ペーパーレス化進んでも大容量インクプリンタが好調、エプソンに死角は?

ペーパーレス化進んでも大容量インクプリンタが好調、エプソンに死角は?

2017.10.30

セイコーエプソンの大容量インクタンクプリンタの販売が好調だ。同社は、2017年10月26日に発表した2017年度上期(2017年4月~9月)の連結業績発表にあわせ、大容量インクタンクプリンタの販売計画を上方修正してみせた。

今年度の新たな計画値は、780万台以上。7月に行われた第1四半期業績発表の席上でも、年初計画の730万台を740万台に上昇修正していたが、それをさらに引き上げた格好だ。前年比でいえば、30%増という大幅な成長を見込み、同社が全世界で出荷するプリンタの45%以上を大容量インクタンクプリンタが占めることになる。

セイコーエプソン 代表取締役社長の碓井 稔氏は、「大容量インクタンクプリンタは、当社の成長ドライバーである」と位置づけており、2018年度以降は、半数以上を大容量インクタンクプリンタが占める可能性も出てきた。

新興国から先進国まで、大容量インクプリンタの裾野広がる

セイコーエプソン 代表取締役社長 碓井 稔氏

大容量インクタンクプリンタが好調な背景には、いくつかの理由がある。ひとつは、主力となる新興国での販売が好調なことだ。

碓井氏は、「いよいよ競合が市場に参入してきたが、品質などの差があり、当社の販売は好調。当初想定していた競合の脅威はない。そして、新興国において、大容量インクタンクプリンタ市場そのものが拡大傾向にある」と、差別化戦略が成功している点と、市場成長に自信をみせる。中でも、南米やアジア、インドなどの市場で成長が著しいという。

大量にプリントをする企業において、大容量インクタンクならではのコストパフォーマンスの高さや、インクカートリッジの交換がなくなること、それに伴ったインクカートリッジの在庫確保が必要ない利便性に加え、純正インクの利用による印刷品質の維持、独自のマイクロピエゾヘッドによる耐久性の高さなどが評価されている。

2つめは、先進国市場においても、着実に販売数量を増加させてきたことだ。

「先進国においても、市場認知度の高まりから販売数量が増加し、着実に大容量インクタンクプリンタの販売比率が高まっている。先進国で受け入れられるように、デザイン面も抜本的に見直し、インクのチューニングも遜色がない形にした。11月からは、さらに大容量インクタンクプリンタの販売を本格化する。日本でも柱のひとつになるような拡販体制を取りたい」(碓井氏)

また、同社 取締役執行役員 経営管理本部長の瀬木 達朗氏も、「オフィスや店舗での使用に適したモデルに加えて、日本では、家庭にも適したモデルを充実させることで、先進国でも順調な拡大を遂げている」と言及する。今回の会見では、先進国でも「柱」に位置づける姿勢を、初めて明確に示してみせたといえる。

プリンタ好調も、増収減益

セイコーエプソン 取締役執行役員 経営管理本部長 瀬木 達朗氏

さらに、先進国を含む需要の高まりに対しても、生産体制を強化、万全な体制を構築しつつあるという。

実は第1四半期、インドネシアの工場が火災となり、部品の調達に遅れが生じて減産を余儀なくされている。だが、第2四半期には急きょ増産体制を敷いて、これをリカバリーした。さらに、インドネシアの工場に加えて、第2四半期にはフィリピンの新工場も稼働。ここでは省人化とともに、大型プリンタの生産にも最適化しているという。

セイコーエプソンが発表した2017年度上期業績は、売上高が前年同期比8.2%増の5273億円、営業利益が14.7%減の536億円、税引前利益が15.0%減の151億円、当期純利益が18.7%減の149億円の増収減益。そのうち、プリンティングソリューションは、前年同期比7.4%増の3420億円、事業利益は5.9%増の359億円となっている。

ただ、第2四半期では、プリンティングソリューションズの事業利益は前年同期比34%減となっており、火災の影響が生産、販売に及んだこと、インクカートリッジ型プリンタの出荷数量の変動による費用計上の増加などが減益に影響している。「第2四半期に増産を行ったことで、残業代や雇用に伴う労務費用の増加、さらには空輸によるコスト増がマイナスに影響している」(瀬木氏)と説明する。

また主要市場の日本では、個人向けプリンタ市場が縮小傾向にあるというマイナス面も見逃せない。

それでも同社のプリンティングソリューション事業が増収増益となっているのは、新興国を中心にした大容量インクタンクプリンタの成長が寄与しており、同時に、販売後のインクカートリッジでの収益確保に頼らないビジネスモデルへのシフトが、安定的な利益を生むことにつながっているからだ。

従来のインクカートリッジによる収益モデルは本体で利益が確保しにくく、年賀状印刷の減少や写真プリントの減少にともなって、インクカートリッジの販売数量が減少。収益性を悪化させることにつながっていた。だが、大容量インクタンクプリンタへのシフトによって、こうした課題の解決につながっている。

しかも、全出荷量の45%を大容量インクタンクプリンタが占めるようになることで、その安定感はさらに増すことになる。新興国から先進国へと大容量インクタンクプリンタの販売を拡大することで、エプソンは、プリンタビジネスの収益性をいち早く安定させることに成功したともいえそうだ。

同社のプリンティングソリューション事業におけるもうひとつの注目点が、2017年6月から出荷を開始した高速ラインインクジェット複合機/プリンタ「WorkForce Enterprise LXシリーズ」の動向だ。

大容量インクプリンタや高速ラインインクジェット複合機など明るい材料も多いが、Q2は増収減益にとどまった

高速性を生かして、既存のレーザー方式の複合機からの置き換えや、軽印刷分野での利用を想定し、エプソンにとっての新たな領域への挑戦として注目を集めていたが、「印刷性能や環境性能への評価が高く、顧客への納入実績も着実に増えている。将来成長を担う製品として順調なスタートを切っている」と、碓井氏は自己評価する。

長野県塩尻市の広丘事業所を拡張し、インクジェットプリンタヘッドの生産体制強化を進めるほか、高速ラインインクジェット複合機/プリンタの投入にあわせて、日本、米国、欧州において販売要員の採用を加速し、販売組織体制の強化を進めている。当初は軽印刷向けの比重が高いと想定していたものの、既存の複写機を置き換える形での導入の割合が多いという。

一方で、「商談そのものは予定通りに進んでいるが、導入を決定していた後に、稟議を通し、決裁し、実際の導入が始まるまでに時間がかかる。我々が考えていたスピードでは売りにつながっていない」とも語る。

中期経営計画は合格点か

同社では、2016年度から2025年度の10年間にかけて、エプソンが向かうべき方向である新長期ビジョン「Epson 25」を定め、このビジョンの実現に向け、2016年度を初年度とした3カ年の中期経営計画「Epson 25 第1期中期経営計画」を実行している。2017年度上期で、第1期中期経営計画のちょうど半分が終了したことになる。

碓井氏は、「第1期中期経営計画は折り返し点を過ぎたことになるが、戦略は着実に進展していると考えている。インクジェット、ビジュアル、ウェアラブル、ロボティクスの4つの事業領域においてイノベーションを起こすべく、重点分野での販売拡大を進め、新製品の開発や生産体制の強化などの将来に向けた基盤づくりも同時に進めている。Epson25の実現に向けて、粘り強く取り組んでいく」と語る。

主力のプリンティングソリューション事業において、大容量インクタンクプリンタと、高速ラインインクジェット複合機/プリンタの2つの柱が、順調な事業拡大と滑り出しをみせている。第1期中期経営計画の折り返し点は、合格点といえそうだ。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。