ソニーなのにB2B、健康プラットフォーム化を目指す「FAIT」の正体

ソニーなのにB2B、健康プラットフォーム化を目指す「FAIT」の正体

2017.10.12

ソニーと言えばテレビ「BRAVIA」やゲーム機「PlayStation」、そしてスマートフォン「Xperia」などのブランド名がすぐに思いつく人も少なくないだろう。そのソニーが法人向けに「FAIT(Fit with AI Trainer)」と呼ばれるソリューションをこの10月から展開する。

もちろん、ソニーはかねてから放送機器やカメラセンサーといった分野で高いシェアを誇っており、ソフトウェア販売やソリューション販売でも専売子会社を抱えるなど、B2Bの知見がないわけではない。ただ、このFAITでは従来ソニーが開拓してきたB2B顧客先とは異なり、介護事業者やスポーツクラブ、不動産会社といったあまり馴染みのない領域へ進出する。

FAITとは何か、なぜソニーがこのビジネスを展開するのか。ソニーモバイルコミュニケーションズ IoTビジネスグループ 事業推進部 SF-Project 統括課長の廣部 圭佑氏に話を聞いた。

ソニーモバイルコミュニケーションズ IoTビジネスグループ 事業推進部 SF-Project 統括課長 廣部 圭佑氏

FAITとは?

日本人の長寿命化はもはや説明不要だろう。7月に厚生労働省が公表した調査によれば、平均寿命は女性が87.14歳、男性が80.98歳と、「人生100年」が現実的なものになっていることがわかる。一方で東京大学らの調査によれば、健康上の問題なく日常生活を過ごせる「健康寿命」は2015年時点で73.9歳(この調査における平均寿命は83.4歳)と、生涯を終えるまでおよそ10年間のタイムラグが存在する。

この10年を埋めるための存在がFAITだ。

「Live Longer, Live Happier(長く生き、楽しく生きよう)」をキースローガンに、「スポーツセンサー」や「FAITタグ」というIoTデバイスを用いて「健康PDCAサイクル」を回して健康寿命の長期化を目指す。また、FAITの名称に「AI Trainer」が組み込まれているように、人工知能を活用することでその人に最適なトレーニングメニューを提案するという。ソニーは8月にディープラーニングの統合開発環境「Neural Network Console」をOSS化して公開したが、FAITもこの開発環境を用いている。

廣部氏は、「日本の社会課題として健康寿命の延命をなんとか実現できないか。どういうソリューションで実現できればいいかと考えた時に、ソニー全体のアセットを見渡してできると考えた」と振り返る。構想は2年前、ソニーの新規事業開発プロジェクト「SAP(Seed Acceleration Program)」に応募したところからスタート。ウェアラブルデバイスやテニスセンサーといったセンシング技術と、NNCなどのDeep Learningを組み合わせることで実現できると考えたそうだ。

SAPにこそ選ばれなかったものの、ソニーモバイルコミュニケーションズでIoT事業部が立ち上がるタイミングでヘルスケア事業を手がけることになり、構想をそのまま実現させた。廣部氏は、「SAPとして採用されなくても、あのプログラムによって世に出た製品は少なくない。若手社員であっても、手を挙げることで事業開発や開発手法をプログラムの途中で学ばせてもらえる。SAPは確実にソニー全体にいい影響を与えていると思う」と話す。

サービス開発がスタートした2016年4月、健康寿命を伸ばすためのトレーニングをどう組むのか、その元データを収集するプログラムを筑波大学との共同研究で開発した。筋力と持久力、反応速度、素早さ、協調性、認知機能など、基礎的かつセンシングで収集できるデータを見出すことで、従来は人の手で計測していたこれらの数値データを簡単にビッグデータ化できる土壌を作り上げた。

体力・認知機能の測定をスポーツセンサーとタブレットで実現した

では、なぜこれをソニーが得意とするB2Cモデルで販売しないのか。

これは、ユーザーの習慣化や、ビジネスのスケール設計、そして長期間に渡ってサポートしていく事業継続性を念頭に置いた結果のB2Bモデルだと廣部氏は語る。「B2B2Cモデルであれば、例えばデイサービス施設や老人ホーム、スポーツクラブなど、一定の会員が見込める母数を維持できる。未病対策や健康情報の管理はいま、注目されているし、確実に収益性は見込める」(廣部氏)。

面白い事例では、大和ハウス工業の分譲マンションがFAITを採用。マンション共用施設のフィットネス施設にセンサーデバイスが置かれており、各種体力・認知機能の測定が可能なほか、このテスト結果を元に施設設備のレコメンドや、自宅テレビでの測定結果の確認などがおこなえるという。各種測定は月に1度といった頻度で蓄積することで習慣化の敷居を引き下げる。

