【緊急インタビュー】電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから(電力業界編・後編)

【緊急インタビュー】電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから(電力業界編・後編)

2016.05.20

【緊急インタビュー】電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから(電力業界編・後編)

電力小売自由化から1ヶ月。来年にはガス小売自由化が控えており、「電力VSガス」の熾烈な競争が始まる。第4回は、「電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから」について前回に引き続き、エネルギー産業の動向に詳しい東京理科大学橘川教授に話を伺った。

-海外ではひと足早く、電力自由化が行われています
 ドイツは98年の電力自由化の結果、8大電力会社と900社を超える配電会社が4社(地域の自治体公益事業会社;シュタットベルケを除く)に統合されました。イギリスも98年より段階的に自由化を進めた結果、M&Aが活発となり、現在は「ビッグ6」と呼ばれる6つのグループに集約されています。 そのロジックで考えると、(前編で述べたように)日本の電力会社10社が6社に集約されるのは、おかしなことではないと思います。

―電力自由化を進めた結果、停電回数が増えたとききますが、日本は大丈夫でしょうか?
 米国のカリフォルニア電力危機(2000年夏~01年冬)では電力需給がひっ迫し、停電が頻発しました。じつは全米50州のうち、電力自由化を実施しているのは半数以下です。カリフォルニア州をはじめ6州は自由化を撤回しています。

 一方で、「PJM(ペンシルベニア州・ニュージャージー州・メリーランド州など北東部13州とワシントンDC)」と呼ばれる北米の地域送電機関ではうまくいっているようです。その理由は、戦前から電力プールという卸電力市場がすごく発達していたからです。 PJMでは大容量の電力が卸市場で取引されていますが、日本の卸市場の比率は2%未満です。 卸市場から新規参入業者は購入しますから、供給不足だからといって慌てて発電所を建設しなくてもよいわけです。

 電気料金の高いカリフォルニア州は自由化を急いだため、発電所が建たなくなり、強制的に料金を抑えたら停電になってしまったというのが実態だと思います。日本は海外の失敗例から学んでいるので、そのままのことが起こることはないでしょう。

-停電のほかに電力自由化で国民が不利益を被ることはあるのでしょうか?
 国民の関心が最も高い「料金が下がるのか」という期待においては、何とも申し上げられません。短期的には明らかに料金は下がります。しかし長期的には、じわじわと上昇するでしょう。

  日本の電力市場は、発電・送電・小売・配電の一貫体制から発送電分離に舵を切ったことで、大きな転機をむかえました。

 いままでは総括原価方式(編集部注:「電気料金=原価+電力会社の事業報酬」)ですから、電気料金に組み入れて確実にコストが回収できました。発電所の建設には膨大なコストと投資回収に時間がかかります。売れるか分からない状況では新規設備を作るインセンティブは小さくなり、なるべく発電所をつくらないという風潮になるでしょう。創意工夫して発電所を長く使おうと思っても限界があります。長い目でみるとじわじわと料金が上がり、電力の供給力不足になるかも知れません。日本でもそうなる可能性があります。

図1 家庭用電気料金の推移(2014年)

(出所)社会実情データ図録 「電気料金の国際比較(家庭用)」より引用
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4105.html

-来年4月には家庭用ガス小売も自由化され、家庭用電力と合わせて10兆円超の市場が開放されます
 電力・ガス自由化でさまざまなセット販売に注目が集まると思いますが、電気とガスのセット販売を実施する場合、じつは電力業界の方が難しいのです。

 その理由は保安問題にあります。法律で義務付けられているガスの安全点検を一般家庭で行うには、ガスの専門知識を持った人と組まなければなりません。ガス会社は営業エリア内に点検拠点を構えています。電力自由化で攻め込まれている電力業界は、来年のガス小売自由化で顧客の奪還を狙っています。そのためには電力会社は、ガスの保安点検ができるガス会社と組むしかないのです。

図2 都市ガス大手の家庭用販売シェア(2014年度)

(出所)日本ガス協会「2015年3月及び2014年度(2014年4月~2015年3月)の都市ガス販売量実績」を基に作成 http://www.gas.or.jp/newsrelease/notice20150427.pd...

-「電力VSガス会社」の競争間で、提携先はあるのですか?
 首都圏の場合、東京電力は東京ガスとライバル関係にありますから、LP(プロパン)ガスと組むだろうと思われます。これが東京電力とLPガス最大手の日本瓦斯(ニチガス)や二番手のTOKAIホールディングスと提携した理由です。中部電力もTOKAIホールディングスと提携しています。

 こうした「同じ地域の都市ガス×LPガス」のほか、今も連携関係のある大阪ガスと中部電力、東京ガスと東北電力、東京ガスと関西電力というような「異なる地域の都市ガス×電力」といったガス会社との戦略的連携から発展して、将来的には一部がM&Aになる可能性も出てくると思います。

図3 電力・ガスの連携例

-本日は、ありがとうございました。(完)

話:橘川武郎教授
編集:M&A Online編集部

-激動のエネルギー業界とM&A 連載まとめ-

・石油業界の2つの統合は、「内向き型」と「外向き型


・電力業界の業界再編が起きる可能性あり。「原発再稼動」が変数となる

・電力自由化のキーマンは意外にも「ガス業界」

-人物紹介-

橘川武郎(きっかわ・たけお)

専門は日本経営史・エネルギー産業論。東京理科大学イノベーション研究科教授、東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授。2013年から日本経営史学会の10代目会長を務めている。応用経営史の立場から日本の電力業や原子力政策について論じており、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱。被災地の釜石市で希望学釜石調査に取り組むなどフィールドワークを重視している。


メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

関連記事
スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

関連記事