有名企業・投資家が参画、謎の会社LEOMOは何者か - TYPE-Rの話

有名企業・投資家が参画、謎の会社LEOMOは何者か - TYPE-Rの話

2017.09.19

モーションセンサー「TYPE-R」を手がけるLEOMO。従業員30人ほどの会社だが、取り巻きはすごい。孫正義氏の弟で実業家の孫泰蔵氏に加え、シャープ再生の鍵となったフォックスコンも関わる。そんな同社が最初に狙うのは自転車市場だ。わずかに記すだけでも、謎の多い企業LEOMO。一体、何者なのか。代表の加地邦彦氏に伺った話を3回に分けてお伝えする。

起業のいきさつを話すLEOMOの加地邦彦代表。開発したTYPE-Rにたどり着くには紆余曲折あった(撮影:磯崎威志)

孫兄弟との出会い

LEOMOの存在を知る人はそれほど多くないだろう。設立は2012年と社歴は浅く、今なおベンチャーの域を出ない。だが、同社の動きを探るとビッグネームが多数登場する。その謎を解くには、1994年まで話はさかのぼる。

まだwindows 95が国内販売される前のこと。当時、東京大学に在籍していた加地氏。所属していたサークルのメンバーに誘われ遊びに行った先にいたのが、同じ東京大学に通っていた孫泰蔵氏だった。加地氏は「遊びにいくとパソコンが何台もあって、LANでつないでオンラインゲームができるようになっていた。ヤフーがどうのこうのとか話していた」(以下、明記ない限り発言同氏)と振り返る。それが孫氏との出会いだ。

そこから親交が生まれる。「のちに、彼がインディゴという会社をつくるんですけど、2回目の会議を僕の自宅でやったくらいで……」。

孫氏と加地氏は大学卒業後、別々の道を歩む。孫氏は実業家の道を歩み、加地氏は、流体工学の知識を活かし、金融業界へ踏み込んだ。流体力学と金融はなんの脈絡もなさそうだが、流体工学のナビエ・ストークス方程式が金融デリバティブに利用されるブラック・ショールズ方程式と似ていたからだ。その知識を活かして、JPモルガンに入社した。ところが「面白くなくて、ネットバブル全盛期だったので、そっちにいこうと起業した」という。

それによって誕生したのがインベストリアだった。インベストリアはリアルタイム金融情報サービスを提供していた。まだスマートフォンが存在していなかった時代、「リアルタイムで金融情報が見られるよ」と孫泰蔵氏に声をかけ、PDA端末を渡していたという。その端末がさらなる未来を切り開いていった。「泰蔵さんが正義さんにそれを見せたらしいんですよね。そしたら、正義さんに"ちょっとおいで"と声をかけられた」。以後、一旦はソフトバンクグループに入ることとなり、後に独立、LEOMOを立ち上げることになる。

LEOMO設立

「目的があって始めた会社ではなく、何かをやるために始まった会社。動機は不純ですw」と加地氏(撮影:磯崎威志)

LEOMOの始まりは孫泰蔵氏に「一緒に仕事をしない?」と声をかけられたのがきっかけだっだ。ソフトバンクグループを離れた加地氏がその話に乗った。しかし、やるべきことは曖昧だった。加地氏は当時、趣味として自転車競技にのめりこんでいた。加地氏は今も日本のプロリーグというべき「Jプロツアー」に所属するトップアスリートであるが、当時から趣味の域を超えて自転車に取り組んでいた。ちょうど、その頃に、孫氏もトライアスロンに取り組んでいた。互いの趣味を考えて、やるべきテーマはスポーツになったが、それはまだ曖昧な漠然としたものにすぎない。

スポーツに絡めて何かをやる――。そう思ったのが今から5年前のこと。フェイスブックが伸び盛りだった当時、スポーツログを使ったSNSをやろうと思い立ったのだ。

「作ってみたら、スポーツのログだけを集めてもつまらなかったんです。少し改良して、食事のログも入れたら、ますます、つまらなくなったw スポーツは練習しても日に1回、食事は3回、食のログがあふれて何のサービスかわからなくなった。やってみてわかったけれど、やらなくてもわかったかもw」

方向性を修正し、次に"対戦"と"リアルタイム"の要素を入れた。たとえば、1周5キロほどの周回ランニングコース。知人がどこにいて、自分がどこにいるのか。走っている最中に相手と差を開けたり、詰められたりしていることがリアルタイムに分かればエキサイティングだ。そんなサービスをスマートフォンに入れたら面白いと思ったという。

しかし、問題はあった。それは「走りながらスマホを見るか」だ。ランニング時にスマホを身に着けるのは煩わしいし、情報確認するのも現実的ではない。時計だったら軽いし、楽だ。だったら、スマートウォッチを作ればいい――。当時はまだApple Watchがなく、Androidベースのスマートウォッチが出始めた頃の話である。

