京王電鉄は「着席保証列車」の運転で何を狙うのか

京王電鉄は「着席保証列車」の運転で何を狙うのか

2017.10.18

ここ10年ほどの間に、大手私鉄で一種の流行となっているのが、通勤時間帯の座席指定制、つまり、いくばくかの追加料金を支払うことによって、座れることを保証する列車の設定である。

京王電鉄も2018年春より、京王線の夜間の帰宅時間帯に新宿発京王八王子行き、新宿発橋本行きの座席指定制列車(愛称、料金など詳細は未発表)の運転を開始すると2016年3月に公表した。2人掛けクロスシートとロングシートを自動的に転換できる座席を備え、座席指定制以外の列車にも運用できる「5000系」電車を10両編成5本新製。約100億円を投資する。

従来から座席指定制の特急を運転していた小田急、近鉄といった会社は、すでに1970年代から通勤客向けの特急を運転しており、これらに加えて、2008年運転開始の東武東上線「TJライナー」や、2015年運転開始の京急の「モーニング・ウィング号」、2017年春に登場した西武・東京メトロ・東急・横浜高速鉄道直通の「S-TRAIN」などが、近年デビューした。過去には運転していなかったこうした列車を新規に設定する会社や、運転時間帯、運転系統を増やす会社が、次々と現れているのだ。京王も、この流れに乗ったものである。

多摩川橋梁をわたる、京王が新製投入した「座席指定制列車」用の5000系。5000系は9月29日より、一般の列車として運転を開始した(右:長沼駅にて)

通勤ラッシュ解消の一手なのか?

座席指定制列車の拡大傾向は、タイミングとして、小池百合子都知事が提唱した「満員電車ゼロ」と合致した方向の流れと見なされたのか、「通勤ラッシュ解消」と結びつけて論じられる傾向があった。

だが、その見方はまったく正しくない。

例えば、今回注目する京王5000系の座席定員は、10両編成で438人。これに対しラッシュのピーク時、10両編成の一般的な通勤電車には、乗車率150%として1本あたり2000人以上は乗車している。単純計算でも、運転本数を5倍にしなければ全員は座れない。国土交通省の朝ラッシュ時の混雑率のデータ(2016年度)によると、京王線の最混雑区間は下高井戸→明大前間で10両編成×27本=3万7800人(1本当たり1400人)の輸送力に対し、約6万2700人の利用があり、混雑率は166%となる。どうしてここに「500人弱しか"座れない"」5000系を座席指定制で充当できようか。

では、なぜこうした列車の設定が流行となっているのか。その目的は、少子高齢化社会、すなわち利用者減少時代を睨んで、各路線の沿線の魅力を高め、「住みたい、住み続けたい」と思わせることにほかならない。日ごろは満員電車で通勤していても、たまにはゆったりした座席で出社したい、帰りたいと思うことがあるだろう。しかし、そもそも利用している路線に座席指定制列車が運転されていなければ、かなわぬ夢でしかない。現在の京王電鉄京王線も、そうした路線のひとつだ。

京王の事例を考えてみるに、やはり利用者の減少を睨み、それを食い止めるための座席指定制列車導入であることには間違いない。同社の統計によると、年間の輸送人員は2007~2016年度の10年間、6億3000~6000万人前後で推移してきており、特に定期券客は2億6000~7000万人前後ですっかり「安定」してしまっている。高齢化が進み就労人口が減る時代となれば、どうなるかは自明だ。2015年度から定期券以外の客が増加傾向にあるが、これは主に、著名ガイドブックへの掲載でインバウンド客の人気が高まった、高尾山への観光客の増加によるものと思われる。

中央線快速もグリーン車導入

一方、新宿~京王八王子間の京王線は、JR東日本の中央線快速との競合路線でもある。中央線快速には2021年度以降、全列車にグリーン車を増結する計画がある。これは座席指定制ではないものの、やはり追加料金の支払いにより定期券でも利用でき、座席を確保できる可能性も高い。京王にも、何らかの対応作が必要とされるであろう。

高尾線沿線は京王が開発したニュータウンエリア。今後の座席指定制列車の運転も期待される(めじろ台駅にて)。京王相模原線は多摩ニュータウンエリアで小田急と競合している(右)

とはいえ、京王線と中央線快速が真に競合していると言えそうな区間は、実は高幡不動~京王八王子・高尾間だけにすぎない。調布や府中といった主要都市は、地理的に京王の独占状態にある。また、多摩ニュータウンに通じる京王相模原線は、小田急多摩線と若葉台~京王多摩センター間で競合しているものの、利便性などから長年、京王優位が続いてきた。だが、最近は小田急が東京メトロ千代田線直通急行を増やすなど、攻勢に出ている。 京王にとってみれば、長い距離を乗る安定した定期券客を逃したくはないという思惑は、私企業として当然ある。それゆえ、着席を保証するという、それまで運転した経験が一切ないタイプの列車の導入に踏み切ったのだ。

報道によれば、新しい座席指定制列車は、新宿から乗車する場合は指定席料金が必要だが、最初の停車駅から先で乗車する場合は料金不要との同社の方針がすで示されている。ということは、新宿から、例えば高幡不動、若葉台まではノンストップ。その先は各駅停車もしくはそれに近いという、運転形態も予想されよう。競合区間、すなわち自社路線および沿線の価値向上にもっとも努めなければならないエリアがターゲットとなるのではないか。高尾山への観光客輸送でも、高尾線沿線の通勤客輸送でもなく、座席指定制列車を京王八王子や相模原線の終点・橋本へ振り向けた思惑が、この辺りに見え隠れしているようだ。

京王電鉄は、社内に不動産やホテルなどの開発部門を持ち、遠い観光地や海外にまで関発事業を展開する他社とは異なり、自社沿線に根ざした地域開発を経営の基本方針としてきた。めじろ台など京王高尾線の住宅開発がその典型例であり、高尾山の観光開発もその延長線上にある。高尾線自体も、ニュータウン建設に合わせて1967年に全線開業した路線だ。

多摩地区の聖蹟桜ヶ丘駅前にある京王本社。沿線地域密着の方針の表れの一つだ。京王は高尾山の観光開発にも力点を置くが、今回、観光客向け座席指定制列車の設定は見送られた(右:京王高尾山温泉)

当面京王八王子や相模原線で運用

地域密着をうたう以上、沿線価値の向上は必須条件である。ただ当面、5本だけの5000系という限られた経営資源を活用するため、座席指定制列車の運転区間を決める際、観光地や住宅地の中心に駅があり、しばらくはアドバンテージが保てる高尾線方面ではなく、八王子市の中心部に位置する京王八王子や、相模原線へと振り向けたと考えられよう。

けれども、今回の施策が一定の成果を挙げた場合は、高尾線への観光・通勤列車の設定もありうる。その上、5000系は車両番号の下2桁が30番代となっている。これは京王では、都営地下鉄新宿線への直通運転が可能な車両を意味する。

クロスシートとロングシートの転換が可能という5000系の車内構造も、座席指定制列車に運用しない時間帯には一般の列車に充当することを考慮したもので、これは「TJライナ ー」や「S-TRAIN」と同じ。投資の効率的な回収を目論んだもので、来春を待たず、すでに普通列車などに先行使用されている。

座席指定制列車が運転を開始し、本領を発揮する日が来れば、改めて試乗するつもりだ。また、実状をご報告しよう。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。