シャープが振り返る「日の丸ディスプレイ」が敗北した理由(前編)

シャープが振り返る「日の丸ディスプレイ」が敗北した理由(前編)

2017.09.19

シャープが、ディスプレイ事業における「大日の丸連合」の結成に意欲をみせている。経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は出資を含むグローバルパートナーとの提携によって財務体質、経営体質の強化を図ると発表している。ここに中国企業が名乗りを上げる一方で、シャープも強い関心を示している。

同社でディスプレイ事業を統括するシャープ 上席常務でディスプレイデバイスカンパニー社長の桶谷 大亥氏は、「今こそ日本の各メーカーの強みを生かして『大日の丸連合』を形成し、韓国や中国をはじめとする海外勢に競争優位性を確保しなくてはならない」と訴える。

シャープ 上席常務 桶谷 大亥氏

だがシャープは、2012年のJDI設立時に経済産業省からの参加要請を断って大日の丸連合の結成を破綻させた張本人。なぜシャープは、ここにきて「大日の丸連合」の結成に意欲をみせているのか。それは、自らの失敗の経験がベースにあるようだ。

JDIが模索する提携、有力は中国企業も…

6月にJDI 代表取締役会長 兼 CEOに就任した東入來 信博氏は、「JDIにとって、これが最後のチャンス。利益をしっかりと確保できる会社を目指して、第二の創業に挑む」と語っていた

JDIは2012年4月に、日立製作所と東芝、ソニーの3社の中小型液晶ディスプレイ事業を統合してスタートした会社である。そして東芝のディスプレイ事業にはパナソニックが、ソニーのディスプレイ事業にはセイコーエプソンや三洋電機の事業がそれぞれ統合されてきた経緯がある。そこに、産業革新機構が2000億円を出資して設立したまさに"日の丸連合"の会社であり、2014年には東証一部へ上場も果たした。

しかし2016年度に3期連続の最終赤字を記録し、2017年度業績も最終赤字の見通し。上場後は一度も黒字化していない。そしてフリーキャッシュフローは、2012年の設立以来ずっと赤字だ。産業革新機構はさらに最大750億円とする追加融資を行って下支えに踏み込んだが、その効果は限定的だった。

新たに舵を取る東入來社長は、人員削減や減損会計の適用などによる固定費の削減、生産体制の再編などに取り組む構造改革を発表。さらに今後は、グローバルパートナーとの提携を進める考えを示している。この提携は単なる事業連携だけでなく、出資を含めた多角的なもの。さらに"グローバルパートナー"と呼ぶように、対象となるパートナー企業は、日本の企業には留まらない。実際、中国企業が名乗りを上げているという報道が一部で出ている。

つまり、経済産業省が主導して国内6社のディスプレイ事業を統合し、そこに、産業再生機構が筆頭株主として出資をしてスタートした日の丸連合が、中国企業との連携のもと、再建を図る可能性も出てきたというわけだ。JDIの東入來社長は、「グローバルパートナーとの提携は、実行が先になったとしても、2017年度中には目処をつけたいと考えている」としており、まさに水面下での協議が進められているところだ。

この動きに強い懸念を持っているのが、JDIにとってはライバルとなるシャープである。しかも、シャープは、2012年4月のJDI設立前の経済産業省による参加申し入れに対して、当時の町田勝彦会長がそれを断り、独立した事業推進体制を維持することを決定。中小型液晶ディスプレイ事業の日の丸連合結成の足並みを乱した経緯がある。

当時のシャープの中小型液晶ディスプレイ事業は順調であり、「日本だけでなく、世界の液晶業界をリードしているのはシャープである」という自負もあったのも確かだ。もちろん、その裏には独禁法の関係もあり、シャープがJDIに参加するには時間がかかるという判断も働いただろう。しかし、独自で事業拡大を図れるという自信を持っていたシャープが、「弱者連合」とも言われた3社の統合に、当時、あえて踏み出す理由を探すことはむしろ難しかった。

そのシャープがなぜ、ここにきて「大日の丸連合」として足並みを揃えるべきとの提案を始めたのか。

シャープの桶谷氏の話を聞くと、それはシャープが自ら歩んできた道の反省の裏返しのようだ。

同社が経営不振に陥り、2016年8月に鴻海グループ傘下入りした最大の理由は「液晶事業の不振」であった。もともと「液晶一本足打法」と言われるほどシャープの経営を左右した液晶事業は、2001年の液晶テレビ「AQUOS」の発売以降、一気に事業を拡大させ、成長の大黒柱と位置づけられてきた経緯がある。

1998年に当時の代表取締役社長である町田 勝彦氏が「2005年までに国内で販売するすべてのテレビを液晶化する」と発言し、大きな話題となった。しかし、その言葉通りに液晶テレビの事業は拡大を続け、2004年に稼働した亀山工場、続いて2006年から稼働した亀山第2工場は、最先端生産拠点として高い競争力を誇り、拡大するシャープの液晶テレビ事業を下支えした。

