なぜ「メルセデスAMG」は日本で受けるのか

なぜ「メルセデスAMG」は日本で受けるのか

2017.09.09

メルセデス・ベンツ日本は8月、高性能ブランド「メルセデスAMG」が50周年を迎えたのを記念し、新型AMGモデル6車種を一挙に発表した。昨年日本で売れたAMGは5608台。最低でも700万円以上、最高では3000万円を超えるという高価格車がなぜ売れるのか。その理由を考えた。

発表された6車種の1つ「GT ロードスター」

今回の発表会は、今年1月に東京都世田谷区にオープンしたメルセデスAMG(以下、AMG)専売拠点で行われた。メルセデスがAMG専門店を構えるのはこれが世界で初めてだ。

発表されたのは「GT ロードスター」「GT C ロードスター」「E 63 4MATIC+」「E 63 S 4MATIC+ Edition1(期間限定車)」「E 63 4MATIC+ ステーションワゴン」「E 63 S 4MATIC+ ステーションワゴン」の6車種。これで日本でのAMGラインナップは46車種になったという。

発表となった6車種の価格帯は1千万円台後半から2千万円台前半だ

スパ24時間で名を上げたAMG

今ではダイムラー・グループの高性能ブランドとして多くのクルマ好きに知られているAMG。しかし、今からちょうど50年前の1967年、アウフレヒトとメルヒャーがグローザスバッハという街で始めた頃は独立したエンジニアリングスタジオだった。気づいた方もいるだろうが、AMGの3文字は創立者の両名と本拠地の都市名の頭文字である。

メルセデス・ベンツブランドの両極に位置するAMGとマイバッハ

その名が有名になったのは1971年。「ツーリングカーのル・マン」と呼ばれるスパ・フランコルシャン24時間耐久レースで、彼らが手掛けたエンジンを載せたメルセデスのセダンが、初出場にもかかわらずクラス優勝を果たした。

1990年にはダイムラーと協定を締結し、彼らが手掛けた高性能車はメルセデスのラインナップに組み込まれることになる。そして2009年、AMGはダイムラーの完全子会社となり、完全自社開発のスポーツカーを生み出すとともに、F1活動も引き継ぐことになり、2014年から3年連続でコンストラクターズチャンピオンを獲得している。

BMW「M」シリーズとの違いは

AMGのライバルとしてもっともよく名前が挙がるのが、同じドイツのプレミアムブランド、BMWの「M」シリーズだ。こちらもまたモータースポーツ活動を源流としており、BMW量産車をベースとした高性能ブランドとして有名である。

しかし、AMGとMにはいくつかの違いがある。ひとつは歴史だ。Mのルーツは1978年に発表されたスーパーカー「M1」で、AMGより歴史は浅い。ただしMは当初からBMWのグループ内組織であり、この点で見ればAMGよりキャリアが長いということになる。

オールラウンド性とサウンドも支持拡大の要因

もうひとつの違いはオールラウンド性だ。Mは1990年代になるまでマニュアルトランスミッション(MT)のみだったのに対し、AMGは当初からオートマティックトランスミッション(AT)を中心としていた。

いまや日本市場ではメルセデスもBMWもATがメインだが、昔は安全快適な実用車のメルセデスに対しBMWはスポーツセダンと、色分けがはっきりしていた。その違いが高性能ブランドにも反映していたと言える。おかげでAMGは、早くからイージードライブを取り入れることで、より幅広い層を取り込むことに成功していたのだ。

イージードライブへの対応が幅広い層の獲得につながった(画像は「E 63 4MATIC+ ステーションワゴン」)

エンジン音や排気音についても同じことが言える。かつてのMはBMWのアイデンティティでもあった直列6気筒を積む車種が多く、滑らかで緻密なサウンドが魅力だった。一方のAMGは、アメリカ車にも多く積まれてきた大排気量V型8気筒搭載車が多く、迫力のある重低音でアピールした。

クルマ好きはMのサウンドを心地良いと評価する人が多い。筆者もその1人で、高性能車にとって音は大切だから、どちらか選べと言われたらMを取る。でも、その他大勢の人にとってはAMGの問答無用の迫力のほうが分かりやすかった。これも支持拡大に役立ったのではないかと思っている。

AMG東京世田谷には、日本では6月に発表となった「メルセデス AMG GT R」も展示されており、その強烈なエンジン音も聞くことができた

民主化の道をたどったAMGにも一理あり

入りやすさと分かりやすさ。これはマーケティングでは重要だ。例えばスポーツカーの世界では、同じドイツのポルシェ「911」が根強い支持を受けているけれど、それは技術やデザインそのものが評価されているだけでなく、スポーツカーとしては車高が高めで室内が広いことによる使いやすさと、多くのクルマが諦めたリアエンジンという方式を堅持していることが効いているのだ。

もうひとつ、AMGの成長にはバリエーションも関係している。BMWのMが3リッター6気筒以上のエンジンを縦置きした車種に限っているのに対し、AMGは2リッター直列4気筒エンジンを横置きしたAクラスにも設定している。それが最初に紹介した46車種という数字につながっている。一方のMは10車種に満たない。

たしかにMの思想のほうがピュアであり、AMGの民主化を残念がる声もある。でもその結果、知名度がアップし、販売台数を稼いでいるのだから、これもひとつの正義だろう。

AMGは自動車業界のトレンドに対応できるか

しかし、今後も未来永劫AMGが成長していくのかと言われたら、個人的には断定しかねる。理由は現在の自動車業界を席巻している自動化や電動化の流れにどう対応していくかが課題になってくるからだ。

自動化については問題ないだろう。前述したようにAMGは、トランスミッションについてはライバルに先駆けて自動化を推進してきた立場なのだから。多くのユーザーはイージードライブの流れを肯定しているはずであり、メルセデスが考えている自動化の流れをAMGが取り込むことに違和感はないと考えている。つまり最大の問題は電動化ということになる。

電動化への対応が気になるAMG(画像は「GT C ロードスター」)

フランスやイギリスが2040年までにエンジン車の販売を禁止するという衝撃の発表があり、インドや中国も電動化推進のアナウンスを行っている。仏英中は現時点でAMGの販売成績を相応に記録している市場であり、インドでは今後の伸びが期待される。

筆者は電動化政策は都市と地方で分けて考えるべきという立場だが、新興国にとっては自国のベンチャーを育てるチャンスであり、イギリスには自国資本の量産車メーカーがなく、フランスは電力の多くを原子力発電所でまかなうという状況を見れば、戦略としての彼らの表明には納得できる部分もある。

高出力ガソリン車が魅力、電動化への答えは

ドイツや日本にとって自動車は基幹産業であり、その核であり続けてきたのがエンジンだった。だから両国のメーカーは、しばらくはエンジン開発も進めていくと思われるが、作っても売る場所が限られてしまっては旨味が少ないのも事実である。

1月に開催された北米国際自動車ショー(通称:デトロイトショー)でAMGは、F1エンジンを搭載したコンセプトカー「プロジェクトワン」を発表した。その一方で、メルセデスは来年から電動F1と言えるフォーミュラEへの参戦を明らかにしている。この分野でも電動化の流れがあることは、メルセデス自らが認めていることになる。

F1エンジンを積む“ハイパーカー”を発表しつつ、フォーミュラEへの参戦も表明しているメルセデス

高出力のガソリンエンジン車を魅力のひとつに掲げてきたAMGが、電動化の波にどう対峙するのか。興味を持って見守りたい。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu