日産の新型「リーフ」登場で考えるEV世界覇権の行方

日産の新型「リーフ」登場で考えるEV世界覇権の行方

2017.09.12

いよいよ本格化しそうな電気自動車(EV)の覇権争い。日産自動車が新型「リーフ」で先陣を切ったが、初の量販モデル「モデル3」を虎視眈々と準備するテスラなど、有力プレイヤーが追随して予断を許さない状況だ。

10月2日に日本で発売となる日産の新型「リーフ」

他社に一歩先んじたい日産の新型「リーフ」

初の全面改良を受け、10月2日に日本国内発売される日産の電気自動車(EV)「リーフ」。先頃、幕張メッセで大々的な世界同時公開の「お披露目会」が行われた。

2代目となるこの新型リーフは、1充電あたりの航続距離が400キロと初代リーフに比べて2倍に進化しており、最新の自動運転技術を活用した「プロパイロット・パーキング」や「e-Pedal」を搭載して市場投入される。

西川廣人日産社長兼CEOは「新型リーフは、日産のニッサン・インテリジェント・モビリティをけん引するコアのクルマ」と胸を張った。また、「日産のメインのクルマの電動化は、世界の他社より一歩先を行きたい」と世界のEV覇権を握ることへの意欲を表明した。

新型リーフの発表会に登壇した日産の西川社長

初代は想定通りに伸びず、新型で再び狙う覇権

2010年12月、日産が初代リーフを発表・発売した際、当時のカルロス・ゴーン社長は「世界初の専用設計量産電気自動車リーフの投入によって、日産はゼロ・エミッションのリーダーとなる」と豪語した。また、ゴーン氏は「2016年度末までにルノー・日産連合で世界150万台のEVを販売する」とも語った。7年前にゴーン日産がEV世界覇権を狙って投入した初代リーフは、翌2011年に日・米・欧のカーオブザイヤーを独占受賞し、「EV時代、来たる」として華やかなスタートを切った。

だが、この7年間での初代リーフは当初の思惑から外れたのが実態で、6年半の間に電池性能向上で航続距離をカタログ値で228キロ(2012年)、280キロ(2015年)と徐々に伸ばしてきたものの、販売は伸び悩んだ。やはり、長距離走行への不安や、充電の課題(充電器設備と充電時間)、電池寿命・劣化による中古車価格の低落などの問題を抱えたことが原因である。

結果的に、初代リーフは量産EVとして期待されたが、6年間の販売累計はゴーン氏が豪語した150万台どころか28万台(ルノーと合わせても42万台)にとどまったのだ。

この間、米国ではEVベンチャーのテスラが名乗りを上げて独自の戦略で話題をさらい、日産はEVのリーダーを自負しながらも、そのお株を奪われた感がある。それだけに、初代リーフから6年半を経ての2代目投入は、EVとして大きな進化を遂げて、日産としてのEV世界覇権争いにあらためて手を挙げたものと言えよう。

破格の予約台数、テスラの「モデル3」が出荷開始

「先代のリーフはEV時代の先駆者だったが、2代目は日産のコアとなる商品だ」と西川日産社長は強調する。今回、日産は初代リーフの問題点を改善し、1充電で400キロの航続距離とバッテリー容量も大きくし、日産の最新技術を詰め込みながら価格も315万360円から(EV補助金で実質的な負担額は275万円から)と初代と同水準に抑えて市場浸透を狙う。

航続距離が伸びて最新技術も搭載しながら価格は初代と同水準の新型リーフ

折しも、環境問題に関心の高い欧州では、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正問題を契機とし、乗用車市場の主流だったディーゼルエンジン車からの転換がメーカーと各国政府の方針として広がっている。

一方、テスラは最新量販EV「モデル3」の出荷を7月から開始した。イーロン・マスク率いるテスラは、巧みなイメージ戦略で話題と関心を集め、このモデル3は発売前から50万台という破格の予約台数を集めている。

EVシフトの流れが加速

EVについては、かねて燃料電池車(FCV)とともにゼロ・エミッションの本命として世界の自動車メーカーが開発を進めてきたが、ともにメリット、デメリットを抱え、その技術進化、インフラ整備、コストダウンには課題も多く、実用化に時間がかかってきた。

