ソフトバンク孫社長の「スプリントのV字回復」宣言は本物か

ソフトバンク孫社長の「スプリントのV字回復」宣言は本物か

2016.05.23

5月10日に行われたソフトバンクグループの2015年度3月期決算において、代表取締役社長の孫正義氏は同傘下の米携帯キャリア「スプリント」の「V字回復」など、反転攻勢に入ったことを宣言した。2013年7月の買収完了以降、重くのしかかる設備投資や販促費用からくる赤字体質と顧客流出に悩まされ続けてきたスプリントは、長らくソフトバンクにとってお荷物的存在だと考えられてきた。孫氏の宣言は本物なのかを検証しながら、米国の携帯電話業界とスプリントに起きつつある変化をみていく。

2015年度3月期決算発表会で、その時間の多くを割いてスプリントの業績改善とV字回復をアピールするソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏

「V字回復宣言」にまつわる根拠を探る

スプリントの業績の詳細は同社の四半期決算のプレスリリース(PDF形式)またはソフトバンクの決算説明会でのプレゼンテーション資料(PDF形式)を参照してもらうとして、現在のスプリントと米携帯キャリアをとりまく状況を簡単に説明する。

まずスプリントで特に問題だった点として、営業赤字が長年にわたって続いたことで流動資産としてのキャッシュが枯渇していたことが挙げられる。

例えば、同社会計年度で2014年度(FY2014)には345億ドルの売上があったにもかかわらず、営業経費が364億ドルもかかっているため、トータルとしては19億ドルの営業赤字となっている。345億ドルという売上高は、日本の大企業の多くと比較しても高い水準であり、これだけの事業規模があるにもかかわらず利益をまったく生み出せていなかったということだ。

ソフトバンクが買収後にまず着手したのは徹底したコスト削減であり、FY2015は売上が322億ドルに減少しているにもかかわらず、営業経費は319億ドルと大幅に削減できており、結果として3億1000万ドルの営業黒字を達成している。スライドで孫氏が「過去9年で初の(通期)黒字」と表現したのはこの部分だ。コスト削減は買収完了から過去2年ほど継続しているが、ようやく結果として返ってきたといえる。

過去9年で初の通期黒字を達成したと強調する孫氏

コスト削減はもちろん「ムダ」という部分もあるものの、本来顧客獲得を行うためのマーケティング費用や店舗運営コスト、さらには将来への投資である設備投資の削減も招く可能性があるため、短期的には競合を優位にしてマイナス効果を生み出すこともある。こうした状況でもコスト削減を優先する理由は、まずは黒字化して「止血」を行うことを目指したからだと考えられる。

スプリントは昨年2015年夏にT-Mobileで契約者数で抜かれ、第3位から第4位へと転落している。勢いづくライバルの躍進を横目に、まずは自らの営業体質改善を優先したというわけだ。孫氏も強調していたが、キャッシュが枯渇することで短期的な資金繰りに目が行きがちになり、結果として高い買い物となるケースが少なくない。債務面での負担をソフトバンク側が保証することで、前述の黒字化と合わせて将来的な体力作りを目指し、それが一定の効果を得つつある。

完全とはいえないものの、基礎体力が整いつつあるのはおそらく間違いないだろう。問題は、これが本当にV字回復の反転攻勢につながるものかという点だ。目安の1つは契約者数とそこから得られる売上で、これを解約トレンドから純増トレンドへと転換させる必要がある。スプリントの契約者数全体でいえば昨年度比でプラスにはなっているものの、サービス販売による売上は減少となっている。原因は不明だが、ポストペイドのARPUがFY2014の59.63ドルからFY2015には53.39ドルへと減少しており、これがおそらく売上全体にマイナスに作用した可能性が高い。

契約者の"質"が重要に

次に決算報告のプレスリリースを参照してほしいが、スプリントの契約者数の推移を見るうえで「ポストペイド(Postpaid)」「プリペイド(Prepaid)」「ホールセールアンドアフィリエイト(Wholesale and Affiliate)」「チャーン(Churn)」の4つを重要なキーワードとして挙げておく。

ポストペイドは毎月利用料金を後払いするタイプの契約で、これが携帯キャリアのビジネスの基本となる。次がプリペイドで、ポストペイドと違って月額契約方式ではないため一定収入を得にくく、あらにARPUが低めに出やすいという傾向があるが、全体に料金が安めでユーザー数を獲得しやすいメリットがある。「ホールセールアンドアフィリエイト」というのはスプリントの特徴的なビジネスで、これは「M2M」や「MVNO」などスプリント回線の又貸しビジネスだ。伝統的に、この比率が他のキャリアに比べても高いのがスプリントの特徴で、仮にプリペイドの契約数と合算すれば全契約数の4割近くに達し、トータルとしてのポストペイド契約を圧迫してARPUを引き下げる要因にもなり得る。

5月10日のソフトバンクの決算会見でのスライドでも、ポストペイド契約が増加したことを孫氏は強調していたが、FY2015通年でポストペイド契約数が124万5000伸びる一方で、プリペイド契約数は130万9000減少している。つまりポストペイド+プリペイドの合算では逆にマイナスとなっているわけだ。

5月初旬に行われたスプリントの2015年度第4四半期(2016年1~3月期)決算決算で発表された最新のユーザー動向。ポストペイド契約数が大きく伸びている
米4大携帯キャリアでのポストペイド契約の純増数の推移を比較したところ。純増数でAT&TとVerizon Wirelessを同時に抜くのは初だという
米Nielsenが出している全米主要都市での4大携帯キャリアでのLTEダウンロード速度比較。具体的な計測方法や縦軸の数値は不明だが、「スプリントが最もネットワーク品質が高い」と説明する孫氏の根拠になっている

それでも先ほど契約者数全体が伸びているのは「ホールセールアンドアフィリエイト」の増加分に由来する。つまりプリペイドの顧客を捨ててでも、収益が安定しやすいポストペイド獲得を優先している状態だ。

また米国では携帯キャリア同士が互いの顧客を引き抜くためのキャンペーンが熾烈化していることでも知られているが、こうしたキャンペーンにつられる形での顧客流出が同時に問題となっている。この解約率を「移り気な顧客」と意味を込めて「チャーン」と呼ぶが、このチャーンをいかに引き下げるかが各キャリアにとって悩みの種だ。そしてスプリントは、近年の同社としては初の低水準となる1.61%をFY2015に達成している。黒字化の話と合わせ、このあたりが孫氏のいう「V字回復」の根拠となっているのだろうと推察する。

1~2年の経過観察は必要

2000年以降を振り返って、2桁成長も珍しくなかった米国の携帯電話契約者数だが、ここにきて踊り場に到達しつつあるという認識が広がっている。実際、すでに全米のキャリアを合計した契約者数は同国の全人口を突破しており、普及率は100%を超えているとみられる。そのため、特にポストペイド契約で新規顧客を獲得するのは難しいとの考えから、キャリア同士の引き抜き合戦のほか、2台目需要やM2Mなど、携帯回線をさらに活用してもらうためのサービスメニューを拡充する方向へとマーケティングが変化してきている。「Uncarrier」戦略を打ち出して急激に契約者数を伸ばしているT-Mobile USAを除き、各キャリアのポストペイド契約者数は微増または微減を繰り返しているのが現状だ。

今回、Verizon Wireless、AT&T、T-Mobile、スプリントの4大キャリアの決算が出揃う直前に、あるアナリストが出した予想では、ポストペイド契約ではT-Mobileを除き、残り3つのキャリアはすべて純減になるといった意見もあった。結果的にこの予想を大きく裏切る形となったわけだが、予想を上回る結果が評価される一方で、スプリントのこのトレンドが続くかは不透明な部分も大きく、その成果が確実なものかを検証するにはまだもう少し時間がかかるだろう。好調なT-Mobileも、増加する顧客と設備投資のバランスが維持できるかの分岐点に差し掛かりつつあり、場合によっては低下したネットワーク品質で顧客流出を招く危険性もある。いずれにせよ1~2年の経過観察は必要だ。

ポストペイドからプリペイド強化へ向かう米国市場のなぜ

そしてポストペイドでの増加が停滞しつつあるいま、各社の動きにも注目したい。先ほど「スプリントはプリペイド契約を犠牲にしている」と表現したが、まずはポストペイド契約で足下を固めつつ、プリペイドでも水面下での反転策を探っているようだ。

同社は現在、MVNOのVirgin Mobile USAと、買収で獲得したBoost Mobileの2つのプリペイド専業ブランドを抱えている。Boost Mobileは中間以下の比較的低所得層をターゲットとしたブランドとなっているが、一方のVirginはもともと若者や学生などを中心にサービス展開を行っていた。

だが、FierceWirelessのレポートによれば、現在VirginはTargetやBest Buyといった量販店から次々と姿を消しており、スプリントのキャリアショップまたはRadioShack、Kmartといった限られた場所でしか見られない状態だという。これは、今年後半にVirgin Mobileのブランドとしての再ローンチを計画しており、Boost Mobile買収で方向性を見失いつつあったスプリントのプリペイド戦略を改めて明確にする意図があるようだ。

米ワシントンDCにあるRadioShack店舗を2015年5月に撮影したもの。ちょうど店舗内でのスプリント商品の取り扱いがスタートしたところだが、完全に1店舗での営業というわけではなく、スプリントのサービスカウンターがRadioShack店舗内に間借りして存在するという同居体制になっていることが営業時間の違いからわかる。RadioShackとの提携の狙いは、固定費のかかるスプリント専門のキャリアショップの維持費を削減しつつ、より広いエリアに浸透を図るのが目的だ