大和ハウスはマンションでFAITを導入

センサーデバイスに一日の長

スポーツセンサーは足に巻きつけて利用する

ちなみに、これらのセンシングデータは何もどこでも取れるようなものではない。例えば運動機能を調べる足上げ、タップ、アジリティテストなどは、一般的なウェアラブルデバイスでは0.1秒単位のトラッキングにとどまり、反射神経の計測に向かないという。

一方、ソニーは前述のテニスセンサーで0.001秒単位のトラッキングが可能なセンサーを既に開発していたことから、これを応用することで人手いらずの計測環境を実現できたという。先ほどのDeep Learningの開発環境と合わせ、これこそが「ソニーならでは」というポイントの一つだろう。

さらに、ウェアラブルデバイスのFAITタグを毎日つけてもらうことで日常の記録を行い、運動・認知機能の測定結果と組み合わせることで、日々の生活習慣がどう健康に影響しているのかをビッグデータ化する。ちなみにFAITタグは同社既存製品ではなく、FAITのために開発した専用デバイス。コイン電池で動作させることで高齢者などが充電などを気にすることなく使えるように設計した(電池寿命は3カ月以上)。

FAITタグ

歩数と睡眠時間の計測に加え、タグ表面についているボタンで食事時間もワンタッチで計測できるようにした。さらにNFC/FeliCaやビーコンを搭載することで「健康管理という側面だけでなく、FeliCaはスポーツクラブなどの会員証として、ビーコンは児童や高齢者の見守り機能として利用できるようにした」(廣部氏)。

日々のセンシングと体力・認知機能の測定を人工知能が解析して利用者にトレーニングメニューをレコメンドする。総合的な健康プラットフォームを目指す理念こそ理解できるが、それだけで未病対策とはいかないのが実情だろう。廣部氏もその点は認識しており、「FAITはプラットフォームと呼んでいる。データを自社に閉じることなく、例えばほかのプラットフォームで集積しているバイタルや血圧といったデータと組み合わせられるようにAPI化して連携を容易にしている」と話す。

そのサービスモデルは「FeliCaみたいなもの」(廣部氏)と自社プラットフォームを引き合いに出す。つまり、FAITタグやスポーツセンサーから得られるデータはあくまでベースであり、これらが紐づくデータ・アカウントをベースにさまざまなフィットネス・ヘルスケアサービスの連携を可能にする。タグが会員証として利用できるのもこの理念を形にした一つの事例であり、「相手側(事業者)のサービスの下支えになるつもりでやっている」(廣部氏)という。

もちろん、自社プラットフォームとして他サービス連携も検討している。

Work Performance Plus」と呼ばれる生活習慣の改善サービスでは、スマホアプリで食事を撮影することで画像認識技術で料理の自動判定、カロリー計算を行う。食事のアドバイスから体力・認知機能の測定まで、人々の日常をすべて記録することでトータルにその人個人の生活習慣を把握できるようになる。こちらもB2Bサービスとして提供していることから、事業継続性やデータの集積などが期待できる。FAITとの相乗効果も期待できるだろう。

サービスの将来像は、「健康の未来予測を実現したい」と廣部氏。実は現在のIoTデバイスが実現するヘルスケアの各種トラッキングデータは「正解データがない状況」(廣部氏)だという。体力・認知機能の測定や体重・体脂肪率など、複合的なデータを集積してこそ、初めて正解データに繋がっていくものであり、このサービスが本格稼働することで、従来の大学の研究・調査結果の枠を超えたビッグデータとしての価値が真に生まれるというのが廣部氏の狙いだ。

「1カ月ごとのデータが数百、数千、数万と蓄積していけば、健康状態の推移が先々こうなっていくのではと予測値を個別アドバイスに応用できる。サービスイン後、半年ほどで解析に足りうるものが蓄積できるのではないかと期待している。これまでのデータは、例えば学校の体力測定などは年に1回、体調が悪いときなどにしか行えない場合、データの信頼性の問題もあった。そうした体調の平準化なども含め、このデータが持つ意味合いは非常に大きいと思う」(廣部氏)。

IoTの一つの期待がこのヘルスケア分野だ。もちろん、Fitbitや国内でもオムロン、タニタといったヘルスケアのプレイヤーが先行している上、本来がっぷり四つで組むべき相手のAppleやサムスンなど、正攻法で戦うべき相手と戦える土俵に立ちづらいジレンマはあるだろう。

しかし、B2Bモデルでこうしたデータを蓄積することは、今日明日に繋がらなくても3年後、5年後に生きてくる可能性はある。「強いソニー」の種蒔きになることを期待したいところだ。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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