三菱自動車が中期計画、野心的な数値目標より注目すべき「自律」の姿

三菱自動車が中期計画、野心的な数値目標より注目すべき「自律」の姿

2017.10.24

三菱自動車工業(以下、三菱自)が3カ年の中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」を発表した。グローバル販売130万台、売上高2.5兆円という目標は、2016年度比でいずれも30%以上の増加となる野心的な数字だ。この期間中にフリーキャッシュフローは黒字化するとし、コスト管理の徹底を図ることで効率的かつ規律ある業務体系の構築を目指すという。

東京都港区にある三菱自の本社

土台づくりの3年間

この新しい中期経営計画は、三菱自が燃費データ不正問題を契機に日産自動車の傘下に入ってから約1年が経過する中で、ルノー・日産連合の一員として、立ち位置をしっかりと固めるための土台づくりとなる。

つまり、過去のリコール隠しから燃費データ不正に至るブランド失墜を受けて、三菱自は真の信頼回復に向けて歩き出すことになる。組織改革を実行し、企業文化を変貌させることで、同社の強みを生かした成長と、ルノー・日産・三菱自連合の枠組みを確立させるため、第1ステップとして大きな意味を持つのが同計画だ。その成否が、三菱自の生き残りを占うことになると言っても過言ではない。

三菱自の益子修CEOも、新計画の発表で「完全に信頼を回復させることがこの中計3年間を通じて第一の優先経営課題だ」と強調した。そして、3つのポイントとして「信頼の早期回復、業績のV字回復、3カ年の新車投入を成功させる」ことを挙げた。

中期経営計画の発表会に登壇した三菱自動車の益子修CEO

電動化技術・SUV・アセアン市場に強み

すでにカルロス・ゴーン3社連合会長が、2017年9月にフランス・パリで2022年までのアライアンスとしての中計を発表している。三菱自の会長も兼務するゴーン氏は、3社連合で2022年には2016年比40%増のグローバル販売1,400万台を達成し、世界トップとしての地位を確立するとの野望を明確に示した。

また、3社連合で12車種の電気自動車(EV)を投入するとし、この分野におけるリーダーの座を意識する一方で、プラットフォーム(車台)の共通化を拡大する方向性を示し、ルノー・日産連合に三菱自を入れたロゴも明示することにより、三菱自の強みであるプラグインハイブリッド車(PHV)およびSUVの商品力とアセアン戦略を連合に組み込むことへの期待をにじませた。

アライアンスのロゴ

ゴーン氏の発表を受けて、ルノーはすでに中期経営計画を発表済み。日産も当初は10月16日に発表予定だったが、無資格従業員の完成検査問題が発覚したことで延期となった。三菱自の中計は、3社連合の6カ年計画に対し、信頼回復の優先課題もあるため、まずは3カ年で連合中計と擦り合わせる土台づくりを狙うことになる。

再建に向けた試金石

2015年春の燃費不正問題は、1990年代末のリコール隠しが2000年代に入って再び発覚し、三菱自の経営が独ダイムラーから三菱グループによる支援へと揺れたあげくのことであった。結果として、2016年10月には日産が三菱自に34%を出資。三菱自は日産傘下、つまりは「ルノー・日産連合」の一員として再生へのスタートを切ったのである。

今回は日産の傘下入り以来、三菱自が発表した初めての中計であり、この計画は、本当の意味で過去を断ち切って再建を具現化できるかどうかの試金石ともなるものだ。日産傘下入りで三菱自の会長に就任したゴーン氏は、三菱自に対し、開発・品質担当の山下光彦副社長に加え、日産でゴーン氏の腹心と言われた世界6地域統括のトレバー・マンCPO(チーフ・パフォーマンス・オフィサー)をCOO(最高執行責任者)として送り込んでいる。この体制で約1年が経過した。

三菱自のCOOとして初めて公の場に姿を現したトレバー・マン氏

すでに三菱自は、ゴーン流日産方式の経営改革を導入している。日産主導のコスト改善策により、三菱自の業績はV字回復基調を示している。この流れに拍車をかけて、基盤を固めようというのが今回の中計だ。