ポストペイド契約では冴えないAT&Tだが、傘下のプリペイドブランドであるCricket Wirelessのほか、AT&Tが独自に立ち上げた「Aio」を合わせ、契約者数を大幅に伸ばしつつある。好調なT-Mobileも、プリペイドの専業ブランドとしてはMetroPCSを傘下に抱えており、こちらも契約者数を大幅に伸ばしている。Verizon Wirelessを除く各社が最近になりプリペイドに力を入れ始めた理由として、スマートフォン販売の停滞とポストペイドARPUの減少が背景にある。

先ほどスプリントでの例を出したが、他のキャリアでも過去2~3年ほどでポストペイドARPUが1~1.5割ほど減少する傾向が見られており、やや上昇傾向にあるプリペイドARPUとは対照的となっている。ポストペイドARPUとプリペイドARPUが接近しつつあるなか、AT&TとT-Mobileは積極的にプリペイド市場開拓に乗り出しているというレポートも出ている

米携帯キャリアはバンドル販売や契約縛りを強化

もう1つ興味深いのは、携帯キャリアがバンドル販売や契約縛りを強化しているトレンドだ。かつては米国で始まり、日本でもソフトバンクを通じて一般的となった「2年契約縛り」という商習慣だが、携帯キャリアが「販売奨励金(Subsidy)」を名目に、ユーザーの携帯端末購入に2年契約を条件に補助金を出すことで、安価に端末をバラ撒いて新規顧客を獲得しつつ、既存顧客をつなぎ止めるという一石二鳥の方式だ。

だが、年々上昇する端末価格と顧客の増加により、携帯キャリアにとって、販売奨励金の負担はばかにならず、AT&Tが2015年前半に撤退したのを最後に、米国では基本的に2年契約縛りの契約スタイルは消滅した。代わりに登場したのは「AT&T Next」のように、端末を割賦販売するだけでなく、1年継続利用など一定条件を満たせば分割支払いを完了しなくても新端末購入が可能になる「永続縛り」プランで、似たような仕組みは現在AppleもiPhoneで適用しつつある。2年縛り亡き後、他キャリアや他端末への流出を防止するのが狙いの仕組みだ。

バンドル販売とは、他の付随サービスを携帯のポストペイド契約とともに割引販売で提供する仕組みで、付随させるサービス内容によっては解約が難しく、かつサービスのセット販売で売上上昇も見込めるという両得の方法となっている。日本では光回線とのバンドルが比較的昔から一般的だったが、最近では保険や各種ローン、電気とのバンドルも登場し、キャリビジネスの横展開の好例となっている。

米国では、例えばAT&Tが買収した衛星放送の「DirecTV」とのバンドルが話題になっている。DirecTV契約時にはサービス割り引きがあるだけでなく、AT&Tの携帯回線でデータ通信の無制限プラン加入が可能になるというオマケ付きだ。最近ではAT&T回線を持っている筆者のメールボックスにも毎月のようにプロモーションのDMが届いており、いかに販売強化を行っているかがうかがえる。

新規契約ユーザーの伸びの鈍化や解約率増加に悩まされる米携帯キャリアは、あの手この手で引き留め策を模索。米AT&Tは、2014年に傘下に収めた衛星TV会社のDirecTVとの共同キャンペーンで、DirecTV契約のAT&Tモバイルユーザーには無制限データプランを提供。1月あたり上限22GBの条件がつくサービスを「無制限」と表現するのはいささか疑問だが、家族契約でのシェアプランを併用すれば月々の利用料を安く抑え込める
こうした背景もあり、現在筆者が契約しているAT&Tアカウントのメールボックスには、毎月のようにDirecTV契約のキャンペーンDMが送信されてくる。日本でも光回線などとのバンドル強化を携帯キャリア各社は進めているが、これは米国でも変わらない

変わるトレンドにどう対応するか

ようやく止血が終わり、徐々にテコ入れ効果が見えつつあるスプリントの業績だが、反転といくまでにはまだもう少し時間がかかりそうだというのが筆者の予測だ。特に、同社が目指すことになるとみられるT-MobileやAT&Tは、トレンドの先を進んでおり、今後2020年までの5Gへの投資を考えれば、かなり長い道のりであることがわかる。

スプリントの問題は治療されつつあるが、V字回復といくにはまだ時間がかかるか。孫氏の1~2年後の発言や動向に注目

孫氏は設備や端末の調達面での優位を強調するが、おそらくソフトバンクによるスプリントの買収効果は経営見直し以外の部分で、まだあまり効果を上げていないのではないだろうか。各社のサービスが横並びになりつつあるなかで、日本を地盤にしてアジア方面に強いソフトバンクと一緒になったというプラスαの部分をきちんと打ち出しつつ、スプリントならではのサービス面での特徴を出してほしいところだ。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。