新型「リーフ」は使いやすい電気自動車になった? 日産担当者に聞く

新型「リーフ」は使いやすい電気自動車になった? 日産担当者に聞く

2017.10.12

電気自動車(EV)への注目が集まる中、技術的に長足の進化を遂げて登場した日産の二代目「リーフ」。2010年に登場した初代に比べ、クルマ選びの選択肢に入る機会は格段に増えそうだが、購入検討者が気にするのは、そもそもリーフは買いやすいクルマなのか、そして、買ったとして便利に使えるのかといったポイントなのではないだろうか。その辺りを含め、リーフのマーケティングを担当する日産の寺西章氏に話を聞いた。

日産の日本EV事業部でマーケティングマネージャーを務める寺西章氏

航続距離への不安は解消、EVシフトが追い風に

日産リーフが2010年に発売された当時、同社CEOだったカルロス・ゴーン氏は2016年までの目標として、日産とルノーを合わせて150万台のEVを販売すると宣言した。だが、2017年時点で日産とルノーを合わせた販売台数は40万台を超えたにとどまっている。

とはいえ、ここへきて世界の自動車メーカーが電動化へ意欲を示し、逆にハイブリッド車(HV)は環境車と認められなくなる事態も起きている。そうした時代の追い風が吹き始めたところに登場した日産リーフの二代目は、JC08モードで400キロという、今日のEVの一充電走行距離では最先端に並ぶ性能を持つに至った。これまで、消費者の多くが心配していた走行距離への不安は、解消したと言っていい。

航続距離でEV最先端の水準を実現する新型「リーフ」

ガソリン車との勝負に向け条件は整った

技術的進化が進む一方、日産のEV販売戦略はどのような状況にあるのか。日産の寺西氏は次のように語る。

「EVのマイナス要因は、開発側が大幅に改善してくれました。これで、ガソリンエンジン車などと同じ条件で勝負できるようになったと思います。その上、先進装備として『プロパイロット』や『e-Pedal』、また新型リーフからの新装備となる『プロパイロット・パーキング』などが加わったこともプラスの方向へ作用し、お客様に魅力を感じていただける商品になりました」

「販売面では、従来の『エコカーとして』とか、電気代の安さという経済性の側面だけでなく、それ以上の魅力がEVにはあることを伝えていきたいと考えています。新車カタログでは“新次元”という言葉を使って表現しています」

新型リーフは日産が初めて「プロパイロット・パーキング」を導入したクルマとなった

「媒体を通じた取り組みでは、EVのリーダーであるという自負や姿勢を訴え続けるとともに、より多くの方に乗ってみたいと思っていただけるようなイメージづくりをしていきたいと思います」

「その上で、やはり実際に乗って体験していただくことが、ご購入いただくうえで最も重要な点と考えています。弊社の調査によれば、EVに乗った経験のある方は、まだ免許人口の2~3%にも届かないほどです。経験者が少ないことから、古い印象のまま、馬力が無いのではないかとか、排気音がしないのでつまらないクルマなのではないかと思われているところがあります。しかし、一度乗ってみていただければ印象が変わり、まさに目から鱗が落ちるといった体験をしていただけるでしょう。販売店で試乗をしていただき、戻ってきたところで最新のプロパイロット・パーキングの自動駐車を試していただければ、未来感覚を感じていただけるのではないでしょうか」

百聞は一見に如かずと言うが、まさにEVの本当の魅力を知るには体験に勝るものはない。とはいえ、まだ購入するかどうかを決めかねている段階で、販売店を訪ねるのは気が引けるという人も多いだろう。

寺西マネージャーはリーフの魅力は乗れば分かると自負するが、販売店での試乗にはハードルを感じる消費者も存在する。そこで日産は、「イオンモール」などでの体験試乗を全国的に展開していく考えだ。「『ノートe-POWER』でも盛況でしたので、その経験を踏まえ、新型リーフでも体験試乗を行って、環境にいいクルマというだけでないワクワク感を広めていきたいです」と寺西マネージャーは語る。

環境性能にとどまらないリーフの魅力は乗れば分かると寺西マネージャーは語る

集合住宅の充電問題にも切り込む日産

ところで、EVの普及で課題となっているのが、集合住宅における充電コンセントの設置の難しさである。居住者がEVを購入し、敷地内の駐車場で充電したいと思っても、共同利用の場所である駐車場にコンセント設置工事を行うには、管理組合の合意が必要になる場合が多い。そこで否決されてしまうと、EVの購入を諦めなければならないことになりかねない。

そこで日産、大京アステージ、NECの3社は、集合住宅へのEV用コンセント設置を促進するための覚書を締結し、既築のマンションへの充電コンセント設置を支援することになった。まずは、選定されたマンションでの実証が始まる。

