独自のローカル路線で地域活性と観光客増加を目指す東急池上線

独自のローカル路線で地域活性と観光客増加を目指す東急池上線

2017.09.08

東京急行電鉄池上線が、90周年を迎える。それにともない、東急、品川区、大田区など、池上線に関わる企業・自治体が記者説明会を開催。今後の池上線周辺における地域活性化や観光客誘致などについて、そのビジョンを披露した。

東京急行電鉄 取締役社長 野本弘文氏

説明会では、まず東京急行電鉄 取締役社長 野本弘文氏が登壇。「池上線は池上や洗足池、その周辺地域の開発のために、1922年(大正11年)に開業しました」と切り出す。その後も路線を拡充していき、1928年に大崎広小路~五反田間が開業し、全通した。

説明会には品川区長の濱野健氏、大田区長の松原忠義氏も参加した。複数の自治体の首長が顔をそろえたことからも、今後の池上線に対する期待がいかに大きいかをうかがわせる。

両区長とも、池上線周辺にある観光スポットについて熱く語った。池上線全15駅のうち、5駅がある品川区の濱野区長は「目黒川」を筆頭に紹介し、「冬のイルミネーション、春の桜並木、季節によって異なる顔をみせる川沿いの散策をぜひ皆さんに楽しんでいただきたいです」と話す。そのほか、パワースポットとしてひそかに注目を集める「池田山公園」、星へのロマンを感じる「五反田プラネタリウム」などに触れた。

一方、10駅が存在する大田区の松原区長は、「洗足池」の自然について語った。「一年中、洗足池を撮影し、その写真で個展を開く方もいらっしゃいます」と、いかにこの池の自然が豊かなのか、住民に愛されているのかを強調。また、洗足池周辺を気に入っていた勝海舟に触れ、「勝海舟のお墓を見学できます。将来的には勝海舟記念館を設立したいです」と、そのビジョンを明かす。

品川区長 濱野健氏(左)、大田区長 松原忠義氏(右)

両区長とも区政を担っている為政者であるからには、池上線のブランディング向上に協力をして地域活性につなげたいのが第一義だろうが、ほかの感情も垣間みえた。濱野区長は旗の台駅周辺に住み、松原区長は池上で生を受けた。つまり両区長にとって、もっとも身近な鉄道が池上線で、それだけに相当な愛着があるのだろうと感じ受けられた。

“トーキュー”にちなんだ日にイベント開催

さて、池上線90周年を迎えるにあたり、東急ではイベントを考えている。その目玉が一日乗車券の無料配布だ。“トーキュー”にちなみに10月9日に開催予定で、奇しくも全長10.9kmの池上線が乗り放題となる。東京急行電鉄 鉄道事業本部 沿線企画課 平江良成氏によれば、「首都圏の私鉄大手では、一日乗車券を無料配布するのは初めてではないか」と、このイベントの希少性を強調する。

ただ、課題がないわけではない。池上線そのものと周辺の観光スポットは、どちらかといえばあまり知られておらず、集客にどれくらい効果があるのか……。

城西、城南地区を走るおもな大手私鉄路線をザッとチェックしてみよう。

新宿~高尾山口を結ぶ京王線には、人気の登山スポットとそれと連携した温泉施設といった資源がある。新宿~小田原を結ぶ小田急線は、関東有数の温泉地・箱根や若者の人気スポット・湘南にアクセス可能。田園都市線は、渋谷という若者文化の街を起点に、再開発が完了した「ライズ」を擁する二子玉川の人気が高い。東横線は渋谷を起点に高級住宅地の代表的存在、田園調布があり横浜まで続く。別路線に乗り入れれば、みなとみらいなどにアクセス可能だ。京浜急行はマグロ人気でにぎわう三崎口があるほか、羽田空港へのアクセス線として、その存在感は強い。

こうした路線に比べれば、やはり池上線の知名度は一段も二段も劣る。事実、前出の東急 平江氏は、「東急路線のイメージ調査をしたところ、田園都市線は74%の知名度があり“高級”というイメージでした。東横線の知名度は77%でイメージは“オシャレ”。一方、池上線の知名度は54.3%にとどまりました」と話す。

ほかの私鉄路線よりも知名度が劣る池上線。右は池上駅の上り下りホームをつなぐ連絡踏切から撮影。高架橋や地下通路がない、こうした駅の造りもなんとなくレトロ。ただ、池上駅はリニューアルされる予定だ

