東急電鉄はなぜ池上線で「無料乗車イベント」を実施したのか

東急電鉄はなぜ池上線で「無料乗車イベント」を実施したのか

2017.10.30

2017年10月9日(祝日・体育の日)、東急電鉄は、池上線に終日、無料で乗車できるというイベント「開通90周年記念イベント 10月9日池上線フリー乗車デー」を開催した。日常の利用客数が多い首都圏の大手私鉄で無料開放を行うということで注目を集め、当日の模様については多くの報道もなされた。

ここでは、地理的歴史的背景も含めて池上線が置かれている実情を探り、なぜ「無料乗車イベント」が実施されるに至ったのかを考察したい。

大いに賑わった池上線

10月9日イベント当日の蒲田駅。各列車の混雑も激しかった

池上線沿線を活性化させる「生活名所」プロジェクトの一環として、知名度が高くないこの路線を、沿線の隠れた名所とともに広く紹介。池上線の駅を最寄りとする各地域は、東急と連携した各種誘客イベントを行い、まずは池上線に乗って、魅力を知ってもらおうということが、このイベントの主旨であった。

目論見は当たり、当日の日中の各列車は大いに混雑した。ターミナル駅の五反田や蒲田では、断続的にホームへの入場が制限されたほど。戸越銀座商店街などは人波であふれ、かつての賑わいがよみがえった。

なお、利用の際には各駅で無料配布された「1日フリー乗車券」が必要であった。これは定期券サイズの紙のきっぷで、ICカード専用の自動改札機が通れず、改札口ではやや混乱が見られた。

だがそれは、恐らく承知の上。もちろん、自動改札機のスイッチを切って、自由に出入りしてもらった方が係員も利用客も便利だったことだろう。しかしそれよりも、乗車券を配布することにより、正確な利用客数を把握する方が重要であったのではないかと思われる。

左:買い物客や地域イベント参加者であふれた10月9日の戸越銀座商店街。昭和30年代ぐらいの賑わいがよみがえったという。右:随所に貼られていた「生活名所」のポスター

東急池上線は、五反田と蒲田を結ぶ10.9kmの短い路線だ。全線が東京都品川区と大田区に含まれる。建設したのは池上電気鉄道で、1922年に蒲田~池上間が開業したことに始まる。鉄道敷設の名目は、池上本門寺への参詣客輸送であった。

その後、池上電気鉄道は路線延長を細かく繰り返し、1927年10月9日に大崎広小路まで開業。これが今回の「開通90周年」の根拠となっているようだ。五反田まで残り0.3km区間の完成、全線開業は翌年6月17日に持ち越されている。

ただすでにその時点で、目黒蒲田電鉄が数kmしか離れていない並行ルートに目蒲線(目黒~蒲田間)を1923年に開業させており、1929年には大井町線も全線開業させた。そうなると、競合により池上電気鉄道の業績は頭打ち。建設費の利子負担が重くのしかかってきたのである。

東急とは別会社が建設した池上線

池上本門寺最寄りの池上駅には上下のホームを結ぶ踏切が健在。街の足として気軽に乗り降りできるのが池上線の特徴でもある

結局、池上電気鉄道は1934年に目黒蒲田電鉄に吸収合併されて池上線となる。この目黒蒲田電鉄こそ、東急の直接のルーツである。

また1923年の関東大震災以降、都心部の住宅の郊外移転が加速したことから、都心への便がよい目黒蒲田電鉄各線沿線は、急速に都市化が進行していた。それゆえ戦後の高度経済成長期が始まる以前には、狭いエリアが低層住宅で埋まってしまっており、それ以上の発展が望みにくくなったのである。

さらに近接する路線として、1968年には都営浅草線泉岳寺~西馬込間も開業。このように、池上線は稠密な鉄道網に囲まれる宿命を負っていた。駅へ利用客が集まる範囲(駅勢圏)も狭く、地下鉄との相互直通運転も行われず、利用客数が伸び悩むのは必然だった。

池上線の電車は3両編成。電車自体もやや小型である。ワンマン運転が導入され、駅の改良も進められている(戸越銀座駅)

現在、池上線および目蒲線の一部(蒲田~多摩川間)を分離した多摩川線は、首都圏としては珍しく、全長18m級で3両編成を組む電車が使用されている。20m級10両編成が走る東横線や田園都市線と比べると差は大きい。要は、ずっと数が変わらない固定的な顧客を運ぶ分には、3両でも問題ないのだ。

ラッシュ時の混雑は激しく、朝のピーク時の五反田到着列車は2~3分ごとに運転され、山手線への乗り換えに便利な五反田寄りの車両は、身動きが取れないほどの乗車率となる。旗の台~五反田間で私が実見した範囲においては、時に積み残しも出していた。

しかし、国土交通省の2016年度の統計を見ると、池上線の朝の最混雑区間(大崎広小路→五反田間)では、1時間あたり3両編成×24本=8,832人の輸送力に対し利用は11,346人。平均すると乗車率128%にとどまる。74,261人を運び、乗車率180%を越す田園都市線と比べると、輸送規模の小ささがわかる。

池上線は住宅密集地帯を走る。沿線には大型マンションや団地は少なく、一戸建て中心の住宅街が形成されている

それゆえ、輸送力増強が喫緊の課題という訳でもない。ラッシュアワーが終わると、渋谷のような商業の集積地も沿線にはないため、電車の乗客は減り、格段に空く。休日も然りである。両端駅と大井町線乗り換えの旗の台での乗降が目立つ程度だ。

こうした実情を鑑みるに、「発展性のなさ」が、池上線最大の課題なのではないかと思われる。少子高齢化が進み、就労人口が減少する時代になると、線路や駅などの鉄道設備を維持する、固定費用の負担が重荷になることが予想されるのだ。仮に、利用客が減り列車の運転本数を減らすことになっても、最低限必要な設備のメンテナンスや更新の費用が、大きく軽減されるわけではない。

沿線の人口減少にどう対応するか

多摩川線の方は、東急蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ通称「蒲蒲線」の建設が実現すると、羽田空港アクセス列車が走る。目蒲線時代は通しで運転をしていた現・東急目黒線とは、設備上は今でも直通運転が可能で、東京メトロ南北線・都営三田線~目黒~東急目黒線~東急多摩川線~蒲蒲線というルートが形成されれば、利用客の大幅な増加が望める。

これに対し、池上線には将来的な延伸や乗り入れの構想は特になく、ほぼ恒久的に今の鉄道設備が維持されることになりそうだ。そうなると、利用客減少を食い止めなければ、収支は厳しくなる。

今後も池上線を運営し続けるからには、沿線人口に頼っていては厳しい。やはりエリア外からの利用客を招き入れる必要がある。人口減少時代に直面し、地域の活性化を図りたい品川区、大田区とも思惑が一致。手始めとして、住民や企業を巻き込んだ「無料乗車イベント」の展開となったのではなかろうか。

「落合陽一×鈴木えみ」が魅せる、現代の東京と服

「落合陽一×鈴木えみ」が魅せる、現代の東京と服

2018.10.19

落合陽一と鈴木えみがコラボ、インスタレーションを実施

東京の街を切り取った光で、”日常”の中の服を演出

「ランウェイを歩くより、恰好いい」と演出に好感触

モデルの鈴木えみ氏がデザインするオリジナル服飾ブランド「Lautashi(ラウタシー)」は10月18日、「Amazon Fashion Week TOKYO」のスペシャルプログラム”AT TOKYO”にて、2019年初夏コレクションをインスタレーション形式(作品の展示方法の1つ)で発表した。

メディアアーティストの落合陽一氏が演出を担当することで注目を集めたこのイベント。開催に先立って行われたインタビューで落合氏は、「『光』にフォーカスした演出を行います。”日本らしいものは出てこないけど、なぜか日本を感じてしまう”演出に注目して欲しい」と話していた。

その発言の意味するところを実感してみようと、会場を実際に取材することにした。

東京の日常の中の”服”を演出したい

イベント会場に入ると、暗闇の中にLautashiの新作に身を包んだモデル達が後ろを向いて立っていた。

「工業社会っぽいが、それが自然に溶け込んできている風景」を演出に組み込んだという落合氏。独特の光を用いた演出に加え、会場そのものの選択にもこだわったようだ

インスタレーションが始まると、モデルが振り返り、”東京の日常に溢れる音”をイメージしたという、騒がしく、どこか聞き慣れた音が鳴り始める。その後、天井や壁、モデルの合間に設置されたいくつものLED照明がさまざまに光り出す。そして、その色を青、赤、灰色と複雑に変化させ、照らす服の印象を次々に変えていく。

