ソニーのゲーム子会社、社長交代で鍵となる「ネットサービス」

ソニーのゲーム子会社、社長交代で鍵となる「ネットサービス」

2017.10.07

ソニー・インタラクティブ エンタテインメント(SIE)は10月3日、同日付で社長 兼 CEOのアンドリュー・ハウス氏が会長に、現副社長である小寺剛氏が新しく社長 兼 CEOに就任すると発表した。ハウス氏は同日にソニー本社の執行役EVPからも退き、SIEの経営から身を引くことになる。

SIEの現在の主力商品は、みなさんもご存じPlayStation 4(PS4)。世界的なヒット商品であり、現在も好調を維持している。一方で、日本では「そんなに元気がないのではないか」と思っている人もいるだろう。今回の社長交代がどういう意味を持っているのか、そして、ソニーにおけるゲーム事業がどのような状況にあるか、改めて確認してみたい。

業績は好調、社長交代後も戦略は維持

今回の社長交代は、いかにも突然のことのように思える。社長交代、というといわゆる「引責」が頭に浮かぶが、少なくとも業績を見る限り、今回はそういうわけではないらしい。

8月1日に公開されたソニーの2017年度第1四半期(2017年4月1日~6月30日)決算では、SIEが属するゲーム&ネットワークサービス部門の売上は、前年同期比5.3%増の3481億円。利益こそ前年同期比69.7%減の177億円となったが、これは前年同期に、PS4向けゲーム「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」が発売され、全世界で870万本を超えるヒットになった影響。

今期はそれに匹敵する自社タイトルがなかった分、利益率が下がったわけだ。これは折り込み済みのことで、少なくとも引責につながるような話ではない。SIE側も「ビジネスの大きな方向性、戦略には変更はない」(SIE広報)としており、もちろん、経営体制変更に伴う変化はあるにしろ、当面はハウス体制下におけるビジネスの方向性が継続される……と考えて良さそうだ。

世界市場で好調なPS4、今後のカギは「開拓中の市場」が握る

では、PS4のビジネスの現状はどうか?

筆者は東京ゲームショウのタイミングで、アンドリュー・ハウス氏に単独インタビューしている。その時にも「PS4は好調で、想定通りに売れており、今年計画した数量は達成できる」と語っていた。SIEは現状、今年の6月までの販売台数しか公開していないが、2017年度6月までの販売台数は330万台。6月13日には、PS4の販売台数は累計で6040万台を突破している。2017年度の販売目標は1800万台で、ハウス氏の言葉によれば、これは概ね達成できる見通しと考えられる。

現在、PS4の販売の中心は海外だ。日本国内での販売台数は480万台(6月時点)で、現在は500万台を超えている程度と見られる。日本の話はまた後で述べるが、海外における好調さこそがPS4世代の強みであり、ソフトウエアの販売・ダウンロード累計数4億8780万本という数にもつながっている。

かつての勢いは見られないにせよ、着実に日本でもタイトルの拡充が進み、ハード販売も伸長しているPS4

ゲーム機としては任天堂の「Nintendo Switch」がヒットし、特に国内ではなかなか買えないほどのヒットとなっているものの、まだ発売1年目で累計販売台数にかなりの開きがあること、SIEと任天堂のゲームを買う人々は棲み分けており、直接的に市場を食い合ってはいないことなどから、少なくとも短期的には、海外におけるPS4の勢いに大きなブレーキをかけるものにはならないだろう。

日本国内についてはブーム的な盛り上がりには達していない。とはいえ、据え置き型ゲーム機としてはトップシェアであることに変わりはなく、ソフトも充実してきた。SIEジャパンアジアの盛田厚プレジデントは「日本のゲームファンが望むタイトルのうち、最低限揃えたいと思っていたものは揃えられたと思っている」と話す。

2018年1月には、大ヒットが見込まれる「モンスターハンター:ワールド」(カプコン)の発売を控えており、大幅に伸ばせるかはともかく、短期的に販売数量に急ブレーキがかかることは想定しづらい。

ビッグタイトル「モンスターハンター:ワールド」の発売が間近に迫る

では、PS4は最終的にどこまで数を伸ばすことを狙うのか? ハウス氏は「社内的な目標は、PlayStation 2(PS2)と同じ量」と語った。PS2は最終的に1億5000万台以上を出荷しており、世界で最も売れた据え置き型ゲーム機だ。PS2は発売から10年売れ続け、この数字を達成している。PS4は発売から4年未満で6000万台以上を売っているから、ペースだけで見れば達成の可能性がある。