池上線沿線に“名所”を創ることができるか……

そうしたなか、東急は池上線のブランディングに「心地よさ」というキーワードを充ててきた。生活に密着した路線であることを強調し、池上線沿線は心地よく暮らせる場所としてイメージアップを図ろうというものだ。

もうひとつの問題、池上線周辺には目立った観光スポットがないことについても対策を練ってきた。その秘策は「生活名所」というもの。いまいちピンとこないが、“生活”というワードを使い“心地よさ”に結びつけようという意図がみえる。

そして今回、生活名所の候補が15カ所選定された。区長の話にあった、目黒川、洗足池はもちろん候補に入っているほか、日蓮宗の大本山である「池上本門寺」も、当然の選択だろう。そしてほかの候補を聞くと「オヤオヤ?」と思うようなユニークな選択に、逆に魅了されていった。

では、今回選択された生活名所の候補を披露しよう。候補はナンバリングされているので、それにしたがって記載していく。

「No.001 目黒川」「No.002 TOCビル」「No.003 焼鳥エビス」「No.004 街のお助け隊 コンセルジュ」「No.005 沖田精米」「No.006 WAGASHI ASOBI」「No.007 洗足池公園」「No.008 雪見坂」「No.009 雪が谷検車区」「No.010 東調布公園」「No.011 山口文象自邸(CROSS CLUB)」「No.013 池上本門寺」「No.014 鈴木商店」「No.015 ユザワヤ」。

いかがだろう、このユニークなラインナップ。公園や本門寺は順当だと思うが、焼き鳥屋さんや和菓子屋さん、近代建築家の自邸(現在はサロンとして活用)、果ては高齢者の方々が街の手伝いをする取り組みまでも候補に挙がっている。No.014 鈴木商店にいたっては、タバコと切手、少年ジャンプだけしか扱わないという小さな個人商店。生活名所のパンフレットには“究極のセレクトショップ”というキャッチがついており、まさに“究極”ともいえる販売商品の“選択と集中”だが、“セレクトショップ”という呼び方がなんとも味わい深く、逆に興味がわく。

東急の案内で一部の生活名所を見学

そしてこの日、生活名所の一部を東急に案内してもらった。まず向かったのは池上本門寺。広大な境内には「大堂」「仁王門」「五重塔」などがあり、日蓮宗・大本山ならではの見応えだ。ただ、仁王門につながる階段ではジョギングをする人も多いらしく、地域住民と密着していることがうかがえる。

荘厳な大堂。仁王門から続く階段ではジョギングする人の姿もみられた

続いて向かった先は洗足池公園。公園入り口の至近に「鳳凰閣」(旧清明文庫)があり、整備して勝海舟記念館になる予定だ。洗足池公園は緑と水が豊かな公園。野鳥にはまったく詳しくないのでわからないが、水鳥……なのかな? が迎えてくれた。

緑豊かな洗足池公園と、杭の上でたたずむ野鳥。右は鳳凰閣

次に訪れたのがWAGASHIYA ASOBI。ドライフルーツが詰まった羊羹とハーブのらくがんのみ扱う和菓子店だが、名門「虎屋」に勤めた職人が開いた店とあって、味は確か。ここのお菓子を地元の名物として自慢する人が増えているそうだ。

少し奥まったところにあるWAGASHIYA ASOBI。右は名物のひとつ、ハーブのらくがん

そして最後に焼鳥エビスを訪れた。店先で焼き上げる昔ながらのスタイルで、焼き鳥のタレの香ばしさが漂う。もし、筆者の通勤路にこの店があったなら、ついつい立ち寄ってしまいそうだと素直に思った。ちなみに“皮”とビールを注文し、お店の軒先で舌鼓を打った。

店先で焼き鳥を焼くスタイル。タレの香ばしさが“ビール”へと強力に誘う

これらの生活名所は、有名な観光スポットがないからこそ発掘された“お宝”といってよいだろう。ほかの私鉄沿線ではまず名所と呼ばれない場所まで前面に押し出した池上線の取り組みは、はたして功を奏すだろうか。いや、個人的にはぜひ成功してほしいと思う。そしてローカルな雰囲気をますます感じられる、生活名所をぜひ増やしていただきたい。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。