EVの普及を阻むのは、インフラ整備やコストダウンといった問題だ

だが、電動化ということでは内燃機関とモーターによるハイブリッド(HV)から、家庭で充電できるプラグインハイブリッド(PHV)、さらには内燃機関からの切り替えによるEVおよびFCVへという流れがある。一時は、地球環境対応の観点から、水素社会実現の掛け声でFCVが究極のエコカーと本命視されたが、水素供給スタンド整備の遅れもあり、このところの「EVシフト」ムードに押されて影が薄くなっている。

もっとも、HVもトヨタ自動車が1997年末に「プリウス」を赤字覚悟で発売して以来、トヨタHV戦略を貫いて市場浸透させるまでには約15年を費やしたのだ。日産としても、初代リーフを発売した2010年末頃での「EV時代到来」は「見出し先行」で反響が高かったものの、EVブームは尻すぼみとなった。

トヨタのHVも市場に浸透するには時間を要した(画像は「プリウスPHV」)

しかし、今回は「本格的なEVに乗り出したところで、初代リーフ投入時から取り巻く環境、情勢も大きく変化してきた」(西川日産社長)ということなのだ。

中国も覇権争いに参戦

自動車産業は裾野の広い産業構造を持ち、なおかつ昨今の電動化・知能化の方向による産業としての広がりが進んでいる。世界各国の経済における基幹産業としての位置づけはより高まり、先進国・新興国ともに自動車産業は国策につながる。

環境対策とも連動し、すでに電動化への国ごとのシフトが自国産業の競争力や育成の観点からも実態化している。今や年間2800万から3000万台市場が視野に入る世界の自動車大国となった中国は、2018年から「新エネルギー車(NEV)政策」を導入し、国内での販売・生産に占めるEV・PHVの比率を強制的に決めて順次、引き上げる方向である。

中国は、このNEV規制のもと、自国の自動車産業をEV覇権争いに加わるものとしたい国策を打ち出したと見る。中国事情通に言わせると「内燃機関(エンジン)の競争では勝てないが、EV転換でチャンス到来」だそうだ。

中国もEVであれば勝機はあると見ているらしい

中国以上に自動車市場の今後の伸びが予想されるインドも、2030年までにガソリン車・ディーゼル車の国内販売を禁じ、自国で販売される自動車をEVのみに制限する方針を打ち出してきている。

欧州では、話題となったように英・仏政府が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止することを表明。ドイツも2030年までに発火燃焼エンジンを禁止するという決議案を採択しているが、メルケル政権は連邦議会選挙を控え慎重な構えを示している。

米国では、すでにカリフォルニア州の「ゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)規制」があるが、2018年から強化され、他州にも波及している。

すでに自動車メーカーも、ボルボ・カーズが2019年から販売する全モデルを電動化すると発表すれば、ジャガー・ランドローバーも2020年以降発売の全モデルでの電動化を打ち出した。ボルボ・カーズは中国の浙江吉利控股集団(吉利自動車)、ジャガーはインドのタタ自動車が親会社であることからも、その意を受け早々とEVシフトを打ち出したことが窺える。

日産は矢継ぎ早の戦略、アライアンスで世界覇権獲得へ

いずれにしても電動化の行く先は、EVかFCVか予断は許されないが、「脱エンジン」に向かっていることは確か。その中で、EV転換の追い風が吹く中で覇権争いに日産が先陣を切ったのだ。

日産は、NECとの電池合弁開発会社を中国投資ファンドに売却する一方で、ルノー連合として中国でEVを開発する新会社設立を発表するなど、EV戦略を矢継ぎ早に打ち出している。三菱自動車もEV「アイ・ミーブ(i-MiEV)」での実績があり、ルノー日産・三菱連合でEV世界覇権獲得を狙う方向だ。

三菱自動車の「アイ・ミーブ」

電動化は、一方の先進技術である自動運転との相性もよく、連動して進化の方向にある。だが、「内燃機関の終焉」と言う言葉で簡単に片付けられない事情もある。EV覇権争いは、今後2020年代半ばから2030年代に向けて熾烈な競争が展開されることになろう。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu