自転車競技はこう変わる、モーションセンサー「TYPE-R」が描くスポーツの進化形

自転車競技はこう変わる、モーションセンサー「TYPE-R」が描くスポーツの進化形

2017.09.20

LEOMOが手がけるモーションセンサー「TYPE-R」は革新的なデバイスだ。アスリートのトレーニングへの向き合い方を大きく変える可能性があるからだ。LEOMOが手始めに取り組む自転車競技では、有力なトレーニングツールとなりそうだ。

LEOMOが手がける「TYPE-R」

なぜ自転車から始めたのか

人の動きは数値に置き換えれば、可視化できる。それができればアスリートのパフォーマンスも技術もあげられる。これがLEOMOが開発するモーションセンサー「TYPE-R」のコンセプトだ。そんなLEOMOがビジネスとして、最初に取り組もうと考えたのが自転車競技だった。

LEOMO代表の加地邦彦氏(撮影:磯崎 威志)

なぜ、自転車を選んだのか。それは加地氏にとって自転車競技が最も参入障壁の低いスポーツに見えたからだ。加地氏は経営者ではあるが、自身も自転車競技に取り組んでおり、トップアマチュアとして国内のトップカテゴリー「Jプロツアー」で活動している。自身の知識を生かして、誰に何を話せばいいかわかっている。周囲には自転車業界のキーマンがおり、彼らの人脈もたどれば、世界へもアプローチが可能となる。

そして何よりも、自転車競技が最も科学的なトレーニングが確立されていると思ったからだ。スピード、ケイデンス(回転数)、心拍数、パワーを計測・表示し、デバイスを見るのが一般化しているのが自転車競技だ。ビジネスを考えれば、自転車よりもランニングのほうがよさそうだが、加地氏は「心拍計さえ使わないトップアスリートがいる。その市場にモーションセンサーといっても、飛ばしすぎているように思えた」(以降、明記ない場合は発言同氏)という。

デバイス開発の観点からも利点はあった。ランニングであれば軽量化が求められる。しかし、自転車であれば、多少、重量のあるデバイスをつくっても気にならないと思った。とりあえず、前に進めるには、自転車競技が一番都合がよかった。

自転車競技のトレーニング手法の変遷

LEOMOが手がける「TYPE-R」は、これまでの自転車競技におけるトレーニングに足りなかったものを補う画期的なデバイスとなりそうだ。

自転車競技において、古くは心拍モニターを活用したトレーニングが行われてきた。次に登場したのが、自転車の動力を計測するパワーメーターだ。簡単に言えば、パワー(動力)をアップさせることで、自転車をより速く前に進めることができるという考えだ。

ざっくりと言えば、パワーメーターで動力を測定する。その動力は、筋肉や心肺機能を向上させることで上がり、体の使い方を模索することで、自転車をより速く前に進められるといったものである。

今は、このパワーメーターを使ったトレーニングが主流を占めているが、課題もある。体の使い方という部分においては、科学的に行えているわけではない。パワーメーターでは、動力しか計測できないからだ。これではパフォーマンスを発揮できているかはわからない。

対して、TYPE-Rは人の動きをセンシングして可視化。動きを改善することで、パフォーマンスの向上を図ろうという考え方だ。自らの体にセンサーを貼り付け、ペダルをこぐ。その動きをセンシングして、専用モニターに表示する。その情報をもとに、ペダルをこぐ技術を向上させたり、正しく体を使えてたりしていれば、人が生み出す力を効率的に伝えることができるというわけだ。

TYPE-Rの使い方をイメージするにはLEOMOが公開している動画をみるといいだろう。動画にはセンサーを身に着けペダルをこぐ様子が描かれている

センサーを装着すべき場所を探る

TYPE-Rは、心拍トレーニング、パワートレーニングに次ぐ、革新的なトレーニングツールになりえる。革新的なぶん、開発には苦労は多い。その反面、意外な事実もわかったりする。

プロトタイプ作成後、ある実験を行った。自転車では、ペダルを回す動きを時計に見立て、12時の位置から踏み込むのが効率的なペダリングだと言われるが、「12時から踏む」をセンシングしてみることにした。

テストライダーは宮澤崇史氏。宮澤氏はLEOMOがスポンサードするLEOMO Bellmare Racing Teamの監督兼コーチであり、かつては欧州を主戦場としてワールドチームにも所属していた選手である。そこに(宮澤氏ではない)コーチが立ち会う。踏み遅れは脚の動きで判断しているというコーチの言葉をもとに、いくつものセンサーを宮澤氏の脚に着けた。

宮澤氏がペダルを漕ぎ出す。しばらくして、ペダリングが乱れるように負荷をかけていく。その姿をコーチが見守る。負荷がかかり、"もう十分"という段階で宮澤氏がペダリングをやめる。コーチは「めちゃくちゃ、踏み遅れましたね」と伝える。

しかし、加地氏には踏み遅れが見えなかった。人間の目などそんなものかと思ったが、データを見ても誤差に過ぎなかった。この認識の差は何なのか。それを埋めたのは、ふと浮かんだ加地氏の疑問だった。本当に脚の動きで判断しているのか、である。

そこで、腰から上の動きを隠した動画をコーチに見せた。すると、途端に乱れたペダリングが判断できなくなってしまったのだという。「コーチは全身の動きを見ていたんですよ。腰から上の動きを認識して踏み込むタイミングを判断していたんです」。

ここからは、様々な選手を見てきた経験豊かなコーチでも、直観的に判断していることがわかる。経験にもとづき、目の前のペダリングを捉え、答えを導き出していたわけだ。

これを踏まえて、センサーを装着するのに、最適な場所を探る必要に迫れられた。全身いたるところにセンサーを取り付け、コーチの意見を参考にしながら、データを拾い、一から検証していった。

TYPE-Rでできること

センサーをつけるべき場所を探っていった結果、現在は、両モモ、両足の甲、そして、仙骨(骨盤の上)に計5つのセンサーを貼る形に落ち着いている。

TYPE-Rを身に着ける場所(出典:TYPE-Rマニュアルより)

足の甲のセンサーは踏み遅れの確認などに使い、モモのセンサーは体の動きの左右差の確認などに使われる。仙骨は、疲労とともに変化していく骨盤の角度を計測する。そして、ペダリング1回転内で、ペダル速度がスムーズではない箇所の大きさと位置を特定し、数値でスコアリングするDSSという指標も編み出した。

体の動きをセンシングすることで、個々人の癖を見つけ出し、パフォーマンスを上げる道筋を見つけることが可能になるのだ。

加地氏は「人の動きを数値化すれば、とても幸せな世界が待っている」とも話す。たとえば、腰の動きが少ない選手に腰を動かせといっても難しい。動かしているようでも、それがわずかな変化であれば、コーチも見落としてしまう。おそらく「動いていないぞ」といったアドバイスにしかならない。しかし、数値化することで、角度が1度でも動いていれば、自分が正しい方向に向かっているのか、そうでないのかわかる。細かい変化は人間の目には限界があるが、TYPE-Rならば、それが解決できる。

怪我を防止する

細かい動きが測定できることで、怪我の防止にも役立つのがTYPE-Rのすごさだ。

LEOMOには、トレーニングをすると腰痛が発生するという選手がいた。周囲からは、体の使い方に左右差がある、体幹が足りないのではないか、など様々な意見があった。そこで彼の動きをセンシングした。

注目したのは、ペダリング時の足の甲の角度の左右差だった。「左右で10度差があるという人は多くいますが、彼は20度違っていた。数値上は大きいですが、それでも意識的に見て、ようやくわかる程度の差です。その動きを吸収しようとすると、体をひねらければならなかったんです。動きを再現してみると、そりゃ、痛くなるよねというのがわかりました」。

体の使い方に左右差があることは、人間の目でも気づけたが、その原因までは誰も突き止められなかった。センシングしたからこそ、見えてきた事実である。

痛みの程度によっては、継続的なトレーニングはできなくなる。選手生命を脅かすリスクさえある。どんなスポーツでも、怪我は避けたいところ。防止効果が見込めるというだけでも期待値は高い。

データ活用の難しさ

革新的なデバイスのTYPE-Rだが、課題がないわけではない。個人差をどう捉えるかという問題が横たわるからだ。

たとえば、ワールドチームに所属する某選手。彼の動きをTYPE-Rでセンシングしたことがある。加地氏は綺麗なデータが上がって来ると思ったが、意外にも左右差が大きかったことに驚いたという。一時の偶然かとも思ったが、何度やっても結果は同じだった。

左右差は怪我につながる可能性もあるので、基本的にはよくない。しかし、何度やっても同じであり、過去に怪我がないならば、それは彼の体の特徴であると、選手のコーチを務めるニール・ヘンダーソン氏は、今のところ結論付けている。

TYPE-Rの開発の前提として、コーチの教えが経験に基づいた正しいものとは限らないという仮定から入っており、上記のように、時に解釈に議論の余地を残すこともあるのだ。

このあたり、手を打っていないわけではなく、スポーツ科学者、運動生理学者、コーチ、理学療法士らを集めた研究機関IMAを設立しており、研究者らのリサーチを通して科学的な検証を行っていくという。

TYPE-Rでセンシングしたデータの表示例(出典:TYPE-Rマニュアルより)

もうひとつ、データ活用の難しさにも課題は残る。TYPE-Rに熟知したコーチが選手個別のデータを一定期間見ることで、その人の"癖"を発見することはできる。しかし、広く普及を図ろうとした場合、誰もが課題を見つけ、次につなげられるようにする"わかりやすさ"は求められる。"生"に近いデータではなく、アルゴリズムでクラスタリングするなど加工して、見やすくしたデータ表示は必要になっていく。年内予定の国内発売までには、大きく改善したものにするというが、その完成度は気になるところだ。

いずれにせよ、現時点でも、DSSを始めとした新たな指標があり、ペダリングのスムーズさや足の動きの左右差の確認など、かつてない機能を自転車競技のトレーニングに持ち込むのがTYPE-Rだ。TYPE-Rは先々、他の競技へも展開を図っていくが、そのためには、自転車競技において、ビジネス的にもある程度の成功を収める必要があるだろう。

デバイスの革新性は売れるための一要件に過ぎない。デバイスの存在を市場に認知してもらう必要がある。ビジネスにならなければ、消えてしまいかねない。加地氏はビジネスとしてどう成り立たせようと考えているのか。

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。