スマホに新しい読書スタイル? ヤフーと新潮社が目指す純文学の読み方

スマホに新しい読書スタイル? ヤフーと新潮社が目指す純文学の読み方

2017.09.11

ヤフーと新潮社、タクラム・デザイン・エンジニアリング(Takram)は共同で、三島由紀夫賞作家である上田岳弘氏の新作長編「キュー」を、雑誌とウェブで同時連載するプロジェクトをスタートした。「新しい読書体験」の創出を掲げて純文学の新たな境地を模索するプロジェクトだが、果たして「新しい読書体験」は根付くのだろうか。

ブラウザで読む純文学の姿とは

「キュー」は、もともと上田氏がデビュー前から構想を練っていた長編で、心療内科医が人類の進化を巡る闘争に巻き込まれていくというストーリー。AIの進化などでシンギュラリティを目前とする現在において、人類の進化の意味を根底から問うものになるという。

上田岳弘氏は1979年生まれ。2013年に「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年に「私の恋人」で三島由紀夫賞を受賞。2016年には「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出されるなど、注目を集めている
上田氏のこれまでの著書。まだ数は少ないが注目度は高い

「キュー」は約600枚(240000字)の長編になる予定で、これを9カ月かけて文芸誌「新潮」に連載する。同時に、「新潮」連載分を分割して、Yahoo! JAPANのスマートフォン版において、毎週火曜日・木曜日の2回更新で、約8パートに分けて掲載する。連載終了後、紙の書籍も発売されるが、Yahoo! JAPANでの連載分はそのまま無料で公開される予定だ(公開終了時期は未定)。ウェブ版のUI/UXのデザインはTakramが担当している。

Yahoo! JAPAN上の連載では、ウェブブラウザー上で縦書きの文字組を再現しつつ、片手で操作しやすい縦スクロールのページ移動、ユーザー操作によって毎回変わる「ジェネレーティブアート」による「動く挿絵」など、従来の紙の誌面では実現できなかった、スマートフォンならではのデザイン性や操作性、読み味を実現しているという。一章を8つ程度にわけて、一度に読める分量を少なめにしているのも、最近の若い読者向けの配慮としては正しいだろう。

スマートフォンの画面ながら美しい縦組みが実現されている。スクロール方向が縦というのは、最初はちょっと違和感があるが、片手での操作性という点では優れている
毎回ランダムに描画されていく「ジェネレーティブアート」。徐々に隠されていた文字が現れていくようになっている

一般に、電子書籍は専用のアプリを使って読むものが多い。その方がレイアウトなどに自由度が高まるほか、フォントや文字サイズを変更できるなど、柔軟性が高いためだ。実際、「キュー」では現状、文字サイズが変更できないため、発表会での質疑応答では読みづらいという指摘があった。それではなぜ「キュー」ではブラウザを採用したか。

ブラウザを採用した理由

その答えは、ひとえに利便性の高さ、リーチのしやすさを目指した結果だという。あるコンテンツを見るためにアプリをインストールするというのは、一般ユーザーにとってモチベーションを下げる大きな要因になるため、ブラウザでそのまま読めることを重視した結果、このような仕様になったわけだ。フォントサイズ変更など不足している機能については、今後改良される可能性もある。

また、雑誌掲載分と同じ内容が無料で公開されるため、むしろ紙離れを招くことになるのではないか、という懸念もある。こうした懸念に対してはどのように考えているのか。「新潮」の矢野優編集長は、「一見すると紙離れのリスクがある。二見すると、リスクを乗り越えた可能性があると思っている」と語った。

また、「雑誌の『新潮』に触れていない人が、『新潮』読者のだいたい10000倍くらいいる。ヤフーさんに配信することで、ものすごい数の人に届けられる」。偶然でも広告クリックでも構わないので、雑誌を手に取ったことのない人たちをターゲットにできるメリットのほうが魅力だという。つまり、これまで届けられなかった読者に作品を届けられることで、新たな読者の開拓、新しい商機の発見につながるチャンスに賭けたというわけだ。

果たして新しい読者を開拓できるのか

紙離れ、活字離れが叫ばれて久しい出版業界、特に純文学界隈にとって、新たな読者層の開拓というのは確かに大きな課題だ。これまでのように単行本が何十万部と売れない以上、作品を新たなかたちで発表・配信していく必要性も高い。そんな中で、日本最大のポータルサイトと、今やPCをはるかに超える数が普及しているスマートフォンという組みあわせを選んだ意義は大きい。量が質に転じる、というわけではないが、やはり母数となる集団が格段に大きな数を持っているというのは大きい。

今回のプロジェクトに参加する3社の代表+1名。左よりTakramの渡邉康太郎氏、「新潮」の矢野優編集長、上田岳弘氏、Yahoo! JAPANの岡田聡メディアチーフエディター

それでは今回のプロジェクトは、期待通りの結果が得られるのだろうか。実はこのプロジェクトの発表において、数値的な目標は一切発表されていない。正直なところ、未知数すぎて誰も見当がつかない、というのが実情だろう。このため「期待」がどの程度の成功を目安にするべきなのかも難しいところなのだが、筆者としては「面白い試みだが、なかなか難しい」というのが正直な感想だ。

これまで、インターネットの普及以前、商用パソコン通信の時代から、ネットワークを通じて配信される小説、という試みは何度か行われている。読者からのフィードバックでストーリー展開が変わるなどのギミックも採用されたことがある。また、ブラウザを使った読書体験ということであれば、ケータイ小説や青空文庫、または最近流行している、アマチュアからの投稿サイトなども数えられる。今回は本格的純文学の長期連載という点が新しいのだが、要するに、仕掛けとしてはさほど新味はない。

これまでにない要素としては、Yahoo! JAPANという強力なポータルが絡むことだ。前述したように、これまでにない数の読者がコンテンツにリーチしてくれること自体がひとつの目標となり得るからだ。しかし、Yahoo! JAPANのウェブサイトは、ブラウザーでアクセスするとしばしば専用アプリの利用をお勧めしてくる仕様になっており、サイトとしての方針とプロジェクトの目論見が相反しているのではないかと気にかかる。そもそもの話として、トップページからリンクが貼られていないのも気にかかる。

とはいえ、今回のプロジェクトが一度で終わらず、プラットフォーム化されてさまざまな作家のチャレンジとして利用されるようになることは、大いに期待したいところだ。どんなに優れた作品でも、手に取ってもらわなければ真価を発揮できない。音楽などでも、YouTubeなどを使って無料配信していても、気に入ればCDなどの形で手に入れたがる人がいるのと同様に、小説であっても、本編が無料公開されていても、単行本や文庫を買ってくれる人は必ず一定の割合いるはずなのだ。

「新しい読書体験」という標語が強いが、どちらかといえば本質は「新しい出版メソッドの模索」といったほうが正しいように思われる本プロジェクト、すでに誰もがアクセスできる形でスタートしている。ぜひ一度体験して、今後の出版業界や文学界が目指すべき方向性のあり方について思いを馳せていただきたい。出版に限らず、コンテンツビジネス全体が今後向かうべき方向性が見えてくるはずだ。

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

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スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

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