光の変化で、服の見え方も変わってくる
インスタレーションが始まり数分経つと、「是非自由に見て回ってください」との場内アナウンスが。モデルの間を自由に歩き回り、服を間近で見ることができた

僕らの日常とは、松屋やセブンイレブンの光

今回のインスタレーションを終え、鈴木、落合の両氏は以下のように語る。

「ファッションショーや雑誌って、服を完璧な照明や状態で見せることが多いんです。でも、日常にはさまざまな光が溢れています。今回のように、服をいくつもの照明条件で見せることで、”日常感”を感じさせられるような演出にしました。来場者が期待以上にモデルに近づいてくれて良かったです」(鈴木氏)

「光の演出には、日常に溢れるさまざまな光景を使っています。例えば、松屋やセブンイレブン、車のヘッドライトなどをあえてぼかして撮影して、(その画像をLEDで映し光源とすることで、街の光を再現した)照明に使っているんです。それらは普段、意識しないと目にも止めないようなものですが、そういうものから出る光が、たとえ人工的であっても、現代においては”自然”な存在となっています。私たちは普段、そういう照明条件で服を着ますよね」(落合氏)

左から、アマゾンジャパン バイスプレジデント ファッション事業部門 統括事業本部長のジェームズ・ピーターズ氏、メディアアーティストの落合陽一氏、モデル・デザイナーの鈴木えみ氏、サウンドアーティストのKAITO SAKUMA a.k.a BATIC氏

イベントの音楽を担当したサウンドアーティストのKAITO SAKUMA a.k.a BATIC氏は、街でサンプリングした音と会場での音を組み合わせることで、こちらも「どこか日本らしい」音楽でインスタレーションを彩っている。

Amazon Fashionを擁するアマゾンからは、日本でバイスプレジデントを務めるジェームズ・ピーターズ氏が来場。「消費者と非常に近い距離で服を見せられる。非常に素晴らしい演出だった」と、感銘を受けたことを語っていた。

落合氏の「なぜか日本を感じてしまう演出」という言葉通り、ありふれているようで、これまでにない体験を得られるインスタレーションとなったのではないだろうか。

5G実装まで1年、CEATECで未来を先取りしてきた

5G実装まで1年、CEATECで未来を先取りしてきた

2018.10.19

5Gの実装が1年前倒しされることに

「CEATECH」で5G技術を体験してきた

恐竜ハントや建機の遠隔操作などの技術を紹介

「5Gで世の中が大きく変わる」とは、ここ数年で聞き飽きた言葉だ。同時に、変わる未来に期待を持たされるのも確かである。

5Gとは第5世代移動通信システムの略。あらゆる物がインターネットに繋がるようになったIoT時代をさらに次の次元へと導く技術であり、世界中で研究開発が進められている。もっとも身近な存在であるスマホはもちろん、遠隔医療や自動運転などへの活用も期待されている。

さまざまな業界から社会実装が待ち望まれる5Gであるが、数年前から語られていた「2020年の実用化」を目前にして、「実用化を1年前倒しする」との報道がなされた。まず大手キャリア3社は、5G対応端末の貸与で限定的なサービスを開始し、2020年からユーザー所有のスマートフォンで使えるようにするとのことだ。

では具体的に、5Gの登場によって世の中がどう変わるのか? 2018年10月16日~19日にかけて千葉県・幕張メッセにて開催されている「CEATEC JAPAN 2018」における携帯キャリア各社の展示から、変わる未来の一部を覗いてきた。

例えば、無人島で恐竜を狩れる

まずはauのブースから紹介する。ブース内でもっとも目を引いたのは、森をモチーフにした大きな展示とそこに吊るされた大きなモニター、そして何やら楽し気にしている高校生。気になって近づいてみると、なぜか大きな銃を手渡された。

