シャープが振り返る「日の丸ディスプレイ」が敗北した理由(後編)

シャープが振り返る「日の丸ディスプレイ」が敗北した理由(後編)

2017.09.21

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)がグローバルパートナーとの出資を含む提携を模索するなか、「今こそ、ディスプレイ事業における『大日の丸連合』の結成が必要だ」と、シャープ 上席常務 ディスプレイデバイスカンパニー社長の桶谷 大亥氏は話す。

桶谷上席常務が理由の一つとして挙げるのが、過去の液晶ディスプレイ産業における失敗だ。台湾、韓国への技術流出が、日本の液晶ディスプレイ事業全体の競争力を弱めた経験から、二の鉄を踏まないことが大切だと話す。そして「大日の丸連合」と呼ぶ言葉には、単にパネルメーカー同士の提携に留まらない大きな意味を込めている。果たしてその意味とはなんなのか。

シャープ 上席常務 桶谷 大亥氏

韓国の価格競争力への対抗、それが台湾メーカー成長の礎に

なぜ、日本から液晶に関する技術流出がはじまったのか。

前回も触れたように、1997年のアジア通貨危機が発端となり、韓国経済は「超ウォン安」という市場環境に陥った。しかし、韓国のサムスン電子やLG電子にとっては、輸出ビジネスへの大きな追い風となり、液晶パネル事業と液晶テレビ事業で攻勢をかけはじめたのだ。

その一方で日本は安定通貨として円高の環境にあり、輸出産業にとって逆風が吹いていた。ウォン安を背景に、液晶パネルを戦略的価格で販売する韓国勢の攻勢を受けて経営が悪化し、それに耐えきれなくなった日系各社が取り始めた一手が、台湾メーカーとの協業による技術供与だったのだ。

東芝とパナソニック、三菱電機、富士通の各社は、それぞれに台湾の液晶メーカーと協業を開始し、シャープもその例に漏れず、協業を開始した。これによって日系メーカー各社は技術供与で得た資金をもとに、低コストで生産できる生産パートナーを最小限の自己投資で確保することに成功。韓国メーカーに対抗できる地盤を作り始めた。

だがこの戦略が、結果として台湾の生産能力シェアを引き上げることとなり、1998年に10%以下だったシェアが2004年に約40%と、トップに踊り出るまでに拡大したのだ。協業の結果が、生産能力シェアを引き下げることになっただけでなく、最先端の液晶技術も台湾メーカーへと渡ることになったのだ。

ある業界関係者は、「目の前に小遣い稼ぎのために、技術を供与したツケは、その後の日本の液晶ディスプレイ産業に大きなマイナスとなっている」と振り返る。そして、技術供与が生み出した問題はそれだけではなかった。もっと大きな問題を生んでしまったのだ。

その大きな問題とは、日本に留まっていた材料メーカーや装置メーカーのシェアの減少。たとえば液晶パネルに使用されるカラーフィルターは、2004年に全世界で約70%のシェアを日系メーカーが獲得していたが、わずか7年後の2011年には、15%まで減少している。積極的な技術供与の結果、台湾メーカーにおける材料調達の内製化が進んだことが要因だ。

また、製造装置でも同様の動きがみられた。スパッタリング成膜装置やCVD成膜装置、ドライエッチング装置についても、協業を背景にして技術が流出。さらに韓国における製造装置の国産化を振興する動きのなかで、韓国メーカーがこれらの技術を獲得し、韓国メーカー製の製造装置が広く利用されるようになった。

一方で、こうした流れに追随しなかったのが、ガラスメーカーである。台湾、韓国などにも生産拠点を設置しているが、これらは日系メーカーの独自資本で設置しており、海外メーカーへの技術流出が起きていない。その結果、2004年には、約30%だった日系メーカーのシェアは逆に、2011年に45%以上まで高まっているのだ。

つまり、技術流出は、液晶パネルメーカーの競争力を弱めるだけでなく、材料メーカーおよび装置メーカーの競争力を弱めることにもつながっている。そして、前回触れたように、日系メーカーの薄型テレビやノートPC、スマホなど、液晶ディスプレイを使用した最終製品のシェアも減少。いまでは世界市場での存在感が薄い。つまり、最終製品を生産するセットメーカーの競争力を弱めることにもつながっているのだ。

「これ以上、海外に技術流出するような動きが加速すれば、日本のディスプレイ産業の先行きが不透明になるだけでなく、日本経済にも大きな影響を与えることになる」と、シャープの桶谷氏は警鐘を鳴らす。

最終製品を例に取れば、薄型テレビやノートPC、スマホなどある程度の普及が見られた製品だけに、今後の成長は限定的という見方もあるが、それ以外に目を転じれば、ディスプレイの応用範囲はまだまだ広がることになる。そして、そこには日系メーカーが活躍できる場が数多くある。

第4次産業革命が到来し、ロボットおよび自動生産、IoTなどのハードウェア、あるいは人工知能(AI)などのソフトウェアといった日本が得意とする分野においても、ディスプレイは重要になる。クルマの自動運転においても、ディスプレイの活用は不可欠だろう。こうした中で、日本がディスプレイ産業において競争力を失うことは、日本における成長分野の育成、強化においても、大きな影響を与える。

「それは、液晶パネルの競争力を失った途端に、薄型テレビやノートPCの競争力が失われたのと同じ。日本の競争力を低下させないためにも、日本の中にディスプレイ産業を残すことが大切である。安易に海外へ技術を移転することは避けるべき」(桶谷氏)

こうしてみると、シャープが「大日の丸連合」という言葉を使うのは、JDIとシャープというパネルメーカー同士の協業に留まらず、日本の装置メーカーや材料メーカー、そして最終商品を開発するセットメーカー、さらには、日本の他の産業の成長までを見据えた日本企業の連合体を形成する意味が含まれているというわけだ。

鴻海傘下のシャープが「大日の丸連合」を語れる理由とは

だが、そう語るシャープ自身も、すでに台湾の鴻海傘下にある企業だ。その立場をどう捉えているのか。桶谷氏は次のように語る。

「確かに2016年8月以降、シャープは鴻海傘下で再建を進めてきた。だがシャープは、独立した企業としての経営を維持している。鴻海からの技術流入はあっても、ディスプレイ技術は一切流出していない」

例えば、鴻海グループには、液晶パネルの開発、生産を行うイノラックス社がある。だが同社は、普及領域の液晶パネル生産が中心で、付加価値製品が中心となるシャープとは生産品目に差があるという。

「イノラックスとシャープは、技術面での協業をしていない。また戴社長(=代表取締役社長 戴 正呉氏)も、シャープのディスプレイ技術が、たとえ鴻海のグループ会社であっても流出しないような動きを徹底している」(桶谷氏)

もし、シャープの提携相手が競合する海外パネルメーカーであれば事業を一体化し、その結果として技術流出も想定された。しかし桶谷氏の話では、鴻海グループではそうしたことが起こらず、シャープの技術は社内に留まっているというのだ。

もちろん戴氏は、鴻海グループのナンバー2と言われ、鴻海の会長 郭 台銘氏の片腕だ。それだけに、郭氏がシャープのディスプレイ技術を鴻海グループのなかでもっと活用したいと言えば、技術流出も考えられないわけではないだろう。しかし、桶谷氏は「そうした動きに対しても戴社長は、かたくなに断る姿勢を持っている」と否定する。

郭氏に反論できる数少ない人物の一人が戴氏だというのは、多くの関係者が知る事実であり、実際、「私はシャープの社長であり、いまはシャープの社長としての仕事を最も重視している」と戴社長は周囲に漏らしているという。シャープに不利になるようなことはしないというのが、戴社長の基本姿勢だという。

そこに、シャープ自らが「我々は日本の会社だ」と言い張る理由がある。この姿勢が維持され続けるのであれば、そうした言い方もできるだろう。もちろん、手放しで日本企業と言えないのは明らかだ。ただ現状、技術流出の観点で見れば、それはないということだけは確かなようだ。

大阪府堺のシャープ本社

シャープが大日の丸連合を形成するには、JDIが指す"グローバルパートナー"に名乗りを上げることが前提となる。桶谷氏は、「液晶パネルの協業については、独禁法の問題もあり、難しいと考えている。だが、有機ELパネルや将来のパネル技術についての協業は可能であろう」とする。

有機ELには、「蒸着方式」と「印刷方式」という2つの製造方法があり、JDI本体では蒸着方式の事業化に取り組んでおり、JDIが出資するJOLEDでは印刷方式の研究開発を進めている。

一般的に蒸着方式は小型化に適しており、スマホ用途などが中心。そして、印刷方式はPCやタブレットといった中型サイズでの用途が見込まれる。JDIはいずれも、2019年度からの量産を目指す計画だ。シャープは、蒸着方式と印刷方式の両方で研究開発を進めており、ここでも連携が図れると考えている。

またJDIにとっては、シャープの生産設備を活用することでパネルの量産化に弾みがつくほか、シャープの知財・人材の活用などのメリットが生まれることになる。韓国メーカーに比べて、人材面での不足が顕著な日本のメーカーの技術者を増やすことにもつながるというわけだ。

そして、亀山工場や堺ディスプレイプロダクトなど、シャープおよび鴻海グループの生産拠点も活用できる。JDIとシャープが組むメリットは大きいといえるだろう。また、両社が保有するディスプレイ技術に関する知財においても、補完関係にあるという。さらには鴻海グループを活用した最終製品としての「出口」も確保しやすい。ディスプレイの消費が安定化するメリットは、パネルメーカーには計り知れない。

桶谷氏は最後に、「出資の検討や、将来的には事業統合を視野に入れた話し合いも可能だと考えている。協業や出資、事業統合においては、シャープが主導権を握らなくてもいいと考えている」と語る。JDIにはいくつかの選択肢があるが、中国企業との話し合いが急ピッチで進んでいるとの声が関係者周辺から上がる。

ただ、「大日の丸連合」の形成を選択する道もあることを忘れてはならない。一度はとん挫した「大日の丸連合」がいよいよ誕生することになるか。答えは、JDIの選択次第である。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。