デジタル時代は「体験ファースト」 - クリエイティブの

デジタル時代は「体験ファースト」 - クリエイティブの"先"を目指すアドビ

2017.09.16

アドビシステムズが、日本における「Adobe Experience Cloud」の取り組みを本格化する。

同社は、Adobe Creative CloudとAdobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudの3つのクラウドサービスを持つが、「最も新しく、最もビジネスチャンスがあるのがAdobe Experience Cloud。ここには、今後も多くの投資を行っていく」と、米Adobe Systems 会長 兼 社長 兼 CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏は話す。

米Adobe Systems 会長 兼 社長 兼 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏

Adobe Experience Cloudは、Adobe Marketing CloudやAdobe Advertising Cloud、Adobe Analytics Cloudなど、8つのソリューションで構成される包括的なクラウドサービス。「Adobe Sensei」のマシンラーニングと人工知能(AI)を活用し、Adobe Creative CloudやAdobe Document Cloudともシームレスに連携する。

Experience Cloudを重視した戦略自体は今年3月、米ネバダ州ラスベガスで開催された「Adobe Summit」で発表しており、日本での取り組みが注目されていた。

マーケティングのクラウドサービスがAdobeの"次"へ

Adobe Marketing Cloudを切り口に、クリエイティブに関するビジネス全体をサポートする環境を整えたアドビ。

「クリエイティブビジネスを変革させてきたアドビが、日本の企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させることができる。そして、クリエイティブの領域において、インスピレーションから、収益化までをサポートすることができる」(ナラヤン氏)

この数年、アドビの変革は劇的だ。クラウドビジネスへ大胆にシフトしただけでなく、同時にクリエイティブをビジネス視点で捉えた製品群を取り揃えることで、クリエイターだけでなく、マーケッターにも対象を拡大。今回のAdobe Experience Cloudにより、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)などの経営層にもアプローチする体制を整えた。

クリエイティブという観点だけで捉えても、「今や、あらゆる媒体でアドビのソフトウェアが活用されている。たとえば、ミネラルウォーターのボトルのラベルにもアドビの技術が活用されている」(ナラヤン会長兼社長兼CEO)というほど、広く利用されている。だが、その地位に甘んずるところなく、アドビ自らがデジタルトランスフォーメーションを行ってきた結果が今の姿だといえよう。

そうしたアドビのビジネス拡大の取り組みという観点から見ても、今回のAdobe Experience Cloudの日本での本格展開は大きな意味を持つ。日本におけるAdobe Experience Cloudの事業本格化には2つのポイントがある。

ひとつは、コンサルティングサービスを提供する「デジタルストラテジーグループ」を、社内で新設することだ。アドビシステムズ 日本法人 代表取締役社長の佐分利ユージン氏は「グローバルで展開している組織であり、これを日本でも展開。日本では約10人体制でスタートする」と語る。

国内外の7000件以上にのぼる導入事例に基づいたグローバルなノウハウと、人材をベースにしたコンサルティングサービスを用意。デジタルマーケティングの観点から、既存のシステムおよび組織の評価に加えて、業務プロセスの最適化などを通じて、企業のデジタルトランスフォーメーションの実現を支援する。

アドビシステムズ日本法人 代表取締役社長 佐分利 ユージン氏
国内外7000社のナレッジを活かしたストラテジーを提供する

2つ目は、新たな人材育成サービス「アドビデジタルマスターズワークショップ」を開始する。豊富な知識と専門性を持つコンサルタントおよびトレーナーが、ウェブ制作の基礎知識とデータ分析の基礎などを教える「ジェネラルトレーニング」と、データ分析やパーソナライゼーションなどの専門知識を習得するためのプロフェッショナルトレーニングを提供。企業のデジタルトランスフォーメーションの早期実現を支援する。

すでに、丸井との協業を発表しており、同社はWebコンテンツ管理ソリューションAdobe Experience ManagerとパーソナライゼーションソリューションであるAdobe Targetを採用。迅速なコンテンツの制作と配信およびデジタルマーケティングの知見を社内に蓄積するための取り組みを始めた。

「個別の企業に最適化したメニューを用意する。今後は、幅広い企業に向けて、社内人材の育成を支援する仕組みを提供していく。デジタルにおける顧客体験を向上させることが企業にとって、重要な経営課題となっている。この2つの取り組みを通じて、人材育成と戦略立案の観点から、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援することになる」(佐分利氏)

アドビシステムズが、日本市場で行った消費者動向調査「Adobe Digital Survey 2017」では、ブランド企業がウェブやSNSなどの複数チャネルを効果的に活用し、消費者との接点を増やすことが、ブランドの対する信頼度を高めることになるとの結果が出ている。

「これまではデジタルは信用できないという評価であったものが、いまでは多くのデジタル体験を提供している企業が信頼されている。また、金融機関では、メインバンクを変えた理由として、金利が有利だからが38.0%を占めたのに対して、オンラインサービスが使いやすいからという回答は37.3%に達し、金利と同じぐらいにデジタル化が重要視されている」(佐分利氏)

また、家電、家具、洋服のすべての商品カテゴリーで、ブランドとの最初のタッチポイントは、店頭が多い傾向があるが、情報収集の手段や検討時に影響を及ぼす情報源は、年代を問わず、WebやSNSが最も高い割合を占めたという。こうした市場環境の変化も、企業がデジタルトランスフォーメーションに乗り出さざるを得ない理由のひとつとなっている。

「企業は大きな変革のなかにある。それを破壊と捉えるのか、アドバンテージと捉えるか。企業は重要な判断を求められている」と佐分利氏は話す。だが、日本におけるAdobe Experience Cloudの認知度向上や、Adobe Experience Cloudにはない機能を補完するためのエコシステムの強化といった課題もある。

果たして、日本においてAdobe Experience Cloudのビジネスをどんな成長曲線で立ち上げることができるのか。これが、アドビの日本における成長を左右することになる。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。