断をクラウドで処理せず、エッジで処理すること。工作機器やロボット1台であれば問題ないが、工場全体のデータ量となればかなりの量となる。つまり、それをクラウドへ送信・処理するには大容量の高速回線やストレージが必要となってしまうわけだ。

それに加えて問題となるのが「レイテンシー」。稲葉氏は「何か異常を検知し、それをクラウド側に送って判断するのに数秒かかってしまったら、工作機械の刃物がお釈迦になってしまうかもしれない」と話し、瞬時の判断の遅れが工場を止めてしまい、生産性の低下を招くと指摘する。

このエッジ処理の考え方は、セキュリティの懸念も同時に解決できる。可能な限り多くの情報をエッジ側で処理してクラウドには最低限のデータを送る方法であれば、攻撃者の目に触れる機会が減るベストな状態というわけだ。

こうしたファナックの考えを反映したシステムが、10月2日より運用が始まった製造業向けIoTオープンプラットフォーム「FIELD system」だ。工場内にメインのシステムを配置し、工作機械やロボットなどをネットワークでつなげることで、各種データの収集と解析、制御が行なえる。

オープンプラットフォームでメーカーなどの垣根を越えて使用できるFIELD system
ネットワークスイッチを使い各工場やインターネットと連携するFIELD systemの構築例

接続可能な工作機械やロボットは最新モデルである必要がないのも「FIELD system」の特徴だ。「イーサポートがあればカンタンだが、20~30年前のRS-232CやI/Oポートしかない機械でも接続可能。FIELD systemを使えば、スペック的限界はあるものの、最新機械と同じようなコントロールも可能になる」(稲葉氏)。

システムはインターネットにも繋がっており、各種クラウドと連携できるほか、工場外からの遠隔操作にも対応する。稲葉氏は「工作機械やロボットがつながることの最大のメリットは『見える化』である」とし、「現地に行かなくても情報が取れ、見えたものを考えて分析し、よりよい機能を開発していくことができる」とアピールした。

FIELD systemで接続した機械やロボットをコントロール
ポートの種類などメーカーの壁を越えてまとめて接続可能

また、収集したデータをAIで解析すれば、さまざまな工作機械やロボットがいつ、どのように壊れるかということまで判断できるようになるという。これによって突発的な修理が発生せず、保守点検のタイミングで対応できるため、ファナックのスローガンにある「壊れない」「壊れる前に知らせる」「壊れてもすぐ直せる」を実践できるようになる。

稲葉氏は、FIELD systemが「メーカーのえり好みをせず、世代とメーカーの壁を越えてつながる」(稲葉氏)オープンプラットフォームであることも大きなポイントであると強調する。ファナック以外の工作機械やロボットに対応する上、デバイスパートナーやサードパーティー、アプリ開発などもフィールドシステムパートナーズとして広く募集する。

アプリをインストールするだけで、既存の工作機械やロボットが最新モデルのように使える
深層学習自体の実証実験はすでにスタートしている

生産性の向上は日本の産業界でもっとも問題視されている分野であり、少子化による生産年齢人口の減少といった問題も、日本の主要産業である製造業の担い手を助けるこのシステムが大きく寄与できるはずだ。未来予想図だけでなく、どこまで現場の奥底までサポートできるのか、ファナックの新たな挑戦に注目だろう。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。