一方でハウス氏は「PS2の時とは違う部分もある」という。

SIEジャパンアジア プレジデントの盛田 厚氏(左)はタイトル拡充に自信を見せる。右はカプコンでモンスターハンターシリーズを手がけるプロデューサーの辻本 良三氏

PS2は半導体の低コスト化がもっとも劇的に効いたゲーム機であり、当初は3万9800円(税抜)だったものが、最終的には1万6000円(税抜き)にまで安くなった。しかしPS4は、技術基盤が変わっており、そこまで半導体の進化が低コスト化に結びつかない。「ライフサイクルの最後になっても、PS2ほどは安くならないだろう」とハウス氏も見通しを語る。

それでも台数を伸ばせる理由は、「PS2の時代にはゲーム機を販売していなかった地域でも、ビジネスを展開しているから」(ハウス氏)である。10年前まで、ゲーム機ビジネスは日本と欧米が中心の市場。中南米の市場は開拓途上で、東欧・アジア・中国などのビジネスはきちんと始まっていなかった。

現在も欧米が中心市場であることに変わりはないが、中南米やアジアの存在感は増しているし、東欧・中東でのビジネスも成長中だ。SIEは地域展開の拡大とゲームのローカライズを進めており、そうした活動によってゲームビジネスの海外比率を高めてきた。結果的に、それがゲームの市場拡大につながっている。

「1億5000万台」という数字に対してはまだ半分にも到達しておらず、実現できるとしてもかなり先の話になる。だから「今後も盤石」と太鼓判を押すことはできない。しかし少なくとも、PS4事業を成長させるためのビジネス基盤は整っており、4年目の状況としては十分なものだと考える。

SIEの未来は「ネットサービス」に、社長交代でより重要度が増す

一方で、SIEとPlayStationというプラットフォームの未来を考えると、課題は多数ある。

VRプラットフォームであるPlayStation VR(PS VR)はまだ立ち上げ期だ。PS4の周辺機器ではあるが、どちらかといえば「PS VRそのものがプラットフォーム」と言った方が正しく、長期戦が必要なビジネスだ。さらに携帯型ゲーム機のビジネスをどうするかも問題だ。

「撤退はしない」とハウス氏は筆者に語ったが、SIEのビジネスがPS4中心に回っているのは間違いない。日本・アジアではまだ市場が残っているものの、欧米・中国などでは、携帯ゲーム機は市場が完全にシュリンクしている。現行のPlayStation Vitaについても、SIEは2015年度より販売台数を「非開示」としている。

次世代機をどうするのか、新型を作るにしろ作らないにしろ「テレビの前にいない時のゲームの市場をどうするのか」という答えの結論を、遠くないうちに市場に示す必要がある。PS4にしても、今年・来年なら新型機を出す必要性は薄いが、「次」を考えるタイミングがいつかはやってくる。

どちらにせよSIEの中では今後、より「ネットワークプラットフォーム」としてのビジネスが重要になる。PS4以降、ネットワークサービス分野の売上は同社の屋台骨であり、大きな成長の源泉である。下記の画像は5月に開催された「ソニーIR Day 2017」での、ゲーム&ネットワークサービス分野の営業利益見通しの説明図である。

特に大きな増益源として「ネットワークビジネスの更なる拡大による増益」が見込まれているのがわかる。現在のハードウエアですら、ネットワーク分野からの収益が大きくなっているわけだが、次世代以降のプラットフォームになれば比率がさらに高まるのは間違いない。SIEの今後は、ネットワークサービスの支持を広げ、収益性の高いものにするかにかかっている。

ここで話を社長交代に戻そう。

新社長となる小寺 剛氏は、SIEのネットワークサービスの基盤である「PlayStation Store」の立ち上げに関わり、ゲーム&ネットワークサービス事業全体の事業戦略立案やネットワークシステム構築の責任を担ってきた人物の一人だ。社長着任までも、副社長として同分野を統括してきた。

小寺氏が社長になることで、ネットワークサービス分野の重要度がさらに高まることになりそうだ。

関連記事
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu