自転車競技はこう変わる、モーションセンサー「TYPE-R」が描くスポーツの進化形

自転車競技はこう変わる、モーションセンサー「TYPE-R」が描くスポーツの進化形

2017.09.20

LEOMOが手がけるモーションセンサー「TYPE-R」は革新的なデバイスだ。アスリートのトレーニングへの向き合い方を大きく変える可能性があるからだ。LEOMOが手始めに取り組む自転車競技では、有力なトレーニングツールとなりそうだ。

LEOMOが手がける「TYPE-R」

なぜ自転車から始めたのか

人の動きは数値に置き換えれば、可視化できる。それができればアスリートのパフォーマンスも技術もあげられる。これがLEOMOが開発するモーションセンサー「TYPE-R」のコンセプトだ。そんなLEOMOがビジネスとして、最初に取り組もうと考えたのが自転車競技だった。

LEOMO代表の加地邦彦氏(撮影:磯崎 威志)

なぜ、自転車を選んだのか。それは加地氏にとって自転車競技が最も参入障壁の低いスポーツに見えたからだ。加地氏は経営者ではあるが、自身も自転車競技に取り組んでおり、トップアマチュアとして国内のトップカテゴリー「Jプロツアー」で活動している。自身の知識を生かして、誰に何を話せばいいかわかっている。周囲には自転車業界のキーマンがおり、彼らの人脈もたどれば、世界へもアプローチが可能となる。

そして何よりも、自転車競技が最も科学的なトレーニングが確立されていると思ったからだ。スピード、ケイデンス(回転数)、心拍数、パワーを計測・表示し、デバイスを見るのが一般化しているのが自転車競技だ。ビジネスを考えれば、自転車よりもランニングのほうがよさそうだが、加地氏は「心拍計さえ使わないトップアスリートがいる。その市場にモーションセンサーといっても、飛ばしすぎているように思えた」(以降、明記ない場合は発言同氏)という。

デバイス開発の観点からも利点はあった。ランニングであれば軽量化が求められる。しかし、自転車であれば、多少、重量のあるデバイスをつくっても気にならないと思った。とりあえず、前に進めるには、自転車競技が一番都合がよかった。

自転車競技のトレーニング手法の変遷

LEOMOが手がける「TYPE-R」は、これまでの自転車競技におけるトレーニングに足りなかったものを補う画期的なデバイスとなりそうだ。

自転車競技において、古くは心拍モニターを活用したトレーニングが行われてきた。次に登場したのが、自転車の動力を計測するパワーメーターだ。簡単に言えば、パワー(動力)をアップさせることで、自転車をより速く前に進めることができるという考えだ。

ざっくりと言えば、パワーメーターで動力を測定する。その動力は、筋肉や心肺機能を向上させることで上がり、体の使い方を模索することで、自転車をより速く前に進められるといったものである。

今は、このパワーメーターを使ったトレーニングが主流を占めているが、課題もある。体の使い方という部分においては、科学的に行えているわけではない。パワーメーターでは、動力しか計測できないからだ。これではパフォーマンスを発揮できているかはわからない。

対して、TYPE-Rは人の動きをセンシングして可視化。動きを改善することで、パフォーマンスの向上を図ろうという考え方だ。自らの体にセンサーを貼り付け、ペダルをこぐ。その動きをセンシングして、専用モニターに表示する。その情報をもとに、ペダルをこぐ技術を向上させたり、正しく体を使えてたりしていれば、人が生み出す力を効率的に伝えることができるというわけだ。

TYPE-Rの使い方をイメージするにはLEOMOが公開している動画をみるといいだろう。動画にはセンサーを身に着けペダルをこぐ様子が描かれている

センサーを装着すべき場所を探る

TYPE-Rは、心拍トレーニング、パワートレーニングに次ぐ、革新的なトレーニングツールになりえる。革新的なぶん、開発には苦労は多い。その反面、意外な事実もわかったりする。

プロトタイプ作成後、ある実験を行った。自転車では、ペダルを回す動きを時計に見立て、12時の位置から踏み込むのが効率的なペダリングだと言われるが、「12時から踏む」をセンシングしてみることにした。

テストライダーは宮澤崇史氏。宮澤氏はLEOMOがスポンサードするLEOMO Bellmare Racing Teamの監督兼コーチであり、かつては欧州を主戦場としてワールドチームにも所属していた選手である。そこに(宮澤氏ではない)コーチが立ち会う。踏み遅れは脚の動きで判断しているというコーチの言葉をもとに、いくつものセンサーを宮澤氏の脚に着けた。

宮澤氏がペダルを漕ぎ出す。しばらくして、ペダリングが乱れるように負荷をかけていく。その姿をコーチが見守る。負荷がかかり、"もう十分"という段階で宮澤氏がペダリングをやめる。コーチは「めちゃくちゃ、踏み遅れましたね」と伝える。

しかし、加地氏には踏み遅れが見えなかった。人間の目などそんなものかと思ったが、データを見ても誤差に過ぎなかった。この認識の差は何なのか。それを埋めたのは、ふと浮かんだ加地氏の疑問だった。本当に脚の動きで判断しているのか、である。

そこで、腰から上の動きを隠した動画をコーチに見せた。すると、途端に乱れたペダリングが判断できなくなってしまったのだという。「コーチは全身の動きを見ていたんですよ。腰から上の動きを認識して踏み込むタイミングを判断していたんです」。

ここからは、様々な選手を見てきた経験豊かなコーチでも、直観的に判断していることがわかる。経験にもとづき、目の前のペダリングを捉え、答えを導き出していたわけだ。

これを踏まえて、センサーを装着するのに、最適な場所を探る必要に迫れられた。全身いたるところにセンサーを取り付け、コーチの意見を参考にしながら、データを拾い、一から検証していった。

TYPE-Rでできること

センサーをつけるべき場所を探っていった結果、現在は、両モモ、両足の甲、そして、仙骨(骨盤の上)に計5つのセンサーを貼る形に落ち着いている。

TYPE-Rを身に着ける場所(出典:TYPE-Rマニュアルより)

足の甲のセンサーは踏み遅れの確認などに使い、モモのセンサーは体の動きの左右差の確認などに使われる。仙骨は、疲労とともに変化していく骨盤の角度を計測する。そして、ペダリング1回転内で、ペダル速度がスムーズではない箇所の大きさと位置を特定し、数値でスコアリングするDSSという指標も編み出した。

体の動きをセンシングすることで、個々人の癖を見つけ出し、パフォーマンスを上げる道筋を見つけることが可能になるのだ。

加地氏は「人の動きを数値化すれば、とても幸せな世界が待っている」とも話す。たとえば、腰の動きが少ない選手に腰を動かせといっても難しい。動かしているようでも、それがわずかな変化であれば、コーチも見落としてしまう。おそらく「動いていないぞ」といったアドバイスにしかならない。しかし、数値化することで、角度が1度でも動いていれば、自分が正しい方向に向かっているのか、そうでないのかわかる。細かい変化は人間の目には限界があるが、TYPE-Rならば、それが解決できる。

怪我を防止する

細かい動きが測定できることで、怪我の防止にも役立つのがTYPE-Rのすごさだ。

LEOMOには、トレーニングをすると腰痛が発生するという選手がいた。周囲からは、体の使い方に左右差がある、体幹が足りないのではないか、など様々な意見があった。そこで彼の動きをセンシングした。

注目したのは、ペダリング時の足の甲の角度の左右差だった。「左右で10度差があるという人は多くいますが、彼は20度違っていた。数値上は大きいですが、それでも意識的に見て、ようやくわかる程度の差です。その動きを吸収しようとすると、体をひねらければならなかったんです。動きを再現してみると、そりゃ、痛くなるよねというのがわかりました」。

体の使い方に左右差があることは、人間の目でも気づけたが、その原因までは誰も突き止められなかった。センシングしたからこそ、見えてきた事実である。

痛みの程度によっては、継続的なトレーニングはできなくなる。選手生命を脅かすリスクさえある。どんなスポーツでも、怪我は避けたいところ。防止効果が見込めるというだけでも期待値は高い。

データ活用の難しさ

革新的なデバイスのTYPE-Rだが、課題がないわけではない。個人差をどう捉えるかという問題が横たわるからだ。

たとえば、ワールドチームに所属する某選手。彼の動きをTYPE-Rでセンシングしたことがある。加地氏は綺麗なデータが上がって来ると思ったが、意外にも左右差が大きかったことに驚いたという。一時の偶然かとも思ったが、何度やっても結果は同じだった。

左右差は怪我につながる可能性もあるので、基本的にはよくない。しかし、何度やっても同じであり、過去に怪我がないならば、それは彼の体の特徴であると、選手のコーチを務めるニール・ヘンダーソン氏は、今のところ結論付けている。

TYPE-Rの開発の前提として、コーチの教えが経験に基づいた正しいものとは限らないという仮定から入っており、上記のように、時に解釈に議論の余地を残すこともあるのだ。

このあたり、手を打っていないわけではなく、スポーツ科学者、運動生理学者、コーチ、理学療法士らを集めた研究機関IMAを設立しており、研究者らのリサーチを通して科学的な検証を行っていくという。

TYPE-Rでセンシングしたデータの表示例(出典:TYPE-Rマニュアルより)

もうひとつ、データ活用の難しさにも課題は残る。TYPE-Rに熟知したコーチが選手個別のデータを一定期間見ることで、その人の"癖"を発見することはできる。しかし、広く普及を図ろうとした場合、誰もが課題を見つけ、次につなげられるようにする"わかりやすさ"は求められる。"生"に近いデータではなく、アルゴリズムでクラスタリングするなど加工して、見やすくしたデータ表示は必要になっていく。年内予定の国内発売までには、大きく改善したものにするというが、その完成度は気になるところだ。

いずれにせよ、現時点でも、DSSを始めとした新たな指標があり、ペダリングのスムーズさや足の動きの左右差の確認など、かつてない機能を自転車競技のトレーニングに持ち込むのがTYPE-Rだ。TYPE-Rは先々、他の競技へも展開を図っていくが、そのためには、自転車競技において、ビジネス的にもある程度の成功を収める必要があるだろう。

デバイスの革新性は売れるための一要件に過ぎない。デバイスの存在を市場に認知してもらう必要がある。ビジネスにならなければ、消えてしまいかねない。加地氏はビジネスとしてどう成り立たせようと考えているのか。

大盤振る舞いのPayPay、「200億円還元」が導いたビジネスの勝機とは

大盤振る舞いのPayPay、「200億円還元」が導いたビジネスの勝機とは

2019.05.18

PayPayの100億円キャンペーンが終了

「〇〇ペイ」が乱立する中、PayPayの立ち位置は?

6月には新キャンペーンを実施、「決済No.1」への道筋とは

前代未聞の「20%還元」で話題を呼んだPayPayが、第2弾の100億円キャンペーンを5月13日に終了した。だが6月以降には新たなキャンペーンが始まり、まだまだその熱は冷めそうにない。

ソフトバンクグループの資本参加など、PayPayを取り巻く環境は急速に変化している

派手な還元策が注目されるPayPay。今後のビジョンとして打ち出したのは「決済No.1プラットフォーム」を目指すことだ。最近のPayPayを取り巻く状況を振り返りながら、次の展開を予想してみたい。

PayPayは「認知No.1の維持が重要」

4月25日のヤフーによる決算説明会では、PayPayに関する最新の数字として、登録者数は600万人、加盟店は50万店、決済回数は累計2,500万回を突破したことが明らかになった。さらに登録者数は10連休後には700万人に達するなど、順調にその数を伸ばし続けている。

PayPayの累計登録者数が700万人を突破(5月8日のソフトバンク決算説明会にて)

現状、名称認知やサービス理解ではPayPayがNo.1を維持している(PayPay調べ)。これから先、スマホ決済がマジョリティ層に広がっていくにつれ、まずはNo.1のサービスから始めようと考えるユーザーは増えていく。とにかく、認知度No.1を維持していくことが重要というわけだ。

PayPayによる調査では認知度No.1をキープ

100億円キャンペーンの第2弾は終了したが、同社は新たに「次の20%還元」として、6月からはドラッグストアで最大20%を還元するなど、月ごとにジャンルを限定して実施するという。またキャンペーンとは別に、通常の還元率も最大3%に引き上げている。

まだまだPayPayの大盤振る舞いは続きそうだが、店舗側が払う決済手数料は場合によっては0%であるほか、売上金の入金手数料も無料期間を延長している。こうした間にもユーザーへの還元は続いており、PayPayが使われるたびに損失は膨らむ計算になる。

そこで改めて注目されるのが、「どうやって儲けにつなげていくのか?」というビジネスモデルの視点だ。ヤフーやソフトバンクの決算説明会からは、その将来像が明らかになってきた。

PayPayが「プラットフォーム」として本格始動?

ヤフーが決算説明会で示したPayPayのビジネスモデルとは、決済データやPayPay残高の活用だ。蓄積された決済データから個人の消費行動を分析すれば、店舗への送客や広告に利用できる。PayPay残高を利用すればさまざまな金融商品の販売が可能だ。

PayPayのビジネスモデル(4月25日のヤフーの決算説明会資料より)

近未来を描いたイメージビデオでは、PayPay残高が足りないときに利用できる「後払い」、近隣店舗の商品在庫の表示や送客、PayPay残高による投資信託や保険の購入、デリバリーやレンタカーといったサービスを利用する様子が描かれていた。

最近では、楽天やLINEに続き、KDDIもアプリを入り口としてコード払いや資産運用、ショッピングやサービス利用にポイントを循環させていく構想を打ち出している。PayPayが目指すビジネスモデルは、そこに真っ向勝負を挑むものとみて間違いなさそうだ。

続々と強化されるPayPayアプリ。今後は金融サービス連携も?

ヤフーはPayPayのオンライン対応を進めており、6月以降にYahoo!ショッピングとヤフオクに対応する予定だ。特にヤフオクの売上金をPayPayで受け取れるようになる機能は、メルカリの売上金を利用できるメルペイに対抗する動きといえる。

また、ソフトバンクはガラケーからの移行にPayPayを活用する。ガラケー利用者向けの「スマホデビュープラン」では合計6,000円相当のPayPayボーナスを付与すると発表している。PayPayに関心を持ち始めたガラケー利用者に向けて、スマホに移行させつつPayPayユーザーとして取り込む、一石二鳥のアプローチだ。

PayPayを取り巻く体制も変化している。ソフトバンクグループはPayPayに460億円を出資する一方、ソフトバンクはヤフーを子会社化することで効率化を図るなど、グループ全体でのシナジーを追求していく構えだ。

PayPayを中心にソフトバンクグループ全体とのシナジーを追求

スマホ決済の中でも飛び抜けて勢いのあるPayPayだが、アプリ起動やコード読み取りの手間を嫌う声は多い。還元キャンペーンの間だけ盛り上がる一過性のものと考えていた人も少なくないだろう。だがここに来て、ソフトバンクとヤフーはPayPayを本気で「No.1」にする戦略に着手したといえそうだ。

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チームの環境はどう変わったか? 代表者4人が語る「eスポーツ2018-19」

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2019.05.17

2018年に大きく飛躍したeスポーツ業界

選手や大会だけでなく「eスポーツチーム」にも影響を及ぼした

eスポーツチーム運営に携わる4人に集まっていただき座談会を実施

チームに起きた変化や現在の環境について話し合ってもらった

2018年に大きく飛躍したeスポーツ業界。選手や大会運営だけでなく、プロ選手の所属する「eスポーツチーム」にも影響があったようだ。そこで、eスポーツチームを運営する4名に、チームの変化やeスポーツの現状、これからの展望について語ってもらった。

今回、集まっていただいたのは「よしもとゲーミング」「SCARZ」「SunSister」「DetonatioN Gaming」の4チームの代表者だ。

流入する資本。eスポーツのマネーゲーム化を懸念

――昨年からeスポーツを取り巻く環境が大きく変わったと思います。みなさんのチームにはどのような変化がありましたか? 昨年その波に飛び込んだよしもとクリエイティブエージェンシーさんは、eスポーツへの参入意図について教えてください。

よしもとスポーツ 代表取締役社長 星久幸氏(以下、星):巷で言われているのと同様に、弊社にとっても2018年は“eスポーツ元年”でした。よしもとクリエイティブエージェンシーはエンターテインメントの総合商社として、タレントに仕事を持ってくることがメインの会社です。内容は時代によって変化しますが、eスポーツはまさにこれからタレントの活躍の場の1つとなると考えたため、参入することにしました。

ただ、「よしもとゲーミング」として、eスポーツ事業に乗り出したはいいものの、右も左もわからない状態だったので、まずはすでにeスポーツチームを運営しているところにパートナーとして参加しました。プロeスポーツチームの「よしもとLibalent」がそうですね。

また、よしもとはイベント運営も行っている会社なので、興行としてのeスポーツにも注目しています。2019年からは『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の国内リーグの「League of Legends Japan League(LJL)」の運営に参加しています。

よしもとスポーツ 代表取締役社長 星久幸氏

XENOZ 代表取締役CEO・SCARZ オーナー 友利洋一氏(以下、友利):これまでは、チームのスポンサーを探しに行った際、いつも「eスポーツとは」という説明からスタートしていましたが、昨年あたりからその説明が不要になりました。

また、認知度が高まっているので、プロゲーマーを目指す人も確実に増えてきていますね。ちょっと前だとYouTuberの影響などもあり、ゲームで稼ぐというとストリーマーを目指す人が多かったのですが、最近は選手志望の人が増えている印象です。20歳以下の選手も増えてきたのではないでしょうか。なので、チームとしては、資金も選手も厚みが出てきました。

XENOZ 代表取締役CEO・SCARZ オーナー 友利洋一氏

SST-GAMES 代表社員CEO・SunSister オーナー 太田桂氏(以下、太田):チーム設立当初は、ゲーム好きが集まる、いわばコミュニティの延長のようなものでした。なので、ゲームで日本一になりたい、世界に行きたいという気持ちは強かったのですが、「お金を稼ごう」とはあまり考えていませんでしたね。しかし、次第に企業から協賛の話をいただくようになり、「ビジネスとしてしっかりやっていかなければならない」と思うようになりました。

企業側も、資金提供されるようになってからは、eスポーツについて勉強されるので、選手やチームの状態なども細かく見られます。そのため、いまは「スポンサーされるチーム」と「されないチーム」がふるいにかけられているでしょう。協賛の数も増え、ご提供いただく資金も増えるなかで、昔ほど緩い感じではなくなりました。業態としても、これまでのようなPCメーカーやPC周辺機器メーカーだけでなく、PC関連以外の企業の参入も増えています。

あと、eスポーツが普及して感じる変化ではもう1つ、ファンの存在が挙げられると思います。最近では、試合後に選手を出待ちするファンを見かけるようになりました。プロゲーマーがアイドル化してきたなと思いますね。

SST-GAMES 代表社員CEO・SunSister オーナー 太田桂氏

Sun-Gence 代表取締役社長 DetonatioN Gaming オーナー 梅崎伸幸氏(以下、梅崎):最近は、Twitterのアカウントをスポンサーさんに見張られている気がします(笑)。打ち合わせのときに「梅崎さんこの前~していましたよね」と言われて、「どうして知っているんですか?」と聞いたら「Twitterで見ました」って。選手も私も下手な発言はできなくなったと感じましたね。

チームとしては、やはり2018年に大きく変わりました。以前の年と比較すると、グッズ販売などの売上が2倍以上も違うんです。数千万円クラスですね。イベントだと選手のサインがもらえることもあり、現場でグッズを購入する人が増えている印象です。

選手の給料も上がってますし、確実に市場価値は高まっているでしょう。ただ、主要タイトルではマネーゲームが始まっている感じがして、それがちょっと気がかりですね。

Sun-Gence 代表取締役社長 DetonatioN Gaming オーナー 梅崎伸幸氏

友利:大資本が入ってくるということですよね。それはまずいことなんですか?

梅崎:たとえば、中国資本が入ってきて、選手を多額の資金で集め出すと、市場はあっという間に吹き飛んでしまうでしょう。「選手1人に3000万円払います」「予算は10億あります」って言われたら、DetonatioNなんか消し飛んでしまいますよ。リアルスポーツのプロチームもeスポーツに参戦していますし、経営基盤がしっかりしているところと勝負して勝てるのかなという不安はありますね。

太田:ちょうどこの前、友利さんと話をしていたときに「数年後には、SunSisterないから」と言ったのを覚えています。「なんでそんなこと言うんですか」って言われましたけど、バックに銀行のような大資本が付いている企業と札束ゲームをしても絶対に勝てないじゃないですか。「SunSister、強くなったよね。君、いくらもらっているの? そう、じゃあ月100万出すよ」って言われたら、太刀打ちできません。

星:eスポーツの運営ノウハウがないところは、チームごと買うケースも出てくるでしょうね。

梅崎:そうですね。チーム売却まで行かず、資金力のあるところとパートナーを組んでいければいいのですが。

選手の意識は“ファンの存在”で変わる

――TwitterなどのSNSについて話が出ましたが、選手は特に注目されていると思います。そのような状況に慣れていない選手も多いと思いますが、チームとしてはどう対応していますか。また、ファン対応についてもお聞かせください。

星:うちはマネジメントの会社なので、コンプライアンスに関してはしっかりと時間をとって教育していますね。弁護士や警察OBの方に来ていただき、一人ひとりに説明します。

メディア対応についてもレクリエーションを実施しています。全員に行き渡っているとはまだ言えませんが、eスポーツ選手でも目立つ存在のジョビンには特にたたき込んでいますよ。

