ソフトバンク孫社長の「スプリントのV字回復」宣言は本物か

ソフトバンク孫社長の「スプリントのV字回復」宣言は本物か

2016.05.23

5月10日に行われたソフトバンクグループの2015年度3月期決算において、代表取締役社長の孫正義氏は同傘下の米携帯キャリア「スプリント」の「V字回復」など、反転攻勢に入ったことを宣言した。2013年7月の買収完了以降、重くのしかかる設備投資や販促費用からくる赤字体質と顧客流出に悩まされ続けてきたスプリントは、長らくソフトバンクにとってお荷物的存在だと考えられてきた。孫氏の宣言は本物なのかを検証しながら、米国の携帯電話業界とスプリントに起きつつある変化をみていく。

2015年度3月期決算発表会で、その時間の多くを割いてスプリントの業績改善とV字回復をアピールするソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏

「V字回復宣言」にまつわる根拠を探る

スプリントの業績の詳細は同社の四半期決算のプレスリリース(PDF形式)またはソフトバンクの決算説明会でのプレゼンテーション資料(PDF形式)を参照してもらうとして、現在のスプリントと米携帯キャリアをとりまく状況を簡単に説明する。

まずスプリントで特に問題だった点として、営業赤字が長年にわたって続いたことで流動資産としてのキャッシュが枯渇していたことが挙げられる。

例えば、同社会計年度で2014年度(FY2014)には345億ドルの売上があったにもかかわらず、営業経費が364億ドルもかかっているため、トータルとしては19億ドルの営業赤字となっている。345億ドルという売上高は、日本の大企業の多くと比較しても高い水準であり、これだけの事業規模があるにもかかわらず利益をまったく生み出せていなかったということだ。

ソフトバンクが買収後にまず着手したのは徹底したコスト削減であり、FY2015は売上が322億ドルに減少しているにもかかわらず、営業経費は319億ドルと大幅に削減できており、結果として3億1000万ドルの営業黒字を達成している。スライドで孫氏が「過去9年で初の(通期)黒字」と表現したのはこの部分だ。コスト削減は買収完了から過去2年ほど継続しているが、ようやく結果として返ってきたといえる。

過去9年で初の通期黒字を達成したと強調する孫氏

コスト削減はもちろん「ムダ」という部分もあるものの、本来顧客獲得を行うためのマーケティング費用や店舗運営コスト、さらには将来への投資である設備投資の削減も招く可能性があるため、短期的には競合を優位にしてマイナス効果を生み出すこともある。こうした状況でもコスト削減を優先する理由は、まずは黒字化して「止血」を行うことを目指したからだと考えられる。

スプリントは昨年2015年夏にT-Mobileで契約者数で抜かれ、第3位から第4位へと転落している。勢いづくライバルの躍進を横目に、まずは自らの営業体質改善を優先したというわけだ。孫氏も強調していたが、キャッシュが枯渇することで短期的な資金繰りに目が行きがちになり、結果として高い買い物となるケースが少なくない。債務面での負担をソフトバンク側が保証することで、前述の黒字化と合わせて将来的な体力作りを目指し、それが一定の効果を得つつある。

完全とはいえないものの、基礎体力が整いつつあるのはおそらく間違いないだろう。問題は、これが本当にV字回復の反転攻勢につながるものかという点だ。目安の1つは契約者数とそこから得られる売上で、これを解約トレンドから純増トレンドへと転換させる必要がある。スプリントの契約者数全体でいえば昨年度比でプラスにはなっているものの、サービス販売による売上は減少となっている。原因は不明だが、ポストペイドのARPUがFY2014の59.63ドルからFY2015には53.39ドルへと減少しており、これがおそらく売上全体にマイナスに作用した可能性が高い。

契約者の"質"が重要に

次に決算報告のプレスリリースを参照してほしいが、スプリントの契約者数の推移を見るうえで「ポストペイド(Postpaid)」「プリペイド(Prepaid)」「ホールセールアンドアフィリエイト(Wholesale and Affiliate)」「チャーン(Churn)」の4つを重要なキーワードとして挙げておく。

ポストペイドは毎月利用料金を後払いするタイプの契約で、これが携帯キャリアのビジネスの基本となる。次がプリペイドで、ポストペイドと違って月額契約方式ではないため一定収入を得にくく、あらにARPUが低めに出やすいという傾向があるが、全体に料金が安めでユーザー数を獲得しやすいメリットがある。「ホールセールアンドアフィリエイト」というのはスプリントの特徴的なビジネスで、これは「M2M」や「MVNO」などスプリント回線の又貸しビジネスだ。伝統的に、この比率が他のキャリアに比べても高いのがスプリントの特徴で、仮にプリペイドの契約数と合算すれば全契約数の4割近くに達し、トータルとしてのポストペイド契約を圧迫してARPUを引き下げる要因にもなり得る。

5月10日のソフトバンクの決算会見でのスライドでも、ポストペイド契約が増加したことを孫氏は強調していたが、FY2015通年でポストペイド契約数が124万5000伸びる一方で、プリペイド契約数は130万9000減少している。つまりポストペイド+プリペイドの合算では逆にマイナスとなっているわけだ。

5月初旬に行われたスプリントの2015年度第4四半期(2016年1~3月期)決算決算で発表された最新のユーザー動向。ポストペイド契約数が大きく伸びている
米4大携帯キャリアでのポストペイド契約の純増数の推移を比較したところ。純増数でAT&TとVerizon Wirelessを同時に抜くのは初だという
米Nielsenが出している全米主要都市での4大携帯キャリアでのLTEダウンロード速度比較。具体的な計測方法や縦軸の数値は不明だが、「スプリントが最もネットワーク品質が高い」と説明する孫氏の根拠になっている

それでも先ほど契約者数全体が伸びているのは「ホールセールアンドアフィリエイト」の増加分に由来する。つまりプリペイドの顧客を捨ててでも、収益が安定しやすいポストペイド獲得を優先している状態だ。

また米国では携帯キャリア同士が互いの顧客を引き抜くためのキャンペーンが熾烈化していることでも知られているが、こうしたキャンペーンにつられる形での顧客流出が同時に問題となっている。この解約率を「移り気な顧客」と意味を込めて「チャーン」と呼ぶが、このチャーンをいかに引き下げるかが各キャリアにとって悩みの種だ。そしてスプリントは、近年の同社としては初の低水準となる1.61%をFY2015に達成している。黒字化の話と合わせ、このあたりが孫氏のいう「V字回復」の根拠となっているのだろうと推察する。

1~2年の経過観察は必要

2000年以降を振り返って、2桁成長も珍しくなかった米国の携帯電話契約者数だが、ここにきて踊り場に到達しつつあるという認識が広がっている。実際、すでに全米のキャリアを合計した契約者数は同国の全人口を突破しており、普及率は100%を超えているとみられる。そのため、特にポストペイド契約で新規顧客を獲得するのは難しいとの考えから、キャリア同士の引き抜き合戦のほか、2台目需要やM2Mなど、携帯回線をさらに活用してもらうためのサービスメニューを拡充する方向へとマーケティングが変化してきている。「Uncarrier」戦略を打ち出して急激に契約者数を伸ばしているT-Mobile USAを除き、各キャリアのポストペイド契約者数は微増または微減を繰り返しているのが現状だ。

今回、Verizon Wireless、AT&T、T-Mobile、スプリントの4大キャリアの決算が出揃う直前に、あるアナリストが出した予想では、ポストペイド契約ではT-Mobileを除き、残り3つのキャリアはすべて純減になるといった意見もあった。結果的にこの予想を大きく裏切る形となったわけだが、予想を上回る結果が評価される一方で、スプリントのこのトレンドが続くかは不透明な部分も大きく、その成果が確実なものかを検証するにはまだもう少し時間がかかるだろう。好調なT-Mobileも、増加する顧客と設備投資のバランスが維持できるかの分岐点に差し掛かりつつあり、場合によっては低下したネットワーク品質で顧客流出を招く危険性もある。いずれにせよ1~2年の経過観察は必要だ。

ポストペイドからプリペイド強化へ向かう米国市場のなぜ

そしてポストペイドでの増加が停滞しつつあるいま、各社の動きにも注目したい。先ほど「スプリントはプリペイド契約を犠牲にしている」と表現したが、まずはポストペイド契約で足下を固めつつ、プリペイドでも水面下での反転策を探っているようだ。

同社は現在、MVNOのVirgin Mobile USAと、買収で獲得したBoost Mobileの2つのプリペイド専業ブランドを抱えている。Boost Mobileは中間以下の比較的低所得層をターゲットとしたブランドとなっているが、一方のVirginはもともと若者や学生などを中心にサービス展開を行っていた。

だが、FierceWirelessのレポートによれば、現在VirginはTargetやBest Buyといった量販店から次々と姿を消しており、スプリントのキャリアショップまたはRadioShack、Kmartといった限られた場所でしか見られない状態だという。これは、今年後半にVirgin Mobileのブランドとしての再ローンチを計画しており、Boost Mobile買収で方向性を見失いつつあったスプリントのプリペイド戦略を改めて明確にする意図があるようだ。

米ワシントンDCにあるRadioShack店舗を2015年5月に撮影したもの。ちょうど店舗内でのスプリント商品の取り扱いがスタートしたところだが、完全に1店舗での営業というわけではなく、スプリントのサービスカウンターがRadioShack店舗内に間借りして存在するという同居体制になっていることが営業時間の違いからわかる。RadioShackとの提携の狙いは、固定費のかかるスプリント専門のキャリアショップの維持費を削減しつつ、より広いエリアに浸透を図るのが目的だ

ポストペイド契約では冴えないAT&Tだが、傘下のプリペイドブランドであるCricket Wirelessのほか、AT&Tが独自に立ち上げた「Aio」を合わせ、契約者数を大幅に伸ばしつつある。好調なT-Mobileも、プリペイドの専業ブランドとしてはMetroPCSを傘下に抱えており、こちらも契約者数を大幅に伸ばしている。Verizon Wirelessを除く各社が最近になりプリペイドに力を入れ始めた理由として、スマートフォン販売の停滞とポストペイドARPUの減少が背景にある。

先ほどスプリントでの例を出したが、他のキャリアでも過去2~3年ほどでポストペイドARPUが1~1.5割ほど減少する傾向が見られており、やや上昇傾向にあるプリペイドARPUとは対照的となっている。ポストペイドARPUとプリペイドARPUが接近しつつあるなか、AT&TとT-Mobileは積極的にプリペイド市場開拓に乗り出しているというレポートも出ている

米携帯キャリアはバンドル販売や契約縛りを強化

もう1つ興味深いのは、携帯キャリアがバンドル販売や契約縛りを強化しているトレンドだ。かつては米国で始まり、日本でもソフトバンクを通じて一般的となった「2年契約縛り」という商習慣だが、携帯キャリアが「販売奨励金(Subsidy)」を名目に、ユーザーの携帯端末購入に2年契約を条件に補助金を出すことで、安価に端末をバラ撒いて新規顧客を獲得しつつ、既存顧客をつなぎ止めるという一石二鳥の方式だ。

だが、年々上昇する端末価格と顧客の増加により、携帯キャリアにとって、販売奨励金の負担はばかにならず、AT&Tが2015年前半に撤退したのを最後に、米国では基本的に2年契約縛りの契約スタイルは消滅した。代わりに登場したのは「AT&T Next」のように、端末を割賦販売するだけでなく、1年継続利用など一定条件を満たせば分割支払いを完了しなくても新端末購入が可能になる「永続縛り」プランで、似たような仕組みは現在AppleもiPhoneで適用しつつある。2年縛り亡き後、他キャリアや他端末への流出を防止するのが狙いの仕組みだ。

バンドル販売とは、他の付随サービスを携帯のポストペイド契約とともに割引販売で提供する仕組みで、付随させるサービス内容によっては解約が難しく、かつサービスのセット販売で売上上昇も見込めるという両得の方法となっている。日本では光回線とのバンドルが比較的昔から一般的だったが、最近では保険や各種ローン、電気とのバンドルも登場し、キャリビジネスの横展開の好例となっている。

米国では、例えばAT&Tが買収した衛星放送の「DirecTV」とのバンドルが話題になっている。DirecTV契約時にはサービス割り引きがあるだけでなく、AT&Tの携帯回線でデータ通信の無制限プラン加入が可能になるというオマケ付きだ。最近ではAT&T回線を持っている筆者のメールボックスにも毎月のようにプロモーションのDMが届いており、いかに販売強化を行っているかがうかがえる。

新規契約ユーザーの伸びの鈍化や解約率増加に悩まされる米携帯キャリアは、あの手この手で引き留め策を模索。米AT&Tは、2014年に傘下に収めた衛星TV会社のDirecTVとの共同キャンペーンで、DirecTV契約のAT&Tモバイルユーザーには無制限データプランを提供。1月あたり上限22GBの条件がつくサービスを「無制限」と表現するのはいささか疑問だが、家族契約でのシェアプランを併用すれば月々の利用料を安く抑え込める
こうした背景もあり、現在筆者が契約しているAT&Tアカウントのメールボックスには、毎月のようにDirecTV契約のキャンペーンDMが送信されてくる。日本でも光回線などとのバンドル強化を携帯キャリア各社は進めているが、これは米国でも変わらない

変わるトレンドにどう対応するか

ようやく止血が終わり、徐々にテコ入れ効果が見えつつあるスプリントの業績だが、反転といくまでにはまだもう少し時間がかかりそうだというのが筆者の予測だ。特に、同社が目指すことになるとみられるT-MobileやAT&Tは、トレンドの先を進んでおり、今後2020年までの5Gへの投資を考えれば、かなり長い道のりであることがわかる。

スプリントの問題は治療されつつあるが、V字回復といくにはまだ時間がかかるか。孫氏の1~2年後の発言や動向に注目

孫氏は設備や端末の調達面での優位を強調するが、おそらくソフトバンクによるスプリントの買収効果は経営見直し以外の部分で、まだあまり効果を上げていないのではないだろうか。各社のサービスが横並びになりつつあるなかで、日本を地盤にしてアジア方面に強いソフトバンクと一緒になったというプラスαの部分をきちんと打ち出しつつ、スプリントならではのサービス面での特徴を出してほしいところだ。

「社会人デビューは30歳からでいい」 転職相談のプロが想う“令和時代のキャリア論”

「社会人デビューは30歳からでいい」 転職相談のプロが想う“令和時代のキャリア論”

2019.05.22

「就活ルール廃止」で就活はどう変わる?

「20代の転職相談所」運営会社の社長に直撃!

「社会人デビューは30歳からでいい」の真意とは

2021年、「就活ルール」が廃止されます。

これにより、現行の「3月に採用広報を解禁」「6月に選考解禁」「10月に内定交付」といった取り決めがなくなり、通年採用が実施されるようになります。

――しかし、この件について「就活に混乱をもたらす」といった報道もしばしばなされています。実際、就活を控える学生からは「具体的に何が変わるのかイメージが湧かないので、どう動けばいいのかわからない」といった不安の声も聞こえてきました。

