ビッグデータの活用でどんな新商品が生まれるか - Tポイントの試み

ビッグデータの活用でどんな新商品が生まれるか - Tポイントの試み

2017.10.08

Tポイント・ジャパンは「Tカード」会員の行動データを元に、東北・三陸のカキを使った新商品を開発し、「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」の第一弾として発売することを発表した。行動データを元にしたマーケティングや商品開発は各社で進められているが、同プロジェクトにおいてはどのような役割を担ったのだろうか。

行動データをもとにつくった新商品

一次産業の六次産業化を推進

「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」は、地域が抱える社会課題の解決や地域共生につながる取り組みを実施する「社会価値創造プロジェクト」として2016年11月に発足したものだ。この第一弾として選ばれたのが、2011年9月の東日本大震災で甚大な被害を被った東北・三陸地方だ。

同地方は震災前後で生産量・生産額ともに減少が続いており、漁業従事者の減少・高齢化も進んでいるという。そこで、一次産業が食品加工や流通販売にも業務展開する、いわゆる六次産業化を、Tポイントが持つデータやネットワーク、知見を生かして支援し、その実現を目指そうというのが、今回のプロジェクトの骨子だ。

なお、本プロジェクトには宮城県石巻市に本部を持つ、一般社団法人フィッシャーマンジャパンが協力している。

製品開発にビッグデータを活用

Tカード会員は2016年9月で6000万人を突破し、日本人の約2人に1人が加入している計算になる。莫大な会員数に加え、Tポイントのアライアンス企業175社、およびTカード会員の40億件以上に上る購買データが活用できるというのが、このプロジェクトの強みとなる。

今回のプロジェクトでは、6000万人の中から「魚介好きで食にこだわりがある」という条件を元に55万人の会員を抽出して、企画賛同のメールを実施。この中から応募のあった565名からさらに20~60代の男女9名を選出して商品開発に当たったという。

今回発表会には開発メンバー中3名が登場された。いずれもTポイントが選りすぐった「魚介好きで食にこだわりを持つ」方々だ

商品開発では実際に現地を見学したり、数回の試作とヒアリングを経て、最終的には約10カ月をかけて、三陸の名産である春の牡蠣を使用したカキフライとオイル漬けが第一弾商品として誕生した。販売はYahoo!ジャパン内のECサイト「東北エールマーケット」および、スーパー「マルエツ」「マミーマート」「ヤオマサ」の一部店頭となる。

「カレーとガーリック味の大きなカキフライ」「パセリとチーズ味の大きなカキフライ」(各1480円/10個)。牡蠣といえば一般に旬は「Rの付く月=9月~4月」と言われるが、三陸では春先の牡蠣が最も美味とのこと。春先の大粒の旬の牡蠣だけを選りすぐり、チーズ入りとカレー味のカキフライに仕立てたのがこちら。カリっとした衣の下に隠れたプリッとした身には牡蠣臭さが一切なく、旨味だけが濃厚に口中に広がる
「カキとバジルのオイル漬け」(1280円/約140g)。やや小さめに切った牡蠣をバジルソースとともにオイル漬けにしたのがこちら。サラダに混ぜたりバケットに乗せたり、パスタソースにも合う。試供品をいただいたので家に持ち帰ったところ、魚介嫌いなはずの子供達に全部食べ尽くされてしまった

ビッグデータによる商品開発はどこまで有効なのか

今回のプロジェクトはビッグデータを使った商品開発ということだが、実際にデータを活用したと言えるのは6000万人中55万人まで絞り込むところであり、いわば約100分の1にふるい分けただけだ。その先の商品開発は、55万人からさらに立候補した565名、その中から選出された9名の方々のセンスが生かされたものであり、その大部分は人為によるものなので、あまりビッグデータとは関係ないと見ることもできる(完全に無作為な抽出よりは信頼性が高いだろうが)。完成品を試食した限りではプロジェクトは大成功だと思えたのだが、果たして他業種でも同様にビッグデータを活用できるのだろうか。

ビッグデータ活用と呼べるのは最初のふるい分けのみで、例えば商品の嗜好などについては完全に開発メンバーのセンスに依存するところが大きい

Tポイント・ジャパンの長島弘明常務取締役によれば、参加者の抽出にあたっては、「単純に魚介類の購買データだけでなく、Tカードが持つ食やエンターテインメントといった、ライフスタイル別のデータベースを利用し、これらを組み合わせて多角的な手法で選出した」という。具体的な手法については語られなかったが、食材以外の購買データや嗜好についても当然考慮に入れているということだろう。

ビッグデータを活用したマーケティングでは、データの量だけでなく相関関係の分析が重要だとされている。たとえば「魚をよく買う人」に「観劇する人」が多いからといって、直接の因果関係とは限らない。「魚をよく買う人」は「女性」や「主婦」が多く、ある程度自由時間が多いので観劇に行ける、という因果関係のほうが強いかもしれないわけだ。単純な数だけでなく、多角的にデータを集め、その関係を見つけることが重要だ。

Tポイントがこうしたデータの分析について独自のノウハウを形成しているかは、正直なところ明確な答えが得られなかったこともあり、若干疑問が残る。もちろん企業秘密に属する情報であり、簡単には明かせないところもあるのだろうが、まだ手探りで行なっている側面も大きいのではないのだろうか。いずれにしても人工知能(AI)と一緒で、まだまだ発展途上にある技術だけに、わずかな事例で評価するわけにはいかないだろう。プロジェクトの第二弾・第三弾と回を重ね、成功を収められるかに注目したい。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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