その内容として、まずはマンション駐車場への充電設備の設置費用を実質ゼロ円とし、住民側の負担をなくす。そして、管理組合との折衝や、約款の改訂などには大京アステージが支援を行う。これによりEVの所有者は、月々のサービス基本料と電気代の支払いをするだけで充電設備を使えるようになる。

マンションにEVの充電設備を設置するのはなかなか難しい

集合住宅における充電コンセント設置の問題は、日産だけの話ではなく、またEVに限った話でもない。充電を行うプラグインハイブリッド車(PHV)も同様であり、他の自動車メーカーや輸入車メーカーも、解決の糸口を掴めずにいた課題であった。そこに、日産が一歩切り込んだことになる。

充電し放題のプランも

一方で、日産の調査によれば、戸建てのリーフ所有者でも、自宅に充電コンセントの設置工事をしている人は4割程度。実は、公共の充電器を利用してリーフに乗っている人が多いのだ。それはガソリンスタンドで給油する感覚だが、EVの充電には給油よりも長く時間が掛かる。なぜ、そのようなリーフの乗り方をする人がいるのだろうか。

自宅で充電できなくてもリーフは運用できる

日産では、定額で何度も充電できる“使い放題プラン”を実施している。月額2,000円を支払えば、充電のたびに掛かる電気代を定額で済ませられるのである。極端に言えば、2,000円で日本一周のドライブもできてしまうというキャンペーンである。距離を乗る人には、自宅で充電するより安上がりになるだろう。

日産は、初代リーフ発売の際に1週間無料で試乗できるキャンペーンを展開した。実際にEVの使い勝手や走行感覚を日常生活のなかで体験してもらうことで、リーフの販売につながったとの話も耳にする。このように、これまでのエンジン車やHVでは採用されてこなかった新発想の販売促進策を、これまでも日産は取り入れてきているのだ。

とはいえ、1台のEVを売るために、それだけの手間や投資をなぜ続けられるのか。端的に言って、EVを販売することで、かえって損をしてはいないのか。寺西マネージャーに聞くと、次のような答えが返ってきた。

「そこは、かつてCOOを務めてきた志賀俊之が、『EVは大義である』と常々言っていて、『虚仮の一念岩をも通す』で、その思いを貫こうという空気が今も社内にあります。確かに持ち出しは多いですが、新型リーフの登場は、そのターニングポイントになるだろうと考えています。HVに代われるかの勝負の局面にあるので、投資を続け、EVがブランドとしてお客様に受け入れられるよう働きかけていきます。そして、EVの大衆化を実現し、花を咲かせると信じてやっています」

EVへの取り組みは日産の大義でもある

我慢の先行投資が結実する日は

それでも事業である以上、いつまでも投資を続けるだけでは済まされない。寺西マネージャーは今後の見通しについて、次のように語る。

「10年も先までというのは考えられないでしょう。5年先くらいまでのところで、日産としてEVの存在を自社の個性に定着させるところまで持ってゆけるのではないかと思います。そのためにモーターショーで車種展開を提示していきますし、日産・ルノー・三菱の提携の中で、2022年までに12台のEVを出していくとしています」

「充電器の整備においても、充電網の整備に力を入れていきたいですし、自宅での充電環境を整えることもしていきたいです。世界各地のモーターショーで、各自動車メーカーがEV戦略を発表しているように、EVが事業として成功していけるような環境になりつつあることを、国内の販売店さんにも理解していただけるようにしていかなければなりません」

EVが事業として成立する環境は整いつつある

そしてここへきて、販売が好調の「ノートe-POWER」が、EV販売のきっかけにもなっているという。

「(ノートe-POWERでは)充電せずに、EVのような走りを体験できることによって、EVの凄さを知っていただけるようになりました。そして、一度モーターの走りを経験してしまうと、エンジン車には戻れないといった声も耳にします。販売店でも、お客様にリーフとノートe-POWERの両方を試乗していただき、利用のご事情に合わせた選択をしていただく営業の仕方もしています。ノートe-POWERの誕生が、リーフ販売の後押しにもなっているのです」

どんどん身近になるEV、勢いづく日産のマーケ部隊

低速トルクの太いディーゼルターボエンジンが運転のしやすさを謳うが、EVのモーターはそれ以上に力強く、であるからこそ少しのアクセル操作でも速度にのせていくことができる。軽いペダル操作は、運転のしやすさにつながるのである。そういった部分が、もうエンジン車には戻れないといった声にもつながっているのだろう。なおかつ、排ガスゼロはEVならでは強みだ。

クルマの進化という技術開発と、エンジン車とは違うEV体験の提供というマーケティングの取り組みが両輪となり、いよいよ、EVを身近に感じられる時代が近づきつつあると言えるのではないか。“やっちゃえ NISSAN”から“ぶっちぎれ 技術の日産”へ、EVのマーケティングも勢いづいている。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。