「就活ルールの廃止」は、これからの就活をどう変えるのでしょう。そして、就活を控えた学生は今、何をすべきなのでしょうか。

1万人を超える若者の転職・就職を支援してきた20代向けの転職支援サービス「20代の転職相談所」などを運営するブラッシュアップ・ジャパン 代表取締役の秋庭洋さんに、「就活ルール廃止で変化すること」について聞くと、話は「20代のキャリア論」にまで及びました。

ブラッシュアップジャパン 代表取締役の秋庭洋さん。1967年大阪生まれ。リクルート勤務、人事コンサルティング企業の役員を経て2001年9月にブラッシュアップジャパンを設立。就職・転職支援サービス「いい就職ドットコム」「20代の転職相談所」を運営しているほか、関西学院大学、武蔵野大学でキャリア開発科目の講師を務めるなど、若年層の雇用のミスマッチ解消に取り組んでいる

「就活」を取り巻く環境が急変している

――本日は「就活ルールの廃止」が、就活生にとってどのような影響をもたらすのか、ということを聞きたくて伺いました

秋庭:なかなか壮大なテーマですよね。3日間くらいかけて話してもいいですか? (笑)

――そこをなんとか1時間ほどでお願いします! 

秋庭:話せるかなぁ (笑)。

まぁ結論から先に申し上げますと、「『就活ルールの廃止』によってこれまでの就活が大きく変わるわけではない」というのが、私の考えですね。

そもそも、これまでの就活ルールを定めてきた一番の理由は、選考のスケジュールを定めることによって「採用活動の足並みを揃えること」でした。でも、実際にはその決まりを全社が必ずしも順守しているわけではなく、それはあくまで強制力のない「紳士協定」に過ぎなかったわけです。

2020年卒の就活スケジュール早見表 (出典:マイナビ2020)

――たしかにそれは、私が就活する際にも経験しました(筆者は2016年に就活を経験)。3月よりも早い段階で、大々的に「選考」とは言わずに「面談」という形で振るいに掛ける企業があったり

秋庭:正直、そういう企業は多いですよね。経団連に加盟する企業の中でもフライングするところがあり、これまでのルールはあまり意味をなしていなかったとも言えます。

そもそも、経団連に加盟している企業は1400社ほど(経団連加盟企業は2018年5月31日時点で1376社)で、日本の全企業数のほんの数パーセントにすぎないということも知っておきべきことです。

――何故今になって就活ルールが廃止されるのでしょう?

秋庭:現在の就活状況において、そのルールがあるために「不利な立場に追いやられていた企業」が多くあったことが大きな要因の1つです。

就活を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しました。少子化が進み、人材の確保が難しくなっていくことに加え、人材採用のグローバル化が進んでいます。多くの企業で人手が不足し、明らかに今、就活生は「売り手市場」にいます。

そうした状況で、 “そもそも経団連に加盟していない”新興のIT企業や、外資系企業などは、ルールに縛られることなく、早期から採用活動を行うことができていたんです。いわゆる「青田買い」ですね。

一方で、経団連に加盟する企業は「ルールを順守している」フリをしなければならず、大っぴらに学生とは接触することができません。つまり、優秀な人材獲得の競争で遅れをとることになります。そこで、仕方なく「採用を前提としないインターンシップ」という建前のもと、就活前の大学生と接触せざるを得ないという、おかしな状況に陥っていたわけです。

「就活ルール廃止」の影響を受けるのは、一部の人だけ?

――具体的に、2021年からの就活はどのように変化するのでしょうか?

秋庭:そうですね。これからの新卒採用のスタイルは、スポーツにたとえるならば「プロ野球型」から「Jリーグ型」に近いものになると思います。これまで経団連が定めていたルールは、「フライングはダメ」「抜け駆けもダメ」というプロ野球のドラフト会議のソレに近いものでしたが、外資系企業の手法はJリーグのソレに近いものでした。

前者は採用対象者に接触する時期や選考の方法など、最低限のルールが存在しますが、後者はまったくの自由競争。極端なことを言えば、「学生という身分で働いてもらっても構わない」とすら考えている企業もあります。

これまでの日本における就活の現場は、両者が混在していた状態でした。それが就活ルールの撤廃で、前者のルールがなくなる、と捉えるとよいでしょう。

ただ、ここで考えるべきは、一口に「学生」「企業」と言っても、本当はもっと細分化して見ていく必要がある、ということです。あくまで今お話ししたのは、就活生全体の1~2割にあたる極めて優秀な「トップリーグ」にいる学生を取り巻く話です。またはそういう学生を是非とも採用したい、と考えている企業の話だけといえます。

実際には、残り7~8割の一般学生や一般企業においては、「就職戦線が早期にスタートして長期化する」ということ以外、さほど大きな影響はないと思います。

ただ、多くの学生が入社を希望する「人気企業」の採用活動がひと段落しないことには、就職戦線はいつまでたっても終息しません。そういう意味においては、トップリーグの採用戦線が「いつ始まるか」よりも「いつ終息するか」の方が重要なポイントだとも言えるでしょう。

しかし、たとえスタート時期が早くなっても、終息する時期はおそらくこれまでとあまり変わらないと思います。いくら通年採用といっても、卒業の直前まで人気企業が採用数を確保できずに採用活動を継続している、なんてことはまずあり得ないでしょうから。

就活は「プロ野球型」から「Jリーグ型」へ

20代をすべて「就職活動期間」にあててもいい

――ルールが廃止される2021年以降に就活を始める学生は、どういう考えを持って就活に向かうべきなのでしょう?

秋庭:まず伝えたいのは、「就活の長期化」をネガティブに捉える必要はないということです。むしろもっと「就活がもっと面白くなる」とポジティブに捉えてほしいと思っています。

当たり前のことですが、時間が増えれば、できることが増えます。現行の就活ルールでは、限られた時間の中で就職先を決める必要がありました。就活が長期化することで、例えば、インターンシップに使える時間が増えます。実際に興味がある会社で働いてみることで、そこにどういう社員がいて、どういう社風なのかを実際に自分の肌で感じることもできるでしょう。その情報を得た上で、入社するか否かを判断できるわけです。

就活の長期化は、企業と就活生のミスマッチの減少にもつながりそうです

――それでは最後に、就活を控えた学生にアドバイスをお願いします

秋庭:これは就活生に関わらず、すでに就活を終えた学生や、社会人になったばかりの方々にも共通することですが、「20代でイキナリ自分に合った仕事や職場など見つからない」という考えを持ってほしいと思います。20代全部を使って就職活動をする、そんな気持ちで行動すれば良い、というのが私の考えです。

たとえ正社員として企業に勤務していても、それは「長いインターンシップにすぎない」といった感覚で、いろんな業界・仕事・人・価値観に触れてください。

そこで感じたことを踏まえて、いよいよ30歳で社会人デビューする。その考えを持っていれば、多少の失敗があっても、「いい勉強になった」程度に捉えられます。そして、30代で軸足を確かにできる場所を見つけて、迷いなくスタートダッシュを切れたら大成功、くらいに考えるといいのではないでしょうか。

「一度入った会社でなんとか成功しないといけない」と考えると、窮屈でしょう。転職をけしかけるつもりは毛頭ありませんが、「転職は大変」「せっかく入った会社を辞めていいのか」という考えに固執しすぎる必要もありません。

「人生100年時代」という言葉もあります。たった数年でも、世の中の「働く」を取り巻く環境は大きく変わります。働き始めれば、自身の考え方も変わることでしょう。ガチガチにならず、気楽な気持ちで、「20代の就職活動」に向かって行ってもらえれば、と思います。

――ありがとうございました

「20代でイキナリ自分に合った仕事や職場など見つからない。社会人デビューは30歳からでいい」
関連記事
ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

関連記事