当時、AQUOSに使っていた「世界の亀山」「亀山モデル」という言葉は日本のみならず、世界中の業界関係者の間でも注目を集めるものとなった。

だが、2008年のリーマンショックの影響で市況は大きく変化。さらに液晶技術の海外流出で、競争力を持った韓国・台湾勢が、液晶事業および液晶テレビで勢力を拡大した。さらに日本は1990年代以降の円高ドル安という長期トレンド、それに追い打ちをかける超円高という環境に遭遇。一方で韓国はアジア通貨危機などを背景に"超ウォン安"となり、この為替格差が韓国勢の世界シェア拡大に弾みをつけた。

実際に円とウォンの為替ギャップは、リーマンショック期に最大でマイナス39%にも達していたという。当時、社長を務めていた片山幹雄氏が「為替の差は、性能の違いでは埋めきれないほどの差になってしまった」と残念がっていたことを思い出す。さらに景気後退による需要減の影響で、最も普及していた32型液晶パネルの価格が1年で29%も下落。日系メーカーは円高の進行によって、採算上で36%もの売価ダウンを余儀なくされていた。

大阪府堺のシャープ本社

そうした環境にも関わらず、シャープは2009年に第10世代のガラスパネルを使用した最先端液晶工場「シャープディスプレイプロダクト(現・堺ディスプレイプロダクト)」を稼働。事業成長を前提に稼働した新工場は、目論見どおりの稼働率を実現することができず、これが経営を圧迫することになった。その後、液晶テレビ事業は縮小を続けたのちに、欧米市場における液晶テレビ事業から撤退し、ブランド供与ビジネスへと移行する結末を迎えた。

一方で液晶テレビ事業が苦戦し始めた頃、スマートフォンやPCなどに利用される中小型液晶パネルの事業はまだ順調であった。2007年にアップルが発売したiPhoneをきっかけにスマホの販売が右肩上がりで急成長。これが、シャープの中小型液晶事業を成長事業へと転換させたからだ。

しかし、中小型液晶事業の好況も長くは続かなかった。中小型液晶事業における成長の切り札としていた「IGZO液晶」の量産が遅れたことで、スマホメーカーの商品化時期がずれ込むといった影響が発生。そうした問題もあってか、大口顧客のAppleからの受注減を受けて生産拠点の稼働率が低迷し、負のサイクルに陥っていった。

さらに急成長をはじめた中国スマホメーカーの商談を取り合うといった動きが加速。価格交渉が軸となっていたため、液晶テレビ事業と同様に価格下落が進んだ。実際、JDIの攻勢によってシャープが失注するなど、日本陣営がお互いの首を絞める戦いにまで陥っている。

このように振り返ってみれば、シャープの液晶事業は大規模投資を続けてきたものの、結果として市場変化と需要の飽和、競争激化を見誤った。そこに円高が追い打ちをかけ、世界市場における競争力を失ったといえる。シャープの液晶事業は描いた成長戦略を実行できず、大型液晶事業に続いて中小型液晶事業でも競争力を失うことになってしまったのだ。

シャープだけではない"技術流出"の禍根

だがシャープは鴻海傘下に入って以降、業績を回復している。そして経営不振の元凶となったディスプレイ事業も、2016年度下期から黒字に転換。欧州ではシャープブランドを供与していたSKYTEC UMC LTDを逆に買収して子会社化しており、欧州での液晶テレビ事業を再スタートした。さらに2018年度には、全世界で1000万台のテレビ出荷計画を掲げるなど、まるで液晶テレビ事業最盛期のような動きをみせている。

かつて世界の液晶市場の中心にいたシャープが一連の経験をしたからこそ、「いまこそ、『大日の丸連合』を形成すべきという提案につながる」(桶谷氏)と話す。シャープが液晶事業で競争力を失った理由はいくつかの要素が絡み合っているが、その提案にも繋がる最大の原因が「技術流出だ」と桶谷氏。

「液晶パネル技術が、韓国、台湾、中国へと相次いで流出した。これは、シャープの液晶事業だけに言える話ではなく、日本の液晶ディスプレイ産業全体にいえることだ」(桶谷氏)

振り返れば、日本では、多くの企業が液晶ディスプレイ市場に参入していた。

シャープのほかにも、JDIに至ることになる日立製作所やソニー、東芝、三洋電機、パナソニック、セイコーエプソンの6社、さらにシャープに事業統合した富士通、中国メーカーに事業売却したNECも液晶事業を行っていた。また、三菱電機や京セラが依然として液晶事業を推進しているほか、カシオの液晶事業を凸版印刷に売却して独立事業として推進しているオルタステクノロジーもある。

実際、1998年頃までの日系メーカーの生産能力シェアは全世界の70%を占めていた。だが、2003年にはトップシェアの座を韓国、台湾に一気に奪われて1位から3位に転落すると、その後もシェアは減少。2014年以降は、10%を切る水準にまで落ち込んでいる。

さらに、こうした動きにあわせてテレビメーカーのシェアも大きく減少。薄型テレビでは、2005年に全世界で4割以上を誇っていた日系メーカーのシェアが、現在では10%強にまで縮小。ノートPCも2006年に全世界で約2割のシェアを占めていたが、現在ではその10分の1にまで減少し、日系メーカーの存在感はまったくない。

シャープの桶谷上席常務は、こうした動きを振り返りながら、日系パネルメーカーが減少し、生産能力シェアも減少。最終製品のシェアがここまで大きく落ち込んだきっかけが、液晶パネルの技術流出だというのだ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。