AI×タクシーで何が変わる? DeNAが配車アプリで実用実験

AI×タクシーで何が変わる? DeNAが配車アプリで実用実験

2017.09.04

ディー・エヌ・エー(DeNA)はAIを活用したタクシー配車アプリ「タクベル」を開発した。神奈川県タクシー協会と共同で実用実験を行い、2018年1月以降の実用化を目指す。AIの活用でタクシーの使い勝手はどのように変化するのだろうか。

DeNAのタクシー配車アプリ「タクベル」の実用実験が神奈川県で始まる

場所指定で配車依頼、決済はネットでスムーズに

まず、タクシー利用者の立場でタクベルを使用する場合に何ができるのかを見てみると、乗客は予想到着時間を事前に確認した上で、場所を指定してタクシーの配車依頼を行うことができる。迎車地点でタクシーと効率よく出会えるようにするため、タクベルでは互いの現在地を地図で確認することが可能。ドライバーと乗客は、定型メッセージを送り合うことで互いの状況を知らせたり、「5分ほど遅れる」ことを相手に伝えたりできる。事前にクレジットカードを登録しておけば、降車時にはスムーズなネット決済が可能だ。

左は配車が確定した画面。右はドライバーと乗客がメッセージのやり取りをしているところだ

AIの恩恵を受けるのはタクシーの乗務員だ。タクベルにはAIを活用した「需要予測システム」が入っており、運行中の車両から集めたビッグデータとタクシー需要に関連する各種データを解析し、乗務員にリアルタイムにタクシー需要予測情報を提供する。「流し」で乗客を探す際など、これまでタクシードライバーは自身の経験や勘で需要予測を行っていたが、これがシステム化されていれば、例えば新たに乗務員として仕事を始める人にとっても大いに助けになるだろう。

乗務員アプリで需要予測システムを確認している画面

タクベルの実用化に取り組む両者の思惑は

実用実験は9月12日から10月31日までの予定。乗務員専用端末(スマホ)を搭載したタクシー約200台が横浜市の中区、西区、JR横浜線沿線のエリアを走行する。神奈川県内では2018年1月以降のアプリ実用化を目指すが、DeNAは将来的に、神奈川県以外の地域でも順次導入を進めたい意向だ。タクベルには今後も改良を加える予定で、乗務員のアプリには、周囲の電車遅延や大規模イベントの情報を通知する機能の追加を検討中。乗客側では会社・車種指定の配車や定額運賃対応といった機能強化を考えているという。

タクベルが日本中で使えるようになれば、タクシーを拾いやすくなりそうだし、電話で配車を頼む時のように待たされたり、たらい回しにあったりするケースも少なくなりそうだ。ネット決済の便利さも容易に想像できる。これらの利点はライドシェアについてよく言われることだが、タクシー業界としても、ITの活用を進めなければライドシェアに顧客を奪われるとの危機感があるのだろう。次は、タクベルの実用化に取り組む神奈川県タクシー協会とDeNAの両者の思惑を見ていきたい。

ライドシェアへの対抗にはITが不可欠

タクベルの実験に取り組む神奈川県タクシー協会には、ライドシェアが日本で普及することに対しての強い危機感がある。協会の常任理事経営委員長でアサヒタクシー代表取締役の藤井嘉一郎氏は、タクベルの発表会に登壇し、タクシー業界の課題として「白タク・ライドシェア対策」と「労働力の確保」の2点に言及。ライドシェアが入り込む余地のない輸送サービスの構築を目指すにあたり、ITの導入は喫緊かつ必須の課題とした。

配車アプリの導入により、利用者の利便性と乗務員の生産性を向上させることが対ライドシェアで喫緊の課題だ

実際に利用した人からはライドシェアが便利とも聞くので、日本ではタクシーとライドシェアが両立するような形になればとも思うのだが、藤井氏はライドシェアについて、「安心・安全」と事故の際の「事業者責任」に問題があると指摘。ライドシェアが撤退せざるを得ないような輸送サービスをタクシー業界で構築したいとの考えを示した。

ライドシェアは価格の安さも大きな魅力だが、藤井氏は、ライドシェアがタクシーと同レベルの安心・安全を担保し、事業者責任を明確化するとすれば、料金も上がらざるを得ないと見る。ライドシェアがタクシー並みのサービスを実現しようと思えば料金が上がり、価格競争力はなくなるとの考え方だ。

なぜDeNAはタクシー業界と組むのか

意外だったのは、IT企業のDeNAがライドシェアに乗り出すのではなく、既存のタクシー業界と手を組んで配車アプリを始めることだ。勝手なイメージかもしれないが、ライドシェア対タクシー業界という構図において、IT企業はライドシェア側に付きそうな感じがするからだ。

この辺りの事情についてDeNAオートモーティブ事業本部の江川絢也氏に聞いてみると、DeNAが目指すのは「あらゆる人やモノが、安全快適に移動できる世界」だそうで、今回の件は、「地域の交通をどうするか」という大きな流れで考え、タクシー業界と組むことに決めたという。タクシーという既存の交通機関を、より身近で気軽に利用できるサービスに変えていくというのがDeNAの考えだ。

DeNAの江川氏(左)と神奈川県タクシー協会常任理事経営委員長でアサヒタクシー代表取締役の藤井氏

実際問題として、タクベルのようなサービスが普及し、タクシーの使い勝手が向上すれば、地域の足として、タクシーを利用するシーンが増えるかもしれない。目的地が一緒の客が同乗できる「相乗り」のような機能も、タクベルに実装されれば便利そうに感じたが、その点については「需要を束ねてしまう」側面もあるので、実用実験で「検討していく」(藤井氏)とのことだった。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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