スマートウォッチに取り組む

とはいえ、自分たちの知識ではスマートウォッチの開発・設計は無理だった。そこで、時計の開発・設計に携わった人に声をかけ、プロトタイプを作り上げた。あとは量産化である。そのためには、メーカーが必要だ。

動いたのが、孫氏だった。孫氏がある企業に声をかけるという。その相手がフォックスコンである。フォックスコンはシャープに資本参画したホンハイを中核とする企業グループである。「行ってみたら、相手も"いいじゃない!"と評価してくれた。これからはこういうデバイスが求められるよね、と乗り気で進めることになったんです」。

その席にいたのが、テリー・ゴウ(郭台銘)氏。テリー氏には会おうと思って会える相手ではない。それを可能にしたのは、孫ファミリーの人脈だ。LEOMOは最終的に、フォックスコン子会社のFIH mobileから出資を受けているが、孫ファミリーの人脈が可能にしたともいえるだろう。

大学時代に孫氏に出会い、彼のつながりをもとに世界の企業家とも出会う。2017年時点でLEOMOを捉えると謎めいているが、約20年におよぶ加地氏と孫氏の親交が今につながっているとういわけである。

孫氏のちゃぶ台返し

話を戻そう。量産化が進むかに見えたスマートウォッチの開発だが、途中でパタッと止まった。きっかけは、孫氏の「これ、売れるかな?」という発言だった。

加地氏は「かっこいいから、売れると思う」と答えた。しかし、「使う?」という孫氏の問いかけには答えられなかった。漠然と売れると考えていたからだ。

そう考えるのも無理はない。スマートウォッチは、ポストスマホとして語られ、多くの人の興味・関心を引いていた。しかし、本命のApple Watchが発売されてからも、ポストスマホの座は得ていない。理由のひとつは、時計ならではの機能がないからだ。

Apple Watch。孫氏の問いかけがなければアップルに立ち向かうことになっていたかもしれない

仮にプロジェクトをそのまま進めていも、Apple Watch発売前なら売れたかもしれない。しかし、その先はアップルと同じカテゴリで戦うことになり、苦戦したはずだ。孫氏の発言を「素朴なちゃぶ台返しでした」と加地氏は振り返るが、コンセプトの練り直しはLEOMOにとって幸運なことだった。

感覚を数値化する

加地氏は「本当に役立つスポーツデバイスは何か」を考えていた。行き着いた答えは、"パフォーマンスを上げる"という価値の提供だった。ファッションとしてのデバイスではなく、スポーツのパフォーマンスを上げるデバイスだ。

コンセプトを見直している最中、目に入ったのが4年前のCESで展示されていたゲーム用のモーションキャプチャだった。それは、9軸のセンサーをワイヤーでつないでゲーム用のモーションキャプチャをするというもの。それを目にした加地氏は、自身の体験を結びつけ、モーションキャプチャを取り込みたいと考えた。

先にも述べたとおり、加地氏は自転車競技に取り組んでいる。ある時、加地氏は当時のコーチからペダルを踏み込むタイミングがズレていると指摘されたという。

しかし、それは感覚的なもの。「12時のタイミングで踏み込んで」と目安を言われても、受け取るほうは自分のズレに気づかない。コーチと対面で教えを受けている時間はまだいいが、翌日になれば、修正した自分の動きが不確かになってしまう。結果的に自分が教えられたとおり正しいことができているのか、わからなくなってしまう。

モーションキャプチャは、こうした問題を解決する。センサーで読み取り、数値化すれば、何が正しい動きなのかが見えてくるはずだ。自転車も、ランニングも、ゴルフも、水泳も、モーションキャプチャで動きを数値化すれば、感覚に頼らないトレーニングが可能になる。

それだけではない。人間はなぜスポーツで体を痛めるのか。マラソンで、なぜ足が痛くなるのか。長時間、自転車に乗ると腰が痛くなる人がいるのは、どうしてなのか。筋肉が足りないのか、フォームが悪いのか。原因を数値化して科学的に測定することで、見えてくるものもあるはずだ。

CESでの展示を見た翌週、フォックスコンにスマートウォッチからモーションセンサーの開発に切り替えることを伝えた。こうして生まれたのがワイヤレスモーションセンサーを活用した「TYPE-R」だ。

TYPE-R(提供:LEOMO)

TYPE-Rはスポーツのあり方を変える。日常を対象にするのは、スポーツで成功してからでもいい――。そう考えた加地氏はまず、自身とかかわりの深い自転車向けにビジネスを展開していくこととなった。

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。