災害時の明暗を左右! 迅速な救援ルートの啓開訓練を首都高が公開

災害時の明暗を左右! 迅速な救援ルートの啓開訓練を首都高が公開

2017.09.04

地震国“日本”……東海地震や首都直下型地震の可能性が常に取りざたされている。巨大地震が発生した際には、人命救助や食料援助、水道・電気の復旧などが急がれるが、こうした任務に就く緊急車両の通行ルートを確保することが重要になる。

首都高速道路(以下、首都高)は、9月1日の“防災の日”に先立ち、「緊急対応訓練」をメディアに公開した。場所は中央環状線大井北換気所の敷地内で、強い日差しが降り注ぐなか、数多くの職員とメディアが集まった。

この日の訓練の目的は「軽量素材を用いた迅速な道路啓開作業の習熟・検討」というもの。“道路啓開(けいかい)”とは聞き慣れない言葉だが、首都高の説明によると「災害時に緊急車両の通行のため、放置車両等の移動、応急復旧工事(簡易な段差補修等)により救援ルートを切り啓くこと」らしい。

首都高は、首都直下型地震の際、「東名」「中央」「関越」「東北」「常磐」「京葉」「アクアライン」「横羽」の8方向からの救援ルートを想定。重大な被災により車両通行が不可能な箇所を避け、軽微な被災で済んだ道路を組み合わせて救援ルートを設定する。その際に、各高速道路を結ぶ東京外環や中央環状などの役割が重要になってくる。

先頭の乗用車はフレームから切れているが、計5台の車両が用意されていた

訓練の様子をみてみよう。首都高の訓練といえば、3月にも開通前の路線を利用したトンネル火災消火訓練を見学させていただいたが、警察・消防・首都高が参加、実際の事故車を使った規模に驚いたことがある。それを経験していたので、「今回もきっと実車を使った大規模なものだろう」と予想していた。現場に到着してみると、案の定、乗用車3台、大型トラック1台、大型バス1台という規模の被災現場がつくられていた。

マグニチュード7.3の地震発生を想定

さて、状況はこうだ。「都心南部直下地震発生、マグニチュード7.3、首都高管内最大震度6、一部震度7」というもの。この地震により、首都高の複数箇所で高架橋の支承(橋桁を支える部分)がはずれ、橋梁の繋ぎ目に30cmの路面段差および50cmの開きが発生。この路面段差に一般車両が乗り上げ立ち往生、後続車両も滞留し通行できないという想定だ。すでに滞留車のドライバーおよびバスの乗客は降車し、避難階段から脱出したという想定だ。

この現場に、パトロールカーが到着。パトロール隊はクルマから折りたたみ自転車を降ろし、現場の状況確認のため急行。路面段差に乗り上げた乗用車を確認すると、その状況を無線連絡する。50cmの開きが生じているが、自転車ならば手前で降りそれをまたぐことが可能だ。

パトロールカーが到着(左)。折りたたみ自転車で路面段差や開きの間近まで行き、状況を確認(右)

続いてほかのパトロールカーやレッカー車が到着。各職員によるミーティング後に、レッカー移動作業に入る。まず、滞留しているクルマを移動するために車内を確認するが、ドライバーは避難しているので、施錠されサイドブレーキがかかっている。これではレッカー移動はできない。そこで、窓ガラスを破壊し、車内に乗り込み、レッカー可能な状態にしていく。道路管理者は、緊急時には車体の一部を破壊することが許可されているそうだ。

レッカー車が到着(左)。窓ガラスに見立てたビニールを割っていく(右)

まず、最後尾の10トントラックをパトロールカーで引っ張る。以前から「なぜ高速のパトロールカーは大型4駆なのだろう?」と思っていたが、こうした事態にトルクが必要になるのかと、合点がいった。担当者によると、トルクだけでなく「さまざまな天候に対応しやすい」「レインボーブリッジなど強風が発生する箇所で走行が安定する」といったメリットもあるそうだ。