リーグ運営という側面からほかのチームを見ていると、そのようなことができているチームとできていないチームがはっきりとわかりますね。

友利:ファンサービスは力を入れていきたいと考えています。eスポーツの場合、会場に行けば選手に会えるという「身近さ」も魅力の1つでしょう。

実はSCARZには、「元アイドル」をしていた選手も在籍しているんですが、アイドル時代よりも、eスポーツ選手になった今のほうがファンとの距離感が近くなって、彼自身も喜んでいますね。最初はeスポーツに興味がなかった彼のファンにも、eスポーツを身近に感じてもらえるようになりました。

太田:選手の教育自体は、それこそチームの発足時からしっかり行っています。ただ、なかなか浸透するまでに時間がかかりますね。選手にコンプライアンスの大事さを説明すると、その場では素直に話を聞きますし、「わかりました」って言ってくれて。やんちゃなタイプの人は少ないのですが、それでも、トラブルを起こしてしまうことがあるんです。

そのときに「SunSister、ちゃんと教育しろよ」って言われるんですが、実際は丁寧にやっているんです。たぶん、どのチームも教育はしていると思いますが、やらかす人はやらかしてしまいますね。

ただ、ファンが増えて「自分が注目されている」と認識できれば、そこで態度が一変することが多いですね。「これは下手なことはできないな」と思うようです。コンプライアンスを説明するよりも、ファンに見られているという意識を持つほうが、大事なのかもしれません。

梅崎:チームのメンバーと焼き鳥屋さんに行ったとき、店員さんからうちのチームのファンだって声をかけていただいたことがありました。すぐに「下手なこと言うなよ」選手たちに伝えましたね(笑)。太田さんがおっしゃったように、「いつどこで誰が見ているかわからない」ことを実感しました。

DetonatioNは大所帯なので、教育自体はマネージャーに任せています。なので、その教育者、教育内容を間違ってしまうと、選手が勘違いしてしまうことはありますね。僕らの考えていることをマネージャーに伝え、それをマネージャーから選手たちにきっちり伝えられる座組を作っていかないといけないと考えています。

太田:ファン対応については、定期的にファンミーティングを実施しています。実施し始めた頃は「僕にファンなんていません」とか「そんなことやって意味あるんですか」とか、ファンとの触れ合いを怖がる選手もいましたが、実際にファンミーティングをやってみると、思いのほか人が集まって「いつも動画見ています」「試合に行きました」って言ってもらえるんです。そうすると、うれしくなるんでしょうね。ファンの存在を実感して、イベントへの参加も楽しくなってきて、ファンから見られていることに対してもポジティブに感じられるようになったはずです。

梅崎:DetonatioNでは以前、ファンが離れぎみになってしまったことがあったんです。そのときに私も含めて意識改革を行って、今まで以上にファンを大事にするようにしました。

選手も昨年の「Worlds」で、わざわざ韓国まで応援に来てくださったファンがいたことがすごくうれしかったようで、意識が変わったように思います。

友利:教育という意味でいうと、有名になって、成績も残せるようになると、選手が迷子になってしまうことがありますよね。チームではなく自分の力で勝っているとか、自分だけに人気が集中しているとか、イベントのオファーは自分に来ているとか。もちろん、選手個人の強さもあると思いますが、チームゲームの場合は1人では勝てません。目立つプレイの裏には支えてるチームメイトがいます。そうなるとチームを離れても、オファーがもらえるのではないかと思ってしまうんです。

梅崎:たしかにあります。でも実際は違うんですよね。よしもとさんは、特にそのあたり詳しいのではないでしょうか。多くの芸人さんが在籍していて、よしもとの看板で仕事がくることも多いわけですから。

星:永遠の課題ですね。オファーをいただくのは、「芸人の人気」か「よしもとの存在」か。私はどちらもあると思います。もし、芸人の力だったとしても、そこまで育てたのはよしもとですし、eスポーツであればチームなわけです。

友利:実際にチームを離れてから、チームの人気に支えられていたと気づくこともあるようです。もちろん、チームの人気は個々の選手の人気あってのこと。あと、チームは強いことで人気が出るのですが、強すぎてしまうのも弊害はありますね。

星:リアルスポーツでも一緒ですよね。1チームだけが強すぎてしまうと、試合にならないですし、実は集客もトータルでは減ってしまうんですよね。NBAなどのアメリカのスポーツリーグでは、各チームが選手に支払える給料の総額に上限を設けて、戦力のバランスを取っていますが、eスポーツでは、まだそういうレギュレーションがありません。勝つことで集客を見込めるようになったのに、勝ち続けてしまうことでお客さんが離れるというジレンマですね。「観に行かなくても、どうせ勝つんだから」って、なるんです。