台数で30%以上の成長、鍵を握る新商品の動向と地域戦略

中計全体のフレームワークとしては、2016年度と2019年度の比較でグローバル年間販売を92万6,000台から40%増の130万台、売上高を1兆9,066億円から30%増の2兆5,000億円へと引き上げるのが目標だ。営業利益率は0.3%(営業利益51億円)を6%以上(同1,500億円以上)とし、フリーキャッシュフローでは1,189億円の赤字を800億円の黒字に持っていくとしている。2016年度実績比ではあるが、V字回復後にかなりの成長を見込む戦略だ。

その戦略的施策として、「商品の刷新」と「中核市場への注力」で売り上げの成長を実現し、コストを最適化していくという。特に商品力については、三菱自がパイオニアであるSUV、日欧で販売トップのPHV、軽自動車EVも視野に入れる電動化技術などの強みをいかし、11車種のモデルチェンジ計画を打ち出した。

「エクリプス クロス」はグローバルSUV戦略の新型車であり、「エクスパンダー」は東南アジア向け戦略MPV(マルチ・パーパス・ビークル、多目的車両)として、すでに好調な立ち上がりをみせる
画像は2017年4月に「モータースポーツジャパン 2017 フェスティバル イン お台場」で日本初公開となった「エクリプス クロス」(海外仕様)

一方、ここ10年ほどは世界で100万台程度にとどまっていた販売台数を、2019年度には130万台へと増販させる目標に向けては、中核市場への注力で成長を目指していく。元々、三菱自が強いアセアン・オセアニアは「主力地域」、中国・北米は「注力地域」、日本は「回復地域」の位置づけだ。益子CEOは「3年間での新車投入を成功させないと、この中計が成立しない」とし、得意のPHVを主力に電動化も積極展開するとした。

日産傘下入り後の三菱自による再建の方向は、同社の培った東南アジアでの強みをいかす戦略と、「i-MiEV」、軽自動車EV、SUV「アウトランダー」のPHVをベースとする電動車シフトの加速が主力となる。

「アウトランダーPHEV」

一時は世界に類を見ない総合自動車メーカーだった三菱

一方で、リコール隠しから燃費不正問題にまで及んだ、コンプライアンスが抜けた企業体質がどこから来たのか。この問題を見つめ直すことも重要だろう。三菱重工業からの分離独立が1970年。軽自動車から幅広い乗用車、軽トラから大型トラックまで抱えた、世界に類を見ない総合自動車メーカーとして、1990年代半ばまでには三菱グループも一目置く存在にまで成長したのが三菱自だ。一時は、親会社の三菱重工の業績を抜き、ホンダとの買収・合併話が浮上したり、「日産の背中が見えた」と豪語する社長も出たりした経緯を筆者は見てきた。

ルノー・日産連合という国際アライアンスに三菱自が加わったことで、3社連合を率いるゴーン氏による世界覇権も夢ではなくなった。今回の三菱自の中計でも、東南アジア市場とPHVという三菱自の強みについては、ゴーン氏も日産には無いものとして期待を寄せていることだろう。

三菱自はアセアンに強い

アライアンスの屋台骨が揺らぐ中で

だが、皮肉にも3社連合の中核である日産で無資格検査問題が発覚し、コンプライアンスを問われる問題が尾を引きそうな状況となった。この問題については、ある意味でゴーン長期政権の歪みの現れではと指摘する声も上がっている。三菱自の益子CEOは、「今回の件でアライアンスに影響はない」と言うが、三菱自の社内ではダイムラー主導経営の過去もあって、日産主導による改革を進める中で、当の日産が不祥事を起こしたことについて様々な思いがあるだろう。

いずれにしても、日産傘下で再建に向かう三菱自にとって、過去の不祥事での経験をいかし、「自律」した企業として成長していく流れを示せるか、三菱自なりの信頼回復への道を進めるこの3カ年中計は、何よりも重要なのだ。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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