パトロールカーでトラックを後方に引っ張り、トラックとその前方の乗用車にスペースが生まれると、そこに大型レッカー車が移動。トラックの前方をつり上げ後方へと押し下げていく。続いてバスをレッカーで引っ張り、乗用車は「ゴージャッキ」と呼ばれる機材で車体を持ち上げ、そのまま人力で押していく。こうして、滞留した4車体は道路上の安全な場所へと移動された。

段差に乗り上げた車両をつり上げる

4駆のパトロールカーで10トントラックを引っ張る(左)。バスはレッカー車で牽引(右)

残るは路面段差に残された1台。そのまま後方に引っ張ると、50cmの開きに車体が落下してしまう。そこで、レッカー車のクレーンで車体前方をつり上げ、慎重に後方へ移動。前輪が開きを越えたところで車体を降ろし、安全な場所へ移動させた。

段差に乗り上げた車体前部をクレーンでつり上げ、後方に押し下げる。開きを越したところで車体を下ろした

これでパトロールカーや救援車両の通行を妨げる滞留車は除かれたが、問題は路面段差と道路の開きだ。これを簡易補修すべく、機材を積載したトラックと掲示板搭載車が到着。まず、土のうを開きの手前に敷き詰めている。この土のうは新開発された「軽量土のう」で、約5kg。これまでの土のうが約25kgだったのに対し、非常に軽い。道路の簡易補修は人力に頼ることが多く、25kgだとひとつずつしか運べない。だが、軽量土のうなら複数運べ、迅速な作業が行える。訓練では片手に2個ずつ、計4個を運ぶ姿もみられた。

続いて、軽量土のう手前にスロープを組み立てていく。こちらも軽量素材でできており、迅速に運搬可能。スロープができあがると、さらに軽量土のうを積み上げ、路面段差とスロープの高さを合わせる。そして、「F-Deck」と呼ばれる軽量渡し板を、開きの上に設置して“ペグ”のようなもので土のうに固定していく。最後はゴム製のマットを3枚被せ、針金の番線でそれぞれを固定していく。このとき、進行方向手前のマットを上にしていけば、車両がとおってもズレにくくなる。

軽量土のうの手前にスロープを設置(左)。渡し板を開きの上に乗せる(中)。ゴムマットを被せ簡易補修終了(右)

こうして簡易補修は完了。補修に取りかかってから、作業終了までは約20分ほどだった。そして、補修機材を運んだトラックやパトロールカー、レッカー車が、簡易補修箇所を移動していく。もし、この先に同じような箇所があれば、やはり簡易補修していく想定なのだろう。

パトロールカーはもちろん、重量のあるレッカー車も補修を通過

一連の訓練のあと、試行中だというドローンによる道路状況確認のデモンストレーションが行われた。ドローンに期待される目的に「災害時の被害確認」が挙げられるが、まさにそれに沿った利用用途だ。首都高では、このほか平時の橋梁点検に利用するドローンも試行している。実用化の時期は決まっていないが、双方ともドローンの可能性を期待できる施策といえよう。

左は当日デモされた災害確認ドローン。右は通常点検ドローン(2017年5月撮影)

怠らない訓練が緊急時に生きる

さて、トンネル火災消火訓練の際は、警察や消防の姿がみられたが、今回は首都高の職員、および提携する関係者しかみられなかった。それはそうだろう。大地震のような大型災害が生じた際は、警察は交通規制や避難誘導、被災者探索・救助など、消防は火災消火や人命救助・病院搬送など、それぞれが役割を果たさなければならない。そして、道路管理者は救援ルート確保の責を負う。この際、ほかの道路管理者との協力、国土交通省や自治体との連携が“密”でなければならないことは、いうまでもない。

大地震が発生しないことに越したことはないが、いざ発生したときに迅速な対応ができないというのも大きな問題といえる。

今回の訓練を見学させていただいて、災害現場の最前線では“人”こそ大切なのだなと改めて思った。正確な状況確認ができる判断力、判断をもとに的確な作業を行う実行力、人の力を十二分に引き出す機材……訓練、機材の研究開発は、決して欠かしてはいけないといえよう。

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。