梅崎:そうか! 負けるように言わなきゃ(笑)。

ドライな関係が増えた「選手」と「チーム」

――賞金やプロゲーマーという職業が話題になることも増えました。もともとゲームタイトルが好きでコミュニティからプロになった選手と、eスポーツが確立されてからプロになることを目的に始めた選手では、ゲームに対する向かい方は違うのでしょうか。

太田:特に違いはないと思います。チームのなかには、ゲームを楽しみたいと思っている人もいれば、トップを目指したいと取り組んでいる人もいます。それでも、ゲームや大会への熱量はそんなに変わらないでしょう。ただ、結果が出たときに、以前の選手は「よっしゃー、勝ったー」で終わっていたところ、今では「よっしゃー、勝ったー。結果出したからお金ください」ってなるだけだと思います。

梅崎:昔からいる人はお金を求めないことが多いですね。「強さ」や「世界での活躍」が先にきます。今の選手はお金をもらえるのが当たり前という印象です。もちろん、お金の話は重要なんですけど。面接のひと言めから「いくら出します?」はちょっと……。

友利:うちも似たような感じですね。強い選手は勝つことを最重要に考えています。「勝ちたい」「結果を出したい」と頑張っている人には、こちらからサポートしたいと思うもの。そこは情の部分になってしまいますけどね。

梅崎:情は大事です。なかなか結果を出せない選手がいると「うちと契約続けるのは難しいな」とならざるを得ないのですが、本人とその話をするときに「もう少しだけ頑張らせてください!」と懇願されてしまうと「そうかぁ」って判子を押してしまうんですよね。

太田:たぶん、梅崎さんも長いことやっていらっしゃるので、どうしても選手を切らなきゃならない場面に遭遇して、涙を流しながら契約解除した経験ってあるんじゃないですか?

梅崎:そりゃありますよ! 泣きましたね。

太田:そうですよね。私も経験があります。選手と泣きながらお別れしたことがありました。できることなら契約継続したかったですし、選手もSunSisterで続けたいって思いがあったわけですから。

もちろん、今もそのようなケースはゼロではないですけど、契約に関してはわりとドライな関係が多いですね。内容に不満があったら辞めますし、こちらから切らざるを得ない場合でもあっさりと辞めていきます。

ただ、プロとしてお金をもらえることが当たり前になった時代に生まれたので、対価を求めること自体は悪ではありません。

――今年LJLは大きくレギュレーションを変え、売上が5000万円必要であったり、資本金が1000万円以上であったりと、リーグに参加できるチームの条件も変わりました。また、2部リーグを廃止し、1部リーグのチーム数を8に増やすなど、さまざまな改革を行っています。ほかのタイトルでも一定数の資本金額や売上額を満たしていないと、リーグへの参加申請ができなくなっていますが、この状況についてどう感じますか。

梅崎:LJLに関して言えば、6チーム制から8チーム制にしたのは大賛成ですね。ただ、2部制をなくしたのは早すぎたと思います。現状でも地域密着のフランチャイズ体制がまともに機能していないなかで、2部制をなくしてしまうと、東京の一極集中になりますし、これからLJLを目指そうとする若者の活躍の場が少なくなってしまいます。

リーグとしても2部との入れ替え戦があるからこそ、成績下位チームも最後まで緊張感を持って試合できるわけです。今の状態だと優勝を見込めなくなったチーム同士の試合はただの消化試合になってしまいますから、観る方もつまらなくなるのではないでしょうか。

友利:うちのチームは1部と2部を行ったり来たりしていたので、落ちたときの悔しさ、昇格したときの感動が得られなくなったのは残念ですね。

梅崎:リーグ側からすれば、資金不足が原因でチームが解散してしまうリスクを懸念して、ある程度資金力、実力のあるチームを選定していると思います。なので、2部リーグに関しては、その売上や資本金の規定を1部よりも低く設定するなどの処置で継続していただければうれしいですね。

友利:チームの売上を求めるのであれば、エコシステムも同時に作ってほしいですね。放映権を作って、チームに分配するとか。もちろんチーム自体が考える必要もありますが、さまざまな面でリーグに協力していただけるとうれしいですね。