ブースに入ると、大きな銃を渡された

「CEATEC会場内に恐竜が侵入しました…! おちおちブース見学なんてしてられませんよ!」(auブースの説明員)

ただならぬ緊張感が漂うauブース……。もちろんブース内に恐竜なんていない。銃をよく見てみるとそこにはスマホが搭載されており、『ジュラシックアイランド』という表記が。

スマホを覗くと『ジュラシックアイランド』と表示されている

数秒経つと、スマホがカメラモードに切り替わり、恐竜の足跡が表示された。その足跡を辿って銃先を向けると、スマホ越しにCEATEC会場を歩き回るティラノサウルスを見つけた。

登場したティラノサウルス(のイメージ)。筆者が片手で銃を持ち、画面を撮影していたところ「銃は重いので両手で持ってください」と注意されたので、実際のプレイ画像は撮れなかった

実はコレ、長崎のハウステンボスですでに実装されているもので、一世を風靡した『Pokemon Go』よろしく、AR技術を用いて現実世界で遊ぶことのできるゲームだ。

現状、このアトラクションは4Gにて提供されているそうだが、5Gを使用することで、より多くの人数でプレイができたり、恐竜の出現位置を共通化させたりできるようになるそう。筆者が体験したのも4Gを用いたものであったが、ティラノサウルスのほか、『ジュラシック・ワールド』で活躍したヴェロキラプトルなども登場して、思いのほか楽しめた。

「5Gによって大量のデータを迅速に端末に送信できるようになれば、従来モバイル側で行っていたデータ処理を、クラウド側で担当し、それをモバイルに送信することができるようになります。現在はハウステンボス内の特定のエリアにいるユーザーがプレイできるこのゲームですが、この技術を応用することで、将来的には遠隔地にいる人同士でも同じ恐竜を狩ることができるようになるでしょう」(技術説明員)

例えば、空を飛べる

次に目を引いたのは、大きな半球体のスクリーンに映された綺麗な映像だった。

「半球体スクリーンによる非日常体験」と題された展示。auブース内でもっとも行列が長かったのがこの展示だった

これは、エアレースやドローン、もしくはSUPER GTのマシンで撮った映像を、リアルタイムでスクリーンに映して体験できるというもの。ブースで実際に使用されていたのはすでに撮影された映像であったが、それでも雄大な映像を見ながらまるで自分が飛んでいるかのような体験ができるため、多くの人たちが並んでいた。

例えば、建機を遠隔地から動かせる

次はKDDIブースへ移動。こちらでは、同社がコマツと共同実験を進めている「5G活用による建設機械の遠隔制御」などの展示が行われている。

少子高齢化が進み、かつ職種が徐々に増えている今、人手不足に悩まされる業界は多い。建設業界もその1つであり、その問題を解決しようと開発されているのが同システムである。

遠隔操作コクピット。実際の建機と同じような操縦感で操作することが可能
遠隔で動く建機側で撮った映像を、リアルタイムで確認することができる

「これによって、例えば東京にいる建機の操縦者が、地方の建機を動かせるようになります。建機を操縦するタイミングは、ほかの工程との兼ね合いによって決まるため、デッドタイムが多いという問題がありました。しかし、このシステムを用いることによって、人が1カ所に留まりながら複数の場所で建機を動かせるようになります」(技術説明員)

ほかにもau、NTTドコモブースでは、好きな場所からスポーツを観戦できるシステムや、遠隔でのロボット操縦を実現するシステムなど、数多くの展示を行っており、そのどれもがどこか未来を感じさせるようなものであった。

5G実装まで1年

CEATECでは、紹介した2ブースのほかにも多くの企業が5Gに向けた取り組みを展示していた。それらを見ていると、「5Gで何ができる?」という疑問に対して「なんでもできる」と解答したくなるほど、どの技術も、仕事や日常生活がより便利に、より楽しくなりそう、と思えるものばかりであった。

なお、NTTドコモはラグビーワールドカップが開幕する2019年9月に「プレサービス」を始め、2020年春から「商用サービス」をスタートする予定だとしている。つまり、5Gの実装まで残り1年を切ったこととなる。

CEATECで体験したいくつもの技術が社会実装される日は近い。5Gという、どこか未来的な技術の足音が、もうすぐそこまで迫ってきている。