伊藤園が三越日本橋に直営店、両社が狙うは

伊藤園が三越日本橋に直営店、両社が狙うは"富裕層"

2017.09.22

お茶の伊藤園として、『お茶はこんなに美味しいんだ』と知らせたい――。こう語るのは、伊藤園 特販営業本部 取締役本部長の石坂 健一郎氏だ。伊藤園は三越日本橋本店の本館地下1階食品フロアに「日本橋 和の茶 伊藤園」を9月22日にオープン。日本茶にこだわった希少価値あるお茶の提供をコンセプトに据え、富裕層への伊藤園ブランドの浸透を図る。

1本2000円、シングルオリジンの玉露茶を用意

伊藤園は1977年に第一号の直営店舗「茶十徳」をオープン。現在170店舗以上を運営しているが、「店舗名に『伊藤園』を冠したのはこの店舗だからこそ。三越日本橋本店と交渉して、ブランド価値向上のために社名を入れた」(石坂氏)と特別な店舗であることを強調する。

伊藤園 特販営業本部 取締役本部長 石坂 健一郎氏
ブレンド茶ではなく、生産者それぞれの茶葉にこだわったシングルオリジンでお茶を提供する

それもそのはず、「お~いお茶」で有名な伊藤園が、日本茶のみを取り扱う店舗はこの店舗のみ。長年の事業で培ってきたお茶農家のネットワークを活かし、35種類にもおよぶ茶葉を取り揃え、緑茶や紅茶、ウーロン茶を提供する。茶葉は温暖な気候でしか栽培できないため、新潟が北限とされる。一方で、南は鹿児島でも生産されており、オープン時には屋久島で生産された茶葉を用いた「屋久島紅茶」も提供する。

和の茶 玉露

さらに伊藤園が目玉とするのが、375ml瓶ながら税込みで2160円を値付けた「和の茶 玉露」。ブレンド茶ではなく、福岡県八女産「伝統本玉露」をシングルオリジン(単一品種・単一生産者)による100%使用した高級茶で、ガラス瓶に入れ、化粧箱も付けた手土産にうってつけの商品に仕上げた。

福岡県の八女茶は、一体の玉露生産量が全国一位とも言われており、定評のある茶葉産地。石坂氏によると、茶葉は100gで1万円を超える上級品とのことで「旨味が口の中で広がる」(石坂氏)と自信を見せる。もちろん、屋久島や八女以外の産地の茶葉も拡充していくとしており「年末に向けてラインナップは拡充していく。スペースは限られるが、入れ替えも含め100種類程度の茶葉を用意していきたい」(石坂氏)と話す。

また、イートインコーナーも用意しており、ほうじ茶や抹茶をベースにしたロールケーキ、マカロンを提供。急須などの関連商品も取り揃えることで、お茶の世界観を楽しんでもらい「和茶の"伝統"と"今"に出会い、体感していただけるようにしたい」(三越日本橋本店 食品・レストラン営業部 部長 田中 清氏)としていた。

一方、スペースを提供する三越日本橋本店は和の茶と同時に「ジュリス ティールームス」をオープンする。ジュリスは紅茶の本場、英国で優秀なティールームを提供した紅茶店を表彰する「TOP TEA PLACE」の賞を2008年に受賞した、宮脇 樹里氏がオーナーシェフを務める店舗。宮脇氏も週に2、3度は店頭に立つ予定で、本場の紅茶の楽しみ方を伝えるワークショップも開催する予定だ。

三越日本橋本店の田中氏はこれらの店舗展開について、「本場・本格・本物の価値を提供する」という百貨店ならではの魅力を最大限に活かすものだと説明する。日本橋という土地柄、顧客ターゲットは訪日外国人かと思いきや「我々が抱える優良顧客や、さらにその先の国内富裕層を狙いたい」(田中氏)。

三越日本橋本店 食品・レストラン営業部 部長 田中 清氏
ジュリス ティールームスが提供するスイーツ

実は、三越日本橋本店と同じ、三越伊勢丹ホールディングス傘下の新宿伊勢丹などはインバウンド需要によって好調な来店客数を誇るものの、「日本橋にはあまり外国人が訪れない」(田中氏)。日本茶専門店というコンセプトは、ふらっと立ち寄った外国人への訴求ポイントになるとは認めたものの、「基本的には頻繁に訪れていただくお客さまへの提案として用意した」(田中氏)。

現在、同社が定義する優良顧客は「半期で7回以上来店し、7万円以上の買い物」をする顧客だという。1万3000人いるこの顧客は、来店客数のうち7.1%に過ぎないが、購買金額ベースでは26.6%にも達する。しかも、好調な経済状況を背景に、この数年は優良顧客が二桁%を超える割合で成長しているといい「2020年までに2万人といった数字はクリアできるのではないか」(田中氏)。

"実験"で成果、トマトや甘酒が次の主役?

三越日本橋が進める「本場・本格・本物の価値提案」は、コンビニエンスストアやECには実現できないものだと田中氏は強調する。

同社はEC大手のAmazonと連携し、日本橋本店で提供する一部商品をPrime Nowサービスで宅配している。しかし、「物品を購入する"目的購買"はECなどで済むかもしれない。だが、体験価値を提供して『心を満たす』ことが三越に来ていただく理由、いい体験ができる場所としての三越を目指していきたい」とメリットを強調する。

お茶をコンセプトにした店舗を一気に2店舗オープンした背景には、数年前から続けている"実験"がある。

「2週間に1回、テーマを決めてお客さまに季節の食材などを楽しんでいただく催しを開催してきた。特に良い反応をいただいたのが、お茶やトマト。かつては衣食住の衣食に偏重していた顧客意識が、今後は"食"中心へと変化していくはず。『食楽』というただ食べるだけではない、食事を感じる体験の価値を見出していただけるような場にしたい」(田中氏)

飲食は、地下の食品フロアだけでなく、ほかの階でも利用者の回遊を目指す上で効果的に配置していると田中氏。今回の2店舗も、買い回りの休憩場所として設置することで、体験価値の訴求とあわせた"おもてなし"を突き詰めていく狙いだ。お茶やトマト以外にも、甘酒、ローストビーフといった催しが好評だったそうで、これらをどのように"体験"と結びつけるのか、三越の手腕が問われることとなりそうだ。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

これまでの記事一覧ページはこちら