たとえば、海外から有力選手を招聘すると、入国管理局から「厳しい」と言われることがあるんです。なぜかというと、プロリーグとしてのシステムが確立していないケースが多いためです。LJLはそこをクリアしているので、ガンガン海外の選手が入ってきています。日本の『LoL』が飛躍的に伸びたのは、韓国人選手が入ってきたことが大きいんです。「実力がはるかに上の韓国人選手がこれだけ練習しているのに、日本人選手はそれでいいのか」という雰囲気になって、日本人選手の意識が変わってきました。

選手としての実力の高さが国内のリーグのレベルを引き上げてくれるだけでなく、海外の常識、特にeスポーツ先進国の韓国のやり方が入ると、国内の選手やチームの意識改革ができるんです。Jリーグの関係者も同じことを話していましたね。

星:LJLの2部廃止は我々の決定というわけではないのですが、まず1部リーグに注力してLJL自体を広めることが目的だと思います。もっと競技人口が増えてから、2部リーグの話が再び出てくるのではないでしょうか。

梅崎:若手発掘という位置づけであれば、参加希望者によるトライアウトの「スカウティング・グラウンズ」がありますけど、狭き門のうえ、参加するのは選手単位。即席チームでのプレイを数試合観ただけで選手の実力を判断することは無理ですよ。

友利:スカウティング・グラウンズで新しい選手を獲得したとき、現存の選手の誰かを切る必要が出てきます。2部があれば、そこでの活躍次第で1部への復帰も見込めますが、現状だと1度1部を離れてしまうと、復帰は難しいでしょうね。

2019年1月に開催された「LJL 2019 SPRING SPLIT」の様子。試合会場が中野の「Redbull Gaming Sphere Tokyo」から「よしもと∞ホール」に変更された

太田:主催者側の観点から考えると、チームが安定して運営されているかどうかの担保は必要だと思います。ただ、それをされるとうちは辛いかな。まあ、レギュレーションで出られないのであれば、それは仕方ないこと。こちらはあくまでも出させていただいている立場なので。

友利:大会自体もっと増やしてもらえればうれしいですね。せめて年間スケジュールは早めに出してほしい。スポンサーさんからスケジュールを聞かれるんですけど、決まってないから言えないんです。下手すると1カ月前にならないと出ないところもあって。

太田:IPホルダーが簡単に大会を主催させてくれない点も、なんとかしてほしいところです。権利を持っているところほど何もやらず、お金も出してくれない。それでいて、大会を開こうとしても許諾が降りないのでは、タイトルが盛り上がるわけがありません。

友利:そういう点で『カウンターストライク:GO』はすごいですね。さまざまなところが開催できるので、年間700回くらい大会がありますし。選手は休むヒマがないんですけど、今の日本のように「大会がない!」という状況よりはいいのではないでしょうか。

――今後eスポーツに求めることやチームとしての目標は何でしょうか。

星:リーグ運営はもっとしっかりしたいと思っています。選手に還元できるエコシステムの構築やスタッフの育成、また、セカンドキャリアの構築なども進めていきたいですね。よしもとクリエイティブエージェンシーはスポーツ選手のセカンドキャリアを支援しているので、eスポーツ選手にも対応できると思います。

友利:日本チームが世界を取るところを見てみたいですね。そのためにも、チームとして、選手はもちろん、スタッフの育成をしていくことが重要だと思っています。フィジカルやメンタルのケアができる環境も整えていきたいですね。ファンの方々にも選手を見て喜んでいただくためにも、大会で活躍できるだけでなく、人としてしっかりとした選手を輩出していきたいと思います。

太田:せっかく多くの人にファンになっていただいたので、もっと喜んでもらいたい。見ていて、「このチームおもしろいね」って言ってもらえるようなチーム作りをしたいと考えています。ファンが増えれば、それだけチームや選手にも還元されるわけですから。チームとしては、世界中から「SunSisterすげえな」と言われるようになりたい考えています。それが一番ファンも喜んでくれると思うので。選手の意識改革をし、ファン重視で運営していきたいですね。

梅崎:今、チームの主要タイトルは『LoL』なので、昨年以上の成績を残していきたい。また、実行するまでにしばらく時間がかかりそうですが、地方に根付いたチームにしていきたいと思っています。地盤を築き、その土地のファンや地元の企業と一緒に何かやっていければいいですね。選手中心での運営するスタンスは変わりませんが、ファンのための施策もいろいろ考えていきます。ファンクラブを作ったり、グッズを増やしていったり、そんな感じですね。

――ありがとうございました!

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